オウラン氏族に渡す物

 さっそく明日から文字の授業が始まる。


 生徒は基本成人前の子供となった。

 嬉しい。可愛い子もいっぱい居そうだし。

 美少年も一考の余地は……流石に無いな。

 勿論冗談です。

 完全なるよそ者が子供へ下心の気配在り! となれば比喩抜きで袋叩きにされる。いや、馬で引きずりの刑か。スリおろしダンが作成されてしまう。

 ほんの少しだけ源氏物語的な計画が心をよぎったが、直ぐに捨てましたとも。


 ただ大人は日々の仕事で忙しく時間を取れない。

 そして子供の方が文字の覚えは早かろうし、私としても文句は無い。

 我が大望は長期計画なのである。歴史の大河に沿いつつ、要所要所ですこーしだけ囁いて流れを変えるのだ。言ってしまえばそれが限界。

 将来を作る子供たちへの期待は大である。


 ちなみに草原に住む大体の部族にケイの言葉が通じると聞いた。

 流石400年続く大国、半端無いっす。

 一方でローマっぽいマウって国の書物を、バルカ家で見た時私には読めなかった。

 何故かケイのラングウェッジをネイティブにリードあんどスピーク出来ちゃう私だが、どうもケイのみのようだ。

 ケイだけでもサンキューゴッドだけど、ちょっと残念である。

 学ぼうかと思いはした。しかし辞書も無いのに無理。本当に残念だ。出来れば覚えたかった。


 まぁ、この文字が何故か読み書き出来ちゃうってのは、真面目に神が居て助けてくれたとしか思えない。

 とは言え、我こそは神に選ばれし者也なんてのはありえん。

 時空のねじれに引き込まれた私に、せめてもの援助をしてくれた当たりだろう。

 そう、私はバッツだったのだよ。多分。

 懐かしい。5は名作である。最後は切れちゃって、銭投げ→ものまねしちゃったのも思い出す。


 その銭を勘定する技術、算数を教えるのは苦労しそうだ。


 ケイの数字はアラビア数字ではなくゼロが無い。

 この超性能数字を教えて何処かに伝わってはヤバイ。分かる人には分かるはずだ。考えた奴が数学の鬼才だと。弟子志願が列を成してやってきても当然。

 脳内でどうしても使ってしまうゼロを、知らない前提で教えるのは脳に変な負担がかかってもう……。

 しかし算数は必要になる。私の苦労を無駄にせず頑張って頂きたいなぁ。


 さて、授業だ。

 大勢の子供たちが待っている。しかも初回だけは。と、オウランさんにも同席を願ってるものね。時間にきっちりと行こう。


---


「こんにちは皆さん。これから私がケイの文字を教えます。文字を覚えれば、ケイで物を買ったり売ったりするのに役立ちますし、オウラン様の手助けを出来るようになります。頑張って覚えて下さい」


 む、反応が微妙。

 というか、すっごく胡乱気な顔でこっちをみている。

 なんでやねん。

 今までスポーツ刈りだったのを、寒さともしもの場合に備えて伸ばし始めた髪が悪いのか?


「高耳……」

「高耳だ……。大丈夫かな? さらわれたりしない?」

「地味だけど……ううん、地味だからもっと怖いかもしれないよ」


 おうしっと。

 人種差別ですか。

 あれかね、これは一発『ぷるぷるぷるぅ! ファンネ……ボクわるい高耳じゃないよぅ』とか言うべきなのかね?

 十二割通じんな。

 異世界の時点で十割。ジェネレーションギャップで更に二割。尚数字には当方責任を持ちません。

 というかローティーンで顔面骨格に恵まれたお嬢さんにだけ許されたジョークだね。成人近い男がやったらもう……吐き気ものよ。


 ……助けてオウランさん。とチラ見。


「え、えーと。皆、聞きなさい。この人は高耳だが、だからこそ文字を教えられる。わたしもこの人から学ぶのだ。皆にも期待している。良いな? 真剣に学ぶように」


「で、でも、オウラン様、私怖いです……」


 ぬぅ、何という高きハードルよ。

 オウランさんの指導力不足とは思ってません。

 相手は子供だからね。

 疑っちゃダメダメ。


「皆さん、文字は明るい所でこんな風に目から離して見ないと目が悪くなる……と言っても分からないか。とにかく、絶対にそうして貰います。だから、基本的には外で勉強します。親御さんがきちんと私を見張ってますから安心してください」


「……そうなんですかオウラン様?」


「う、うむ。そうだ。安心して学ぶように」


 あーそこそこ。

 こっちを申し訳なさそうに見ない。

 Youはここの長。私は雇われ教師。

 謙虚は美徳だが、この子たちになんかダンって高耳は偉そうだったなんて思われちゃ困る。


 ふーむ……。どう頑張っても今は懐かしきアニメ化もしたケシカラン小学校漫画みたいな話にはなりそうもないね。

 早熟の女の子が売りだと思ったら、エンディングでは成長が小学校で止まっていたというご都ご……驚きの最後だったなぁ。

 ……うむ。これは危険な邪念だ。

 あんなのを希望していては親御さん達にマジで殺される。


 とにかく真面目に文字だけを教えよう。

 私が居なくても学べるように、筋道を作っておきたい。

 モンスターペアレンツが居ませんように……。


---


 言語以外にも衛生管理、出産関係の教育を予定している。

 聞いたところ環境が過酷なのもあるのか此処の赤子は死に過ぎだ。

  

 オウランさんに獣人の人口を聞いたが、草原族だけだと五十万ほどしかいないとか。

 獣人全体を合わせても六百万行くのかどうか。

 その内戦える者は三分の一程度。

 一方ケイの人口は現在五千万人は居ると思われる。

 戦える人間の比率は四分の一程度だとしても、そりゃ獣人側が押されてるのは当然だな。

 もうちょい人口を増やした方がよかろうて。


 正直男である私が女性の出産に物を言うのはハードルが高杉晋作。

 が、引かぬ、媚びぬ、省み……るのは大事だ。私はしょっちゅう間違うだろうし。

 何にしても話し合わないと始まらない。

 オウランさんにお願いして、産婆の皆さんとオウランさんに集まって貰った。


「本日は私が書物から手に入れた、出産の手助け方法について話すために集まって頂きました。……何でしょうか皆さん。もの言いたげですが」


 皆さん戸惑っていたら良い方で、不快そうな人も居る。

 ぬぬぅ、困ったね。もう一回助けてオウランさん。あ……オウランさんも凄い戸惑ってる。


「ダンさん、お若いですよね?」


「はい。二十歳になってませんね」


 肉体的には、だけど。


「子供は居ませんよね?」


「……はい」


 付き合ってる女性も居ませんわい。

 だって、布団の中では男の口が軽くなるって言うじゃん?

 気を付けるべきじゃん?

 近頃どうも平民はこの年齢で結婚するらしい。と気づいてちょっと肩身狭いです。


「それで出産について知っていると言われても……」


「信用出来ませんか」


「すみません……。出産は大仕事です。若い男性にやり方を変えろと言われても。産婆の皆だって己の仕事に誇りを持ってやってくれているんです」


 当然ですね。

 だが、何とかちょっとずつでも試して貰わんとなぁ。


「良く分かります。ですがこれは私の。では無くて、書物とお医者様から得た知識です。話した内容のうち、受け入れられる部分だけでもやってみてください。そして無事な赤子の数の変化を書いて残してくれれば、効果が分かると思います」


 何時聞いて調べたかは秘密。

 書名も秘密。胡散臭くて当然ですね。

 が、聞かれなかったのでセーフ。

 突っ込まれない内に話を開始しよう。


「さて、まず使う道具は事前に砂時計四回分は沸騰したお湯につけて下さい。使う布も同じようにした後、必ず日に当てて乾かすように。また生後一月経つまでは赤ん坊を触る前に手洗いをし、口に綺麗な布を巻いて……」


 少しでも取り入れてくれれば、やがて効果を実感できるようになるだろう。

 下手をすれば汚れてる刃物を使ってへその緒を切ってるみたいなんですもの。すっごい差がでるはずだ。

 うがい手洗いなどの衛生関係も一応教えておく。

 面倒そうだったし、余りやってくれないだろうが一応ね……。


 他の時間は乗馬の練習と、オウランさんに伝えたい内容を竹簡に書いて過ごす。

 マル秘文章なのにとんでもなく嵩張る物になってしまいそう。紙の偉大さが身に染みる。

 一応紙はあるのだが……お高い上に脆い。

 移動しまくる遊牧民だとあっという間にゴミクズになってしまう。


 確か地球では蔡倫さいりんさんって人が改良したと覚えてるのだが……。

 今手に入るのはこっちで改良された後の紙なのだろうか?

 何にしろ未だに木簡と竹簡が主流。残念であった。

 もっとも紙が実用的になってしまった所為で、回りまわって二十一世紀の人類が破滅しかけてる気もするからこのままの方が良いのかもしれない。


 ぬぅ、無駄な愚痴になってしまった。

 とにかく書く。トーク領に戻る前に書き終わらないといけないので、まんま締め切りに追われた小説家である。


 正直キッツイ。

 書き終わった後に修正箇所を見つけると発狂しそうになる。

 修正液も消しゴムも無いから木を削らないといけない。だが、計画には必須である。

 冬の間寸暇を惜しんで書き続けた。

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