反ビビアナ連合軍議。レイブンの挨拶
「入り口の三人。もしやトークの方ですか?」
ほへ? 今の……シウン? お偉い方にお声がけされると何か失敗した気がして不安になるな。うん、同意見みたいだねレイブン。何とか礼儀正しくよろしくお願いします。
「はっ。お言葉通りにて。その、遅れてしまったようで席を見つけられず。不手際をお詫びします。出来ますれば……端に一席頂きたく」
シウンは年齢を省みず首を横に傾げ、マリオは訝し気。イルヘルミは笑顔が……何か怖。
しかし遅刻野郎三人が注目を浴びるのは仕方ないとしても、何か視線の熱量が高くない?
「席? ……えっと。とりあえず遅れてはいませんよぉ。トークの方は最後にお呼びしたのです。それで、まずこちらへ来て挨拶をなされるのはどうでしょう?」
はぁ、そうなんですか。此処まで多人数だと前で挨拶するのは諸侯の一族くらい特別な人だけと思ったのだが……。地理的にトークが重要だからとか? 一応領地大きいのもあるか。
兎に角挨拶を。念のためとリーア先生に教えられた通りレイブンの後ろに従って歩き、レイブンは、末席の少し前で、そうそうそこらと思うよ指揮官殿。膝をついて深く頭を下げ。
自分は横に居る先生に倣い……あ、その他の皆さんのすぐ前で良いのね。と、両膝をついて軽く頭を下げ地面を向く。レイブンほどは下げない。だって私たちは備品。物だ。敬意を大領主様に払う資格が無い。とリーア先生も仰った。
後は視線だけで観察させて頂こう。黒子スタイル最高。これだけの面々の前で素知らぬ観客気取れるのは凄い。我ながら天啓が降りたとしか思えない良さだコレ。……でも両膝を板張りの上でつくと痛いな。後で膝当てを作って黒子服のポッケに常備しようかしら。
「カルマ・トークが臣。レイブンがマリオ・ウェリア閣下へ拝謁致します。
我がトークは先日戦いまして、その混乱より立ち直っておらず寡兵でしか参戦出来ぬ事、主君に変わってお詫び致します。せめての一助になればと兵百。文官十名ほどを連れてまいりました。
適いますれば兵糧の防衛、輸送などの後方にてケイへの忠義を示したく。どうか任をお与え頂けますよう盟主閣下にお願い申し上げます」
うむ。指揮官に直接会える機会あるか分からないから、言える時言っとこうという訳だなレイブン。良きと思います。書状で伝えていても人の前で宣言するのは大切、
「はっ。領地を代表して来て安全な任を望むなどよく言えるっちゃ。その程度の将兵しか出せないならグレース・トークも知れたもんやん」
はいすいませーん。君ら敵予定なんで。って今のメリア・スキト? だな。細く引き締まった筋肉を、肩だしルックで見せつけてる姉ちゃんがレイブンを馬鹿にした目で見てるもの。あ、横のサーニアに服引っ張られた。だよね。盟主の意見を伺う前に言うのは問題ありです。
あれ? なんかこいつに関して昔……。あぁ、ティトゥスだ。リーアのお父様が彼女を粗忽を人にしたような者だと言っていた。
はほん。ヤバイ美少女がふぁんたすてぃっくヤバイ美女に成長する年月が流れても成長してないんですかこの姉ちゃん。真面目そうなサーニア君に苦労させて恥を知らんのかね。
しかし何故グレース。煽るなら当主カルマでしょうに。
「レイブン殿。このイルヘルミ・ローエンが盟主に変わって尋ねたい。
わたくしはトークに期待をしているのだが、確かに今少し軍の一翼を任せられる程の兵力であれば。との思いはある。それでグレース殿。まぁカルマ殿でも良い。知恵を貸して援軍に成さんと我らへの文や指示を預かっているのでは。と考えていたのだが……如何かな?」
何それ。私がオウランさんにした並みの僭越行為じゃん。よそ様にそんな真似誰が……大宰相となって転げ落ちたカルマへの皮肉? しかし純粋に楽しそうで親し気な笑顔に見える。
そしてマリオとシウンは……イルヘルミを見てあきれ顔?
よし。この謎もレイブンの頑張りに期待しよう。振り向いて娘同然の若い相手に教えて欲しいと思ってそうな困惑が背中にも見えるけど我慢してください。
「は、その、ご質問の意味が良く分かりませぬ。グレース、我が主共に此処に居られる方々へ指示しようと考えるような自惚れ者では御座いません。某は忙殺され領地を離れられない二者に代わり、マリオ閣下のご指示に従うよう遣わされたのみで御座いますれば」
「ほ、ほぉ。グレース殿は忙しいか。では今何をし、何を考えていると思われるかな?」
頬が変な痙攣をしてる。それに張り付いた服のお陰で大きな胸の上下が目に見える。何かを堪えてる? 怒りでは無いと思うのだけど……。
「は? はっ。それは……領地の各所から集まる書き仕事に埋もれ、此処へ送った文官をもう数名減らせなかったか。と、考えていると思われます」
そうだね。見送りの言葉が『もし文官が余ったら直ぐ返すのよ!』だったも「ぁはっ! はははっ! あはははは! そ、そうか。かのグレース・トークは数名の文官に其処まで未練を覚えておられるか。こ、これは……傑作だ。ふっふっは、ははは! 駄目だ、耐えられん。この世に此処まで面白い話があったとは!」
な、何なの。何が大爆笑する事なの。文官足りない愚痴はグレースと出会って直ぐの頃から今まで領地の民でさえ知ってそうな話よ。それを笑われたら怒る所か泣いちゃうよきっと。
「おいローエン! お前趣味悪いっちゃ。こんな真面目な武骨者を笑い者にして。これだから中央の貴族は好かんちゃ! 典礼の前に当然の礼儀を忘れたっちゃか!」
おお、ついさっき唐突に馬鹿にしてたのに。レイブンの筋肉を見て同士と感じたのだろうか。だとしたら鋭い。ところで何その方言。西方の方言っちゃ?
「わ、分かっている。分かっているが……。ま、待て。どうしてもあと一つ聞きたくて我慢出来ぬ。皆も同じ思いであろう。まさか、とは思うのだが……ふぅううぅぅ。はぁぁああ。
さて、レイブン殿。今一つお尋ねしたい。このケイに賢き者は数多けれど、人中にこの人ありとするのなら誰と考える?」
又訳わからない質問が。庶民の酒場で最終的には殴り合いになるお話しが来た。人間は『世界最高は誰と思います?』だけで人類史の間ずっと喧嘩出来てしまうのに、こんな我のある人々の前で尋ねるなんて。
レイブン、此処も頑張りを期待するや切です。何とか丸く。ただし間違ってもリディア・バルカなんて言わないで。いの一番に思いついただろ?
「賢人の中で……? その、生来の武骨者にて民草に等しき見識しか御座いませぬが。
まず敵であるビビアナには苦しめられました。その筆頭軍師ホウデは敵ながら賢き者と。
それにローエン閣下の臣下カガエ・クイ殿。そちらにおわしますシウン殿。この三者の何方かが人中の人物でしょうが……某には賢きお方の差は分かりませぬ」
おお。上手くかわした。それに凄く無難。私もあちこちでその不毛な討論聞いた事があるけど、まずその三人の名があがる。トークだと近頃は我らのグレース様も中々。みたいな結論で皆幸せになるけど。
やはり戦場で勝つと評価は爆増だ。統治者にとって魔性の魅力ですな戦争は。
まぁ賢さなんて歴史書が書かれない限り分からないものだけど、今の所イルヘルミか、そのの配下カガエが一番だろう。何せリディアがそう言ってたもの。
「ほ、ほほ、ほぅ。では、ふひっ。うふん。失礼。では、グレース・トーク殿は入らぬのか? トークの全ての動きに関わっていると聞く。賢さを良く知っていよう」
お貴族様が『ふひっ』て。なんでそんな必死に堪えるほど笑いが出てるの。
力を入れ過ぎて全身の筋肉が服に浮かび上がり、やたら蠱惑的になってるし。見てる分には凄い物見れてる感あって嬉しいけど……訳わからん。何故マリオあたりは止めない? 皆さん置いてけぼりだろうに。
「は……? グレースが? あ、グレース様は……長く世話になっており軍師として十分な働きをしてくれる……賢い人物と感じております。
しかし大領を長く差配しておられ、数多の賢人から名を上げられるシウン殿や、カガエ・クイ殿と比べるのは……酷というものでは」
ですよね。そもそもグレースは二十半ば。シウンは四十カガエも三十ちょいだったはず。リディアという変態例外も存在するが、包括的な知能で年上に勝つのはまず無理。
おや? そのシウンが目を見開いて『あらまぁ』と驚いてる。マリオも。何を驚く事が、
「ひっ、ひっ、ひはっ、ははははは! あーははっはっはっは! 駄目だ、こ、これは。腹が、ねじ切れるッ! 我が臣下が人中で最上の賢人か! はははははっ! 確かに、ふふっ。カガエはこの身に勿体ない賢き者で、それに相応しい自信を……ッ! はぁ……持ってはいるが。流石に今、最上の称号は嫌がろうよ。あははははっ!
し、シウン殿。謹んで最上の賢人たる名誉をお譲りしよう。トークの直臣から印を頂いたのだ。万人が認めるはず。このイルヘルミ・ローエン。心よりッククククク。お喜び申し上げ奉りますぞ。わははははははっ!」
えぇえ。お貴族様が腹抱え机叩いて痙攣してる。……あれ? 見える範囲のお偉方も変な笑い顔だし、後ろの方でも必死で笑いを堪えてるような声が。気難しい感じがしたマリオも手で口を覆っているのは、笑いを堪えているのだろう。
置いてけぼりなのは私らだったのか。遅刻した所為で虐められてるんかいなこれ。
「ふっ……クッ……。すぅ―――はぁ。
イルヘルミ殿。いい加減笑うな。お前の品の無い体がより目障りになる。大体なんだその娼婦も着ないであろう卑賤の服は」
「お、おお。これは失礼……ふっ。ふぅ。いや、これも同盟軍を考えて、でしてな。
寄せ集めの軍ではどうしても纏まりに欠ける。此処は一つ身体を張って共通の話題を作ろうと、わたくし自らサナダ男爵という所から流れてきた服を元に図案を書き、職人に無理をさせたのです。
なのにお気に召さぬとは実に残念。注目を集める為、相手を驚かせ見える所と見えぬ所のまだらで不意を突き。と、女が男を求める戦装束として戦術にも共通する実に面白い服が出来たと自画自賛しておりましたのに。
まぁ、こちらのレイブン殿のお陰で麦一粒に等しき心づくしとなってしまいましたが。くふふふっ。仕方御座いませんでしょう? 比べる相手が悪い」
うわぁ。そう言えばそうなんだろうけど……。それって、
「言い訳をもっともらしく作りおって。お前は珍奇な物が好きなだけであろうが。
今のお前は副盟主なのだ。庶人の如き黒髪に産まれようと誇りあるケイの貴族なら当然の服装をせよ。せめてこの連合軍が続く限りはな」
誇りのあるお言葉ですが、庶人の如きはどうなの。イルヘルミも不快……は全く見えないね。笑顔まである。マリオの口ぶりからして言われ慣れてるにしても流石。
「御意のままに。盟主閣下」
「ケッ。何が誇りある貴族。我が祖が臣下にした事で起きた家が
こんな良い武辺者を笑ってかちゃ。誇りと言うなら詫びるのが先っちゃろうに」
ゲッ。ちょ、平地に乱を起こされると困るんですが。君らが適当に団結して適当に戦ってくれないと観戦出来ないのよ。あ。盟主様は聞き逃せないとのご様子。どうするのよ。指揮官を愚弄するなら深い考えが無いと。絶対無いでしょ貴方。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます