レイブンの褒美と反ビビアナア連合軍の戦略
「はっ。命に従ったのみである身には過分の褒め言葉と存じますが、世評を教えて頂き誇らしく。感謝申し上げます」
「そういう事なのでトークから来た方には皆々興味津々でして。最後に来て頂いた方が誰にとっても良いと考えたのですけど……。
必ずや誇らしげにお出でになると思いましたのにご存知無いご様子。更に世の全ての文官を合わせたよりも賢いと噂されるお方が、数人の文官を惜しんでおられると聞きつい笑ってしまいましたの。気を悪くなさらないでくださいましね。
あ、忘れておりました。席はあちらに。末席ですが」
え、空いてた諸侯の席ですか。……子爵家直系でも無いと自分のと思わんわい。
「はっ、こちらは……諸侯に準ずる……あ、いえ。過分の名誉、盟主へ感謝致します」
「良い。……ふっ。我らに団結をもたらした功もあるよってな。
ただレイブン殿がトーク有数の将であるのは知っている。汝れは本当に裏方として尽くしてくれようか?」
「それが主君の命にてご信頼頂きたく。某も経験が無い訳では御座いませぬし、文官の指示通り動き気を緩めぬくらいは。勿論、軍の生命線である兵糧を取り扱う以上、定期的に査察をお受け出来れば有難く」
リーア先生の指導通りの文言お疲れ様。横流しとかを疑われて皆殺しは勘弁だ。
「殊勝である。ならば客分たちの後方管理を頼もう。そうすればシウンたちの扱う数字が纏まって有難い」
「言うまでも無いとは思いますけど、文官の方々には数をこなすより丁寧にお願いするよう伝えてくださいね~。よく働いてくだされば褒美も差し上げますから」
微妙に不信を感じる。が、仕方なかろうな。仕事は丁寧確実にやらないと害でさえあるのに、どうしても急いでしまう人が多いのよね。無茶振りされる所為だったり色々だが。
「褒美……」
「あら? 何か望みでも?」
あ、こいつ。背中に『好機!』と書きやがった。なら願うのは……本当好き者。
「はっ。某。又、共に来ているラスティルなる者も戦場にて槍振るい何時死ぬか分からぬ者でありますれば、此処に集いし方々の目に映るのも今生最後の機会と心得ております。
それで、その、特に、強者と槍を合わせられれば、知る事も出来なかったはずの世を知れる、無二の機会と……望んで、おりまして。
お抱えの者の中に同じ意を持つ者がおりますれば、職務の間の鍛錬にでも馬上で話したく。どうかお許し頂けますよう、伏して、お願い申し上げ奉ります」
渾身! の感ある身を投げ出しての礼。ほんっとお好き。分かるけど。人生全部使ってる趣味だもんね。こんな機会もう無いし、あっても大体一回で終わっちゃうもんね。
そしてラスティルさんの分まで頼むとは偉いね。……トークは脳筋の集いだわ。
「は、はは。ははは! はははははっ! おいレイブン。まさか自分がこの世で最も強いち思うてなかろうな?」
「この身は田舎者なれば、巡った土地さえケイの十分の一もあらず。我が願い聞き届けられれば、百の負けを知れると期待しております」
「なっは! こいつばり良いっちゃ! よか。何時でもスキトの鍛錬にかたしちゃーけん待っとうぞ。馬の乗り方を教えちゃる」
横顔というか斜め顔で分かる満面の笑みで頭下げ直しおる。……仲間出来て良かったね。結婚したら?
「まさしく、辺境の武人だな。良かろう。望む者があれば好きに楽しむが良い。ただし、強き敵が傍に居る事を忘れるでないぞ。鍛錬で戦いに害あれば罰せざるを得ぬ。それを守れるなら……テリカ・ニイテとも遊ぶと良い。テリカ。お前も好きであろう?」
む、テリカか。リーア先生、少しずれて欲しい。見ずら、……こわ。威嚇なの笑顔なの。
「御意。感謝申し上げます」
静かにヤル気満々というお声。こちらもお好きなんですね。
腕を始めあちこちに多様な傷が見える。前線で戦ってるのか。二十程度のお嬢さんが歴戦の風格をお持ちとは。……当主だよなこの人。家臣の皆さん顔真っ青だろうに。
この娘の父なら、常に戦場で指揮官突撃したというフォウティ・ニイテ伝説も本当だったのかも分からん。性格が髪に出ちゃった所為で真っ赤なのかいな。あれ……目が金色? 髪と目が色彩豊かなこの国でも滅多に見ないぞ。あ、これもあって親父さんは虎と呼ばれたのか?
と、レイブンが席へ。やれやれ。誰も見てないと分かってても中心で立つのは疲れた。
此処からは更に気楽に見物させて頂きましょう。
「さ、て。団結が益々深まりそうなのは良いのですけど、いい加減軍議を始めましょう。
皆さんの名乗りも殆ど必要ありませんね。最後に静かにお待ちくださったジョイ・サポナ辺境伯閣下。お立ちになりご尊顔を皆にお見せくださいませ」
「アタイがジョイ・サポナだ。領地で既にビビアナと戦っている。しかし膠着状態でね。ならばこちらでビビアナの首を狙おうかと来た訳さ。
と言っても情けない事に手違いがあって、兵糧に加えて兵まで到着できず手元に居るのは数百の馬の足りない騎兵だけ。
故にマリオ・ウェリア閣下。恥を承知でジョイ・サポナが願います。この同盟軍は一族の命運に大きく関与するものなれば、せめて一軍の将として参戦したい。どうかご配慮を」
引き締まった元美人……と言ったら殺されるな。一方で声は異論無く良い。素晴らしく通っている。これだけで指導者として有能な部類になれそう。戦場は当然多人数へ指示を聞かせるの大変だもの。
オウランさんたちに指導した発声練習、今でもやってるのかなぁ。私の立場でさえやった方が良いくらいなのに首傾げてたのを思い出す。……帰ったら文を書こう。
しかしこの膝をついての願いは……パフォーマンス兼礼儀、ではなかろうか? 裏できちんと話あってあるけど、せめて周囲へマリオの寛大さを示す儀式くらいはしよう的な。
うん、マリオとシウンに驚きは見えない。ですよね。段取りと周知は大事。
「お立ちあれサポナ殿。以前からビビアナと戦う貴卿へ余は敬意を抱いていた。今回このように遠方からおこし頂き馬を並べて戦える事を心から喜んでもいる。
当然の配慮をさせて頂こう。ただ一つ謝らなければならぬ。サポナ殿と言えば騎兵なのに、十分な馬をお渡しするのが難しそうなのだ。ローエン殿と共に手を尽くしてはいる。……いや、何処の誰が急ぎ過ぎて馬を潰した所為かは言わぬが」
「な、なんかちゃ? なんでこっち見るかちゃ!」
「だ! いかんちゃ! はははは……すみませんマリオ閣下。馬と共に生きるスキトとして恥じます」
「いや、こちらも日程を急ぎ過ぎた。しかし掛かる費用を考えるとな。皆も少しでいい。都合付きそうならばシウンへ伝えるよう願おう。此処に居る誰もがサポナ殿には特に敬意を抱いていると信じている」
あ、レイブンを見た。お前の所は草原族と近いし馬手に入るだろ。とでも?
或いは、もう一歩踏み込んで領内に遊牧民が入り込んでるのを知ってるから?
さてリーアはどう判断するだろう。河を渡って馬を運ぶのは大変だけど、ビビアナが敵ならサポナへの援助を頑張らないのは不自然。……ん~、カルマへ文を送って、判断待ちかな?
「最後に残りの諸侯の話をしておく。東はトウケイが病で死んだ。よって混乱しており軍を出せる状態では無い。西の山奥におわす貴き血筋のお方は諸君の予想通りだ。豪族を好きにさせ己は絵を描くのに忙しくしておられよう。南も同じようなものだな。天下の争乱未だ遠くと言った風情よ。つまり。この戦いに勝てば我らの将来は開けておる。諸君の奮起は当然と考えている。
では次に我々の戦略を話す。ローエン殿」
西の山奥手前に居る私たちが兵糧を頼んだオラリオ・ケイについては触れず、か。
リーアに聞いた大義名分があろうと戦えないほど敵対してる。というのは正しそうだ。そしてそいつらをぶっ潰して南部を切り取り次第だぞ! かね? 気宇壮大ですねぇ。私としても一向に構いませんよ。誰が支配しても結果は変わらないようになるだろう。
「はっ。では皆様この図をご覧あれ。皆様の到着前に一当たりした所ビビアナの戦意は十分と言えましょう。しかるに我らの方針ですが、ご存知の通り王都への道二つは両方途中にあい路があり大軍は不適当。そこで二軍に分け両方を攻め上り……」
ふんふん。総兵力では流石にビビアナの方が少ない。だから片方マリオ、片方はテリカとイルヘルミの二軍で邪魔の無い方が突破するのね。でもここら辺にそんな大兵力居たっけ……既にもう片方の進軍ルートに集めてるのか。そしてつるべの動き。何かで聞いた……あ、サッカーじゃん。懐かしい。って話に置いてかれちゃう。
えーと、ビビアナが途中の砦に兵を入れれば、包囲して放置し進軍。しかし相手も分かっているからどちらかで戦いとなる。諸君の勇猛さに期待するや切である。とね。
相手の抱えた飛び地の不利を全力で押し付けですか。
しかしこの状態でさっさと全軍撤退せず一戦はやる気十分らしいってビビアナは愚かな気が……あ、いや、檄文出てまだ一月くらいだ。色んな書物と大量の文官を丁寧に領地へ逃がそうとすれば、これくらいかかるんですかね。
何にしても一戦見られそうなのは有難い。よく観察させて頂きましょう。
と、何か外が騒がしいな。お、衛兵がマリオの所へ。
「男爵如きが? ……呼んだのかシウン」
「いいえ~配下でもない男爵に声なんて掛けませんよ。入れても時間を取られるだと思います。後で小官が適当に対応致しましょう」
「なら任せた。と、言う事だ。そこらに留めておけ。五人も居るなら慎重にせよ。従わぬようなら最悪殺しても構わん。書簡も送らず勝手に来て遅参した挙句軍議に参加させろとは碌な奴では無い」
「御意」「あ、待ってくれマリオ殿。その男爵はサナダじゃないかい? だとしたらアタイが連携して兵の代わりにしようと考えていた奴らなんだ。無礼を許して入れてやって欲しい」
今、サポナがサナダと言った? 私の敵の? ……本人が来やがったのか!?
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