リディアとダンの関係が変化

「バルカ様に頂いた予測を自分の利益の為に使った事、お怒りならば謝罪するしか御座いません。よろしければ今から全てをバルカ様が指示し、ご自分の利益を確保されませんか?

 まだアイラ様にもトーク閣下にも途中までしか話しておりませんし、何とでも修正が効くでしょう。ただ、その際は出来ましたら私が今後も此処で暮らせるよう配慮頂ければ有難く思います」


 言った通りになるのも又良し。

 最低ラインは倉庫係である現状のままで良い。

 その際にはリディアの名だけが残り、私の名は消える。ある意味更に都合が良い。

 いや……待てよ? ……後でゆっくり考えよう。して、リディア。お前はどうしたい?


「勘違いしておられます。呆れたのは罵ってるのではなく、驚倒したと申し上げたつもりでした。よくもまぁ、そのように動かれていて『逃げるべきか』などと言えたもの」


「ご不快ではないのですか? 私はリディア様の助力を黙って私的に使い、利益を得ようとしたのです。筋の通った行いではありません」


「筋は通っております。あの予想は貴方がどれ程面白く使うのかと期待したからこそ、当時可能な全てを使って考えたのです。そして結果は予想以上。

 カルマ殿が出発する前にあの予想を箱に入れて渡すのは蛮勇とも思えますが―――お立場の軽さを考えれば、損少なく意味強く良い見切りかと。

 第一貴方様はご自分で調べ、知恵を絞って予測し、その上で判断されたはず。

 先程のような仰り方をなさったのは……わたくしの信頼が足らないのでしょうな。それは今後作ると致します。

 今日は良き日だ。探していた主君を、想像以上の主を得たのですから」


「……本当に私を主にすると? しかしこの計画は結局の所トーク閣下が私を認めなければ通りません。アイラ様に頼めるのは守る事だけ。強制するのは不可能ですよ? 私は身の程知らずな目的を持っているのです。結果が出てからで良いと思うのですが」


「苦難を共に乗り越え信を得たいとの、いじらしい懇願とご承知頂ければ。加えて案を拒否された時はあっさりと逃げるのでしょう? そして貴方の手を取らなかったカルマ殿とその一党は悪評に塗れて死ぬ。逃げる際には同行させて頂きたいのです。どうか臣下をお忘れなく」


 うーわ。いじらしいとかよく言うよ。

 だが何もかも仰る通りである。私の考えが全て外れても、身の程知らずの下級官吏が一人出来上がるだけ。

 そして当たった場合、私の手を取れば名が広まらないようにするし、取らなければカルマを始め皆死ぬ可能性が高い。

 アイラもな。そうなれば私の行いは全て消える。

 更に念を込めて逃げる時には名前を変えよう。

 今回の事件でカルマに奇妙な助言をした人間が私だと、誰かに気付かれる可能性は極小だろう。

 だからこそ、私は自分が有能だと思われる危険を冒したのだ。

 まぁ目の前のお嬢さんという特大の例外が出来てしまったが、相談相手になってくれるなら望外の幸運。……例え最後まで味方となってくれなくても十分有難い。


「分かりました。其処まで仰るのならどうか私を助けて下さいバルカ様。ただし逃げる場合には貴方様が主君です。

 それと元よりご指示を強く考慮する予定ですが、何時でも主君に値しないと思ったり、何か希望がある時は言ってください。最低限の衣食住以外は全てお譲りするようにしますので」


「己の信頼の無さに眩暈を感じますぞ。しかもわたくしに害される事を憂慮しておいでと見ました。主君と見定めた方を軽々に排しは致しませぬのに」


 でもリディアさん、こんな時代に自分の上司がドの付くアホだと思ったら殺したくなりますよね。自殺に巻き込まれるのは嫌でしょ?

 決断力のある貴方なら、何かで決心をすれば黙ってあっさりと私の寝首を掻きそうなんですもの。


「信頼云々ではなく、無能な主君を持った配下のありふれた感情に配慮しただけです。どう考えてもバルカ様は私を過大に評価されてます。その期待に応え続けるのは不可能なので、何時か付いていけないと思うはずですよ?」


「……忘れないようには致しましょう」


「もう一つ。バルカ様が私に危害を加えようとしたら、私に出来るのは逃げる事だけです。なので釈明の機会を与えて下さい」


「……有り難いと言えば有り難いお言葉」


 更に一つ念を押したい。私を殺したらどうなるかを。

 ―――いや、余計な情報を与えるのは駄目だ。


「それで、今でも私の配下になりたいと仰るのですか?」


「はい。臆病な程に慎重なのもこれからは美点。是が非にでも。以前申しました通りわたくしとバルカ家の存続を気にかけるとお約束くださいますれば」


「はぁ、それは勿論頑張りますが」


「但し、わたくしが不都合な行動を取らなければ、と?」


「―――ですから、危害を加えるのは不可能ですってば。むしろバルカ様がそうお考えなのでは?」


 まっず。詰まったのは変だった。私に彼女をどうにかするのは不可能。そう誰もが当然のように認識して欲しいのに。


「さて、申し上げかねます」


「ですよね。グダグダと言ってしまいましたが、承知致しました。今後バルカ様を私の臣下……協力して下さる方と考え、何に付けても相談させて頂こうと思います。貴方の助けは望んでもいなかった幸運です。有難うございますバルカ様」


「そのお言葉、祝着至極。今、大きな安堵を感じております。このリディア・バルカ、如何なる難題も果たして見せましょう。どうかご信頼頂きたく」


 リディアが膝を。

 ゲ。頭を下げようと、臣下の礼を取ろうとしてる。勘弁して。


「待ってくださいバルカ様。以前も言いましたように、私にそのような姿勢を取られて不快な思いをされるのは困るんです」


わたくしは貴方様に膝をつこうと寸毫の屈辱も感じませぬ」


「では私の為にやめてください。自分が貴方を跪かせるに値する人物だ。なんて勘違いをしだしたらどーしたらいいんですか」


「―――其処まで仰るのならば。しかし同じような思いはわたくしにも御座います。敬語はお止め頂きたい。貴方はわたくしの主君なのだから」


「あ、それは嫌です。癖になって人前で間違えたら事ですので」


「はぁ……流石と言うべきか、何というべきか。しかしバルカ様はお止めを。少しは誠意を表されませ」


 えー。低く扱わないという誠意をこれ以上無い程見せてると思うのに。


「うーん。教えて頂く相手ですから……ここは先生では如何でしょう」


「先生は貴方だ。変更を」


「私は先生とはとても言えたものではないでしょうに……では、バルカさんと呼ばせて頂いても?」


 あ、これだな。

 配下を『さん』付けは縁起が良い。とても有能な良い上司っぽい。どれだけ部下と実力差があっても敬語を忘れない感じが素晴らしい。

 そう、今は遥か懐かしき三回変身出来るお方のように。

 この場合は上司の方が弱いけども。


「……仕方のない方だ。分かりました。他者の目無き所ではリディアさんとお呼び頂く事で納得致します」


 ご納得いただけたようで有難く……あるぇ? 呼ぶ箇所変えておられますね。……分かりました。もう一度言い募るのは凶と感じました。黙ってそうさせて頂きます。


 しかし、これでリディアが配下……。

 動機が推測するのも難しいのもあって言いようのない重圧を感じるが、ご希望がある時はお願いした通り言ってくれると信じるしかないよね……。



*******

二日に一度更新くらいになります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る