オウランとの話し合い1

 近頃の主な仕事はオウラン様と馬具関連の相談である。

 そして残った時間で今後の計画について考えをまとめ直している。


 最も怖いのは―――私のような人間が他にも居たら、という事だ。

 杞憂その物という気もするが。

 幾ら私が唯一の例外なんて在り得ないとは言え、確率論的に言って……うんぬんかんぬん。

 しかしどう考えても自然現象や人に可能な事象を越えてる。こうなると他に千人居ても不思議ではない……かな?


 次に怖いのは、というか一番不安なのは自分だ。

 何かで考えをポロッと漏らしてしまうのはあり得る。

 馬具をケイの人間が使い始める程度なら問題無いと言えば無い。

 しかし私の考えの全てがバレてしまうと……不味いな。

 まぁ、感づかれた上に拷問でもされない限り大丈夫か。此処まで来るとすれ違う人から刺されるんじゃないかと妄想するに等しい。

 今後とも酒には気を付けよう。

 

 他には……ケイに革新的で強力な王が産まれると面倒になる。

 曹操、信長、アレクサンダー。そこらみたいなやつだ。

 イルヘルミ、あいつが邪魔になるかもしれん。ビビアナ・ウェリアもか?

 領民から慕われており、圧倒的な富と兵を持つと聞く。

 というか唯一の公爵だ。

 帝王の力が弱まっている現状、ケイ帝国最強だろう。

 仲の悪い親戚にしてケイ帝国二位の力を持つと聞いた、マリオ・ウェリアと潰しあって欲しい。


 ケイ帝国がまんま中国の歴史を辿れば既に勝ちは確定で、後は程度の差だと信じてるが。

 私というイレギュラーが与えた影響も、現状は小石程度で何も起こらないと思う。


 しかしケイ帝国自体が、或いはローマっぽいマウ国といった外国が私の想定外な動きをすれば計画が吹き飛ぶ可能性はある。

 オウラン様は可愛いし、かなーり大事に扱って頂けて当初の想像よりずっと居心地がよく、ずっと住みたくなってるが……油断になるよなー。尻尾ふさふさで可愛いお嫁さんが来てくれる可能性さえ感じるのに。泣ける。


 此処は生活が氏族の集まりで完結してて、人の行き来が少なく情報が全然入って来ない。

 やはり当初の予定通りカルマの配下として生活するべきだろう。そうすれば幾らかでも情報が勝手に早く多く入ってくるし、不測の事態に対応しやすい。

 私自身はこんなもんだな。

 後はオウラン様と今後について話しをしなければ。


---


 オウラン様とジョルグさんに内密の話をしたいと言って天幕に呼んでもらった。

 中々信じがたい話になるかもしれない。

 散々話し方は考えたが……。

 今納得させる必要はないし、とにかく誠意を持って話すの一手か。信頼は積み重ねる物ってね。


「時間を割いて下さり有難うございます。まず、あの道具について何か新しく感じた事はありますか?」


「使えば使う程に素晴らしい道具だと感じています。我々遊牧の民にとってこれ以上無い物だと。ダンさんにはどうお礼をして良いか分かりません」


 お、おお? やたら丁寧ね。


「そう言って頂けると、嬉しいのですが……えーと……その、オウラン様、口調が変わってませんか?」


「賢人に対して敬意を払うのはケイ人だけではないぞダン殿。貴方は我らに多大な貢献をしてくれた。既に身内以上の恩人だ。貴方が裏切らない限り、身内として、賢人として当然の敬意を払いたいとオウラン様も我々も考えている」


 それはそれは、嬉しい事を言ってくださる。ホッホッホッホ。

 ……賢人ってのはちょっとアレだが。


「つまり、裏切るなと仰ってるんですねジョルグさん。一応言っておきましょう。無駄な心配です。私が貴方達に不利益を与える事は、拷問でも受けて強制されない限りありえません」


「あ、ちょ、ジョルグ師範! そんな言い方は止めて下さい。えっと違うんです。疑ってる訳じゃないんです。裏切る相手に力を与える人なんて居ませんから。ただ、どうしてこれ程の物を与えてくださるか分からなくて」


 うん、どっかのゾルなんちゃら家のビアンさんみたいな人はまず居ないよな。

 空想物で良いのなら将来の敵を援助する話を知ってるが、現実の歴史では知らん。

 謙信の塩を送るってのも事実はちょっと違うしなぁ。


「一応私としてもお願いみたいな物はあります。それは後でお話ししましょう。それにしても、身内ですか……有り難い。オウランさんとお呼びしても良いでしょうか?」


「はい勿論です。今後ともよろしくお願いしますねダンさん」


 あらやだ、素敵な笑顔。ちょーっとデレデレしそうだが、それより聞き捨てならない事言ってたな。


「まず、先ほどジョルグさんが私の扱いについて、我々と仰いましたが……あの道具とお茶を作ったのがダンだ。と、多くの人に話しました?」


「い、いや。話したのは我らオウラン氏族の先行きを決めるのにどうしても必要な五人だけだ。……何故そのように怒るダン殿」


 ゲ。

 怒ってたか……。それは身の程知らず。

 顔を擦って気を取り直すとしよう。


「失礼しましたジョルグさん。オウランさんにはお願いしてあるのですけど、お茶とあの道具を私が作ったのは誰にも知られたくなくて。

 草原での大きな変化に私が強く関わったなんて話が出たら、貴族から目を付けられてしまいます。特にあの道具は存在自体が漏れないよう万全の注意をお願いしたい。もしあの道具をどうやって考え付いたのか話す必要が出た時は、『遥か西の遊牧民が使う道具として旅の商人から聞いた』と言って頂ければ。私もそんな感じで知りました。

 使う場合は一度の戦いで相手を完全に服従させ口止めを。他の部族やケイ帝国の人間に伝えようとした者は身内であれ殺すのを勧めます。あの道具が皆さんを殺す為に使われる危険性を常に考えてください。だからケイの領土では絶対使ってはいけません。見た者を皆殺しに出来れば良いのですが、どうしても漏れがあるでしょう」


 現時点でも中央アジアの遊牧民、スキタイ辺りでは使ってる部族が居たはず。

 地球の歴史では、だが。

 少なくとも嘘と見破るのは不可能だろう。


「つまり、あの道具を使って良いのは草原の者を相手にする時だけだと?」


「はい。此処で起こった出来事はケイまで伝わり難いけど、ケイで何かが起こると直ぐ諸侯に知れ渡るでしょう? 話を聞いた貴族が皆さんに目を付ければ、服従させようと仕掛けてくる危険性があります」


「分かり、ました。確かにそれだけの価値を感じました。誰にも漏らさないように努力するとも約束します。ただ……出来るだけ争いは起こらないようにしたいのです。そんな事になればどうしても死者が出てしまう」


 む、オウランさんがここまで平和志向の人だったとは。

 不都合……かもしれない?

 ……いや、何事も一長一短。

 力が好きだと溺れやすい。

 頭がアレクサンダーでは色々不安だ。能力があっても三十代で死なれては困る。

 しかし直ぐ隣であるケイが政情不安となれば、必ずこっちも影響される。

 その事を考えて貰わなければならない。



**************後書き**************

絵師、物見戸様が拙作を読んでキャラクターを想像し描いてくださいました。

以下のピクシブurlです。アカウント無くても見られます。

ttps://www.pixiv.net/artworks/89241977

ダン アイラ・ガン リディア・バルカ ティトゥス・バルカ

の絵になります。

キャライメージを作るのに絵があると本当有難いです。

読者の皆様も是非見て、ご自身が感じていた拙作のキャラとの差異を楽しんで頂ければ嬉しく思います。


尚、絵を見て感じた事を、今日の話への感想の所にでも書いて頂けましたら嬉しいです。

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