グレース、テリカ一党を確認す1
リディア、グローサが再びきて面会の日時調整終了との連絡有難う。念のため人に見られないよう一党が街に入るのは深夜、ね。慎重で好ましい。
何にしても対応はグレースに全部お任……せ? ほぅ。確認の面通しをする。それは混ぜて頂きましょう。
******
文官服良し。下働きの人がする覆面付き頭巾良し。私を目立たせないため、荷物持ちとして付き添わせる同じ格好の方々も良し。自己紹介は無し。私は人が足りなくて突然呼ばれたどっかの誰か。そういう事でお願いします皆さま。
あら、グレースが振り向いた。しかも面倒の文句が目に。いけませんねぇ。大事な時にどうでもいい人を見るべきじゃありません。
して……これがテリカ宿泊のお屋敷か。レスターで一等豪華なお客様用じゃん。
確か一応作ったけどここ何年も使う人間が居なくて、劣化しない程度の管理のみだったものじゃん。掃除大変だったろうなぁ。下働きの皆さん今頃筋肉痛だろうて。と、さっさ進む超上司グレースに遅れては大変。
中に入り、扉が閉まる音を聞きつつ中庭へ。うん。テリカを中心に……十名。予定通りの人数。
その全員がグレースが立ち止まるのに合わせて膝をつき
対してグレースは鷹揚という言葉の人になってる。
これが立場の差、だな。数か月前なら大体互角だったろう。マリオ配下最強の将という肩書は、辺境の自称に近い侯爵であるカルマに迫る物と言えるはず。
それがこうなる。乱世は恐ろしい。
「流浪の身、テリカ・ニイテで御座います。世に名高き大軍師、グレース・トーク様に拝謁致します」
ぐふぅっ! ……ふ、ふぅう。やべぇやべぇ。流石テリカ攻撃力高い。一瞬グレースの頭が揺れたように見えた所為でなおさら腹筋が厳しかった。
「立たれよニイテ殿。配下の方々も遠慮なさらず。あたしはカルマ様の臣下としてだけでなく、個人としても貴方に会えて喜んでいるのです。ニイテ殿は若くして大軍を指揮なされ、あのビビアナと戦われた真に名将の器をお持ちの方。
カルマ様がお認めになり同じ旗を仰げるようになれば、我等はより一層の大業を成し遂げられる。そう期待してるの」
「お言葉有り難く。ニイテ家一同、トーク閣下を助け、必ずやご恩に報いる所存です」
ふんむ。このまま順当に行けば伝説に残る一幕を見た気がする。
後世の歴史家がカルマの成功か滅びの一因として、今の二人を考察しそう。
「これで儀礼は十分よニイテ殿。共にカルマ様の臣下となった時、常にこんな態度を要求する気はないもの。配下の者たちも礼をくずして結構。知っての通り此処は辺境。礼儀に五月蠅い奴は居ない」
「はっ。承知致しました。配慮に感謝するわグレース殿」
「ええ。……所で、貴方たち寒くないのかしら?」
……はい。凄く、思ってましたソレ。
近頃の寒さでその恰好は……。女性の薄着を純粋に喜ぶオッサンでも、ちょっとその恰好は止めたら? と思うくらい場違いだ。
さっきから臣下一同震えてるのが目に見える。そんな格好でほっつき歩いてるのはアイラくらい。
やはり筋肉か? 筋肉ダルマのガーレを力で押さえ込める、超筋肉が熱量を保持してるのか?
しかし目の前のテリカ一党だって中々の筋肉が居る。それでもグレースの一言で意地が折れたようなのに。
「……寒いわ。凄く。寒いと聞いてはいた。でもこんなに寒いなんて。
アタシが治めてた土地なら、もうしばらくはこの格好でも大丈夫なの。逃げるのに必死でこれ以外の服なんて持ち出せなかったし……途中で農民の服は手に入れたけど、その、失礼だから」
つ、ツレー。そりゃ逃げる時に服なんて持ち出せないね。
「その殊勝さは有り難く思う。でも風邪をひかれては困るし、
お前たち背中の物を。ニイテ殿、これは貴方たちの服よ。明日の謁見もこの服で結構。カルマ様が失礼と受け取らないよう話しておくから。
今日中に服職人が来る手筈になってる。出来上がるまでは丈の合ってない服で辛抱してちょうだい。……そちらは普段着を作らせると良いと思う。万が一出てもらう時にも使えるでしょう」
おお……気遣いの出来る女が居る。
「グレース・トーク様、真に我等を気遣って下さり心より感謝申し上げます。皆も感謝なさい」
『グレース・トーク様のご厚情、我等感涙にむせびます』
「本当に、有り難いわ。この家にあった十分な掛け布や火鉢も。お陰で久しぶりに寒さに震えず寝られた」
同意見だテリカ。本当有難い。
特に服を作るというのはいい。グレースが良い奴で嬉しいよ。
「さて、それじゃあ一人一人確認させて貰おうかしら」
自己紹介か。前に出、名と簡単に得意な仕事。皆自負に満ちてて有能そう。
ネイカン以外、リディアとグレースが名前を知ってる程だし当然だぁね。……あれ? テリカが前に。でもまだ子供が。
「以上で全員。明日はこの全員でカルマ様と謁見させて頂く。という事で良いのかしら?」
わ。ちょっとグレース私言いましたからね。全員で謁見だと。
忘れてたらもう一回此処に戻る羽目になるよ?
「いいえ。端に居るのがネイカンの下僕の子でしょう? 紹介と、謁見にも同席させなさい」
「は? ははっ。―――下僕の紹介など不要と考えたのです。侯爵に謁見など失礼の極みだとも。考え違いのお詫びを申し上げます」
「……分かるわ。まぁカルマ様は下僕だからと無下に扱う方ではない。その子にとっても自分の主になるかもしれない方を見るのは、悪い事ではないでしょう」
「はい。御意のままに。フィン。前に出て名乗りなさい」
「はいテリカ様。フィンです。その、ネイカン様の下僕です」
十歳、かな。髪を丸刈りにし、火の世話でもしていたのか炭で汚れている。どう見ても低い身分。しかし、グローサはこの子を隠そうとしていた気がした。
手入れに時間が掛かる髪は富貴の象徴。見栄っぱりな人は全力で伸ばす。耽美なるマリオ閣下とか。
逆に象徴なんぞどうでもいいと割り切ってる人は適当だな。リディアみたいに。
それでも丸刈は奴隷宣言に近い。
刑罰で背中の皮が剥けるまで棒で叩かれるのと、丸刈りなら棒叩きを選ぶってくらい嫌がられてた。
なのにこの少年、炭で汚れていて分かりにくいがテリカ、ビイナと顔面骨格が似てる気がする。それに態度も完全な下僕にしては姿勢が良いというか……。
ん? テリカが少年の方へ。あれ。表情が険し……頬を叩いた!?
鼻血を出して呆然とした表情。あ、グレースも『なんで』って顔だ。
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