カルマとザンザの出会い3

 ザンザと合同での戦いが終わり兵に戦勝の酒が出た次の朝、私はグレースに呼び出しを受けた。

 直ぐに向かうと天幕に居たのはトーク姉妹だけ。

 そして昨日どんな会話がザンザとの間であったか、どういう思惑だと感じ、当然という感じで承諾したのを教えてくれた。

 グレースちゃんてば私のお願い覚えててくれたのね。

 二人しか居ないのも私が前回会議で黙ってた事に配慮してなのだろう。お話しも詳細でおじさん嬉しい。

 でも、


 こいつはグレートにヘビーですよぉ……。

 下手したらトーク家終わったじゃん。

 完璧にリディアのお墨付き地獄行きコースを、命なんぞ要らねぇとばかりに限界アクセル踏み込んでるじゃん。

 バッドラックとトゥゲザーしたらダンスっちまうぜこれ。

 いや、既にバッドラックに持ち上げられてる。後はそのままパワーボムされるかどうかだ。


「で、貴方はザンザのこの動き予想していたのよね? 今後についても何か献策はあるのかしら?」

 

 さてさて、どこまで言ったもんだろ。

 どう考えてもポッと出の田舎領主が、都会の権謀術数を上手くこなせるとは思えない。私に思いつく全ての言葉の意味はそーなるけど、まんま言うと怒るよね。

 ……一応義理は果たすか。

 この二人が私の言葉にどう反応しようと、秋元ザンザプロデューサーは替わりを見つけるだけ。ケイを襲う歴史の大勢は変わらんでしょ。私の余裕をほんの少し御裾分けするのもいとをかし。

 ただ、その前に様子見のジャブを一発。


「まず何を申し上げようと私に罰を与えぬ事、お約束頂けますでしょうか?」


 膝をつき、頭を下げたまま言ってみる。

 して、どう反応しますかね?


「お前、主君を前にして何のつもり? あたしとトーク閣下が信用出来ないって言うの?」


 あ、やっぱだめっすか。

 幸運を祈るよグレース。お前は良い奴だった。美人さんが無惨に死ぬなんて勿体なくて私悲しいデース。


「とんでも御座いません。ただ自分の考えに自信を持てませんでしたので……失礼致しました」


「……お前」「待てグレース」


 デース? 姉ちゃんが何か?


「確か、そなたはダンだったな? ダン、その約束はわしがしよう。そなたが何を言っても罰を与えたりはせぬ。ほら、グレースも約束しなさい」


「……分かりましたトーク閣下。約束いたします。ダン、これで良いかしら?」


 おやまぁ流石は領主様。

 私の態度、何か出てたんだろうなぁ。

 しゃーないか。十万人を支配するお方ですもの。そーいうの敏感だよね。今後の努力目標としておきましょう。―――こう考えるのもう何度目なのやら。

 とにかく一応の配慮は頂けた。悪くは無いが……少し控えめが良さげか。


「はっ。お気遣い誠に有難く。では、一つ懸念を申し上げます。王都における政治闘争と利益関係は複雑怪奇と聞いているのですが、お二人はそういった王都の情勢には明るいのでしょうか?」


「……痛い所を突くじゃない。確かにあたし達は王都について不案内よ。そうね、十官は敵対するから駄目だとして、お前がバルカ家を紹介しなさい。あの家が味方をしてくれれば大分違うわ」


 は!?

 ありえねーよ。

 無理だよ。

 お断りですよ。

 大体どうお願いしても協力してくれるとは思えんね。あんたら火中の栗どころかニトログレースリンなのよ。あのお家本当の意味で賢い感じしたし、全力で避けられるに決まってるじゃん。


「グレース様は何か誤解しておられます。バルカ家の方とは二年以上会っていません。一人の元下僕に一体何が出来ましょう。お茶の件で私を過大評価されたのかもしれませんが、あれは以前申し上げた通り全てオウラン様のお力によるものです」


「貴方、本当に使えないわね……」


 いやいやいやいやいや。

 ユーが無茶なジョブをキラーにパスしてるだけですからー。

 その発言本気なら、チミの評価は彼氏が出来たアイドルも目じゃないダウンバーストよ?


「ご期待に応えられないのは残念ですが……倉庫の務めが私の限界でございます」


「―――そう、あたしも残念だわ」


 やれやれ、言われそうだなと想像していても、実際に言われると衝撃的なまでに驚愕の無茶振りだった。

 もーこれ以上は何も言わないでおこう。


 で、結局ランドに行くのかお二人さん。

 そうだな、それが当然の判断なのだろう。

 私も何度欲望に釣られて追いかけた挙句、待ち伏せ食らって死んだことか。

 ゲームでだけど。

 同じ出来事がお前の場合人生に起こるかもしれんな。

 

 大将軍であるザンザに逆らえないのは分かる。

 ただあのザンザって奴は、何時死んでもおかしくないのではなかろうか。

 毒殺が常識までありそうな大帝国のトップへ成り上がり、更なる権力を望むなんて自殺願望でもあんのかと私なら言う。

 しかもこの帝国崩壊寸前だし。

 二人はそのザンザの生存を前提に考えててどうにも危うい。この前に進む事しか考えて無い感じ、若さなんでしょうねぇ。

 私が死ぬのを決めつけ過ぎ。と、いう話もあるが……。


「仕方がない。これ以上は下級官吏の聞く話では無い。下がりなさい」


「はっ。失礼致します」


 さてさてさてさて。どうなるだろうね。

 ザンザは死なずに済むのか?

 そして、トーク姉妹に待ち受ける運命は?

 他人事だから純粋に面白い。

 

 リディアの予想通りに行き、私の考える通りなってしまったら。一応凌いで助ける方法はあるけど……。少々身の程を越えた無茶が必要だろう。

 うーん、うーん、うーん―――。


 よし。見捨て、違う。応援にしておこう。外野が無責任に言うガンバレ♪ ってやつ。

 領地が荒れたら引っ越せばいい。大きな動きは今ほど良い立場じゃなくてもケイに居れば分かる。前職で真面目に倉庫やってましたーと言えば、どっかで公務員になれる目もある。第一志望は一番情報集まりそうなビビアナの所。オウランさんと距離が出来てしまうのは困るが、一長一短でしょう。

 新しい支配者が元トーク領を落ち着けてくれれば戻っても良いしね。

 お二人に無茶してまでお節介焼く価値ありません。


 となると、まずさっきのが最後の会話かな。特にカルマとは。

 さようなら美女領主様。貴方の良い所は私が今下書き中の『ケイ帝国終末録(仮題)』にきちんと書いておくよ。


***


 うやうやしく頭を下げたまま下がっていくダンを見ていると、少しだが不安を感じ、これで良かったのか。という思いが再びもたげてくる。

 グレースは実に不満そうだな。

 最大の不安を下級官吏から指摘された上に、解決策が見つからないのでは当然よの……。


「なぁグレース。今少し問い詰めるべきだったのではないか?」


「……思いを全て言ってはいないわね。でも、所詮下級官吏の考え。しかもあたしよりも若造の。気にしなくてもいいでしょう。バルカ家の人間から何か聞いていたとしても、無理に喋らせてバルカ家の怒りを買えば本末転倒だもの」


「そうだな。ただ、その若い下級官吏の予測は恐ろしいまでに当たっているではないか。これからどうするべきか助言を求めるべきだったかもしれぬ。褒賞を提示して今一度聞くか?」


「話すつもりは無いように見えたわ。第一大した人材とは思えないの。オウランもこの二年、あいつの扱いは普通だし。それより姉さん、ランドでは暗殺に気を付けないと。嫌だろうけどずっと鎧を着ててね。あたしもそうする」


「確かにな……。ランドではお互いに気を付けるとしよう」


 グレースの言葉は全て道理だ。下級官吏の立場では何も分からぬ。

 ただ、わしを見た時の目。こちらを哀れんでいるように見えた。

 現状我等の未来は明るい、そう言って良い筈なのに。

 

 グレースは有能だが、人を見る目に欠けるところがある。その分は補わなければならぬ。

 確かに、大した人物ではない。一応調べた仕事ぶりでも際立った物は無かった。

 それでも何か気になる……。

 ……これから家の一大事だというのに、下らない事を気にし過ぎだろうか。


 とにかくランドでは油断しないようにしなければ。

 ザンザもこちらを利用しようとしてるだけ、場合によっては突然見捨てられかねん。

 しかしそれを加味してもザンザに付くのが最善手なのは間違いない。

 彼の側近となれば大きな力が手に入るはず。

 ザンザの前ではああ言ったが、兵も民も力が無ければ守れぬのだ。

 こんな不穏な世の中では何よりも力。

 それをランドに行き手に入れねばな。

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