オウランの悩み2

 年長者は頼れる者たちですが、良いように使われてる感じも。倍も歳の差がある以上当然とはいえ最前線に立たせる以外の上手い見極め方が欲しいです。


「まさかでしょう。ダンさんが断った話を進めはしません。我らとの関係を気にしすぎとは思いますが。……本当一体何を考えて我らに助力しているのでしょうね。

 先の戦い、トークの危機につけ込んで姉妹を服従させ自分を領主にさせる為わたしを呼ぶのだと思ったら。我らの益だけ確保して必死の名前消しですもの」


「少なくとも我らへの悪意はないと感じました。なら満足すべきです。それよりトークを動かすためとしても今の状態は……悪く自分には思えて心配しています。

 ジンへの最初の指示は様々なやり方での逃げ道作りだったそうですので、こちらが考えるより更に悪いのかもしれません」


「悪いに決まってます。あのアイラ殿をはじめ有能と聞く部下を持っているのに、命令を受ける気は無いとはっきり言ってるのですよ? わたしだってそんな部下は排除を考える。馬に立って乗り続けるのは頑張れば出来ますが、逆立ちして乗り続けられる者は居ません。そうまでして留まり、……我らへケイの城壁攻めの道具を教えるなんて反逆行為でしょう。……その道具の進捗は? それと先の戦いで街攻めを見た感じ使えそうでしたか?」


「ケイから逃げてきた者の中に壁作りをしていた者が居ましたので、より良い修練が出来るかと。街攻めの方はほんの少し遠間から矢を放っただけで終わってしまいましたから何とも。ただ今作れる、破城槌でしたか? では頼り無いように」


「言うまでも無いと思いますが、今後はもっと誰にも知られようがない場所で試してください。人も戦傷で戦えなくなった者の中でも口の堅い者を選んで。

 今日ケイを攻めたそうにしていた者たちが知ればなんて考えたくもない」


「御意。正直に申し上げればどれだけ修練をして良い道具を使おうと、守りが堅いと言われる街は攻めたくありませんな。先の戦いの兵にも居た街を攻めようと言う者も大抵は実際の壁を見て黙ったほどで。

 或いは同じように困難さを教えて我らを止めようとの考えもあるかと」


 それはありそうですね。城壁を攻める難しさを知れたのは本当に良かった。


「……あの冬、一番最初に言われたじゃないですか。

『私の話は賢く使えば役に立つ。と、期待してます。ただ此処で生きる皆さんにとって全く違う考え方かもしれません。他の方の理解を得るのは難しくお二人が影響されて孤立し、かえって不幸になるのを私は恐れています。まずは知識にこだわらず使えるとき使う感じにするよう気を付けてください』なんて。

 聞いた時は大げさに言うものだと。しかし今は……申し訳なさそうな顔を思い出します」


「―――今の立場が、お辛いですか?」


「単なる愚痴ですよ。ケイの戦乱に影響されたのか我らも争いが多くなりました。ダンさんの助力が無ければ生き残るのも難しかったでしょう。わたしは誰かの側女になれれば上等でしたし、今笑顔を浮かべている子らは下手をすれば奴隷です。

 まぁ……羊飼いを見て羨ましくなる事や、他の氏族の者へわたしより余程偉そうにしている者を見ると蹴倒したくなる事はありますが」


 ……近頃は昔より子供が近寄ってきてくれなくなってしまいましたし。大人が止めてしまう。ふうぅ……自分の子が居れば。


「ふっ。なんでしたか。それもダン殿が……ああ、『肩で風を斬って歩く』でしたか。まさしくそのような。確かにあれは自分も苛立ちを感じます。配下ともども蹴倒して歩いても?」


「頼みました。……後継者ですが。やはり育てましょう。キリにします。あの子はわたしを好いていてくれてるし、資質もある。

 口には出しません。わたしの近くに置いて学ばせるだけで。……まだ自分の子に継がせるのを諦めてませんから」


「仰るまでもなく。自分個人としてもオウラン様に子を抱いて頂きたいと考えております。諦められては残念でなりません。ではキリを呼び戻されますか?」


「いえ、出来るだけトークに居させます。

 上の人間がトークの官僚ですから全員の扱いが一緒なのだそうです。働いている者は同世代ですし、幼いころに戻ったかのように叱られつつ雑用をしているのだとか。

 文では随分楽しそうで。加えて上手く行けば同年代で気の合う男と恋仲になるかもしれません。後の面倒は幾らでも見れますから勘違いだろうと良い男を作ればいい。……何より一度こちらへ来てしまえば戻れないでしょう」


 恋。恋、かぁ……。あったような、無かったような。あれはやはりお遊びです。楽に生きてないと出来ません。……羨ましい。


「はい。今後は更に距離が遠くなりますから。……きっと、水か、それが駄目でも火にはオウラン様にも良い男がいますでしょう。自分が者どもの尻を馬のように叩いてさっさと北から東へ服属させていきますのでどうかお待ちを」


 だと良いです。……希望は、あると思いたい。


「火に随分威勢の良い長が居るそうですね。年上の女と聞きます。それの子には少し、期待を……でも師範。決して外で言わないで下さいね。『オウランは自分の夫を探しで他部族を攻めている』なんて言われたらわたし耐えられません」


 こんな話をされだしたら……もうジョルグに長の座を譲って隠居しちゃいましょうか。そうしたら子供を育てる苦労を簡単に味わえそう。

 うっ、単なる思い付きが、強い誘惑を……絶対纏まりが不安定になるのに。

 ジョルグも畏敬を受けていますが長となれば異論は出てくるでしょう。

 自分の欲望の為に皆を又相争う状態に戻すのは……嫌。子供たちがいっぱい死んでしまう。

 ああ、世の流れがわたしに厳しいです……。


「お言葉ですが我らの求め続けた強き長へそのような妄言。誰も許すはずが」


「あの、そこまで真面目に取られると悲しくなります」


 通じる訳がないと分かってて悪い冗談を言ってしまった。しかし他にこうも話せる人、居ませんし。うぅん。面倒な女は嫌いなのに自分が……。


「そ、そうですか。失礼を。……ならば更に力を持つのはどうでしょう? 夫とその氏族に余計な真似をさせないで済むなら求められる条件も大分緩くなる。オウラン様ならば可能です。今だって出来なくはないのですから」


「出来れば夫とは仲睦まじくありたいですけどねぇ。しかし、力で大体が可能になるのは確かに」


 色々悩んだ挙句に解決法は力。結局わたしも皆と変わらないのですね。

 ……今の世を見ればケイも変わりませんか。何の慰めにもなりませんけど。


「そうですとも。誰も逆らえなくなったあかつきにはオウラン様の後宮を作りましょう。お好みの男たちをかしずかせ、オウラン様の好みに合うまで学ばせるのです」


 おや、師範がこんな事を言うなんて。下手な慰めではありますが……、 

「複数の男を侍らすのが夢という訳ではありませんが……。好みを教えるは……いいかもしれませんね。作りますか。後宮を。ジョルグの分も用意しましょう」


「あ、自分は結構です。妻は一人の方が安定しそうですので」


「自分から言い出した冗談なんですから同意してくださいよ……」


 はぁ……まぁ、頑張っていきましょう。

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