ダンが居ない間のトーク領の変化1

 ランドが遠くなるのぅ。この長大な街壁を又見る事はあるのだろうか。感慨深、

「トークの状況が気になる。或いは我らの微力さえ必要かもしれん。急ぐぞ。馬は全て荷運びと倒れた者が使う。会話は許さん。その分歩け」


『はい!』


 え、ま、ゲ。本当に斥候以外馬から降りて荷物を馬車へ。

 れ、レイブン様? そんな急いでも仕方ないって。文官も居るんですよ? いや、確かにビビアナから攻められてたら大変だけど。疲れて戻っても殺されるだけじゃん常識じゃん? どうせならゆっくり戻って皆さんの墓穴掘ろうよって、

 ぬわぁ。率先して歩いてなさる。本気で会話する体力も惜しくなりそう。

 

******


 ううぅ。昼、か? 二十時間くらい寝てないかこれ。……おのれボケレイブン。何日強行軍したんだろう。逃げ足鍛え続けてる私をヒィヒィ言わせやがった。

 アイラの家へ辿り着くなり挨拶も出来ず寝台にバッタリとは調整が上手い。絶対あいつの兵にはならんぞ。

 あ~、アイラが何か食べてる音が。挨拶するか。確認は早くすべきだ。

 ぐっ。下手な歩き方をすると肉離れしそう。


 ……久しぶりに見る素晴らしい食べっぷり。よく噛めとしつこく言う人間が居ない間に少しばかり戻ってる。やはり余計なお世話なのかねぇ。


「お疲れ様ですアイラさん。ご挨拶が遅れて失礼しました。帰って参りましたので、又お世話になります」


「あ、うん。お帰りダン。……えーと、ごめん、起きるか分からないからご飯ダンの分買ってない。又、一緒に住むんだよ、ね?」


 ん、んー? 表情に違和感が。多分記憶違いではない。


「はい出来ましたら。前と同じくリディアさんから人手を借りようとも」


「うん、分かった。その、嬉しいよ。ダンが居ない間大体外で食べてたけど、美味しくなかったし。……今夜、あの油の中に入れるの食べられる?」


「あ~。すみません。これから会議に行ったら又寝そうでして。でも近日中に」


「……凄い疲れてたもんね。その会議、僕も一応呼ばれてるから一緒に行こう。……ダンも外で何か食べてきたら?」


「ええ、そうします」


 さ、て。外出前に昨日眠気に負けて出来なかった自室の確認を。 

 まず連合軍に居る間ずっと持ち歩いていた袋より取り出したるは、どの書物に布や木片をどう挟んだかの一覧が書かれている竹簡。で、結果はどうかな~?


 やはり、調べられている。アイラに触らないでくれと言い置いた書物を入れた箱自体は動いてない。でも中の書物は全部一度開かれてそう。

 小さくても挟んだのが布では気づかれるかと思ったけど。ハッキリ痕跡を残すなんて本の間に髪の毛を挟んでおく的な発想が無いのかも。

 

 ……自室以外は調べられた痕跡がない、ね。

 私が保存食を入れる為の冷暗所。と、言って作った食料保存庫にある床下の箱も触れられていない。

 日頃此処を触ってるのは私だけだから、何かを隠すとしたらここも在りうるとアイラは判断するはず……。


 ふんむ。さっきアイラから微妙に感じた距離、というかこちらへの不安。部屋を調べたのと同じくグレースかカルマが仕込んだと見てよろしかろう。

 なのにこれはアイラへ協力を求めてない? くふっ。お互い感情で動く感のある最強将軍さんの扱いに苦労するね。

 ま、とりあえずは……大丈夫だろう。アイラから敵意というような物は全く感じなかった。又少しずつ親しくなるとしましょう。


---


 分かれていた間の報告会に集まりましたるはトーク姉妹、リディア、アイラ、だけか。ラスティルさんとレイブンは昨日意地で報告してたみたいだし休日かな? フィオはどぉでもいいや。適当に連絡してるさ。

 リディアの報告は終了。で、グレースの番、おや自慢げ。戻ってくる道々、大軍が通った痕跡無かったし同盟組めてそうと感じてはいたが……。


「ビビアナの手助けは上首尾よ。最初は降伏勧告を疑われて不信いっぱいだったけど、船と食事の提供。多分一人で行ったのと、何より傷病者の手助けが功を奏したのじゃないかしら。最終的には真の友を得たとまで言ってたわ」

 

 うえっ!? 同盟出来たのは良いんだけど、 

「一人、ですか。良くそんな危険な真似の許可を出しましたねカルマさん」


「向こうがその気になれば千の兵を連れても結果は変わらん。何よりビビアナとの連合が不首尾に終われば数万の民が死ぬ。

 それに逃げる時の心持ちを考えればまず纏まると確信できたのでな。ワシが行こうかとも思った程だ。余計な手を思いつかせかねないので止めにしたが」


 領主が行けば無上の誠意ではある。しかし人質にして開けゴマが安定だとの判断が産まれちゃうもんね。


「素晴らしい。胆力、気配り共に御見それいたしました。感服です」


「あ、そう。

 あと余計とも思ったのだけど、ビビアナへジョイ・サポナが帰り着く前に領地を攻めるよう提案したの。

 あいつら東の状態を観てから攻める考えみたいだったんだもの。そうしたら何かやたら感心されて。ビビアナさえ『流石大軍師グレースなのじゃ……』なんて言い出して。皮肉にしても訳が分からないわ。名家で何か流行ってるの?」


 おお、おおお……素晴らしい。

 さようならジョイ・サポナ。お前は真田を助けた頭にくる奴だった。だが死体は何も悪くない。植物の栄養となるが良かろう。


「いえいえ。ビビアナは今回の働きに相応しい表現をされただけですよ。流石はグレース・トーク。史上唯一リウを超えた軍師。天下無双の智謀をお持ちであるとね」


 あら、姉妹の顔に『何こいつ褒め方が気持ち悪い』と書かれていく。

 やはり知らぬは本人たちばかりであったのね。

 

「実は向こうで集まった諸侯たちの評判が今言った通りだったんです。魔術が使えるのでは? とまで聞きました」


 メリケン人なら中指立てそうな表情に変化しちゃった。

 本当真面目なお嬢さん。上手く行ってる証拠だから楽しめばいいのに。


「それ結局はリディアへの賛辞じゃない。あたしは良い面の皮だわ」


「えー。カルマさんが大宰相となって以降の苦難を乗り越え今の状態になれたのは、お三方の働きあってでしょう。

 勿論大袈裟ですけど民の噂を諸侯が利用してるならこんなものでは? リディアさんもそう思いませんか?」


「―――ふむ。久しぶりに本当の名をお呼びに。……やはりこちらの方が嬉しゅう御座います」


「こちらを見つつスッゲーわざとらしい態度であざとい事を言ってないで、場の話に従ってくださいよ……」


「失礼。グレース殿が我が君の歓心を買おうと世の小娘が如く、目の前で落ち込んで見せましたのでわたくしも対応せねば、と」


「なっ!? どんな邪推よリディア! ッ、ダン! 貴方も意外そうな顔でこっちを見ないで!」


 えぇ。私としては自称配下がこう言うのなら明かされた真実に驚く顔を強いられる身であるくらい分かってほしいです。


わたくしも貴方から多くを学んでおりますればこの評判、根も葉も御座います。そもこのような話で考えるべきはどう利用するかのみでは?」


 毎度ごもっとも。グレースへの褒め言葉もよろしいね。出来るだけ機嫌よく過ごして仲良くして欲しい。後二十年は時間が必要だろう。


「確かにな。此処にいる者たちが揃えばかのリウに並ぶなら得難い話だぞグレース」


「そうは言うけど姉さん、」

「ああ、もう一つ報告が御座いました。グレース殿主導なされた密偵狩り、非常に良き結果と見えました。同盟軍の諸侯誰一人、北方異民族と我らの協力体制に気づいておらぬ様子。

 精々援軍にかこ付けて領地を奪われたとの考えでしょう。税を得ているとは露ほどにも思いますまい」


 そう言いながらの綺麗な一礼。う、わぁ。グレースの口元がピクピクしてる。

 褒めさせてもエグイお人。


「ま、まぁね。出来る限りをしたつもり。効果が出たようで安心したわ。あ。あたしだけじゃなくてフィオも頑張ったのよ。本当に半々と言っていいくらい」


「そうだな。何故ダンの指示に従わねばならないのかと呟いていたが、仕事自体は真面目にしていた」


「へぇ。なら顔を合わせた時お礼を言わないといけませんね。

 次にオウラン氏族ですが税を収めたんですよね? だとしてもかなり問題が起こりそうと思えますが」


「勿論。こっちの領民と何度も争って。死傷者が互いに数十人出てるくらい」


「あ~。死人が出たんじゃ損に近くなっちゃいそうですかねぇ」


 そんな訳は無い。はずなんだが……。


「……いいえ。例年の襲撃がとても楽だった。草原族は物と食料の交換で済んだし、山と雲が来た時は出陣したけど、草原のやつらが居場所を見つけておいてくれてね。全体で見れば北方関連の死傷者は例年よりだいぶ少ない。と、言うべきでしょう」


 山と雲の一番大きな氏族は抑えたと聞くし、そりゃ動きは大体分かる。……。

 何も事情を知らず詰んでる襲撃で死んだ戦士たち、すまん。私がオウランさんへ動きをトークに伝わらないよう頼んだのこそ最大の要因だろう。

 どうしてもケイに。そして真田へオウランさんの動きを知られたくないのだ。

 いや、すまんも何も無い。相手がオウランさんたちであっても必要を積み重ねるのみでなければ。


「それはそれは。全く暮らし方の違う隣人が出来た初年にしては上出来過ぎません?

 先ほどからお二人には感服するのみですよ」


「ワシらも尽力はした。しかし何より向こうが協力的であったからと言うべきであろう。それに話し合いの出来る者たちも多かった」


 感謝するよオウランさん。貴方方にとってケイの決め事体質は首へ縄を付けられたと感じるだろうに。人選の苦労が目に浮かぶ。


 まぁ、一つとしてそれを我慢してでも放牧できる南の土地が魅力的なのかな。

 ここはまだ超寒いけど。冬の朝なんて多分ー10℃だ。


「話合いが出来ると言うのは、街と官邸の警護や官吏として入った人もですか?」


「ええ。民に関してより楽なくらいね。特にあちらのまとめ兼護衛長をしているジンが上手く配下を纏めて従順なの。警邏をさせても間諜を捕らえたりと助かってるわ。

 官吏も順調と言っていいでしょう。何とか戦力になってきた所。こちらももっと扱い難い子たちばかり来ると思ってたのだけどね」


 ジンさんそこまで有能なんだ。ぬぅむ、こちらへ寄越して大丈夫かいな。

 難しい役目だから以前お会いした逸材さんみたいだと困るけども。


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