三将軍の鍛錬見学会
レスターに来て二日目、今日は将軍達の鍛錬を見学する日である。
私も三国志演義などを読む程度には歴史話が好きだったわけだが、そういう物に出て来る強い人というのがどのくらい強いのか知りたいとしょっちゅう思っていた。
仮面を付けたライダーそっくりの武将さんが『タダカツー! 助けてくれタダカツー!』なんて徳川の狸さんが言うくらい頼れるのか? とかね。
世界が違う以上一緒な訳は無いが、弓と槍で戦うという意味では一緒。そう考えると興奮してしまう。
昨日は期待を持て余しつつ今日見られる三人について調べた。
まずはガーレという方。
重い棍棒みたいなのを使う人で話を聞く分には随分……えーと……脳筋な兄さんだとか。
単じゅ……良い人ではあるらしいんだけど。
レイブンという人は、偃月刀を使う……戦闘民族?
『
……某? 私の聞き間違いかも知れん。
やっぱり良い人……ってホンマかいな。
まぁ、なんで強い奴探してる人が此処に留まっているかというと……。
三人目、アイラ・ガンちゃん。十六歳の女の子。が此処に居るからなんだと。
恋だの愛だのでは無い。
アイラちゃんは滅多に居ない獣人の将軍で……頭おかしくなるくらい強いのだとさ。
十六歳で? またまた御冗談を。という突っ込みを我慢するのには苦労した。
とにかくこの子に勝った上で、忠誠を誓っているカルマが死ぬまでは此処に居そうなんですと。
あれ? 死ぬまでなんて言うなら強い人を探している発言と矛盾するのでは……。
……まぁ、街の噂だしね。
アイラちゃんがそんなに強いならば、ランドで名を聞かなかったのは奇妙にも思う。
しかしよく考えたらまだ十六歳。
働き出して間も無い訳で、特別な逸話でも作らないと地元以外では知られないか。
いや、それでも厳しいかな?
獣人が大活躍した話は好まれないだろうし……。
ついでにいうとあんまり社交的な子では無いのか友達が少な……孤高の人だとも聞いた。
家族も居ない。
そりゃ大変だ。高耳と人間の国で獣人が一人で生きててしかも飛び抜けて強い。
これが本当なら鹿の群れに狼が居るようなもので孤立もしよう。
強く生きて頂きたい。
むしろなんでこっちで将軍なんてやってんだろ? 給料良いから? でも孤独はヴァンパイアだって殺すって漫画のキャラも言ってた。辛くは無いのだろうか。
かく言う私もこの世に私を理解出来る者は私のみ! 状態なので孤独ではある。が、
元はと言えば現代資本主義という戦場でむせていた雑兵なので、そーいうのには無敵です。
鍛錬が行われると聞いている広場に行くと、既に多くの兵士らしき人達が見える。
皆体格が良く、傷跡のある人も多い。
そして広場の中央に三人。あれが将軍か?
確かスポーツ刈りのマッチョがガーレ、髪型と体格的に美形の浪人みたいなのはレイブン。
そして、真っ白な髪の無造作ヘアで獣人の少女がアイラちゃんか。やはり尻尾がぷりちー過ぎて目立ってる。
獣人は毛の色で山、草原、水、雲、火に分かれてると聞くが、白い毛の獣人が居るとは聞いた記憶が無い……何処の出身なんだろう。
アルビノなのか? 肌は健康な感じで日に焼けているから違うか。
遠目に見ても分かる程に三人とも顔面骨格の戦闘能力が高い。
この世界では人目を引く美形じゃないと出世出来ないという法則でもあるんかね?
地球の三国志では、見た目が今一な所為で中々認められなかった人がいっぱい居たみたいだけど。
具体例を言えば……鳴り者入りで配下になったのに、即死んじゃった
哀れ
私には彼が死んだ遠因が、不細工だった所為に思える。
こっちにも
やはり見た目で苦労しているのだろうか……。
等とどうでもいい思考をしてる内に、時間となったのかレイブンが兵達の前に立った。
「それでは鍛錬を始める! 自分の所属する将軍の元へ集まるように! 某の隊はあちらだ!」
あ、本当に
私の言語理解がおかしくなってる訳じゃないな。
武器として木製の偃月刀を持っているが、これで日本刀を持っていたら武士文化が何処かにあるのかと疑う所だったぜ。
いよいよ鍛錬が始まる。
其々の武将の前に兵士が……三人? 同時にやるの?
おいおい、流石に危険ではなかろうか?
危険では無かった。
一時間経った今も、三人は危なげなく三人組み手を続けている。
兵の側にも大きな怪我をしている者は出ていない。
兵士の皆さんも、古強者な気配あるのにコレですか……。
将軍らしき相手に絡まれそうな時はさっさと逃げよう。
走り込みを増やすのも必須だな。
男二人は一戦終わった後に何かを教えてるが、アイラちゃんは只管組手を続けている。
組手しながら何か話しかけている。
そして男たちが休憩をする間も水を飲む程度で延々と組手をし、他の二人より五割増しの回数をこなしてしまった。
あの、強すぎるし持久力があり過ぎませんかね。
『力は山を抜き、気は世を蓋う』などとぶっこいた敗軍の将ですかこのお嬢さん。
昼食休憩が終わってから始まった午後の将軍同士の鍛錬を見初めて一時間。
私はこの見学会が、実は戦意高揚の為のヤラセじゃないかと疑い始めている。
この鍛錬、タイマンじゃなかったのだ。
アイラお嬢ちゃんに二人がかりで延々と挑み続ける形式だった。
それをお嬢ちゃんは焦った様子も無く勝ち続けている。鍛えまくった人間の更に最上位であろう二人を同時に相手して圧倒。
どうなってんだ? こっちの常識も圧倒されてますよ。
獣人の平均値は人間より強いとは聞くが、高耳と比べて特別強いとは聞いていない。
更に驚いた事に、アイラは一戦終わる度に武器を剣、槍、矛、その他、と交換している。
他の兵士達にお手本を見せているのだろうか? あまりに器用だ。頭おかしい。
結局このアイラという娘は、三時間は行われた将軍相手の組手に全て勝ってしまった。
最後には二人同様疲労困憊だったの以外はとても人間に思えない……。
肌の下は機械部品じゃないのかこの子。
動けなくするにはプレス機か溶鉱炉が必要に思えるぞ。
何にしろ、私は内心でも二度と『ちゃん』付けで呼んだりはしないと誓った。
あれ? なんか既視感が……。
ヤラセでは多分ない。
よく考えたら人間と高耳の国で獣人を目立たせる為にヤラセなんてする訳が無かった。
ケイ人にとって獣人は、基本的には敵に近い隣人なのだから。
ま、これなら自信を持ってラスティルさんに伝えられるな。
将軍達が使った武器の重さは良く分からなかったけど、仕方あるまい。
木製の武器だとだけ書いておくとしよう。
いやぁ、本当に実りのある一日でした。
まさかこの世界の強いって人達が本当に人間を辞めてるとは思わなかった。
あのアイラさんなら三国志で強いと言えば筆頭の男、呂布にも勝てそうだ。
呂布かー。こっちにも彼みたいな人が居るのだろうか?
今のこのケイ帝国のように国が壊れる前、二千年後に触覚と汚い裏切り伝説の所為でゴキブリと綽名される男は、将来殺す事になる義父の配下として戦っていたと私は覚えている。
その頃何処らへんに居たかなんて全く知らないから探せないけども気になる。
何と言っても中国史では董卓の命を奪った人だ。
カルマが董卓かはすっごく微妙に思えてきたが、何か関係が産まれるかもしれないし。
毎度の事ながら頭の片隅に置いておく程度が限界か。
そんな事を考えながら今日得られた情報を咀嚼しつつ宿舎に帰り、ラスティルさんへの連絡とバルカ家へのお礼の文を書いているとグレースから使者が来た。
「グレース様のお言葉を伝えに参りました。『明日草原族への案内役を向かわせる。
又、彼らのトーク領に対する考えを聞いてくる事。可能ならば今年村を襲ってくるのがどの氏族か、話し合いで解決が可能かも調べて来るように』以上です。こちらが紹介状となります」
「承りました。グレース様に感謝していたとお伝えください」
明日とは仕事が早いこった。
準備は今夜中に終わらせないといけないな。
文を出し、話し合いが上手く行けば必要となる道具も買っておく必要がある。
昨日の内にある程度は済ませてあるけど……もう一度チェックしよう。
さぁ、ついに計画の鍵である遊牧民の人々に会える。
どんな人達だろうか。
話を聞いてくれるだろうか。
私の思いが、願いが、伝わるだろうか……。
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