今後の方針変換

 ……駄目だ、上手い言い方が思い浮かばない。

 だれか美人でエルフで武人の義理堅さんに、どんな返答をしたら良いか教えて下さい。

 はい分かりませんね。もーしらない。

 そのまま言う。 


「それは、申し訳ないことをしました。でも私としては―――又会えて嬉しく思います。ラスティルさんの律儀さで損をさせてしまったとすれば、心が痛みますが……」


「おや? 拙者はソウイチロウ殿の配下にならないと決めてはおらぬぞ。損というのは言い過ぎではないかな?」


 ぬがぁー。美人の明け透けなニヤニヤ笑いは眼福だけど、落ち込む事を仰る。


「はぁ、そうですよね。分かってはいました。トーク閣下は領民を想う良い方ではありますが、数多の領主より確実にラスティルさんの気持ちを引くとまでは流石に。同僚になって頂けるのは難しいのでしょうね……」


 実利的にも向こうに行かれると下手すれば私の情報がサナダとやらに伝わってしまうのがね。

 億が一、私が遥か先の知識を持っていると気づかれれば最悪だな。

 最高なのが殆ど消えてしまいかねない


 まぁ現状どこにでもいる下級官吏だから、杞憂どころか妄想の領域か。

 トーク姉妹も私が話した推測を漏らしたりはすまい。例え何か漏れたとしても、今の所私がケイ人として異常という程の事をしたのはオウランさんの所でだけ。ケイに住む誰であろうと私の異常性に気付くのは不可能なはずだ。

 それでも、高確率で彼女への覚悟を決めないといけなくなるのは……辛い。


「くはっ。そこまで落ち込んだ様子を見せられては悪い気がしてくるな。いや、意地悪を言って悪かった。確かに悩みはしたが、今は此処に来て良かったと心から思っている。

 そなたの文は正しかった。アイラ殿は共に鍛錬をしなければ決して追いつけぬお人よ。戦場で出会ってしまえば確実に討ち死にだからな。それに他の二将も良い。今日はここ暫く記憶に無い程楽しかった。拙者がここに残る可能性は高いぞ? だからそう落ち込まないでくれ」


「それは良かった。その鍛錬ですが、今日はラスティルさんの強さを初めて拝見して敬服しました。コルノの乱ではどんな活躍をされたんですか?」


「うむ、それはだな……」


 この後はラスティルさんの武勇伝とサナダ一党の話を聞きながら食べのみをした。

 ただし私は最初の一杯しか飲んで無い。口を滑らせない用心大事。

 結果としては満足できるだけの話を聞けた。

 まずサナダたちが手に入れた街の名前はヘイン。

 ユリアは高い理想と人望をもっており、ロクサーネは有能でやたら誇り高い武人。アシュレイは若くして脳筋の酒乱。

 人品に諸説ある劉備がユリアなのかは自信を持てないけど、ロクサーネとアシュレイは私が唯一知ってる通りの関羽と張飛そのままであるように感じた。……アシュレイの酒乱を上手く使って留守の城を奪えたら。と、妄想がはかどる。


 ソウイチロウは日本人らしい道徳を持った人間みたい。

 年齢は本人曰く二十。

 名前を日本人名にするような奴なら実年齢かも。民を助けたいなんて戯言を言ったのにも沿う。

 日本人じゃないとしてもその年齢で本人が平和だと言う国から来て、街中で殺人がしょっちゅう起こりかねない国で生きてるのはそれだけで尊敬に値する。

 大した精神的強さを持っていると考えよう。人間力的には完全に負けてるね。


---


 ラスティルさんとの飲み会もお開きになり、私は帰宅の途につきながら今日の話を考えている。

 ……うっぷす。食べぎた。

 ラスティルさんが、飲まないなら食えとか言って大量に注文するから。

 食い残しは絶対に嫌だと食べきったけど、正直吐きそう。

 一応便所に行っとくか。


 さてサナダ、いや漢字で真田と考えよう。その方が有能そうで私に気がはいる。

 あいつについて考えなければ。

 私みたいなのは一人も居て欲しくなかったけど、居るのなら現状はとても良い。

 まず奴の現状だと普通に動いてイルヘルミとビビアナに勝てる要素が無い。私が注意してる勢力中最弱であるイルヘルミ、ニイテの両家でさえ真田の十倍以上の領地がある。ビビアナだと百倍以上だ。


 真田は孔明、鳳統だと思うような人物を発見した。

 ま、本当に孔明とは限らないけど。真田だって絶対そうだとは思っていまい。

 しかし私にはそんな事は出来ない。つまり、三国志を私以上に知ってるのだろうが……。

 それならばユリアを劉備かもとは考えたはず。なのに付いたのはなんでだ? あの劉備通りに動きそうな奴の頭になるなんて自殺行為だ。そもそもユリアもケイを、ほぼ崩壊が決定してる国の長の一族を名乗っている。ならば新しく国を作る人間の敵。既に大領主である者たちが大体敵候補。命を賭けて無謀な真似に挑戦するのが趣味とでも言うのだろうか。


 そりゃユリアが本当に後に一国を建てる劉備的人物で、ユリアたちが自分の話を大よそ聞いてくれて、何よりこの国が私の知ってる歴史通りになるのなら、三国志の勝者をユリアにして生き残るのも出来なくは無い気がする。

 それでも私としてはコルノの乱で功績を上げてやっと男爵のユリアに付くくらいなら、曹操になれそうなイルヘルミか、圧倒的強者であるビビアナ・ウェリアにつく。

 ―――うーん、どうにも若さか感情での選択としか思えん。


 とにもかくにも……見つけたな。

 真田。遥か未来を知っているクソったれを。相手よりも先に!

 更に今後もこちらを知られる可能性は考え付かない。

 私は誰の噂話にも上らない小物。正に最高の状態。最高に愉快。

 うふっ。ふふ、クフフフフフフフフフフッ。


 ふぅ―――良し。

 さて、今後の行動方針だが……。

 真田の情報を少しでも多く、正確に得たい。そして簡単確実な方法を思いついた。奴の配下になればいい。

 中身の人生経験が倍なお陰で、私はこの国で一番有能な平の倉庫係。断られない自信はある。

 配下となって真田が私の味方と判明すれば最高。この世で二人と居ない友人になれる。私の苦労は半分以下となり、孤独が大いに慰められるだろう。現在はその可能性が消えていない。敵だとしても、せめて生かしておいて良い程度なら問題ない。


 しかし孔明を態々探しに行くような奴だ。劉備だと考えてユリアとやらに付いた可能性が高い。となると滅亡が既定路線なのを覆そうと言うのだ。手段を選ぶ気は無いと見るのが無難。であれば不俱戴天の敵。族滅、それ以上を懸けて戦う敵の可能性があまりに高い。

 敵ならばこの案は最悪。真田は異常に強いこの国で戦える男であり、臣下の信頼を得ていると言う。私が信頼を得て側近になろうと闇討ち、毒殺、どっかと通じての裏切り。何をしても殺しきれる可能性は極小だろう。そもそも自分個人の能力で平民から貴族になるような奴と戦うなんて冗談じゃない。

 加えて遥か遠くに居る真田の所へ行くとなると、オウランさんとの関係が切れる。トークで小さく積み上げてきた人脈、立場も消える。敵と判明した真田を何とかしようとした時、無職の浪人状態から始める事になる、か。

 

 うん、此処から動かないのが最善だな。

 そしてトーク姉妹への対応を変えよう。潰れそうになれば助けるべきだ。

 真田が何をするか。また私の同類が他に居るかを察知する為には、商人などがやってきて情報を流してくれる安定した領主の下に居る必要がある。

 更に領主であれば勝手に国中を調べてくれる。そのおこぼれで現在の下級官吏の立場でも庶民とは段違いに情報が早く正確。この立場は堅守したい。


 ……出来ればもっと情報を触れる立場になりたいな。

 更に言えばトーク家に、そして他の領主に意思を伝えられる立場になれれば。例えば真田の居る街ヘインはビビアナの直ぐ近く。真田を敵と決めた時、直ぐにビビアナに攻撃させられれば理想だな。抵抗不可能で即死させられる。

 当然そんな立場になるにはとんでもない無茶が必要だなぁ。愚かな行動、欲望だ。しかし真田が敵ならば……無茶をしてでも戦う必要を感じる。

 

 なぁ、真田。お前は私たちがどんなに恐ろしい存在か分かってるか?

 本当に二十歳程度なら……分かってないだろうな。

 敵な時の厄介さでは同じ真田でも、徳川家康をビビらせた真田一家の方がマシなくらい恐ろしい。

 人物としてはあちらの方が有能に決まってるが、リバーシが出るような人間とは恐ろしさが違う。

 ティラノサウルスとゴジラくらいに違う。


 これ程重要な話を持ってきてくれたラスティルさんには益々頭が上がらないね。

 そして困った。

 ユリアと真田の二人をあそこまで高く評価してるなんて……。

 何とかこっちに来てくれたけど、高確率で向こうに戻ってしまいそう。

 となれば、敵。

 出会いで命を助けてくれ、また命を助ける、あるいはそれ以上に重要かもしれない情報を持ってきてくれたラスティルさん。

 何とか恩を返したい。

 しかし……働きかけて、後はラスティルさんの選択に任せるしかない……。それでさえギリギリだ。真田に話されても大丈夫なようにしなければならん。


 ふぅ……困った話はある。問題もある。

 しかし、全ては順調、最大の問題となるであろう情報も手に入れた。

 これ以上何を期待する?

 うん。素直に気分よくなろう。今日は最高の日だ。


 考えてる間に家に着いた。

 さて、帰る途中でトイレに行ったし、部屋でもう少し考えるかな。

 真田の情報で興奮してるのだろう。疲労を全く感じない。私絶好調である。


 ―――うん? 私の部屋に灯りがついてる。なんで?

 消し忘れは在り得ない。

 泥棒……も無いだろう。

 堂々と灯りを点けるなんてどんな間抜けだよ。

 そして中に入ると一人の人が書物を読んでいた。

 その人は……。


「おやダン殿、ご機嫌は如何かな」


 こちらに向かって片手をすっと上げ、ほぼ四年振りの挨拶を、記憶にある毎日の挨拶と変わらずにしたその人は。

 見た目彫刻像だった。

 大いに変わってなお不変だった。

 ようするにリディア・バルカだった。


 ……なんでよ。

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