今後トークを動かすのは4

「はい。今後は聞くに及びません」


 邪魔はしない。自分より有能な人が失敗したのならそれで良い。そう考えられないと私は生きていけない。 


「感謝致します。

 なれば申し上げる。わたくしが最も如何にして頂きたいのはカルマ殿で御座います。そもきょうは大切な臣下とやらが、我が君にどのような不満を持っているか承知していたはず。事前にかく扱えと命じるが道理であるに凡愚が怒りを見せ、剣に手を掛けても止めず。

 我らの真意を探ろうとしたか我が君の人となりを見ようとしたかは存じ上げませぬが、実に愚かですぞ。忘恩も偽善も悪くはありませぬが、まさか我らが変わらずトークに居るとお考えでは無いでしょうな。

 お望みなら我らは去ると何度も申し上げたはず。ただ最後の誠意としてお教えしよう。恩ある我らさえかくも拙速に排除する狭量ではトークが五年存続すれば奇跡。此処の誰かは勝者の慈悲で永らえたとしても、トークの名を持つ者は必ず十年以内に消え去るとわたくしは考えております。

 違うと仰るのならばフィオ殿とグレース殿に先の勝負をするようお言いつけなさいませ。トークの問題を使った良問で誰一人傷つけず考える時間を得られましょう。

 さぁ、我らを去らせるか! 四氏族との関係は独力で十分と示すか! どちらかお決めを!」

 

 カルマの表情は……成程。必死で気が回らなかったな。試されてたんだ。

 言われてみればその通り。私が無駄に波風立てたとしても、レイブンの剣が飛んでくる状態を態と残す領主は損得計算が変わりもする。……だからと言ってどう対処した、ら。いや、もしかしてこれが?


「――――――どちらも、選べん。まず負けるのであろう勝負を臣下にさせる気は無いし、言葉の通りだ。一言も無い。それで、どうしろと言う。ワシが頭を垂れてダンに許しを請えば良いのか。しかし、確か以前……」


「覚えていてくださり安堵致しました。ご自分の妹と臣下たちの態度をご覧あれ。我が君はそれがそのまま恨みとなる愚をおかしませぬ。『どうしろ』という事なら既に凡そ結構。そちらと、わたくし共に道理を思い起こして頂くのが肝要ですので。ただ……レイブン殿。顔を上げ、わたくしに目をお見せあれ」


 やはり、今後この会議での安全を高める為に全員を教育なさってたのね。カルマなら引くとも見てたのかしら。何割で? 十割と言われたら……想像するだけで寒い。

 有難いのですが、発想と実行力が怖すぎる。加えてこれ思いついたの何時からなの? まさかレイブンが私を呼び留めた瞬間じゃ、ないよね? ……あり得ませんね。あれだけの短時間で今までのご口上が出来るのは有能とかじゃなくて人外だ。いや、でも……。止めておこう更に怖くなるだけの想像は。

 所でリディアさん。レイブンの目に怯みが見えるので、もう良いんじゃないかなって。私、死ぬのなら心折れて自害じゃなく味方として戦場で死んで欲しいです。とても止められませんが。


「確認をさせて頂こう。戦場の勇、実に素晴らしい。臆病者を嫌うのもお好きになされるがいい。一方でわたくしをそれなりに重んじる考えもお持ちくだされていたようですが、今も、と考えてよろしいか」


「……当然だ。某も文官の苦労を幾らかは知っている」


「結構。貴方にダン様へ敬意を払え。とは言いますまい。しかしわたくしの主君は尊重して頂く。それともレイブン殿は子供が何の価値も無い木切れを宝にしている時、取り上げて燃やすような無慈悲なお方か。

 わたくしに慈悲を示す気があるのか、無いのか。どちらに御座います」


 木切れとしては。はい、そんな感じでお願いします。……レイブン、汗かいてる? 矢の雨でも突っ込む勇者様が。

 いやはや。何なんでしょうかこのお嬢さん。ひっそりとした何時ものお声ですが、ついさっき怒鳴っていたような。いや、大きな声を出してただけ。だったのだろう。苛立ちがあった可能性もあり得ると思いたいが、怒っては無かったんでしょうねアレ。つくづく恐ろしい。


「分かった……。我が剣に掛けて、尊重すると誓う」


「そのお言葉、お互いの為にお忘れなく願います。さて、グレース殿。お尋ねになるのを迷っておられるようですが、先ほどの勝負行えばどうなるとわたくしが考えていたか、気にかかっている。で宜しいでしょうか?」


 お、おわ? 突然、朗らかな……いや、何時も通りになっただけか。


「ッ! ……ええ。そんなに、自信があるの? 特にあのビビアナが、五年と持たず失敗するなんて信じられないわ」


「それは勝負を通してご理解頂きたく。と、お答えしても良いのですが。もしグレース殿が『我が君のお陰で家名を永らえた恩を忘れた振る舞い。恥じている』と、幾らかでもお考えならわたくしも恥を忍んで愚考を披露致します」


 せ、攻めますね。だが何よりも全く調子が変わらない事に畏敬の念です。ついさっき大声だしていたのに。

 何とか見習いたい。しかし努力で近づけるのだろうかこれ? 努力したのは知ってるのだが……。


「……。相応しく、無かった。とは思うわ。何よりカルマ様が認めたのだしね。……足りないかしら? ト」「トークの今後にも関わるのだから、話す誠意があっても良いと思うのだけど? と?」


 わぁ口調そっくり。貴方、もしかして全身全てを意志のままに操れたりします?


「ええ! そうよ! 分かりきった論法で悪かったわね!」


「いいえ。単なる道理で御座いますれば。では皆様に愚見を申し上げる。まず四氏族相手の交渉。結論から申し上げれば勝ちの目は分かりませぬ。彼らの考えは時にケイの理屈を越え、わたくしのような机上だけの愚かな殻付き雛が最も苦手とする方々です故。フィオ殿が賭けたのもこの部分でしょう。

 しかし当然ご存知で『ありました』ように、更なる注文は誇りを著しく傷つける物と考えております。剣を抜かれかけ地に頭を擦り付ける事態を招くが九割かと」


 なのに勝負を受けかけると正気? お前ら自分が居なければ直ぐ死ぬぞ? との意に聞こえるのは私の心が腐ってるからなのだろうか……。


「ビビアナは現在ジョイ・サポナと争乱中。更に河で繋がるだけで飛び地なランドを維持しては、限界に近いと見ております。実際敵になるとみなしているはずの我々が領地を増やし、治めつつあるのに邪魔を出来ておりません。

 しかし。彼女には一つだけ手が御座います。即ち本家の継承で争った同族マリオ・ウェリアとの同盟。正しくは配下にする手が。これが成れば……終わりですな。その時は向こうの意識が向いたならすぐさまカルマ殿自ら体を縛って出向し、慈悲を請うのをお勧め致します。宜しければわたくしも共に参り彼女の足を洗う所存。

 領地の半分の譲渡は当然、領地替えにも進んで応じ配下として働くと言えば、或いは命を永らえられるかもしれませぬ。半分の確率でカルマ殿の首は必要となりましょうが。一応申し上げますと、これは虚偽無き誠意に満ちた予想で御座います。ガーレ殿。不満げな顔ですが、わたくしに仰りたい事でも?」


「又オレか!? いや、悪かった。疑ってはいない。ただ其処までなのか分からなかったのだ。両ウェリア家が強力と言っても、ケイの三分の一に届かん。まるで全ての諸侯がすぐさま服従するような物言いだったので、流石にケイ全土を治めるのは、そう簡単では無いのでは……いや、異論では、ないのだ。すまん」


「同意見の方も居られるようですし良い疑問で御座いますガーレ殿。

 しかし地理を思い浮かべて頂きたい。北のビビアナと南のマリオはランドを治めた現状ほんの少しの努力で完全に繋がるのです。この連携を崩す力を持った諸侯は居りません。勿論全諸侯と戦うは至難。故に王都を守るビビアナを守りとし、マリオが手となって敵意を示した者から迅速に諸侯を潰して回るはず。火事場の泥棒が恐れおののくほど念入りに、無慈悲に。

 何かを切っ掛けとして二人が争いでもしない限り、全ての諸侯にとって羨望の立場が二人の馬屋番となるは必定。しかし」 


「同盟は上手く行かない。と、考えているのね。……どうして? 必勝の策じゃない。安全に、全てが思い通りになるのよ。二人がウェリア家の本筋をめぐって激しく争ったのはあたしだって知ってるけど、どんな恨みがあろうとも十分妥協できる話と思うの」


「おや。人の感情は利得だけで割り切れないのは先ほどご自身……。失礼。失言をする所で御座いました」


 今、『失言』に対しての意見が全員完全に一致した。ある意味全然変わらない人だわ。十歳から明らかに成長してるのに変化無しって。存在自体が矛盾してるよ。


「グレース殿のお言葉は正しい。されどマリオがビビアナの配下になった。と、史書に刻まれるのは巨大な問題です。ビビアナがランドへ向かうと取り決めた瞬間より、配下の賢人皆で何とかしてマリオの気を宥めるべく知恵を振り絞っておりましょう。

 しかし、わたくしの存じ上げますマリオ・ウェリアは血筋で勝ちながら継承争いに負けた所為か、完全なる己の決断を歴史書に刻むが最大の望み。

 命さえ無くなる。となれば話は変わりましょうが、ビビアナが本領から離れている現状は見方によるとビビアナを追い落とし、マリオがケイ最強の諸侯となる絶好機。

 この争乱の勝者として巨大な石碑を建てる欲望に、力の満ち満ちているマリオが抗えるかというと……無理で御座いましょう。我が夫をガーレ殿にする賭けをしても良いくらいには自信が御座います」


 言われた筋肉が口を開きかけ、閉じて距離を。私並みに尻尾まいた動きですね。

 意外に賢い。妻帯者だからだろうか。恋は人を盲目にするが、結婚は視力を戻してくれる。と言うもんな。

 リディア相手に喧嘩したお歴々は皆眼病だろうし結婚すると良いのかも。


「マリオと、ビビアナの同盟か。日々の忙しさにかまけて全く考えていなかった。確かにそう成れば……ワシの命で済ませてくれるなら泣いて感謝すべきだろう。

 リディア殿。配下は凡そ領地の対処に使ってしまっている。ビビアナの動向、幾らかでも教えて頂けるであろうか」


 で、しょうね。私は言われた仕事をするだけでお気楽だが、あれ? 何かグレースが言いたげにこちらを。……あ、真田を調べてと言ったの負担になってたり? ごめんね。でも口は出せませんので悪しからず。身の程を知る木切れなのです。


「父が王都に今も居りますので、ある程度はお任せを。ただご想像頂けるとは思いますが、王都は今少しでも野心ある諸侯の手の者が跳梁跋扈しております。捏造された噂も多く、細かい話となるとお時間を割く程の物は無理とご承知願います」


 さっきまで全員斬り捨てる気とまで感じた人が、分を弁えた臣下にしか……。

 カルマが微妙な表情になってるのも良く分かる。このお嬢さんと接したら態となのか、見切りと展開の速さに脳がかき混ぜられてるような感じがするのだ。此処に居て集中して聞いてる人は皆比喩抜きで頭痛を感じているはず。

 ―――お、やぁ? これ、論に異論を挟めないのなら、無理に決まってるが、リディアは姉妹にとって更に機嫌を損ねられない人物に? ……姉妹にどんな気持ちか尋ねたくなってしまった。老練さ。とでも言うべきなんでしょうか。このお嬢さん私より年齢詐欺してそう。


「あ、ああ。分かるとも。よろしく頼む。

 では……これが良い話し合い、になったのだと願い解散にしよう。皆も考える事が多かろう。可能な者は休むが良い。フィオ、官吏の者たちにやはりワシと妹が今日はもう休むと伝えてくれ。

 グレース、リディア殿、ダンは残ってくれ。今一つ話したい事が有る」


 うぇええ。私も静かに考えたいです。この後倉庫もある……あったな。私も話したい事が。リディアが衝撃的過ぎて忘れてた。まー、話したい事と言っても本来はリディアだけで良い事に決まってる。気楽に聞かせて頂きましょう。

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