王都ランドに煙を見て
「おい、俺らは追撃してるんだろ? なんでこうもゆっくりなんだよ。さっさと終わらせて帰りたいぜ俺は」
「知るかよ。代理指揮官殿に聞け。……俺だって追いついて功を上げて褒美が欲しいの我慢してんだ。追撃なら安全に勝てるってのに。ビビアナの兵なら良い装備奪えるだろうしよぉ。クソッ!」
おうおう。兵の皆さん愚痴ってますねぇ。何時も兵糧を届けに来てれば油断しやすい。とは思うが私ら余所者の耳に愚痴を入れるのは危険よ。
確かに追撃が遅くなり今日で二日。頑張ればランドまで一日だから指揮官の中にも文句言ってる人が居るとは聞くが。
しかし理由なんて少し考えれば分かるだろうに。
マリオ閣下への遠慮。或いは最初からあちらを先頭にランドへ入ると決めてあったか。
飼い犬は辛いねぇ。テリカは犬なんて可愛い感じじゃなかったけど。犬だとしても傷だらけの熊犬って感じ。
そして一日。そろそろランドが見えるかな。実に久しぶりだ何が変わってんだろ。と、あれ? リーアさんが馬を微妙に急がせてこちらへ。
「ダイ。同行を。ドレイク閣下の元へ参ります」
へ? ラスティルさんの所? なんで。とは聞かない。
「はい」
と、大分急がれますね。私今は下級官吏らしく徒歩なのに。なんて愚痴ってられん。日頃の走り込みを信じてついていかないと。……この頭巾走る時は流石に邪魔。
「どうした? 急いでいるようだが……」
ふひぃ。結構息がきつい。危なかったな。走り込んでなければ瀕死な距離だった。
あ、下馬るんですか上司様。へぇへぇ。手綱を持たせて頂きます。
「ドレイク閣下。小声で。ランドで小さいながら煙が見えるとの報が入りました。これで貴方と親しいジョイ・サポナの苦難が深まると
もし貴方が幾ばくかの義理を果たしたいのであれば急ぎジョイ・サポナの所へ行かれては如何。直接会い追撃の首尾が良くなければどうするのか尋ねるのです。そして領地へ帰るとの答えであれば。
トークに居る知恵者から出立の時受け取ったと言って、こちらの書簡をお渡しなさい。ただしその場で焼き捨てるか返すようお求めを」
「ほ、お? これは、今作った書簡には見えぬが……内容は?」
「確認はサポナの目前でなされよ。何なら渡す判断もその際に。我らの方針の中にはドレイク閣下がご存知でない方が良い物も御座います。臣下は黙って従うのが
これはその為の物。
ぬ、へ? 待ってよく分からない。走ってきて脳に酸素足りないせいだ絶対そう。
「いや、悪かった。有難く頂戴する」
「よろしい。良いですか。それはトークでとある人物から出立時に受け取った物です。
「……まったく。拙者はそんなに信用できぬ人物か? では、急ぐので失礼する」
馬のテールと金髪のテールが風になびいてぶっ飛んでく……。えーと。あ、馬乗るんですね。はいどうぞ私の手を踏んでお乗りを。
「何時書いたのか。内容は。どんな意図が。先日無用に動かない方が良いと言ったのに。答えをお望みで?」
ひょえっ!? 三つ目までは誰でもだけど四つ目は本当超能力あるの?
「ひょい。聞いていいなら」
「此処に小賢しい者が居ると知られないよう、実際トークに居た頃書いた物です。でなければ墨の乾き、書簡の封印状態で何か悟られかねません。内容は『マリオは追撃を止める。また、ビビアナが領地へ戻るのは想定以上に速くなると推察する。早くご領地へ戻られるが無難と考える』
意図は内容通りですな。我らの方針変換によりビビアナが速く領地へ帰り、サポナの滅亡が早くなった時、降伏か逃亡を考える時間を与えたとなればドレイク閣下の不満も幾らかは逃げましょう。
その為であれば無用の動き、では無いと考えております」
「お、おお。……お? 確かに、マリオ閣下は追い出せれば満足するという話もありましたが、そんな前から書簡の準備まで?」
「はい。そう難しき話でも無いでしょう。当時のダイにも書けております。あたうる限り如何なる事態にも使えるよう文面は考えましたが。
ダイの考え通り、ドレイク閣下には不義理を感じさせない方が良い。少なくともこの小細工で悪い事にはなりますまい」
書け……た……かな? 何か月も前に書いて今渡すという発想で顎壊れてる私に。
「は、ははぁ。用意周到で素晴らしいですね……開いた口が塞がらない感じです」
にしても、前から偶に思っていたのだけど……こうも色々と能力を見せて先読みしてくれるのはリーアにしては賢く無いような。
いい機会だしお考えを尋ねてみようかしら。何か誤解があったら怖いし。
「突然ですがリーア様、とある非常に立派な方の話なのですけど、彼の配下に大変才知のある人が居ました。その人は主君が偶にする謎かけ染みた指示を、ただ一人素早く理解し他の臣下に説明して実行させたそうです。
しかし主君にとってそれは不快な行動だったらしく、機会を見つけて殺してしまいました。この話、どう思われます?」
曹操様は本当に教えに満ちたお方。殺された
「―――ふぅむ。
まず確認させてくださいませ。その配下。機会があれば『主君より早く』物事を理解出来ると示し、更には主君の子息。下手をすれば後継者では無い者へ主君が好む行動や話を教えてはおりませなんだか?」
!? え、え、え、え。どういう事? こんな推測ベーカー街に住んでるイギリス人な事以外完璧カッコイイ人でも無理では?
「は、はい。全て仰る通り、明察です……。ど、どうして分かったんですか?」
「自分の知を誇示したがる愚か者は、主君が最も注目する後継者問題に関わりたがるものです。しかし我が君、その者を才知に長けたと表現するのは誤りで御座います。
主君へ配慮をせず権威を脅かし、高慢で、知はあっても賢さが無い。しかも唯一人理解し他者へ指示とは。主君はその者一人では無く臣下全員を試したいのにこれまた邪魔をした愚か者。大事は任せられず調和を乱すのみ。賢明であれば殺して当然」
お、おやぁ?
「あのー、リーア様が私の考えを的中させるのも、そーいう事になりませんか?」
「
もしもご不快でありましたなら今すぐ地に這いつくばって謝罪致したく。そして罰を与え、この身に改める機会をお与えください」
うおぉぉ……全部見切られてるぅ。
はい、そーなんです。能力隠す奴が一番嫌なんです。
そういう奴は最も危険に感じる。私がそうして危険を増やしてるつもりだし。
「いやはや。本当に私の全てを理解してくださってるんですね。しかもそこまで配慮頂けるとは感謝の言葉もありません」
「お言葉なれどダイを理解できた事は一度も御座いません。
どんな謙遜だ適当コクのも大概にしろ。もし本当にそう思ってるならもっと困ります。とは言わないどこ。
しかし知る限り最も慎重な人間が此処まで能力を示すなんて。
私の何処に価値を見出したんだか。
素直に感謝するべき……なのだろうけど、理解を超えててモゾモゾする。
「人は自分の事も理解出来ないと昔から言いますからねぇ。貴方が失敗し、更に私が教えるなんて場面は想像付きませんが。ありましたら頑張ります」
「勿論失敗せずともお教えは何時でもお待ちしております。先の話も実に良き話。……更に求めたい所ですが、何時レイブン様に軍議へ来るよう早馬が届くとも知れず。急ぐと致しましょう」
「軍議ですか?」
「はい。マリオの軍もすぐそこまで来ておりますから。遅くとも今日中には」
そう、なの? じゃあ走り気味で隊列に戻らないとね。
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