トーク姉妹との話し合い

 まずはイルヘルミとリディアが話していた情報で様子見と行く。


「では申し上げます。近いうちにケイ全土で、民による大規模な反乱が起こる。そうランドで耳にしております」


 これは確定だと思う。

 なんせイルヘルミ+リディアの予測だ。

 これより信頼出来そうな予測なんて、演義孔明の意見だけだろ。

 風向きの変化を完全に的中させるのは凄すぎる。

 作品によっては三日以内に風が吹かなかったら、死んで詫びるとか言っちゃうんだぞ。

 あんな予報、二十一世紀の気象庁でも厳しい。演出過剰だよ。


「反乱か。グレース?」


「……そういう可能性は考えにあるわ。何時起こるかは分かる?」


「十年以内、その程度しか申し上げかねます」


 ちと地球の歴史を意識し過ぎた発言か?

 黄巾の乱の時、曹操はかなり若かったはず。

 曹操っぽいイルヘルミが二十五当たりだと聞いたから十年以内かなーなんて計算してしまった。

 

「その程度ならあたしも予想しているの。配慮するのは難しいわね」


 これだけじゃダメか。

 いや、私から情報を絞ろうとしているのか?

 分からん……。

 ただ、こう言ってくる以上、配慮はしてくれんだろうな。

 一歩踏み込むか……イルヘルミさえ確信してなかったのを考えると不安だが……。


「ではその反乱、王軍が抑えきれない。というのは? そうなればするべき準備も変わって来るように思われたのですが」


「……それは、バルカ家の考えかしら?」


 あ、そうだよね。

 そう思うよね。

 いかんな、私が考えてたよりずっとバルカ家の紹介状は大きな力を持っていたようだ。

 もしこれでバルカ家の顔に泥を塗ったら。……考えるだけで冷や汗が出て来るぜ。


「いいえこちらは私の個人的予測です。ですから当たれば、と申し上げました。確言出来る程の根拠があれば良かったのですが……」

 

 例え本当に未来が読めていても、同じように言ったのは間違いないのだけども。

 色々コイちゃってるけど、それでも出来る限りまろやかな感じにしたい。

 当たるまでは私の事を忘れてるくらいが理想である。


「そう……。確かにその予想は……。ええ、良いわ。当たれば配慮しましょう。他に何か話はあって?」


 何かあったっけ……。

 あ、ラスティルさんとの約束があった。

 ここら辺は獣人との戦いがよく起こる土地だと聞いている。

 実戦によって鍛え上げられた強い人が居るかも。


「提供できる話はもう御座いません。ただちょっとしたお願いが。こちらの軍で個人として強い方が居られましたら教えて頂けませんか? それと鍛錬の様子を後学のために見られたら、と思うのですが可能でしょうか」


 こっちに来て会った強い人というと、バルカ家の護衛長さんだ。

 明らかに地球人を超えてた。

 だが、強い武将というのはそんなもんじゃないらしい。

 本当に百人斬りしかねない人も居るような話を聞いた。


 盛ってると思いたい。

 日本史で一回の戦いでのベストスコアは二十人くらいだと本に書いてあったし、幾ら不思議パワーで筋肉的に有利な高耳でも百人斬りは不可能でしょ。


「強いのは当然将軍よ。ウチに居る将は三人。ガーレ、レイブン、アイラになるわ。明後日三人が集まって鍛錬をするはず。兵たちに見学させるつもりだし、それに混ざって見ていいわよ」


「おお、それは有り難い。是非見学させて頂きます」


 ついにこの世界で強いという人を見られるか。

 ラスティルさんの興味を引けるくらい強い人だと良いなぁ。

 と言っても、ラスティルさんが本当に強いのか知らない訳だが……。

 嘘を言う人には見えなかったけど。あの時した質問に対する答えも全て事実だったし。

 まぁ、見つからなければ仕方ないわな。

 人知は尽くしたのだ。


「まだ何かあるかしら?」


「いいえ」


「では下がりなさい。獣人に関しては追って伝える。連絡し易いように、配下の為に用意してある邸宅へ案内させるわ。人をやるから城門で待つように」


 私は礼を言って二人の前から辞去した。

 しっかしここまでスイスイ行った上に、宿まで用意してくれるとは思ってもみなかった。

 間違いなくバルカ家パワー。

 明日にはお礼の手紙を出しますか。

 ……下書きして出したら失礼と感じるかなぁ?


***


「バルカ家と縁がある者にしてはどうも冴えない感じだったな。ただ、あの情報というか予測はどう思うグレース?」


「民の反乱はありえるわ。領内でも民の不満が増えているという話はあるの。何とかしようとしてはいるのだけど、王宮から派遣される人間がね……。だけど、王軍の話は分からない。これも……ありえなくは無い。とは……思う。

 あの男、際立った物は感じなかったけど、バルカ家からあんな紹介を貰う人間に何も無いとは思えないし。難しい所ね」


「そんなに大した紹介状だったのか?」


「姉さんも紹介状を読めば分かるわ。ほら、これよ」


「むぅ、確かに立派な紹介状だの……。『この者、与えられた仕事を過不足なく果たすとバルカ家が保証するもの也。又、ダンが望まぬ限り、バルカ家が失敗を補填可能な範囲で仕事を与えられることを望む。この者を処罰する際にはバルカ家へ一報与えられたし……』グレース、これは……」


「普通じゃないでしょ? バルカ家は有能と厳格さで有名な一族。そう簡単に紹介状なんて貰え無いわ。なのに能力を評価されてる訳じゃないみたい。それでいて凄く大事にされている。家名も持ってないのに……何かあるのかしら」


 どうもチグハグなのよね。

 まぁ、高い地位に付けろとか書いてあるよりはずっと良いけど。


「貴族なら獣人と一緒に住もうなんて考えるわけない……。しかし、どうする? 変な所を紹介できぬ」


「草原族のオウランで良いと思う。彼女なら悪いようにはしないはず。後は仕えたいと言ってるのだから適当な文官にしてあげれば良いのではないかしら。正直読み書き計算が出来て人格的にまともというだけで、あたしとしては即採用だしね」


「民の反乱と、王軍が抑えきれないという話は?」


「反乱に対しては前から備えようと思っていたから大丈夫。でも、王軍については……難しいわ。心の準備と、一応考えて置くくらいしか出来ない。特に有名でも無い市井の男がした予測を余り真に受けるのも愚かしいし、こんなもので十分でしょう。バルカ家が言っていた可能性もあるから、少し考えるけどね」


 反乱を王軍が抑えきれない、か。

 不吉な話を聞いたわ。

 そんな事態になれば、王都ランドに近いあたし達はコキ使われると見て間違いない。


 草原と雲の部族は秋になれば毎年と言っていいくらい国境で面倒を起こすし……民の反乱までなんで考えたくもないわ。

 まぁ、あの男の予想が当たろうが外れようが、姉さんが望むように民と臣下を守ろうと思うのならばもっと力をつけないといけないって話よ。

 ああ、今の男が草原族の所へ行くのならお使い程度はさせようかしら。

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