今後トークを動かすのは3
「跡継ぎを。
その親を若く健康で心の病を持たぬのみの条件にて、お互いの選んだ男とする賭けで御座います。次代を己の派閥の者と近しくするは中々で御座いましょう?
『は?』
は? は、はぁあああ!? お、おま。おまぁあ! くっそ信じられねぇえ。 十七、八のお嬢さんが言い出す賭けかこれぇ!?
リディアの様子は、駄目だ見るまでも無かった。やはり引くという発想があるとしても方法がわからん。
フィオと、グレースは、追い詰められてる。しかし不退転の文字が顔に見える。ば、馬鹿。阿呆。ドジ。間抜け。お前ら負けたら極端な行動に出るくらい激怒するだろ絶対! 素直に引き下がってくれよ。
「お二人とも己の足で立つ貴族の女である以上、男は健康で面倒な後ろさえ無ければ何でも良い程度の見識はお持ちと信じておりましたが、稀に庶人の小娘のように好きな男が。等と妄言を吐く者もおりますからな。乗って頂けるようで嬉しく思いますフィオ殿。グレース殿」
あああ……駄目だ。最悪。此処まで最悪とは。男なんぞ子供を作る為の道具と見切るのが望ましい。なんて話は知ってる。でもそれだけで良し! と言えるのは貴方くらいのもんだから! 台風な波風が立ち続ける提案しやがる。しかしこれは……私が入ってるのに逃げたら後が怖い。まだ参加した方が後々が良い、はず。知るかクソぉ。こんな咄嗟にどうしたらいいかなんて思いつくか。
だが勝たなければ。勝てばご破算も可能だ。負けそうならトークから逃げよう。私をよく知るリディアに負債を払わせて此処にいるなんて冗談じゃねぇ。
「申し上げます。その賭け護衛長様との交渉ですよね? 私の事ですのにリディアさんだけに苦労させては後が怖い。負債は私が……請け負うのが筋。私の懇願で少しでも勝率を上げるとします。負けた場合は―――子を産むのに使うのは一年ですから、男である私は多めに見積もって五年。子を作らず女と関係を持たない。と言う事で」
もう女性との縁なんて無いし十年でも良いくらいだ。それに春を売ってる所とかは元からダニとかが怖くて行ってないし。普通の男なら五年娼館無しだと謀反考えそうだから私が損被ってるように見えるでしょ。
所でリディア。その片眉を上げて見てるのは『合格』の意であってくれます?
「はぁ!? 駄目っス。貴族の跡継ぎと、五年女を抱かないだけなんて秤が取れてないっス。お前を男で無くすが最低。命がある慈悲を喜ぶべきっスよ」
はぁ!? はこっちの台詞! 男で無くすって、此処の医療技術だと相当の確率で死ぬだろ! フィオお前勝負の結果本当に適用してやろうか。
良いです分かりました。覚悟決めてジンさんに全面協力願います。それっぽい理由を付けられた無駄な交渉をした挙句、断られて泣け。
「なら……それで。半年間、四氏族の方々が私をこの会議に参加させろと言い続けるかの勝負ですね。宜しくお願いしますフィオさん。ああ、私は此処数年病気になっていませんし、特別愚かという程ではないと仕事場では言われております。種馬としては悪くないはず。二年後に抱かれるお子さんの出来は貴方の教育次第とお考えを」
歯をむき出しにして戦意十分の様子だが、怯えも見えるぞフィオ。もしかしたら『追い出した方が良い』なんて言ったのは恩を着せようとしただけで、本当に追い出せばジンさんが怒りそうだと考えてはいたり? だとしたら相手が悪かったねぇ。
半年恐怖で教育してやる。二度とリディアと戦う気が起こらないように。あー、でも私に抱かれるとなればこいつも逃げるか? 外に名を広げられたら困るな。……ジンさんに言っとくか。どうせ夜逃げだろうし草原の兵も増えた。誰にも知られず済むだろ。やる数は少ない方が良いが、ヤル時はヤリきるしかない。何をしてでも。
「ふむ。考えれば誰でも良いとは言っても、程度が御座いますな。我が君は種馬として中々。ですから、そちらはガーレ殿として頂きましょう」
「何故オレ!? 頼むから巻き込むな。何の恨みがある!」
すっごい。全く羨ましくない。美人で若くて金持ちで有能でも、格が違い過ぎるのは感情でさえ避けた方が良いとなるのか。賢い。自分を見直した。
「ガーレ殿、
ガーレ殿もご存知のはず。愚かでも忠勇なら有為ですが、他者の功績を理解せぬ身の程知らずでは。欲深く褒賞を求め争いを起こし我が一族さえ滅ぼしましょう!」
口喧嘩で人を殺せそう……。しかしトーク全員を念入りに挑発して大丈夫なのかしら。まぁ、かく思う私もオウランさんとの同盟を認め、順調に進んでる今ならまず排除出来ないと考えて、感情を出させようと領主の椅子に座ったから……。
ああ、何とか落ち着かせていた顔色がまた真っ青に。やはり『トーク』を滅ぼす奴と言われては。
「某が、欲で争いを起こすものか! しかし見ろ。今も背中に隠れている。そんな臆病者の決定に誰が従える!」
「
凡愚。汝れは今このケイで起こっている騒乱を、幼い頃読んだ高祖の戦いを美麗な嘘八百で造形した英雄譚と同じに考えていよう。汝れにとってはそうかもしれん。次の戦で真正面から一人突撃し、千の敵に囲まれて死ね。
しかし家の血を残さんと願う者なら卑怯結構臆病結構幸運大いに結構! 勇敢さが第一の者たちで集まり、同じような討論をして同じ結論になるのではどれだけ上手く事を運ぼうと読み切られ十年で滅亡するのだ。
理解も納得も出来ぬか。で、あろうな。ならば与えて進ぜよう。
それ、どういうっ。レイブンの顔が、此処からでも分かるくらい強張ったからか? 何か体が緊張して、
「ご自慢の武勇で
三歩の距離。其処までは
ラスティル。アイラ。殺せ。但し三歩の距離より初手が来れば、
如何かな凡愚殿。分かりやすかろう。
ッッッッ! まさか、これか!? 最初からこの勝負がしたかったのか? レイブンが引くと見込んで? 違う、そんな甘い人じゃない。相手が来るなら殺す気なのは絶対だ。
どうする。止め……方は全く思いつかないし……。
「ま、待ってリディア。レイブンも味方だよ。騒乱で生き残るにはレイブンみたいな戦士だって必要でしょ」
「拙者も、そう思う。レイブンは、有用な将だ。ほ、ほら。我らの主君は貧乏性故、出来るだけ戦う者を減らしたくないとお考えだろう。な、ダン?」
ごめん同意出来ない。ごもっともではあるんだけど。しかし二人が十秒考えたか怪しい発言に乗っかって、リディアの考えに異議を唱えるのは狂気だ。
「黙れ。そも何故二人は未だに剣を抜いていない。あの凡愚が主君の前で剣に手をかけた時、何故殺さなかった。
お前たちは主君の寛容さに甘えきっている。先の戦い、二人とも戦う気であったのであろう。然るに己が息をしているのは誰に恩ありと考えるか。
今、此処にいる二人や三人欠けようと何とでもなったが、我が君無しには誰一人生き残れておらぬ! 有用な将? 居なければ居ないなりに戦うだけよ。
もし
だが、そうする気が無いのなら。一歩下がり剣を抜け。忘れるな。殺して良いのは一手後」
あ、あ、あ。ラスティルさんが剣を、抜いてしまった。アイラも剣に手を置いた。それを見て、レイブンも剣に手を。これは、本当に殺しあいが。
レイブンが死ぬだけなら、まぁ、良い。しかしリディアは一手防げるのか? 何の緊張さえ見えないが、レイブンとまともに戦えば負けるはず。駄目だ。休んだ方がマシな下手の考えだ。斬り合いに備えた方が賢い。……せめて鉄扇じゃなくて十手もどきの方を持ってくるんだった。
「お待たせして申し訳ない凡愚殿。さぁ何時でも。……おや? 何を躊躇する。お教えすれば、貴君のような凡愚が
ああ、剣を抜いてから歩を進めては。如何なされた。更に教えてやらねばならぬのか? 己を理解して欲しいと喚く幼子よりも手が掛かるようではカルマ殿も恥じておられように。
恥をそそぐと良い。機会は此処にある。凡愚殿。更に臆病殿。何故剣を抜かぬ!」
歯の軋む音、この距離で。分かった。リディアは本当に殺す気とする。気を付けるべきはラスティルさんとアイラの邪魔をしない事。ガーレの援護は二人も考えているはず。実力差的にも任せた方が良い。私は、残り三人の邪魔が無難だ。だが全員格上。レイブンが死ぬまで一人を抑えられれば上等、
「レェイブン!! 剣から手を離し、下がれ。……良いな?」
!? 今のは、
「カルマ、様。―――御意」
レイブンの体から、緊張が消えた。でもアイラ、カルマへの信頼か知らないが、こっちは息を吐かない方が良いと思うぞ。
ラスティルさんも気を張ったままだ。何せリディアはカルマの声に何の反応も無い。……いや、もう終わり?
「リディア殿。ワシも大切な臣下たちが損なわれるのを黙って見ている気は無い。
貴方の言葉が間違ってるとも言うまい。だからワシはダンの望み通りこの会議をしている。これ以上如何にせよと。何事にも限界があるのは分かっているはず」
斬り合いをするなら兵を呼ぶ、かな。当然だ。そして不味い。リディアは……汗も無い。嵐の中心が一番静かとは。……このまま静かに終わ、
「我が君。誠に恐縮では御座いますが、ご進退を
ああ―――やっぱり終わってないのね。
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