カルマが椅子の後ろに置いていた物3

せっかくなので物見戸様の

https://www.pixiv.net/artworks/91898292

カルマ・トークの絵を見てから読んで頂けると、より面白いかもです。

********


「お主が掴みたいと言うたトークの尻を掴み易くしてやったのにどうした。顔は似ているであろう。数年年増なだけで女では無いとでも言うか?」


 不穏分子として関わってる相手から尻掴まれて『やったね尻掴めるぞ♪』となる奴は薬物キメてます。ただご命令なら嫌も応もありません。しかしなんでもぞもぞ動くんだこの人。


「では、お許しに感謝して失礼しま―――わ、凄い。鍛えられた馬みたいな……」


「馬。……あれは、良い尻だ。ダンは誉めるのも上手いのか。不覚にも喜んでしまった。だが失礼な奴。仕方ない」


 誉め言葉というより純粋な感想です。何これ大きくて丸い。アイラの方が凄くはあるのだろうが、もうあれは……究極仕上がりで鬼が宿ってるし。日頃はそうでもないのに動いてる時の筋肉は目が青く光りそ、ひわっ!?

「な、何をっ?! はしたない。と、思うのですが?!」


 片手が離れたな。と思ったら! 前って離し! つ、強っ! 痛っ!?


「邪魔をするな。大人しくこちらの尻を掴んでいろ。全く。引き離そうとするから痛くしてしまったではないか。そもそも女の尻を掴んでも男にならぬから世話してやっているのだぞ。しかし『はしたない』と来たか。前から偶に感じていたが、妙に品が良いな。王都育ちならとも思ったが気取りが無い。何処の生まれだ?

 後お主、貴族の女に奇妙な幻想を抱いて無いか? しかもワシは辺境で兵と共に野宿もする領主。男を掴む程度ではしたない等と言われても困る―――うむ。やっとか。病気なのではと心配した」


 恐怖を感じていても流石にこうまでされては。ある意味胆力付いた結果なのだろうけど……本当何なのですか。


「ふん。何を狼狽える。我が妹を自分の女にしたいと言ったばかりで。……傍から見てたお陰で殆ど戯言だと分かっているが。何時剣を抜かれるかと腰が引けていたぞ」


 あらそんなに。気を付けてたつもりだったのに。


「お恥ずかしい。貴族の女性相手で怯えてしまいまして。でも戯言は心外です」


「怒らせよう怒らせようと話しおった癖によく言う。……グレースは子供の頃から数字に強くてな。亡くなった父とワシが成人する前から頼ってしまった。しかも辺境の貴族故、周りに同格の男も居らずどうしても……。ああ、いや。詮無き話を。

 兎に角! 思惑は良く分からねど、好意があるのは本当かもしれんと感じた訳だ」


 そりゃ実情を知っててグレースを嫌える人は、仕事で直接彼女から重圧受けてる人くらいと思う。実際にそんな人居るかは知らないが。


「好意と、この……光栄極まる扱いに一体何の関係があるのでしょう」


 今も握ってくださってますが……不快じゃないのかしら。


「うむ。実際ダンは追い出せん。しかし妹の相手とするのは不安がある。なら、ワシが相手をすればよかろう。ワシこそ火遊びくらいしても良いはず。不満はあるまいな? 但し子は産んでやらぬ。だから都合の良い時ワシが呼ぶまで待て」


 お…………おう? えーとえーと。言葉の通り、は受け取らない。訳わからない時無難なのは……単純に行動だけを見て先を判断する。だー。脳が空転する。焦ってんのか。焦るに決まってた。わ、やっと手を離し、又尻掴むんですか……。


「それは、味をしめてグレースさんも欲しくなるのがオチな気も」


 あ。挑戦的な返事になってしま、怒ってない? 


「お主があの難物揃いの三人を己の女とした上で、先ほどのように妹の肩を抱く男であればそうなろうな。

 その場合、妹を抱けるかはワシの扱い次第だ。グレースもとっくに男を知った方が良い歳ではある。……ふくっ。もし、我らの苦境につけ込んで酷い抱き方をする男でも、その隠者好みからして外に漏れるような事だけはするまい。なら二人で分かち合えば耐えるのも楽になるであろう?」


 微妙に楽しそうな真顔で凄い事を。ストレス解消の為、風俗のお兄さんになれ。と言われれば喜んで。ではある。美人なお陰と、事前に体を洗わせて頂きますが。

 ただ……、全てその前の話。


「光栄極まる申しでに感謝致します。しかし私も貴方の椅子を脅かしている事くらいは承知しています。

 私の命が結局はカルマさん次第と言っても、流石に寝台で間男として殺されたり牢に入れられたりしたら三人に殺し直されてしまいますので……」


 今すぐそうする気は無くても可能性がある真似をする時点で頭がおかしい。リディアならこれだけで付いていけないと見切るに十分そうでもある。肉欲と安全は交換出来ません。


「あ。―――寝台に来い。と言っていたな。

 はぁぁ。感心すべきか、呆れるべきか何とも。お主らは複雑すぎる。配下に至ってはアレだ。数年前まで気心の知れた者しか周りに居なかったのに……。お主の所為とは言わぬがワシは頭が痛い」


 私も若い頃は屁理屈野郎と言われた物です。口ばっかり動かして邪魔をし足動かさないのは屑で野党だよねカルマ。誠にごめんなさい。


「申し訳なくは思ってます。本当に。そのー、そう言いつつなんですが、レイブンさんの気持ちが静まるよう手当をお願い出来ませんか? 不快でなければ事の起こりである私が謝罪に参ります。……アイラさんと一緒に」


 謝罪なんぞある意味何の誠意にもなってないのはお互い承知。しかし、ちょっとスッとして頂けるなら。レイブンは結構居る頭を下げたら常識外にむしり取りに来る人でも無かろうし、たかが頭。無駄でも下げますよ。


「ほぉ。同じ細かい気遣いでワシからアイラを奪ったのか? ―――レイブンを宥めても良い。但し貸しと覚えよ」


 あらま。うぅん。こういう複雑化は嫌いだ。面倒の元にしか思えん。仕方ない。


「私、貸しとかは全く配慮する気ありませんので……。それにカルマさんのご意思次第で悪く言われる事もあるでしょう。もし既に宥める気であれば、お願いした方が心やすらかかな? と思っただけです。何より私、大筋でリディアさんの意見に同意しております」


 言葉が重ねるごとに、眉間にしわが。当然のお怒りだ。さっきまでの分もあるし、更に領主への敬意に欠けては当然でしょうね。


「お前は、仮にも妹を寝台へ呼んだのだぞ。なのにワシから呼ばれれば、そして今も信用ならぬとは好きなように……ッ。幾ら正しかろうとなぁ!」


 あ、尻から手が離れて、振りがよく見える。と言う事は……益々仕方な、

「ゴッッ!! あ……」


 立ってられ、き、きっつぅぅう。呼吸、出来……ッ。だけど、知ってる。みぞおちはどんなに苦しくても、十分もすれば……。「ゼッ……ゼヒッ……ヒッ……」うう、皮鎧薄すぎたのか、カルマのが強烈なのか。……く、空気。


「……避けぬかも。と思っていた気はする。しかし態々腹を緩めて受けるとは。気遣いと言いたいのか?」


「ひゅいっやっ―――」


 む、無理。スカッとして貰える機会を逃したら損かな。というだけで……しかし考えてたより倍キツイ。


「其処まで苦し……む、不味い。ダンや。リディア殿に傷つけぬと言ったのだった。ワシを気遣い黙ってくれると有難い。それとも、これを理由に寝台に呼ぶか?」


 滅相な。手で頭上に丸。伝わるかな?


「ふむ。思えばこれもお主の意思次第で悪く言われような。しかしお前が心やすらかであるように感謝しよう。幾らか良くなってきたようだし、心配もあるまい。では、ワシは仕事がある。ゆっくりしていけ」


 はい、ゆっくりします。まだキツ過ぎて動きたくないです……。


******

 一応忘れ物が無いか確認してから退出、と。やれやれ。まだ腹の調子がおかしい。


「もし、こちらへ」


 リディア? 通路の突き当りに。誰も見てない……ね。なら普通に近寄れる。一応声は潜めて、

「待たせてしまったようでお詫びします。しかしどうしました?」


「……あたうなら中でどんな話をされたかお聞かせ頂きたく。出てくるのが遅く感じられましたが、大事御座いませんか?」


 気になるよね。しかし中でとな。色仕掛け。は違う。結局意味としては……、

「御座いません。どんな話かと言えば……釘を、刺された気がしますね。無茶はしてくれるなよ、と。実際しくじってしまったようで不安です。特にレイブン。恨まれてないでしょうか?」


「彼は好人物でありますれば。己に失点があったと感じているのも間違いなく、恨みはしないでしょう。グレースに掛け合ってくださった事と言い、お気遣いに……ああ、カルマへレイブンを落ち着けるよう仰いましたか。重ねて感謝申し上げます」


 時間掛かったのを把握されては分かっちゃうよね。


「いえ、そもそも私が無茶をしてしまった所為、ですよね? すみませんでした」


「謝罪されては立つ瀬が御座いません。何より我が君のお立場であれば現状を知る良き手だったと考えます。わたくしとしても見えた物がありました。ただ、忠誠を積み重ねて行く。と以前申し上げました身としては、主より前に出るは当然の次第ですので。

 もっとも結果は今一つ。無能をお許しくださいませ」


「今一つって……。私たちの必要性を思い出させる以上があるんですか?」


 全員に頭突きパチキをお見舞いする以上の強烈さだったぞ。


「レイブンを殺せれば我らは必要となりますが、望みすぎでしょうな。アイラの邪魔も入りましょうし、騒ぎが大きくなり過ぎる。されど負かして命の恩を与えたかったのです。あの者なれば、カルマに反してでも我らの命だけは守ろうとする期待をもてますので」


「は、おぉ? ……初撃、防ぐ自信が?」


「三手までなら、まず。狭い議場で二つの勢力となりました以上、危険な者の腕前は把握しております。

 せめて賭けはしとう御座いました。我が君が上手に釣ってくださったのに、大した布石も置けずあのような論戦では精々お守り程度。策に溺れたようでお恥ずかしく」


「い、いえ。釣ったのは純粋に失敗ですし、あの賭けは……本当に焦ったのですけど。私あのお二人と子を作るのは嫌ですよ。将来どんな事になるか」


「存じております。こちらも勝てる勝負にて慈悲を与えたかったのです。向こうもその意で受ける。と、愚考を。何でしたら産ませられれば尚宜しくはありましたが。

 しかしアイラは……宜しくありません。何かの衝動であちらへ付きかねない。向こうもアイラに働きかけるでしょう」


「ですねぇ。元から無茶でしたから。共に住んで様子を見て、少しずつ縁を深めるしか無いと思っています」


「賢明であらせられます。なれど私見では理解致しかねております。あちらとの縁の方が長く戦友であれば深いのも当然。だとしても貴方様が与えているのはまさしく父母に等しき恩恵。比べるのも愚かです。実際アイラは少しずつ品性を得ている。しかもあの年齢となれば金でも得られませぬ。なのに……」


「ああ、それは当然ですよ。与えられた物は身に着けた上で自分で必要と感じ無い限り誰だって感謝しません。特に礼儀作法は面倒なだけ。彼女に必要かは私にも不安があるくらいですしね。

 私としても気になっただけというか……親切は、どんな反応が返ってきても良いと見切っておかないと苛立つだけで不毛だと考えてます。

 所で大した意味は無いんですが……臆病結構と仰っていましたけど、臆病者はやはり邪魔では?」


 大体同意出来たのだけど、これだけは不思議に感じた。


「はい。必要な事をせぬ臆病者は勿論唾棄すべき者。しかしあちらが我が君をそう罵りましたので。加えて要らぬことをする勇者よりは宜しいでしょう」


 よ、よく言うなぁ。しかも真顔のままで。こっちは苦笑を押さえられないのに。


「ぬ、ぬけぬけと仰いますね。流石です」


「光栄で御座います。……所で、我が君。当然の、話しと考えますので心中を申し上げたく。御許可願えますでしょうか」


 改まって。となると……やはり、

「どうぞ。何でも仰ってください」


「ご温情に感謝を。臣は……怯えております。我が君がお書きになった内容、姉妹は『わたくしが更に何か伝えたか、何らかの情報源があったのか』等と考えておりましょう。されど事実は、あの箱を頂戴した時点では、ケイ中の何者にも書けぬ物と確信があるのです。

 今一度、どのように解せば良いかご指示を頂きたい。当然あれが偶々だとのお言葉あればそのように」


 何時もを越えて強い意志を感じる。……確かに当然の話だ。

 更に言えば私がかつて尋ねた時。事が起こる何年も前から同じ予想をしてたんじゃないかと疑ってそう。あの時、私がした庶民らしからぬ当たった予想を彼女に限って忘れてはいまい。……私の考えすぎだったりしないかな。

 でも良かった。予言書を知られる想定が出来てて。お陰で理由付けして話せる。


「トーク姉妹に話した通り、なのですが、リディアさんにはもう一つ。カルマが帝王陛下をお助けした。と、話して下さった時を覚えていますか。私、途轍もなく驚いてませんでした?」


「―――はい。確かに。……覚えております。あの時の貴方様の動揺には、何か違和感が。では、あれは……」


「ええ。もう、本当に狼狽えました。正直な所あの書いた内容、必死になってあり得る話を書きましたから少し掠るかな? くらいは、ね。それで当たったり外れたりで丁度良いかな、と。しかしリディアさんからの話では全て的中。これこそ予言者が居たなら教えて欲しかったくらいで。

 あの時の驚きも演技なのでは? なんて疑いは止めてくださいね。貴方なら咄嗟にそれくらい出来るのかもしれませんが」


「買いかぶりで御座います。少しばかり、当たった日から今までの間に考えた言い訳。のようにも思えますが、安堵もしております」


 信用無くて悲しい。日頃の行いが悪いんだな。


「酷いお言葉で御座います。せめて二人にも言った通り二度目が無理な事は分かってください。そして今後出来ないなら予言者とはとても言えないでしょう?」


「御意。しかし酷いのは我が君かと。あの行李に使われていた香木、帝王家と特別に賜った者しか使えぬ聖木ですぞ。その上、魔を払い聖を願う文様が全周に。中に封印されしは千の昔の呪物か、帝王家を支える恩寵の一品か。といった厳重さにて。

 トーク姉妹が予言書を見た時の驚き、察するに余りあります。

 実の所、先の戦いにおけるトーク姉妹の我らへの対応は気弱過ぎるように感じていたのです。危急の時故と納得しておりましたが、あれ程の物を見せられては当然。いや、頑迷だったと申せましょう。

 出来うれば箱を開けた場に居とう御座いました。愉快な見世物を逃しましたな」


 あ、あ、あちゃー。立派だとは思っていたが、其処までだったんですか。大宰相特権でこっそり使ったんでしょうかね。しかしその場に居たいって血の色何色、

 え、なんで近寄るの。美人に近づかれると腹の苦しみが蘇るんで、だぁっ!?


「だ、駄文を返してください。私のですよ?」


 スリみたいにとりおった。なんてはしたない。カルマから悪い影響受けてるのか。


「存じております。そして我が君はこの駄文を燃やす所存とお見受けします。

 ならば臣に下さるのは如何。忠臣は今も満足しておりますがこの宝物。いえ、駄文を渡して労うは良き思案ですぞ。我が第一の宝と考え私室にて厳重に保全し飾らせて頂く所存。

 もし、ご主君が返せ。と命令なさるなら御意のままに」


 うぇぇえええ。この人サイッテー! 振った男の恋文を部屋で勲章のように飾る並みの外道! しかし……命令なんて出来る訳もなく。う、う、ううぅ。


「お見苦しい……書ですが。お求め頂けるなら、光栄です」


 うむ。という感じで頷かれるだけでイラッとするわ。


「心より感謝を。人目の恐れが無ければ地に身を投げ出して謝意を表せますのに無念でなりません。

 グレースより箱の処分も請け負いましたし、今日の心の揺れを何時でも思い起こせるかと思うと心が躍ります。幼き日、初めて馬を与えられた時でさえかようには」


「ヴェッ!? あの箱まで? まさか、誰かに見せる気では」


「なんと、我が君を畏れ敬う臣が御意に背くような真似をどうしてしましょうか。信無き身が悲しくてなりませぬ。ああ、我が子に見せるのはご容赦を。連綿と忠誠を伝える為に……わたくしへ謝罪なさいませ」


 ッ! 膝をつく、のは通路だと過剰か。なら卑屈なまでに深く腰を折って、

「申し訳ありませんバルカ様。間違えておりました」


 お、足音。成程ね。こういう少ない機会くらい気を張っておかないとなぁ。


「宜しいかと」


「はい。助かりましたリディアさん。有難うございます。声が大きかったかな」


 おう? ジっと見て……何でしょうか。


「……だとしても良き動きです。やはり、我らは相性が良い。喜ばしき事に」


 それ私の言葉……え、何。肩ポンて。ゾワゾワするからもう少し距離を、

「ただ皆の様子を確かめた時、わたくしを見ても下さらなかったのは寂しゅう御座いました。諦観か、見切りか。何にしても何時か信頼故に見ておられない。そう感じられる日を待ち望むと致します。

 では、本日はこれにて」


 ―――。ご……存知、でしたか。私、そんなに分かりやすいの?

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