もう一人を聞いた日

 義兄弟、いや、義姉弟? しかもケイ帝室の血を引くと名乗る平民……。

 残り二人も平民の癖に、歴戦の貴族に仕える強者と戦えるこの人と互角の武人。

 劉備りゅうび関羽かんう張飛ちょうひか!?

 やっぱり居たのかあのトラブルメーカー共。

 ……待てよ? ジョイは公孫賛こうそんさんと共通項がある。

 そこで武将をしていて、劉備達と会って、好感を抱いたこの感じ……しかも槍使い。

 この人、もしかして趙雲ちょううんだったり?

 あかん。だとしたら完全に敵じゃん。劉備と滅茶苦茶相性良いもの。

 い、いや、趙雲だったら此処に来てくれたりしないでしょ。劉備にベッタリで、ホモい関係でもおかしくないのが趙雲だ。ラスティルさんは同性愛の気配無いから大丈夫。


 杞憂するより感謝しましょう。劉備かもしれない奴の情報は実に有難い。

 三国志演義の主人公トリオはとても使えそうな方達だもの。

 只管国の再統一を邪魔して、民衆の苦労を引き延ばした見境無しヤクザだ。アレと同じような能力と意志をお持ちであれば、上手い事誘導したら邪魔な奴を引っ搔き回してくれるかも。イルヘルミに良し。ビビアナに良し。ついでにマリオに良し。俺に超良しとね。

 加えてずーっと気になってたトップスリーに入る有名人らしき人物の存在を知れて、大変スッキリよ。

 はー。此処までスッキリしたのは芋を食べ過ぎて屁で膨れ上がったお腹、

「そして、その三人の長ソウイチロウ・サナダ」


 ……。

 あ?

 劉備三兄弟に長? しかも、その名前の響きは……。


「この人物が不思議な方でな。拙者に一歩及ばぬとしても良く剣を使う武人であるのに、殺したコルノ党を見て涙する優しさを持っておられる。まぁ、人によっては弱さだと言うだろうが、この乱世ああいった人と共に生きたいと考える者も多かろう」


 このご時世、あのある意味イナゴより迷惑な奴らを殺して泣く? 完全にボケてやがる。とても親しんだボケさ……いや、慌てて決めつけるな。非常に、これ以上なく慎重に見定めるべき話だ。


「何とも……立派な方に思えますね。所で、奇妙なお名前に聞こえますが……何処の産まれなのでしょうか」


「聞いて驚くが良い。本人曰く、違う世界から来たそうだ。なんでも高耳も獣人も物語でしか見た事が無いとか。それはそれは平和な国で生まれ育ったと言っていたな」


 居た。……居やがった。もっとも恐れ続けた可能性が実現した。

 は―――はは、はははははははははははははははははっ!!!

 クソったれがあああ居たああああああ!!!!

 

 待て、笑うな。絶対に笑うな。

 それとも普通のケイ人なら笑う場面か?

 どうなんだ? 誰か教えてくれ。


「その顔は信じておらぬな? それも当然。拙者も眉に唾して聞いたとも。しかし、見聞きした事も無い物を良く知っていたし―――。ふむ……今から出す物を決して誰にも漏らさぬと約束して貰えるかダン」


「はい。誓いましょう。何を見せて頂けるんですか?」


 ラスティルさんは周りを軽く見まわし、誰もこちらに注意を払ってないと確認している。

 慎重だ。何が出て来る?


「単なる玩具なのだが……これよ。ソウイチロウ殿が考えた。コルノの乱でジョイ殿が集めた義勇兵を率いて戦い、戦功により男爵となったので自領の特産品としてこの玩具を売ると聞いている。流石に遊び方は二人っきりでなければ教えられぬ。彼らが利益を得る前に誰かが考えを盗んでは事だ。又今度教えよう。中々面白いぞ」

 

 は、ははっ。知ってるよラスティルさん。

 リバーシってやつだな。

 おお、木で出来た盤には駒と同じ丸い穴が開いてる。

 遊んでる時に無くさないようにってか? 野外でするのも考えてかな? 頑張って作った感じがするね。

 そしてこれが作られたのは私が居た日本だとごく最近、二十世紀だったはず。

 勿論、同じ日本とは限らない。しかし持っている知識が二十世紀以降並みの可能性が高いのは変わらない。笑いが乾きそうだ。

 

 サナダソウイチロウ。

 カッコイイ苗字を持ってやがるなぁ?

 居るかもしれないとは思っていた。私みたいなやつが何処かに。

 まさか同郷かもしれず、その上日本人名を名乗るなんてな。

 私とは根本的に違う人間のようだ。

 こいつの行動によっては私の計画が、そしてこの世界もゾウに踏まれた卵みたいになりうる。


 最悪だ、ああ、これ以下が無いまでに最悪だ。

 そしてぇっ! 最高だぁ! これ以上望むべくもないほどにぃ!!


 にしても劉備三兄弟の長にして剣の達人だ? 戦功で貴族の仲間入りだと?

 スゲーよお前、私には絶対不可能だぜ。あの時代にそんな事可能な奴一億二千万分の十も居たのだろうか。

 ラスティルさんからの印象もすこぶる良い。

 尊敬する。お前が同郷なら自慢したいくらいだ。お前すげー。同郷の私もスゲーってな。ハッハー。

 更にリバーシを売って富、か。

 派手に行くねぇ。

 私だってその手を考えんでも無かった。しかし名を売りたく無くて諦めたのだ。

 今となってはとんでもない英断だった事になる。


 とにかくけんだ。全ては確かめてから。高確率で私にとって最大の敵と思うが。

 敵と言っても男爵である今は大した事を出来まい。しかし、より多くを手に入れた時……。更には時間を与えれば。

 最悪になるかもしれない。

 さぁラスティルさんもっと情報をくれ。


「これは―――確かに見た事がありません。碁には似ていますが、違いますね。ラスティルさんもそのサナダ閣下に好感を持っているみたいですし、違う世界から来たと言うだけある方なのかもしれませんねぇ。他にもお話しがあったら聞かせてください」


「おや……そう見えたか。うん、確かに色々と凡俗では違ったな。まず見た記憶の無い美男子だ。それ故とは言わんが、人を惹きつける物を持っている。しかも非常に運が強い。

 彼が男爵領を手に入れるまでの功を立てたのは二人の若い軍師あってこそなのだが、その二人はソウイチロウ殿が遠くカメノ州から連れて来た者たちで、凄まじく優秀。生半な者では仕えて貰えまいに、その二人が心服しているのだよ。大した人物と言うほかあるまい」


 美男子と来ましたか。

 そして遠くカメノ州……サポナの所からだと、一か月は掛かる場所まで行って連れて来た軍師だと?

 嫌な感じがする。


「その二人の軍師、そこまで優秀な方なのですか?」


「それはもう。セキメイ・リヨウという少女が今十六。フェニガ・インザという青年も二十程度だったはずだが、既に数多の知恵者と軍師として語り合う程で、龍と不死鳥に例えられていたとか。実際コルノ党と戦った時の策は見事だった。

 ソウイチロウ殿も、自分が知る最高の軍師に劣らぬという意味で、コウなんたらと、ホウ……忘れたな。とにかく最高の軍師に例え大いに喜び、全幅の信頼を寄せていた」


 ……孔明と鳳統ですねソレ。

 めっちゃくちゃしやがる。年齢もおかしすぎるだろ。劉備や曹操と二十は離れてなかったかあの過労死男。

 年齢は地球の歴史でも正しいかさっぱりだったから、余り考えない方が良いんだろうけど。カルマが董卓なら今三十未満なのはおかしすぎるしな。

 それよりどうやって探した? 本当にあれ程有能なのか?

 孔明って、若い頃は戦災から逃げてあっちこっち移動したという話じゃなかった? 名前だって分からなかっただろうに。

 それを探し当てて、二十にもなってねーのを青田刈りか。そりゃ私だってリディアに頼ったよ。世情を良く知る知恵のある人の手助けは心から欲しく思う。孔明と親しく話せたら最高さ。だが日本の何倍も広い土地から一名を探そうとするか? そして見つけて、配下だと? 発狂しそうだ。

 本物なら激運持ちだ。一緒に狩へ行きたくねぇぞ。

 クソッ。てめぇ野良で入って来ないでテメェで激運剥ぎ取り装備部屋を建てろよな。


 ああ、愚痴ってどうするんだ。

 現時点では未熟かもしれんが、超有能な知恵者がソウイチロウに心服した。知れて良かったじゃないか。

 洒落にならん最悪の情報だが、知って無かったら……考えるだけで恐怖のあまり漏らしそうになる。


「そして、かくいうこのラスティルもソウイチロウ殿とユリア殿から配下になってくれないかと強く求められたのだよ?

『俺達はこのケイ帝国に住む人々を一人でも多く助けたい。その為にはケイの血筋を持つユリアを旗印にして戦っていくのが良いと思う。民の痛みを感じれる優しさを持ったラスティルにも仲間になって欲しい』そう言われてな。数多の君主、男たちに言い寄られた拙者だが、あそこまで心が揺れた記憶は無い。しかし、ダンとの先約を守る為に私は後ろ髪を断ち切って此処に来たのだ」


 あ、なんかめっちゃニヤニヤしてる。

 む、むぅ、どう返答するべきか。

 つーかツレーぞ。

 考えたい内容がこれ以上なく真剣なのに、同時に美人と楽しく飲み会しないといけないから脳みそがシェイクされる。

 サナダについて考えなければ良いのだが、あまりにも重要な情報過ぎてそれもならない。

 笑える理想論を聞かされて腹筋が痛いし。

 自分の今の苦労しか目に入らない庶民を騙そうとして言ってるのなら褒めるが、真剣ならアホだそいつは。

 或いは若いのか? 私も民衆の面倒くささを知らない中高生までは、そんな考えを持っていたよーな気がする。一方であの時代の普通の大人なら、教育さえされてない民衆を助けたいなんてぶっとんだ不可能事は考えないはず。たかられて圧死するとしか考えられん。

 ああ、違う。今はとにかく上手い返答を……。

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