策を練る

計画の準備開始

 体調が悪いと言っても病み上がり故と、精神的な物だったので一晩で治った。


 さて……寝込んでる間に目的を遂げる為に必要な物事を考え、纏められた。さっそく動き出したい。

 と言っても多分一生掛かるのだから、リラックスが大事である。

 慎重に、着実に行くとしよう。


 その一歩として、今私はラスティルさんに文を書いている。

 紙ではなく木の板にだ。

 一応紙もあるのだが、高価だし耐久力に難があるから手紙には使い難い。


 まぁそれらの問題が解決されても木の方が私は良いと思う。

 だって鉛筆も消しゴムも無いから下書きが出来ない。

 木だったら今やってるみたいに、クギで傷をつけて下書き出来るし削り易い。


「先生」


 澄んでいて平坦な音へ目をやると、隣に予備に置いていた木の板の下部を指さしてるリディアが居られる。

 ……何時入って来たの?


「飾り彫りを入れるのならば、下部にされるべきかと」

 素人が独創性を出そうとするのは止めた方がよろしい。

 中央に飾りがあると読み難いでしょう?

 と、全く物を分かってない人間に気を使いながら教える感じでリディアがおっしゃる。


「リディア様、これは飾りを付けてるのではなく文字を書いてるのです。墨で書いた時に間違わないように、と思いまして」


「文字」


「はい」


「考えが及びませんでした。先生は本当に面白い発想をなされる。感服です」


 感服、って非常に感心したって意味だよね?

 どっちかというと、面白い動物を発見したって雰囲気が……。


「なれど傷をつけた上から墨で書けば、どうしても跡が残るのでは」


「それは諦めてます。内容を間違わない方を優先させたいので、我慢しようかと」


「先生、これはご自分用の覚え書きですか?」


「いえ、文です」


「無様」


 え

「え」


「お相手の方は先生をとても無様な人だと感じるでしょう」


「マジっす?」


「まじ……とは?」


「あ、いえ、何でもありません。しか……仕方が無いので諦めます。私の評価よりも正確さの方が重要ですから……」


 ラスティルさんなら苦笑一つで許してくれる。

 そう信じてる。


「其処までご自分の評判を投げ捨てるとは。面白い」


「え、あ、はい」


 評判は投げ捨てる物では無い……という話?

 それより部屋を出て行って欲しい。考え込んでいないで。

 文の続きを書きたいのだ。


「先生、よろしければ代筆致しましょうか。私の字は関係各所より読みやすく、味もへったくれも無い文字だと評判を得ております」


「ぬあっ!? とんでもありません。個人的な書状ですのでご遠慮いたします」


「どうしてもですか?」


「はい」


「それは残念極まります」

 先生の文章から内面を考察したかったのですが。なんて呟いてる……。

 ほんま、この子って……。


「あ、リディア様。先日ティトゥス様から教えて頂いた新帝王の即位と愛妾の話を遠方の友人に伝えても大丈夫でしょうか。確認を取るべき、とも思うのですが」

 

 子供に聞くような質問じゃないけど、すぐさまティトゥス様に聞くよりはマシだろう。

 尋ねる事自体が常識知らずな機密だったりしたら困る。


「ふむ……。大丈夫でしょう。側室の話はまだ一部の人間しか知りませんが、機密という程でもない。ああ、ついでにザンザが将軍となるのも伝えては。これは昨日決定致しました」


 本当にそうなったか。


「それはそれは……。良い副官が必須でしょうね。でも、本当に良いのですか? それなりに重要な情報に思えますが」


「問題であればお話ししません。しかし良い副官、ですか。それに……。ダン先生は本当に興味深い方だ。では又。失礼」


「え、あ、有難うございましたリディア様」


 な、何だったんだ? 私何か変な事言ったっけ?

 何だかわからんので……無かった事にしよう。今は文だ。

 書くべきなのは……


 ・体調などお変わりないのか。

 ・獣人と隣接した領地だと聞いたけど、彼らの動向と戦い方を知っていたら教えてほしい。

 ・ジョイ・サポナがどんな人か。


 こっちからは新しい帝王が立ち、ハリという肉屋の娘がその帝王の愛妾となる事、そしてザンザが軍人となって出世するらしいという話くらいか。

 ああ、後イルヘルミとカルマについて聞いた話も一応書いておこう。

 もう知ってるかもしれないけど……。

 このランドでも偶に獣人は見かけるけど、中々話しかける機会を持てないでいる。

 流しの戦士っぽい人たちか、治安が良く無い地域にしか居ないのだ。

 馬や狼みたいな耳と尻尾がある以外は人間で筋肉質な人たち……程度しか分からん。


 高耳や人間とも普通に子供を作れると聞く。

 産まれてくる子は母親の種族が産まれて来るそうだ。

 誰にとっても良い生物学的特徴だと思う。

 相手が純粋な人間と思って結婚し子供を作ったら、獣人が産まれて大問題。なんて事件が発生すると大変だろうからな。


 私の計画最大の鍵はその獣人、いや遊牧民だ。

 彼らに力を与え、恩を売り、私の考えを聞いて貰わなければならない。

 与える力の一つは直ぐに思い付けた。

 馬具である。


 何せ道行く馬全てがくつわと手綱、顔に付ける馬具しか付けておらず鞍も今一使い難い。

 あぶみに至っては乗り降りに使われる程度で、姿勢を制御出来るような代物ではない。

 獣人は遊牧民なだけあって、皆子供のころから馬に乗ると聞く。

 その馬を更に使いこなせるようになる馬具は大きな力を発揮するだろう。

 これは今から私が日曜大工よろしく、現代のを思い出しつつ時間を見つけて作っていけば良い。

 ある程度の実用物なら、失敗を考えても半年あれば作れる……と思う。


 だが、これだけでは足りない。

 彼らは食料を求めてケイの領地を攻めてくる、つまり飢えているのだ。

 そして、私としては馬具を使って食料を得ようと即ケイを攻められては非常に困る。

 よって食料の為に金策が必要となる訳だが……。


 ……お茶はどうだろうか。

 人類の歴史で長くそうだったように、この国でもお茶は高級な嗜好品。

 但し、半分薬扱いであり味を優先してない。

 というか、お茶じゃないな。

 お茶の葉を、ミカンの皮、ネギ、しょうがなどと混ぜてスープのようにして飲む。


 純粋にお茶だけで楽しめるお茶の葉を売れれば、相当のお金を得られると思う。

 但し、それは獣人の領地にある植物で作れなければならない。

 ぬぐぅ……。

 お茶となる植物を自分で探して表を作り、獣人の住んでる場所にその植物が多く生えてるか聞く必要がある。

 ……グレート面倒くさい。いやいやいや。頑張れ私。有難い事に植物は地球と一緒。向こうで飲まれてたハーブティーを思い出して行けばそんなには苦労しない……はず。


 さて……計画も大事だが、達成する為には日々地に足を付けておかないと話にならない。

 何せいざとなった時頼りになる両親はもう居ない。

 自分の食費を稼げるのは自分だけ。


 詰まる所、リディアの為に良い授業を考えなければならないのだが……。

 あの子が感情を表に出すのを初日以来殆ど見た記憶が無い。

 十一歳でアレはまずいのでは無かろうか。と思い至った。


 つまり、情操教育である。

 例えば……絵画……は嫌だ。

 こんな古い時代の絵具には何が入ってるか分からない。

 後、私の漫画絵を世に広める訳には……いや、どうでもいいなこれは。


 お貴族様の間で流行ってる詩……私に分かる訳が無い。

 日本の松尾様をパクったとしても、あっという間にネタが尽きるし底はあっさり知られてしまう。

 というか、文化が違い過ぎて如何ともしがたい。

 実際よー分からん文化だ。

 建物の構造等基本はヨーロッパみたいなんだが、稀に中国のような時も……。


 あ……。

 歌。

 うむ。

 義務教育からカラオケまで繋がる日本人の歌唱力は地球随一である。

 ちょっと盛った。

 だが、相当高いのは事実。私もジャパニーズの平均値程度はある。多分。

 これで行くか。

 ただ、リディア以外には聞かれないようにしないとな。

 誰かに気に入られて広まれば文化が違うから目立ちまくる。


 明日の授業で早速してみるか。

 今日はもう部屋に帰って、歌詞カード作成をしよう。

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