今後トークを動かすのは1
オウランさんのお帰りより一月。偉い方々の忙しさを遠くに仰ぎ見、護衛兵長という謎な役職名で調整役として苦労しているジンさんの細かい疑問に答えたり、新しく来る若い方々の為に官邸の案内図を作ったりする日々。少し忙しい程度で安楽じゃのぅ。心の傷も癒えて……いや、傷ついて無いし。
と、タラタラした日々の夕食で、アイラを通じてカルマから例の面子を集めての会議に参加しろとのご連絡。
アイラは『やっとダンを受け入れる決心がついたんだよきっと。良かった』と言うが、さーてどーなんでしょーね。
オウランさんとの繋ぎも全力で気配を消してる訳で。私の日々は九割以上が単なる倉庫係。向こうからは精々、居るとオウランさんたちと上手く行く可能性が増えそうな幸運の置物でしかなかろう。
それが幹部会議で最終決定に嚙ませろと言われたら……リディアとラスティルさん込みでも、いや込みだからこそ追い出したくもなろう。
私同様あちらも何が正解か。いや、マシな結果に『なりそう』か。で悩んでいるはず。親近感が湧く。
領主を悩ませるような立場を望み、かつ目立ち方を調整。我ながら無茶するよ。
とりあえずは寝ましょう。考えない。と決めたなら考えずに寝るのは大人の必要技術。時代や世界が変わろうと役に立つのだ。
アイラの後ろを歩き、カルマも使う時がある小議場に到着。さて扉を入る前に。
服の下に薄い皮鎧、小手よし。今回みたいな剣を持たない方が安全そうな時用に作った木製に見える鉄扇もよし。実質鉄の棒だから開かないように気を付けないと。
さて、扉を開けた先には……あらカルマ一人が領主の席に着き、後は立ったまま……皆様お揃いじゃん。悪い事した。出来れば兵が隠れて無いか確かめたいが、無理だな。そんな疑い持ってない風の方が無難か。
静かに閉め、末席の方に居たリディアとラスティルさんの間に入り、
「お待たせして心より申し訳なく思います。トーク閣下。皆様」
「……いや、話し合うべき事もあったからな。時間通りだ。ではダン。トーク領主として言う。
ワシはお前をトークの意志決定に加えると決めた。何かの動きをする時、リディアの要望があればこの会議を次の日に開くようにしよう。……他に何かあるか?」
妥当と、考えてたのだけど。やはり安堵を感じる。さて『他に』か。確かめたい事はあるが……どうしたものか。
「まずは私の異常な要求を考え、しかも受け入れてくださった事、感謝申し上げます。確認の為に聞かせてください。数字にするのも愚かな話ですが、今後六・四で迷った決断の場合、私が支持すれば四の方を受けて下さる。と、考えても宜しいのでしょうか?」
本当愚かな話。必要な決断がどちらの方が良いか。を数字で出せたら人間じゃない。しかし表現が思いつかないもんだから。
「分からんでもないが奇妙な言い方をする。……受ける。事もあるだろう。としか言えん。不満かな?」
いいえ。真正面からのご返事に感心です。そして周りの方々は中々の睨み。
やはり、するか。今しか出来ない。程度を計る必要もある。それに危険だが私のようなアホは目に映らないと直ぐ忘れる。
「いいえ。答えようのない質問失礼しました。所で、この場での決定を一応任せて頂けるのでしたら、今カルマさんがお座りの椅子にこういった会議の時だけ座らせて頂いても?」
「なぁっ!? き、さまぁ! 増長すッ」「グレース、良い。確かに此処は最後の決定をする者が座る場所だ。この形式の時だけならダンに譲ろう」
さん付けは無視か。そして本当に席の横に立つ、か。なら行くしかない。少しの緊張……で済んでるな。有難い。何処にでもある椅子のように座った方が良かろう。
座って、椅子の感触と座り心地を確かめ……風に皆さんの様子は、と。
うむ。トークの皆様は怒髪て……グレース本当に髪浮いてる? 現状への感情は予想通り。ただカルマだけは強い感情が見えない。んー……難物になって来たかな?
さ、て。リディアは見ても良い事無いので見ない。ラスティルさんは。すっごくニヤニヤ、爆笑寸前か。似合わないと言いたそう。信頼出来そうで結構。良い人だ。
そして、アイラ。……私と、怒っているグレースたちを見比べて悲しみの表情。
推察通り、かな。長い付き合いであるトーク姉妹の上に、私が座るのは嬉しい事ではないのだ。
背中を見せると危なそうに感じる。配下という建前上、仕方ない時は余程に気を付けるとしよう。同居してる以上、元から私の身柄はアイラの御意のままだが、こういうトークの人たちと争う時が一番危険だろう。
うし。十分だ。
「うん、良い椅子です。それに皆さんを見やすいのも良い。しかし慣れてない所為かどうも落ち着かない。やはり此処に座るのは止めておきます」
と言い訳して失礼を、
「ワシは、この場所だけなら其処にダンが座るのも良いと考えている。遠慮する必要も無かろう」
おっとぉ? 引き留めるとは。どんなお気持ちなのだろう。一度譲ると言った以上、徹底してるだけ?
「いえいえ。一度座ってみたいという好奇心も満足しました。有難うございますカルマさん」
と言う事で面倒が起こる前に帰りましょう。最も安心できる末席へ、
「待て」
レイブン。……不味い。手が震えてやがる。通り過ぎたら背中を斬られかねない。真正面から相手をした方がマシか。相対する角度大事。―――これでラスティルさんを背負った。しかし、レイブンの方が近い。スリ足で距離を取るのは……悪かろう。
「何でしょうか、レイブンさん」
有難い。声に震えが出なかった。目も動かさない方が良い。グレースとフィオを全く見られないのは不安だが、背中から来ればラスティルさんは動いてくれるだろう。カルマも視界の端じゃ様子が認識できん。ガーレは……驚きが見える。ならもしもの時は、真後ろより彼を盾にした方が良いか?
「好奇心、と言ったな。トークを背負い、多くの責任に耐える者だけが座って良い場所を、好奇心で、と。
貴様は気に食わん。臆病なのも、無駄に口が回るのも。だが何よりも、全てが他人事だ。誇りと生死をどうでも良い物として見ている。その挙句に……増長しおって……ェッ!」
ごもっとも。と浮かぶとは我ながら頼もしい。しかし落ち着きだけじゃ足らん。剣に触れやがった。強烈な葛藤が目に見える。何も、言わないでおこう。嫌いな奴は声も不快なものだ。
生真面目な奴はこれだから……。こいつも私を殺すと下手すれば斬り合いになるくらい分かってる。アイラが必ずそっちに付くという確信は絶対にない。そんな様子は今朝無かった。つまりカルマまで殺されかねないと理性は言ってるはず。
だから……落ち着く可能性は、まだ。
チッチッチッ。腰の鉄扇が全く頼りに感じられない。大股で二歩。抜き打ちで斬られかねん。初撃防げるか? 防いでも剣が滑って手首を斬られそうな。
何秒か経った。が、剣から手を離さん、か。もう……五秒待つ、か? それで駄目ならラスティルさんとレイブンの線を邪魔しないよう斜め後ろへ全力で動く、
「カルマ殿を殺す気が無いなら剣から手を離せ。身の程知らずの凡愚」
「な……に?」
―――え? 今の、誰が。あ、声は。というか、あんな事実をただ述べるだけのような喋り方は……。
「ああ、殺すのは我らではあらぬ。我らが居なくば直ぐに滅ぶと言っている。実際その方と
ッッッッッ! な、、んつぅううう!? 私を、守ってくれようとしてるのか? 視線が外れたのは有難い。けど滅茶苦茶言い過ぎ! いや、リディアがこういうので過ぎる訳ないとも思うが、だとしても!?
「リィディアァ―――ど、の。お前は、貴方が、某の千倍と言うのならかもしれんとは思う。しかしコレが某より役に立ったとは。理解できぬ」
下手をするとさっきより危険な噴火前な気配が。もう待てない。スリ足で少しでも離れよう。ラスティルさん、もし背中側で見えないグレースとフィオが剣を抜いたらお願い。貴方なら卑怯さに反応して守ってくれると信じてる。他に頼れないし。
「故に汝れは凡愚。かつてカルマ殿がザンザから目を付けられた時、我が君は慎重さを持つよう忠告したと聞いた。その時何をしていた。王都との強い縁が出来たと喜んでいたか? 更には王都へ行く前夜、我が君がカルマ殿に命の危険があると忠告した時何をしていた。大きな働きをしトークを強くするのだと勇ましく酒でも飲んでいたか!
これだけでも我が君は汝れの十倍カルマ殿に必要な人物よ。更には先の戦いで、汝れの百倍働かれたではないか」
褒めてくださるのは良いとして、そのお言葉トーク姉妹を含め全員の挑発、になってません? もう私にはどうしようもないけども。って、まずは自分を。ラスティルさんと一応アイラの後ろに!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます