カルマとザンザの出会い2
いよいよ先行きが雲ってきたわ。
コルノ党にしては隊列が整っていて、統率が取れていると感じたのは正しかった。中々崩れてくれず潰し合いになっている。
部隊を率いる将軍の差で被害は向こうの方が多いけど、兵数の差があり過ぎてこのままじゃこっちが潰されてしまう。
何よりもザンザはどういうつもりなの!
両翼とも押す気が全く無いじゃない!
押されてあたし達が包囲されるよりはいいけど、両翼が邪魔でレイブン、アイラの騎馬隊が遊兵同然だなんて。
本当は分かってる。
最初からこうするつもりだったのでしょうね。
ここまで徹底してやるとは思いたくなかったけど。
さて、どう凌いだものか……。いや、もう撤退するべきか。
あ、まずい。
「ガーレ隊に伝令! 出過ぎである戻れ!」
「は! 復唱します! 出過ぎである戻れ!」
いけない、心配していた通りになる。
あ、レイブン何やってるの! そこで下がったらガーレ隊が益々孤立するじゃない!
……いいえ、違うわ。これは多分。
「レイブン隊に伝令! 再編成した後、距離を活かして突撃しガーレ隊を救出せよ! こちらは退路を確保する」
「はっ!」
レイブンなら同じ事を考えてだと思うけど一応ね。
後は少しずつ下がって撤退しろと言いたいんでしょ。前線で良く見てるじゃない。
……ザンザめ。これでもしも敗戦の責任を押し付けて来たら、絶対に許さないわよ。
でも、勝手に下がりきる訳にも行かない。ザンザへの連絡は……あたしが行きましょう。
ドン! ドン! ドン!
! 何処から太鼓の音が? あ……援軍? 横腹に突っ込んでいく真っ黒な旗は……確かイルヘルミ・ローエン。
コルノ党が撤退する。
整然とした撤退。大将は誰だったのかしら。
何にしても助かった。―――喜んで良いはずなのに、どうにも苛立ちが勝って……。
ふぅ……。気を取り直しなさい。今からザンザとの話し合いがあるはず。
そう、あたしにとっての本番は今から。……疲れてるなんて思っちゃ駄目よ。
***
軍議の場にザンザが入って来た。
あら?
援軍の者は誰も来ないのかしら。
「皆の者、大儀であった。今日は皆の働きにより勝つことが出来た。よくやったぞ」
「「「はっ。有難うございます」」」
良く言うわよ。あれだけあからさまにこっちを試しておいて。
「お尋ねしても宜しいでしょうか大将軍閣下」
「許す」
「最後にコルノの横を突いた軍の者は来ないのでしょうか」
「ああ、イルヘルミだな。あいつは逃げたコルノ党を追撃させているのでここには来ぬ」
「はっ。お答えくださり有難うございます」
それは残念だわ。
あの軍、遠目に見ても練度が高かった。
指揮官と是非会いたかったのに。しかも予想通り噂のイルヘルミ・ローエンなら猶更。
ただ、あいつらに戦功を取られたら堪らないけども。
「ククク……グレース、心配が顔に出ているぞ? まぁよい。皆の者、簡単にではあるが戦勝の宴を用意してある。そっちの幕舎に移って先に始めておけ。トーク、グレース。お前たちは残れ」
来た。教えて貰いましょうか、あんな真似をした理由を。
「さて、もう分かってるとは思うが、儂の目的はお前たちが命令に従うかの確認だった。ついでに、理不尽な命令を受けたと感じた時の対応もな。ま、合格だ。お前たちは儂の役に立ちうる奴等だ」
でしょうね。
それにしても、戦でそんな危険な真似をするなんて。負けたらどうするつもりだったのよ。
いや……もしかしたらあのイルヘルミ軍もザンザの手引きだったのかしら。
「はっ。お褒めの言葉を頂き恐縮です。それで、戦功はどうなりましょうか」
「ほぅ。思ったよりも短気なのかなグレース。安心しろ。お前たちが第二功だ。第一は当然儂だ」
邪魔をして第一功。分かってたけど……いえ、不満に思っては駄目。
少なくともあたし達を評価してるみたいなのだから。
それに話はまだあるはず。心を乱さないようにしないと。
「本題に入ろう。お前たち現在のランドの状況を知っているか?」
「はい。十官達とザンザ閣下が権勢を争っていると聞きますが、その話でしょうか」
「うむ。少し前まで状況は不利だった。しかし、この反乱によって軍の重要さが大いに増し、五分にまでなっている。終わる頃には有利としてみせよう。戦った全ての者は儂の評価を待つ立場なのだから、当然儂に付くだろうしな。大体兵を持つ者は皆十官と仲が悪い。
しかしだ。所詮成り上がり者と、ご立派な先祖を持つ貴族どもは儂を軽くみており面倒だ。ならば儂自ら使える者を引き上げるしかあるまい。お前たちトーク家は精々三代目だろう? ランドに来て儂の手となれ。従っていれば伯爵、あるいは侯爵にまでなれるかもしれんぞ」
やっぱりか、そんな所じゃないかとは思っていたけど。
危なくはある。しかし、断る手は無い。正に千載一遇の機会。足りない全てを手に入れうるわ。
それに、あたしの考えではザンザが勝つ。
「はい。お話し確かに承知いたしました。我が才の全てを持ちまして、ザンザ様の栄達に力を尽くさせて頂きます」
「うむ、よかろう。さて、トーク。ずっと黙っていたがお主もそれでよいな?」
他に選択肢なんてあるとは思えないし、姉さんだって……。
え。その表情は……ど、どうしたの姉さん。
「一つ申し上げたき儀が御座いますザンザ閣下。終わった事は仕方がありません。しかし今後は小官の配下達が無駄に死ぬような策をなさらないでください」
え。―――だ、駄目よ姉さん!
「お、お待ちをトーク閣下!」
「黙れグレース。それでトーク、もしも儂がそのような策を考えた時にはどうすると?」
「……その時は従う訳には参りません。小官には家臣達の命を守る義務が、いえ、小官が家臣たちを守りたいので拒否をするでしょう」
ね、姉さん!
せっかく問題無く終わる所だったのに!
そいつの機嫌を損ねたら、それこそ家臣たちは死に損なのよ?! 家族への補償だって難しくなるかもしれない。
「静かな置物かと思ったが、言うではないか」
「小官も配下を持つ領主ですので、必要があれば口を出さざるを得ません」
「……元より無駄に死なせるつもりなど無い。効率が悪すぎるわ。第一今回も殆ど死ななかったであろうが。この程度の死人で不満を持つのなら、流石に考え直さねばならんな」
「やはり、あのイルヘルミの軍はご存じだったのですね?」
「大将軍は儂だぞ。どの軍がどのあたりに居るか程度弁えておる」
そして、こちらに来るように指令を出してあったのかしら?
……もしかしたら、イルヘルミも従うか試されていた? ランドではあいつと協力する事になるのかも。
「分かりました。ご配慮に感謝を。今後ともよろしくお願いします」
「よかろう。部下に強い意思があるのも悪いことばかりではあるまいしな」
はぁ、結果としては良かったか。
いえ、流石姉さんよ。使い潰されないように牽制出来たのは大きい。
……全ては悪くない所に収まったと言うべきなのでしょう。
そして、あの男の話は全て的中した。それは、正直嫌な感じがする。
ダン―――何者なの?
******
物見戸様より、最初にダンを助け今はケイ帝国北東先端の辺境で真田総一郎たちと楽しく黄巾……コルノ党狩りをしているラスティルの絵を頂きました。
ttps://www.pixiv.net/artworks/89580122
うーん……とても美女エルフ槍騎士。こーいう感じが私も良いと思います。
私らが最初に出会ったら剣と魔法でチートなろ……カクヨム主人公始まっちゃうのかな? と考えてしまう感、あります。素晴らしい。
尚、個人の腕力が演義的な方がカッコイイよね。という作者の欲望によって、彼女は槍ブッサした人間を片手で持ち上げた挙句適当な奴に投げつけるお方です。
良いんです。美人が俺……拙者より強い奴に会いに行こうとするさわやか脳筋でも。
地球史にもアマゾネスの元となったような女性戦士が、騎馬民族とかに結構居たとwikiに書いてありました。血まみれイケメン騎士がいっぱい実在したように、私たちから見ると猟奇的美少女戦士も居たでしょう。
なので拙作も現実のちょっとした応用の範囲だと主張させて頂きます。
前回と同じく、出来ましたらピクシブの方に感想を。無理な方は拙作へのメッセージとして絵の感想をお待ちしております。
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