トークの対応会議・裏
「で、本題は? やはり何かあるのかしら」
あら読まれてましたか。ではリディアよろしく。
「話の前に。皆様には連合軍より我らが帰るまで、口を滑らさぬよう酒に酔わないとお誓い頂きたく」
え? ……あ、必要だこれ。話が上手く行っても向こうにいる間に漏れたら私ら死ぬ。
「あたしと姉さんは元から滅多に酔うような飲み方をしないわ。フィオも……大丈夫よね」
「だ、大丈夫っスよ。小官が酔ったのは前の祝勝の宴くらいで。頭痛が酷かったし二度と酔わないつもりっス」
信用ならない物を感じる。でも流石に……。
「何かあれば最初にレイブン殿が死ぬとはお覚悟を。
されば提案を一つ。参戦は良案。ただし不戦に徹しビビアナの怒りを買わぬよう注意すべきと存じ上げます。そしてビビアナが負けた際には船を出し撤退を助け、トークの岸にて食事を施しますように。
ビビアナは非常に感情の強い性格。窮地の恩であれば暫くは大いに感じ入りましょう。その間に使者を送り同盟を組むのです。後々配下となる覚悟は必要ですが、最初は対等として組むが」「待て。ビビアナを助ける? あり得ぬ。奴はトークを完全に滅ぼそうとした。―――もし、ワシが……恨みを捨てても。奴はした事を忘れん。当然我らを疑い敵と判断する。
撤退を助けて恩を売り、それで同盟を組めというのは理屈倒れだ。まず成功せぬし、したように見えても奴の中では敵。味方と言いつつすり潰されると分かりきっている」
二人とついでにフィオも拳を握り、頬を紅潮させるも叫ばず。それぞれの仕方で怒りを抑えようと努力してくれるか。
共に謀るに足る方々で結構。少しばかりある疑惑の眼差しは……なんでだ?
「……念のため、なのだけど。バルカ家とウェリア家は王都暮らしで付き合いがあったりするのかしら。つまり―――。トークを手土産に、ウェリア家の臣下として地位を得る手も」
お……おおぉそういう疑いね。そういえば友達と言えなくも無い的な事を。縁があるか知らないみたいなのに、良く思いついたなぁ。
あるか? ……あるかも。自信は欠片も無いがリディアは安定志向のように見える。ならばビビアナの臣下は今一番。でも……うぅむ「タン、タン」 ヒッ!? 手を、軽く叩いておられる。
お、怒てナイネ? 拍手をする文化は、無いと思うのだけど……ビビり過ぎか、な。
「グレース殿の考えの深さに感銘を受けております。実際
トークは曲がりなりにも侯爵と言っていい領地を抱えております。これを売り渡すのは功として大きすぎ、今臣下である方々の髪を剃り上げるに等しき行い。王都ランドでお二人が味わった苦渋と、どういった方々が難となったかを思い起こし頂きたく。
加えてトークの命運には関係無き事なれど更なる問題が一つ。ビビアナは感情が強く何事も機嫌次第。そして己を好み過ぎております。この為、彼女は己の子を大事にしており……ふむ。お二方は子供についてもご存知ありませなんだか」
「……既に浅い考えで疑ったのを後悔してるから許してくれないかしら。ええ知らなかったわ。そんなに……出来が悪いの? ウェリア家なら良い教師を羊みたいに集めたでしょうに」
「親の目を気にさせられる教師は書を読むのみで御座いますれば。ビビアナ自身は数多の欠点はあれど内政において天下一であり、総合的に見て十分。されど子は愚鈍なのです。
四人おりますが成人した三人はビビアナの欠点を増幅しただけの人物。幼い末子が希望でビビアナの情愛を一身に受けておりますが、逆にウェリア家を割る種になりかねず。
「しょ、小職は、疑って……無くも無かったっスけど。でももう疑わないっス。ただ其処のダンには後継者の出来る見込みさえ無いのは良いんスか」
うわ。言いおる。貴族でも無し自分の生活しか背負ってないんだから子供居なくてもいいでしょ!
「止めよフィオ話が終わらぬ。ダンが女に手を出せぬ臆病者だろうとお前が手を出されたくないのなら都合が良かろう」
何それどーいう当てつけよ。素晴らしいお尻掴ませてくださったのは感謝しますが、あれでお呼ばれしてたら首に斧乗っけたままも同然の「それよりビビアナとの同盟だ。やはりあり得ん。しかも後継者に問題があるともなれば近寄らないのが鉄則ぞ」
「お分かりでしょうが問題は直近の事にて。先の論議でカルマ殿も仰っていたようにビビアナは己が命の保全を最優先とし逃げおおせるはず。
河を隔てて向き合うイルヘルミが力を尽くすとしても決戦までの時間稼ぎ程度。なればトークは。
地続きの後背にありお言葉通りビビアナも恨みを買ったと認識している此処は、ジョイ・サポナの次に攻め滅ぼされる定めと考えます。如何に対処を?」
「イルヘルミと同盟を組むわ。トークの次はあの者よ。あたし達が攻められるままにはしておかない。連携し、ビビアナを滅ぼすまで続く強力な同盟となるでしょう」
「イルヘルミは河の向こうですぞ。そしてトークとイルヘルミの水軍を合わせてもビビアナには敵わず。精々野盗程度の働きしか期待してはなりますまい。
勝てたとしても苦しい。イルヘルミは六以上の損害を押し付けようと致します。地続きのトークは不利でありビビアナを滅ぼすともすぐさま有利な態勢のあの者と戦う羽目に。
一家の存続を願えばイルヘルミよりもビビアナは明白と考えます」
でっかい川を挟んじゃうと兵の動きが大変なんだよな。船に乗り込んで下ろしてと攻撃撤退共に大きな隙が出来てしまう。水軍が圧倒的で安全を確保出来るなら良いんだけどねぇ。
「―――何故、ビビアナが同盟を結ぶと言える? 一度戦った相手だ。攻め滅ぼすよりしくはない。それこそ明白な話であろう」
「ビビアナの野望が河のこちら四州を支配するだけで終わりならばお言葉通りに。
しかしあの者はケイを再興するか、言葉にするも不敬なれど新たな帝王となるが望み。
ケイ中の土地を攻め滅ぼす気概は無きものと推察致しますが、何にせよ多くの者を服従させなくばなりません。
であればビビアナが名を馳せて以来最大の危機を助け、辞を低くして同盟を願い出た相手を攻め滅ぼせませぬ。
何より……お三方もビビアナは御覧になられましたな? 忘恩の輩。狡猾というにも度の過ぎる信の置けぬ者。こう呼ばれるのを許せる。いや、覚悟出来る人物でありましょうか」
三人が項垂れて首を。成程。ええ恰好しいなお方な訳だ。公明正大な評判を活用する手もあるとは思うけど、縛られちゃうのはな。
あ、でも君子に横のお嬢さんの如く豹変されては、下の人間の合わせる苦労が凄い事に。……どちらでも面倒は起こるか。領主はやってられませんね。
「将たちに道化を演じさせてしまうわね。レイブンを選んだのは良い道化と見込んだの?」
酷いお言葉と目つき。そんな訳ないじゃん。だって、
「ええぇ。諸侯に疑念を抱かせないという意味では将の皆さん同じようなものでしょう。
それより確認を一つ。結論は戦いの結果が出てからです。
最上はビビアナが勝ち、王都に居座る事。でしょうかねリディアさん」
「はい。さすればトークは安全に力を蓄え時世を見てビビアナの本領を切り取るも可能となりましょう。皆様が怨恨を晴らせる目さえある。
幸いトークは先の戦いのお陰で鼠をほぼ駆除しております。他所の諸侯は商人伝いに草原族が入り込んでいる程度しか把握できておりますまい。加えて今はトークより目の前のビビアナを見なくてはなりませぬ。ゆっくりと物見をして決定なされませ。
ではとりあえずの方針を承りたく。如何に」
「ビビアナと、同盟しよう。……ダンが以前言った『服従する覚悟』とはこれの事か。確かに、仕方が無いのだろうな」
ビビアナは一応含んでいる程度ですがね。何にせよ受け入れてくれて有難う。真田の事があるので拒否されたら大変困る所だった。
「しかし確認したい。奴が死ぬのならば今戦うのは良案か?」
うわ。本当に、出来れば叩き潰したいとお顔に。
未練がましいとは言うまい。先の戦いで草原族に退路を断たれて負けてたら族滅。実際ビビアナと戦うよりはマシな手のはずだが、割り切れないのは良く分かる。
私に当てはめれば真田との同盟か? ―――あ、これ駄目。想像しただけで健康に悪い。
「これもお分かりと存じますが、ビビアナが死ねば九分九厘子供四人が争い不安定な領地となりましょう。或いは内乱同然のありさまに。当然周辺の諸侯の狩場となる。トークも領地を得るべく動くしか御座いません。
しかし……ビビアナ一人なら逃げおおせられる。と、見えた時点でお諦めになるべきと考えます。
ランドに居る三万を越える兵に名のある者全てが替わりの効く存在。全滅し弱体化しようとトーク、イルヘルミ、サポナの三者を順番に平らげる程度は容易いとご認識頂きたく」
「分かっている。いや、分かっているつもりだ。……我らが首尾よくビビアナを助けられたならばリディア殿が使者になってくださる。そう、考えて良いのだろうか」
カルマが敗北の将みたいに……。すまんねカルマ。
む。グレースが幾らか怒っている? 己の不甲斐なさ。あたりが理由だと思うけど。これで私たちを恨む人ではないはず。
「愚考致しますところ
これを単なる事実の如く言うの本当流石。お三方の方は顔が引き攣ってるのに。
一番引き攣ってるのはフィオか。アイラを自分たちにつけようとは考えてただろうしな。
「―――言われるまでも無い。人選は……ビビアナが戦うかさえ定かでないのだ。その少しの差とやらを含めじっくりと考えさせてもらおう。何にしても諸侯が味方と感じるようレイブンへの助力を頼む。
所でラスティルへの手当は我らには出来ぬが。良いのか? このような策、あの者は好まぬであろう。ジョイ・サポナの事もある」
やはり言われてしまうほど分かりきった問題か。と、グレース?
「あ、それなら一つ思いついたのだけど、もしジョイの者が来たなら少しだけ動きを流してはどうかしら。例えばトークが退路を潰さない限りビビアナの生存が確定となった時点で『ビビアナの首を諦めて領地に戻れ』と伝えさせるとか。
ラスティルも少しは気が晴れるでしょうし、ジョイ・サポナに早く情報と兵が戻ってビビアナと上手く戦ってくれればあたしたちの価値も増すと思うの」
「……成程? しかしビビアナの生存が確定した時点でジョイ家の存続は絶望的ですのに、それで相手は喜ぶのでしょうか?」
私ならその時点で故郷に帰らず逃げちゃう。
「は? 誰だって喜ぶわよ。家族と身の振り方を考える時間が持てるし、死ぬとしても故郷の今を見ながら死にたいじゃない」
あ、家族。確かに当然だ。咄嗟でもこの程度分からないとは私頭悪いな。しかし故郷の今。……普通は気になるね。有難うグレースお守りよりは効果がありそう。
「ジョイの者の口が堅いなら良き案であろうな。では凡そ決まったか。
なら最後に老婆心だが、二人とも他所の者に陣地で襲われぬよう気を付けよ。リディア殿は家臣を連れまわせば良いがダン、お前だ。あの頭巾を出来る限り被っていた方が良かろう」
え、私? 見た目美少女貴族なリディアは襲われ……る訳ねーよ。目を見た瞬間触ったら不味いと分か……いや、酔ってたり脳腐れだったら? 忠告も一理あるか。しかし地味男子の私もですか。
「……自覚が薄いようだが、なんだお前のその肌は。成人前の子供でもあるまいに。加えて上の者の家に入ろうと美しさに血道を上げる商家の子供でも羨む白さ。化粧もせずに異常だ。十分以上に人目を引き、男女の区別なく襲われかねんぞ」
あぁ、そういう。骨格で目立たずともお肌で目立っちゃいましたか。グレースも頷いてるんでやんの。リディアは観察しないで欲しいな。肌剥がされそうな気がしてくるから。
しかし異常は困るね。……適当に煙にまいとこ。
「ぬふふ。これが……陽の光から逃げ、苦労から逃げ、妻を持つ事からも逃げた男の肌です。加えて自己流で肌が綺麗であるよう努力を。祖父にそう遺言されまして」
嘘ぴょん。単に老化との戦いを頑張ってるだけです。歴史の結果を見る為には長生きしないといけない。ついでに美肌も気を付けてはいたが襲われる程とは。
「ラスティルじゃあるまいし今更貴方に誇りなんて期待しないけど、流石によくそんな恥知らずな言葉を並べられるわね……」
ふん。これを恥と思う心はとっくに捨てたのだ。私が生きていた時代はそうでないと生きられなかったのさ。
「お任せください。何にしてもカルマさん、ご忠告有難うございます」
「うむ。―――その、肌の秘訣だが。教えてくれないだろうか。銀で払っても良い」
「お望みならそのように。銀は結構です。……他の方々も欲しいみたいなので、書いて渡しますからカルマさんの方で写してくださいね」
この程度は構わんだろう。彼女たちが健康になる事で私に不利益は無い。
さ、て。これで連合軍への参加か。クソ野郎の気配を目を皿にして探すとしよう。
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