反ビビアナ連合の後半。そして、
決戦後砦に籠られて
あ~、今日も砦に向かって煽る声が。決戦の後、紳士協定的に傷病者の取り込みと埋葬に一日。それから今日で……九日目か。元気ですねぇ。
戦い地力の負けが目に見えたのに、砦を攻めるのは無謀だが外へ出させてもう一戦しようと言うんだから根性凄い。
連合軍全体よりビビアナの兵数は少ない、のだよなぁ? なら互角の兵を引きつけて仕事は十二分に果たした。後はマリオ閣下頼り。で良かろうに。
ああ、アリバイ罵倒くらいはした方が良いという話か?
敵さんは砦にこもって傷病者や余計な物品を後方へ送ってると聞く。撤退準備だろうとも。何の邪魔もせずではマリオ閣下がご不快か。
或いは微負けで終わったのが不満でもう一回カマしたい。とおっしゃる理解できない方々の暴走を抑えるためかね。一番突撃したいのは我らの総指揮官テリカのように思えるが。だとしたら抑え役に回って大変ですな。末端は心よりご健康を……いや、死んでくれた方が良かったんだったあいつ。
―――む。我らの陣地から此処で一番と二番に偉い事となってる男女が馬にのって出てゆかれる。……楽しそうに笑顔で会話してやがる。コレなんだよねぇ。ブッコロしたいテリカだがこいつら二人を見ると申し訳なくなってしまうのよね。
軍が動かず相手は撤退準備に入って兵站を急襲される可能性も減った。それで出来た余裕を使い、前にも増してあちこちと鍛錬しーの酒飲みーのでニッコニコだもん。
なんか日本に居た頃、こういうノリがあった気がするんだが…………思い出した。
オフ会だ。同じ趣味を持つ顔を合わせた事が無かった奴らが集って騒ぐやつだ。
……ある意味まんまか。特殊なのは趣味の内容が人殺しであり、何時か笑顔で酒を飲んでる同士が殺しあうとの認識を持ってるって事かな。
意識的に大分遠くなった故郷の人々だと、こんな認識持ってたらヘタれて笑顔なんて無理だろうしねぇ。昔は世界でも有数の戦闘民族だったらしいのに……いや、真田の様子からして必要があれば出来るのだろうか? であれば大したものだけど……私あんま出来てる気がしないしあいつがスゲーだけかね。
やれやれ。余計な事を考えてないで傷病者の看病手伝いに行かないと。
昨日も何十人か止めを与えた。今日も与えるだろう。……血の染みだらけになったこの服うちの筋肉二人に洗わせてやろうかいな。
******
ふひぃ。今日も疲れた。いやはや。戦場の病院は何時も阿鼻叫喚。吐いてた昔に比べれば疲れたで済む今の自分は立派なもんですが。と、入口に影? 足音がほぼしなかったしこれは同じ大天幕の端でお休みのはずの、
「ダイ。今よろしいか」
「はいリーア様。お入りください。本日もお疲れさまでした。書き仕事を免除してくださり有難うございます」
でないと過労で倒れてしまってたかも。
「傷病者を丁重に扱うのは軍の一員として重要で御座いますれば。
それよりも数点お話が。ラスティル殿がサナダとの宴に行った夜、ここへ訪れたのは承知しております。何か御座いましたか。余計な詮索であればどうかお許しを」
そば仕えという事で一番住環境の良い同じ大天幕にお邪魔してますもんね。端と端でも分かるよな。しかしこの話をするなら周りには……誰もいないか。
「すみません相談し忘れてました。ラスティルさんが真田から引き抜きを受け、それをきっぱり断ったと報告を受けたんです。今後は一層私の配下として行動し彼らとの酒宴を控えようとまで言ってくれて。酒宴に関してはどうぞ気兼ねなく。と答えてあります。もう二度と無いかもしれませんから」
向こうへ行ってしまうかどうかはラスティルさんの場合、止めた方が少し悪くなる感じがあるもんなぁ。
「成る程。お信じになるのですか?」
「それを相談したくて。私はラスティルさんが此処を離れたり、見聞きした内容を流す可能性が相当に低くなったと考えましたが。リーア様はどうでしょう?」
「皆無、ではなく低いとは流石。
「ですね。リーアさんも同意見と知って安心できました」
食事の毒を疑い飢え死にする間抜けは嫌だし、こんなもんで安心すべきっしょ。……ただ背信の師というお言葉は流石に不吉と思うの。私も教えてほしいけど。
「して、その夜お抱きになりましたでしょうな?」
え、何その下いジョー……ク……って冗談の気配が、ない。この世の誰よりも真面目そうな顔を。
やだ私、十代のお嬢さんに男女関係聞かれてる。―――恥ずかしさと興奮を感じても良さそうなのに、怖えぇ。
「い、いいえ。感謝した後お送りしました」
あ、今溜息を我慢した。
……溜息? リーアが? なんだこの緊張は。
「誠に失礼ながら、直言をお許しいただけますか」
「い、何時でも、何処でも思いのままに教えて頂ければ有り難く思います」
すぅううう……はぁぁあ……。
「まず以前の繰り言に近き事、お詫び申し上げます。
何故お抱きになりませなんだ。二人のみの場で互いの心情を吐露し絶好の時を得られたはず。しかもここは戦場、情欲の相手に事欠く場。ラスティル殿を押し切る最上の好機ですぞ」
ひょ、ひょげえええぇ……。
とんでもねぇ説教されてる。
「し、しかし後で不快にさせては……」
「訳の分からない所で愚昧な庶人の如きお言葉を。ラスティル殿とて後継ぎは欲しいのです。相手が貴方であって何が悪いと? 関係を持ち、縁を深め、子を成して離れがたくさせるは常道ですぞ。イルヘルミを御覧くださいませ」
「え、常道とまで? じゃあ……マリオ閣下とシウンも?」
「今はともかく関係が無ければ驚愕の一言。スキトの姉弟もまずは。貴方様もご用心されていたように、外に出て他者を寝床へ招くは危険が御座いますので。身内で済めばこれにしくはない。母違いでも一応子は産まれぬようしていましょうが」
ぬなんと。姉と弟の深い関係をあっさり。チェーザレさんも必死に隠したのに。
「お言葉ごもっともと思います。ただ私としては現在の関係で十分なんです。下手に動いて関係を悪くするのが怖くて」
大体あんなある意味生真面目な人に私の子供を産ませては、大きな問題となるし要らぬ苦労をさせる。
ぬるいとも思う。けど流石になぁ……本当に今で十分なんだもん。
「一理無しとは申しませぬが。女を知らぬ故の気後れであれば仰って頂きたく」
フォゲッ!? おちょくる気配一切なしで童貞か聞いてくるとは……相変わらず出来過ぎておられる。
「そう言えば、そうなる気もしますが。でも気後れしての考えじゃないですよ」
こっちに来てからは本当に皆無だしこう答えるのが正しい、のだろうか?
「貴方様が女好きとは違った意味で女に慣れておられるのは存じております。
なのにかく申しますは先の一案。トーク姉妹との婚姻があるが故。夫か愛人となった時には二人の心を解きほぐし良縁と成して頂かなければなりません。
以前の下僕の件で失敗したのもあり出来ますれば好みをお教え願います。今は難しくとも、トークへ帰った後ならば御意に沿った者をご用意致しますので」
は、い? トーク姉妹との婚姻は分かるが良縁……難題で御座います。
しかし十歳の頃を知ってるお嬢さんから真剣に女の世話をされそうって……成長が、怖い。
「い、いいえ、結構です。私の為を考えて下さったのはとても嬉しいのですが、そういった……年頃の女性として不快であろう心遣いは遠慮したいなーなんて」
「男女間の問題で命どころか一族を殺した者は古今、庶人から英傑まで幾らでも居るとご存じでしょう。これ程の重大事で不快を感じるほど甘やかされて育っておりませぬ。これもご存じでは?」
はい、存じております。
「そして、貴方様はあの二人に好意をお持ちだ。ならばほだせなくもないと期待しております。如何に?」
タコに……。
あうう、真剣な話でふざけてたらお腰の短剣がきらめいてしまう。ま、ね。尻揉みたいなんて言ったから嫌われてたとしても、それなりに理性的なお二人だし。
今後嫌われる事せず親切にすれば仲良くなれる、と思いますよ。周りを見ててもう少し気を使ったり世話してあげれば良いのにと思う事柄もありますから。
でも私の方針だと男女の関係になるのは誰でも無駄な危険となるし、すんげぇ不義理だから流石に精神的負担となりそうで嫌なんですよね。
「出来なくは、ないと思います。しかし……お分かりと思いますが男女関係はほんっとおに理性を越えます。どうしても必要でなければ大切な相手とはそういう縁を作らないのが賢いと私は考えてまして。……何より名のある方の下世話な話は風より早く広まりますから」
「賢明であらせられます。
おお、お許し頂いたようで。有難うござ、
「但し」
のふぅっ!?
「必要となりて時あらば用意した女から手管を学んで頂きとう御座います」
「……必要が出来ましたら。鋭意専心努力致します。……あの、やはり貴族となりますと、そういうのを教える女性の当てがあるものですか?」
「ある程度思慮深い家ならば。下手な女や男に惑わされ大けがをするよりは宜しいでしょう。女の場合は処女である事が肝要な場合も多いため、言い寄られた時の対処を学び経験を積ませる程度が普通でありましょうが」
「な、成る程……大変ですね」
「子供の愚かさは筆舌に尽くしがたく。過去も先も考えぬばかりか周りを巻き込もうと暴れまわる者が貴族にも出ますので。大変であろうと重要な勉学です。
さて、明日の昼レイブンが個人的にテリカの宴へ呼ばれております。お付きとして同行願うとのよし」
え? あ、昼食をご一緒に、ね。脳が話の展開に遅れてしまった。
「そうなんですか。一緒に鍛錬をして気に入られたのかな」
「代理指揮官として出来る限り多くの者に会うようしてもいるのでしょう。して明日特別な用事は御座いますか?」
「いえ。承知しました」
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