オウランの要求を聞いての会議

 オウランさん達が出て行き、離れた場所で扉が閉まる音、お、我慢しきれないという感じだねグレー、

「貴方、何時から知っていたの。それともあの案自体が貴様からの物かしら? 更には姐さんへの不敬に対してあの態度……奴らの足を舐め、トークを売り渡して、どれだけの富をせしめた!」


 グッ、えーと、大体……給料三か月分くらい? オウラン貯金使いました。いや、どうだっけ。しかし足を舐めたのは、前にも舐めてお願いしたと言ったはず……って、グレースまって。襟破けちゃう。貴方も力持ちね。く、首が。


「しゃ、喋るのきついので、もう少し緩め。あ、有難うございます。えっと、知ったのは皆さんと同じ今、ウグッ! なん、ですが。考えてみれば、何時からだろうが口止めされていれば、話す訳なかったのでッ! グッグッ! 待って。流石に!」


 無抵抗もう無理。ヌグググ、体勢不利もあって腕力負けが!  貴方が般若になってるのはそもそも今は亡きオッサンの圧力に屈したからで、私悪くないのに。オウランさんの要望も私の考えでは受け入れる他無いと出てるから諦めて欲しい。出来れば気づいて。私に説得されたと感じて欲しく無いの。


「話す訳、無かった……ですってぇ! よく言った! この、裏切者め! あいつらの対処をする前に、お前の処理をしてやるわ!!」


 ギャー! でも向こうの信頼を得るというのが私の仕事の建前なんだから、口止めされてたら皆さんのさっきの驚きが必要じゃん! 『本当に言いやがったー』みたいな気配出てたら私門前払いになるって。遊牧民に門なんて言葉さえ無さそ、って服引っ張り過ぎ! 両腕で持ち上げられてる内は腰の短剣飛んでないから安心だけど! 

 助けてアイラ! ゲ、ため息交じりでやる気無し感! 美人さんなんて白い目だし酷いよ! 私が本当は何してるか知らないでしょ! だったら助ける気になっても良いのに! 苦しいのは良いとしても服破けちゃう!


「同じ貴族として気持ちは良く分かります故待ちましたが、そろそろ落ち着かれよグレース殿。言いたい事は御座いますが、最低限である現在を見ても我が君の態度を含め方策の一つでしょう。何より時間が無い。あちらを待たせて苛立たせるより愚かな真似は無いと考えますが如何に」


 おお。やはり頼りになるのはリディアだけか。お助けください。この服つぎの当たってない良いやつなの。


「……方策の、一つ? 己の体に敵を入れ、敵の靴に口づけするのが!?」


「おや、分からない。ならビビアナをお忘れか。素晴らしい胆力で御座いますな。

 今は彼女も忙しいでしょうが、余裕を持った時一番最初に思い出すのは位置的にも此処。それまでにせめて戦う体勢を作れてなければ、交渉の発想さえ無くなる。

 あの者たちから軽く手を出されるだけでトークは破滅が確定致します。で、ある以上、靴を舐めてでも友好が必要なのは自明では。

 ふむ。つまり我が君はカルマ殿の代わりをなされたのですな。お陰で向こうの方々は無様な物をあえて見ようとは思わなくなった様子。何と慈悲に溢れた深謀遠慮でしょうか。グレース殿。手を離し膝をついて感謝なされるが道理ですぞ」


 それは素敵な解釈だね。それとも皮肉かな? 忙しそうで暫く挨拶も遠慮してましたが相変わらずで嬉しく思います。


「一理、あるとは認めましょう。でも此処トークは辺境伯。草原族からケイを守るために……いえ、もう、そんな建前を気にする気はないけど。だからと言って、土地を渡すのはこれ以上無い不名誉よ! 領地が増えて官吏が足りなくなっているのは知っているでしょう。天幕が何処にでも見える土地になれば人が来なくなってしまうわ」


「大宰相となってケイを己の欲望のまま動かそうとし、罷免されて領地に出戻ったとビビアナに言われたのに比べれば些事かと。しかしグレース殿が官吏の不足を嘆いていたのも意外で御座いました。使える官吏であるわたくしを我が君ともども追い出すか悩まれる程度には、人材の多さに自信をお持ちだとばかり」


 わー。当てこする―。可哀想なトーク姉妹。胃がねじ切れそうな表情。あ、虎馬に塩投げつけられてカルマの表情に亀裂が。


「それは其処の、アレが! 身の程を弁えぬ……ッ! く、……ふ……ふぅ。

 リディア。バルカ家の領地はトークと隣接した。もう、関係の無い話では無かろう。その上で、どうすれば良いか考えてはくれぬか」


「初めからそう考えております。何でしたらトークが攻め入る可能性も一族は考えておりましょう。

 故に我が案は言った通りにて。こちらから願えるのは最初に受け入れる数字の調整くらいで、全て丸のみ以外は自殺行為。

 上手く行けば官吏と、民が逃げてしまった事で減った税収を補える。実に素晴らしい提案ですな。我らこぞって寝台の向きを南に変えるべきでは?」


 サラッと爆弾発言しおる。姉妹がトチ狂ってバルカ家を攻める。あるか? その時はオウランさんが物資を狙って攻めて……いや、状況次第だな。


「税を、本当に収めると思うの? 一年で一匹の羊を持ってくれば良い方でしょう。でもこちらに住む草原の者と、我が民での諍いは必ず起こるの。調停に割く手間の分で大損よ」


「御卓見。しかし攻められて略奪されるよりは損が少なくなる目も御座います。民も矢を射かけられるよりは口喧嘩を望むでしょう。それに労役なら。住む場所の道や橋の普請であれば働くやも。彼らは移住する。数年後には雨の日も馬車が泥に埋まらぬ良質な道が、領地の隅から隅まであるのです。正に名君。史に残りますぞ」


「……自棄になった意見のように聞こえるが?」


「自棄とも言える極端さで初めてトークは戦う準備を整えうる。とは考えておりました。それでも獣人に土地を貸すのは想像を越えておりますが。しかし提案はなされ、沿うしか道は無く。後は明るい結果を思うのが心に宜しい。それだけで御座います」


 良い事言うなぁ私の半分も生きてないのに。実際皆さんには諦めの大切さを理解するようお勧めしたい。でないと生き残れない。


「だからと言って鼠を態々飼う理由は無いわ。あの提案、貴方の主とやらからどれだけの話を吸い上げて出来た物か! こいつの前で喋ったら全て向こうへ流れるのよ」


 えぇ。必要なら流すけど過剰表現よソレ。そもそもトークは目標にしてません。

 とは言えないけど……一応弁解を、

「裏切ってない。と言うのも不毛ですし、「我が君。『お前は私が何と言いたいか、知っているはずだ』とお言いなさい」あ、はい。私が何と言いたいかご存知では?」


 ご存知なの?


「家の滅びを助けられた時点で無用な疑いと? 加えてこの者がトークで働きだして今まで、草原からの害は……減っている。で、良いか?」


 成程その話ね。良いと思います。そうならなかった最大の理由は、お茶を始めとする商売で食料に余裕が持てたからだけども。羊が死にまくるような異常気象があればどうしようもなかった。天に助けられたね。


「なのに更に文句を付けるとはお二方は実に欲が深い。加えて一つ。オウラン殿は傑物です。音に聞くゲイエス殿が同盟者と成したのも頷ける。茶の売買で関わった時より人物と考えておりましたが、見て驚愕致しました。

 賢く、柔和なれど心は強くあの若さ。商売でケイと関わっていたのも考えれば、独力で今回の全てを考えていてもわたくしは奇妙と思いませぬ。

 二人は彼女を軽く見過ぎてはおりませんか?」


 お、フ…………グヘ。

 ゲヘヘヘヘエフェフェ。おっと不味い。顔は崩しちゃいかん。『へぇ傑物なんだ』みたいな顔大事。しかし、

 流石リディア様! お目が高い! ムムム。トーク閣下も言われてみれば気づいちゃいました? そうなんです。私の希望のお方は傑物なんです! そして! 私が! 育てた分もある! はずなんです!!

 いやー、過ぎし冬は苦労しました。良い事だと理解すれば頑張ってしまう真面目さにつけこみ泣いて嫌がる彼女を宥めすかし、逃げ出すジョルグを追いかけ古今東西と嘘コイて千年後な気配在る英傑の苦労を考察して聞かせ! 頭痛がすると言うまで読み書き計算! 教育ダンとは私の事よ! 夢で復習しろ!


 その後ご自分で苦労と実戦により磨き上げたのが九割と分かっていても、教えた相手が褒められると中々嬉しい物があるねぇ。

 でも御免。自分でも考えられたかもしれないが、さっき彼女が言った内容は十割私が話した通りなの。細かい調整はぶん投げたから後は全く知らないけど。


「―――なる、ほど。昔の印象に引きずられていたかもしれん」


「所で、早くフィオ殿に確認をお願いなされた方が良いのでは?」


 え、急に何の話?


「……あ。そうね。フィオ、お願いするわ。どう言うべきか分かる?」


「まだ考え中であるが、若者たちの能力を確認したい。能力によって雇える人数が変わる。で良いっスか? 後は実際にどんな仕事を出来そうか確かめて」


 それか。分かってる者同士の話って速いわ。倉庫のオジサンには付いていき難い。


「ええ。確認が終わったら話し合いを再開するので連れてきて。こちらはそれまで……休ませてもらうわ。でないと冷静に考えられそうもないの」


 うむ。貴族が優雅にお茶を飲むのは必要だよね。時間を取り心を落ち着かせないと良案は浮かばない。……ストレスの原因になりそうな私はトーク姉妹の視界から外れておこう。

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