ダンが居ない間のトーク領の変化2
「はぁ~。私が向こうで一冬過ごした時は生活と考え方の違いで大変苦労したもんです。よくぞ数万人相手に上手い事出来ましたね」
「それは同意見。あまりに従順だったから文で尋ねたのだけど
『損ばかりの戦をする気は無い。我らへ放牧地を貸して頂けるのはカルマ殿のみであろうし、良い関係のため出来る限りをさせてもらう』ですって。オウランがこんなに世を知ってるというのも嬉しい誤算ね」
はははっ! ヤルなぁオウランさん。
トークを攻め滅ぼせる力を得た今、従順な振りさえ出来なくなるのではないかと心配したが。杞憂だった大変喜ばしい。
「反乱すればトークに加えスキトからも攻められかねませんし。賢さがあれば当然の判断でしょう」
「獣人にしては賢いわね。さて、そちらはリディアの報告が全てで良いのかしら?」
良いに決まって……あ、義理があったじゃん。
「一つお願いを。ケント陛下がトークへ言及した時、レイブンさんに貧乏くじを引かせて恥ずかしい思いをさせてしまいました。他にも色々と骨折りを。厚く報いて頂けないでしょうか?」
「良いの? その分貴方の褒賞が減るけど」
んぬ? 下級官吏の褒賞減らす程度……いや、財源というか筋を通せという話か。
「何割ほど減ります?」
「―――二割かしら」
「では三割減らして結構ですので、その分お願いします」
「……分かったわ」
「グレース殿、我が君の提案と伝えてくださいましょうな? もしもカルマ殿の配慮とするおつもりであれば……」
「そ、そんな卑しい考え思いつきもしてないわよ。えっと、それよりもダン、前から思っていたのだけど何が望みなの? 大業に関与したがる一方で自分の手では大して動かないし。……トークには働きだけじゃなく結果へももう少しなら報いる用意があるから。
あ、一応言っておくけど。あたしが欲しいなんて戯言は止めて」
うわ自意識過剰。ではなく言葉を先取りされてしまった。待って今捏造する。
「……今の世情で平和な良い暮らしと、生き残るのが望みです。報いて頂くのは遠慮を。どうしても目立って暗殺の標的になりそうな気がしますから」
「生き残るには貴方の監視が必要だと?」
「違う意見を言えるリディアさんは居た方が良いと思いますよ。私は置物。気にしなければ……邪魔にならないかも。そ、そもそもソコソコ上手く行ってれば弄るべきじゃないと思います。はい」
「……なんで置物の配下にこのリディアが居るの」
「私なんかがこの人の考えを理解できると思ってます?」
「おや、異なことを。己の浅薄さを常に恥じている忠臣で御座いますのに」
その『とりあえず忠臣である主張をしておこうか』感何時までやる気……当然、死ぬか殺すまでやりますよね。
「じゃあ、なぜこの男の配下に?」
「天命を感じたゆえに」
「あ、そう……」
天命て、あーた感覚だけの判断なんて絶対しませんよね?
「また無駄な時間を……。それよりダン。明日レイブンをチエン領攻めの援軍に向かわせるの。ラスティルかアイラを使わせて。良いわよね?」
あら私に許可求めるなんて義理堅い。連合軍前こんなの求めてたっけ。……向こうも久しぶりでどんな風に相手してたか忘れてそうだ。
「兵が集まってたのは援軍でしたか。もう攻めていたんですね」
「ビビアナがチエン領を通って行ったのでな。ビビアナ軍が邪魔をしてくれる間に拠点を落とすくらいはするさ。しかし早く帰って来てくれて助かった。フィオとガーレだけでは動きが固くなる。で、ダン。何か異論があれば聞くが?」
領主閣下まで。義理堅さに感動。しかしグレースが周到に準備してませんかこれ。
人の苦労潰すような真似出来るだけしませんがな。でも一応、
「リディアさん如何思われます?」
「どちらを出すかは気分でお決めを。動き自体は流石トーク姉妹の一言。献策は御座いません」
「そ、そう。有難うリディア」
……。実績がある人間に褒められれば喜ぶべき。その方が道理に合う。健康にも良い。だからチョロイとか言うのは間違ってる。
このお嬢さんに褒められ度、嫌な気分になる私が良くないのだ。分からないのに穿って見るべきじゃない。……後ろ暗いからもあるだろうなぁ。嫌ですねぇ考え方も卑賎になって。
「んー、アイラさん戦いたいですか? 私が毎度隠したがる所為で、腕が鈍りそうならお願いしようと思うのですが」
「? 腕がなまるって、なんで? 僕、ちゃんと鍛錬してるよ。賊の討伐もした」
「偶には戦場に出ないと勘が鈍るなんて話を、聞きません?」
「ごめん、ダンが何を言ってるか分からない。僕は、僕」
駄目だこのお嬢ちゃん。
「あの、グレースさん。アイラさんをどう思います? 何時かは出てもらう日が来ると思いますし……」
「貴方の考えは分かるけど、その子、何故か更に強くなってるわよ。ガーレがまた差を付けられたと嬉しそうに言ってたもの。賊討伐でも前より頼りになってる」
「え、そうなんですか?」
「うん。ダンが来てから強くなったと思う。多分ご飯が美味しいからだよ」
そりゃ食生活には全知全能を尽くしてます。
鍛錬が終わって三十分以内の食事、動物の乳でカルシウムを摂取しつつ出来れば甘い物を加えて吸収率を上げる。更には快適な睡眠と。
しかし兵への意思伝達とかがマシになるよう意思疎通の基本とかこそ頑張って教えてるんですが……気づいてくれてませんか。そーですか。
別にいいもん。護衛に加え鍛錬の先生をしてもらってる代金だもん。……家でも空気以外を殴れる。と、超嬉しそうでこっちが金貰うべきな気がする時もあるけど。
「じゃあ、ラスティルさんが嫌だと言わなければ、アイラさんにレスターを守って頂いて良いですか?」
こっくり頷くと単なる可愛い娘さんですな。
いや、もう二十を越えてそれは不味い。もうちょっと教育を……うぅむ。お節介なおっさんも不味い。しかしこの筋肉は火薬庫の気配凄いし……。
「ラスティルにはあたしから尋ねるわ。で、貴方たちはどうするの? リディアも行ってくれるなら更に安心なんだけど」
「いえ、私たちは休暇を貰います。特にリディアさんは向こうで大変な苦労をされました。疲労を完全に抜いて頂かないといけません。私も全身痛くて。レイブンさんに滅茶苦茶強行軍させられたんですよ酷いですあの人」
おい。なんだその姉妹そっくりな笑顔。
「我が君、
わ。幹部扱いで結構馬乗ってたにしたって働き者過ぎるでしょ。
「もしかしたら無駄な気遣いかもしれません。でも自覚してない疲れがあって病気になったらと不安でして。お願いできませんか?」
体調管理は一に休み、二に休み。自覚出来ないストレスの為にも寝てください。
「あら。恋人を気遣うみたい」
「いや、これは娘相手のようではないか?」
「……私は年長ですし若者の無理を心配してもいいじゃないですか。グレースさん、リディアさんが居なくても特に問題はないんですよね?」
「ええ。万が一に備えて、って程度よ」
「……承知いたしました。お気遣い有り難く頂戴いたします」
「そうしてください。で、カルマさん。チエン領戦の功を褒賞する時、リディアさんの名を出して欲しいのです」
「また突然だな。今まで頑なにリディアを隠そうとしていて何故?」
私にお尋ねですが、先生。お願いします。
「これから考える事ではありますが、もし
そして本意は……お察しであると考えます。大軍師グレース・トーク殿」
大軍師の評判を知らなかったトーク領内でさえ二人の名声は昇竜の如しですものね。名声の独占問題を考えてはおられたのでしょう。二人ともそういう顔だ。
「ああ、別に嫌なら嫌で良いんですよ。一応言っておきますが『なら反逆を』なんてしませんから」
「……一々嫌な想定をするでない。我々の方でも使者の件を含めてどうリディアに箔付けを受けさせるか考えていた。渡りに船なのだ。今回の第一功はフィオの予定であったが、上か下か。戦いが終わるまでに考えを教えてくれリディア」
「それと使者の人選はビビアナが帰り着いてどう動くか見てからにするつもり。窮地から脱して気持ちが変わるかもしれないもの」
慎重で結構。さてこれでトークの方針は確定だな。
後は何とか真田への嫌がらせを考えなければ。まずジンさんと会った時商人伝いに動向を探っておいてくれるよう頼むとしよう。
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