ラスティルに尾行を確認してもらう
館を出たらまず大通りへ。
期待通り夕食を探す人であふれてる。何とかこの時間帯で終わって良かった。
更に出来るだけ人の多い道を選び、背中を曲げ、来た時と同じ歩き方でトーク家の要職にある者たちと、その世話人が住んでいる幾らか立派な屋敷へ。
ただし決して後ろを見ないように。私が尾行を探っても目立つだけ。
ふぃい。あるいは始末されるかと思ったけど一安心。門番さんが見えた。
はい、ではこの通行許可印でお願いします。ダイじゃもう入れないけどこれなら大丈夫でしょ? うし。ご許可有難うございます。
ちょびっと不審そうだ。すまんね不安にさせて。門番にダイを通したと認識されては不安なのよ。
さ、て。ここに居るのはラスティルさんとレイブン。まずはラスティルさんを頼りましょう。……良し、灯りが。
外に出ていればレイブンを使うしかなかったけど、余計な不安が出ちゃうもの。
はぁぁああ……。やっと背筋を伸ばせる。背中が痛くなっちゃった。
「ラスティル様。私です。入っても良いでしょうか?」
「む? ……おお。いいぞ」
「失礼します。外で食べようと思うのですが、ご一緒お願いできませんか?」
「珍しいな。話でもあるのか?」
ええ。貴方みたいな美人は人がチラチラ見ますから珍しくもなる。無駄に面倒増やしそうだし忌避してたに近いのだけど、背に腹は代えられません。
「勿論何時でもラスティル様と話したいですけどね。……実は、先日リーア様から今この都では間者が飛び跳ねてると教えられまして。情けない話なんですけど、それ以来偶に尾行されてる気がするんです。怖いので、護衛と確認をして頂けないかなーって……」
この言い訳、我ながら英明だ。時節に合い、情けなく、完全に本意が隠れてる。
ほれ見ぃ。ラスティルさんも苦笑してなさる。今日の私頭良いわ。昨日食べた魚でドコサ……何とか。頭に良い成分吸収したからかな?
「考えすぎであろうが力は尽くそう。ただし今日の勘定はそちら持ちでいいな?」
あいあい。巨額の出所不明金があります。金貨一枚は使っても良いでしょ。残りは……ジンさんかな。すまんリーア。筋である貴方に渡すくらいなら埋める。
「勿論。美味しい店を教えてください」
今度は通用口を通ってもらい横を付いていきましょう。
さっきまでとは歩き方を変えて。
む、人通りの少ない所を通るのか。尾行があれば見つけやすいように。だろう。
杞憂だと確信してるだろうに有難うです。
店に入り人が聞き耳を立てにくい席を選び、注文はお任せします。
「言われた通り昔の経験も踏まえて出来る限り気を張りはしたが、尾行は無かろう。今の歩きで拙者を欺くのならもう褒めて諦めるべきだ。……安心したか?」
ええ。これ以上は何も出来ないのでこの問題は忘れますよ。
「そうですか。無駄な仕事をさせてしまってすみませんでした」
「いいや。用心をするのに不満は感じぬさ。だが謝罪ではなく感謝が欲しいな」
はいぃ。綺麗な笑顔です。多分練習してないんだろうなコレ。怖。
「では有難うございます。あのー、昔の経験って」
「ああ~そのなんだ。何度か男女両方に尾行されてな。拙者と親しくなりたかった……らしい」
……不用意な質問でした。気が緩んだようです。困った表情をさせてしまい反省。
ただ思い出すのも嫌という感じではないのでセーフ……セウトか。
うん、美人から親切にされるとね。つい、ね。……若い時はホンマ危なかった。
「そ、そんな話よりも飲め! 少しは付き合ってくれるのだろう?」
「ええ。まずはお酌させて頂きます」
て、即飲みかい。マジのんべぇ。飲む前に食えと教えたのに。
……次回同じ真似したら説教しよう。死ぬよあんたその飲み方。
私はきちんと食べさせて頂きます。
「ふぅむ。少しお高いですが後味が良い。食材と前処理に手を抜いてませんね」
「お前、偶にやたら分かってる気配出すな」
ヌハハハ。お嬢さんの前に居る見た目若造はこの地上一番の美食家なんですよ多分。え、君もしかして和食食べた事無いのに美食家名乗ってるの? で誰だろうと完全論破できま、おや? ご様子が真面目に。―――うん。聞き耳立ててる人いない。なら良かろう。
「なぁ、先日ランドの煙を見て渡されたあの書簡だが、」
「駄目です。尋ねるなら帰った後ご本人にしてください。良いでしょう? ここで何を聞いても出来る事はありませんって」
悪かろうだった。
書かれていた『ビビアナが想定より早く帰るかも』はトークとの同盟が結ばれればの話。バレレば周りに居る味方全員が敵となり皆殺しにされてしまうちゅーねん。口に出すのも愚かとはこの事だ。
「お、お前なぁ。親しいとは言え領主の御前で書簡を開いた時の拙者の気持ちを考えてくれぬか。絶対顔色が変わっていたぞ。あちらも変わっていたし間違いない」
「え~。恥をかいたから詫びろと仰るんですか? それとも子供がダダをこねるように納得したいと? 成人した人の上に立つものがそーいうのどうかと思います~」
あ。何かシウンの口調を真似てしまった。やべやべ。
「そうは……言わぬとも。軍議の行方も書簡通りで有難く思った。ただ、ほら、分かるであろう? …………やはりその顔か。ふん。全く。忠義の者の話を一顧だにせんとはケチ助め」
私がケチなのまだ分かってないなら病院行った方が良いです。あ、いや、この国の知能関連のお医者はヤブなんてもんじゃないから駄目か。あ、注げって? へぇへぇ。でもこれ食べてからね。
「ぷはぁ。全く。飲み方まで細かい男め。……分かっているから酒毒がどうのとは言うな不味くなる。あ~そうだ。我々はビビアナと戦う訳だが勝てるのか? ……一般的な雑談だぞ。そんな目で見るな」
「一般的な雑談としてなら、頑張った挙句負けるが基本でしょう。ラスティル様のお考えにある色々が成功して尚、ビビアナの超有利は揺らがないんじゃありません?」
「まぁ、な。ではビビアナめがイルヘルミとマリオも打ち倒してケイを再統一するのが常識的考えか?」
「じゃ、ないんですか? ただ何時もお世話になってる方曰くビビアナはええカッコしいなので、血縁であるマリオを殺すとは思えないそうです。
そんな人であれば残る諸侯を平らげて全土統一までは頑張らなそうですけど」
何せ征服という行為は疲れる。
問題が最初から最後まで山ほど出て来て対処しなければならない。
何もかもを持っているビビアナが不快な奴を倒し、誇りと名誉を取り返して誰も表立って逆らわなくなったあと更にそんな面倒を抱えるだろか?
ビビアナに限らず普通は途中で止まる。
全く生活水準が変わらないのにブラック労働は誰だって嫌だ。
そんな真似をする奴は異常者。つまり英雄。滅多に居ない。
「とはいえ二人を下したなら最低でも天下の三分の二を支配する事になる。そうか、ビビアナの手で天下に安寧がもたらされてしまうのか……」
「ビビアナが生きてる間、今四十だから二十年だけかもしれませんけどね。
彼女の国造りか後継ぎかのどっちかが今一で内乱がはじまれば当然終わり。そうでなくても支配の及ばぬ地でイルヘルミみたいなのがビビアナの死を待ち続けるかもしれません」
真田を抜きにしての話ではこうなるだろうなぁ。
真田が生き延びて天下統一しようと思ったら、二十年くらいでこの国は真田の国になりそう。今でさえ周辺より千年進んだ文化を持った国が、更に千年文化を進めた異常国家となって。
けっ。趣を知らない考えです事。世界中をアメリカにしようとするアメリカ人か。あいつの場合難民の大量生産はしないだろうがある意味もっと嫌いですわ。
「ふん。二十年後に出番が来ても拙者の全盛期が過ぎつつあるではないか。ビビアナが天下を取る話と言い、詰まらん話だ」
あり? 珍しく吐き捨てるように仰る。さっきからちょっと感じてたけど、
「もしかして、ビビアナ嫌いなんですか?」
「忘れてるようだが拙者もカルマ殿と一緒にここへ来ている。あの時にはビビアナが残した奴らから面倒な嫌がらせを受けたり、嫌味を言われたりしてな。
その後も含めて奴の所為で死にかけたのだぞ。それに拙者も庶人の出みたいなものだ。家柄自慢の大貴族は好きになれん」
忘れてました御免なさい。
というか客将なのに逃げる気ほんまでなかったんすかこの人……。
客将っていうのは普通、滞在してる間は働くけど危険がせまったら逃げるからねーという宣言みたいなもんじゃないの?
国定忠治の話にでも出るおつもりなんでしょうか。
「なぁ、何とかならんか? せっかく乱世に産まれた以上、天下統一を成し遂げた武将の一人と言われたい。むざむざビビアナの、しかも崩れる天下に押しつぶされて死んでは余りに無念。そう思わんか? そう思うだろ? な?」
あ、私絡まれてる。若い美女にめっちゃ肩組まれてる。握力強くて微妙に痛いし、酒臭いけど胸部柔らかい。
珍しい経験なの加味してプラマイゼロって感じだなこりゃ。
「はぁ……えーと、つまりトークに天下統一させたいと? ケイの再興とかは良いんですか?」
「ケイはもう滅んでいるではないか。宗廟は燃やされ、王都がこのザマだ。第一全く諸侯を抑える力が無い。友の一人にケイの再興を強く志してる者がいるが、大体は非常に緩いその者の主君も全く乗り気で無い様子を見せる。
建前として再興を目指していると言えば皆従い易く穏当とは思うがな。
しかしカルマ殿だと? 何を馬鹿な。臣下が天下を取らせたいのは誰か決まっている。しかし絶対表に出ないと言うのでは代わりを選ぶしかあるまい」
今もカッパカッパ飲みながら、私を主君と言わない理性は褒めますが……。
トークがデカクなると私との関係が難しくなりますよ?
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