カルマが椅子の後ろに置いていた物1

 せっかくですので

https://www.pixiv.net/artworks/91059409

 グレース

https://www.pixiv.net/artworks/89241977

 ダン 物見戸様の絵を見てからお読みいただけますと、楽しさが増えるかもです。

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 皆さん出て行かれ四人だけ。で、お話し……え? グレース様が、直々に扉の外を全てご確認なされてる。

 えええ。どんな話なの。ビビアナの宣戦布告とか? リディア、何か私に教えてくれてなかったりしま……あ、訝し気。目に見えるとは相当だ。

 グレース椅子の横に立ってからカルマが立ち、後ろに回って……木で出来た行李こうり? 重そうに見えないが、両手で運び椅子の前に置いて一息。何か良い匂い。香木で作られてるのか。美麗な細工彫りもビッシリでお高そう。

 なんだこの緊張が目に見える慎重さ。家宝とか? 私関係あるのかな。歴史的一品を見せてくれるとかなら嬉しいけど。

 蓋を開けて、中からは……又箱? 頑丈そうだけど安っぽい。だが何処かで見……た。あ、ああ。ああぁああっっ!!!! っかーーーーーーん!!!!


 かかかか、勘違い。あ、グレースさん。そのお高そうな箱をどかすついでに、その安っぽい箱もどかしては、カルマが懐から、やだ嘘でしょ。仰々しく刺繍をされた絹に、私がぽいぽい投げてた鍵が包まれてる。……慎重に蓋を開けて、中から取り出すのは、布では……布じゃあああああん!! いや、いや、嫌ぁあ! 私のやらかしが! 息を当てるのも恐れ多いかのように、聖櫃みたいに扱われてるううぅ!! 石の書き板に謝って! 私が謝るべきかも!!


 カカカカ、完全に忘れてた。おちおちおち、落ち着き! つい先ほどのリディアを思い出し彼女に倣うんだ。あ、まず口を手で覆おう。考えてる感じで表情が隠れる。何より使ってないと慌ててるのが手に出てしまいそう。そして考えてた言い訳を。散々準備をしたんだ覚えてる。えっと、なんて言うんだっけ!?


「それは、かつてランドへお届けした我が君の文。で宜しゅう御座いますか。扱い方がわたくしには解せませぬが」


「ほぅ。……なら、この布の文字を書いたのはリディア殿では無いのだな。内容も知らぬか?」


「内容を知っているつもりでは御座いました。……ただ書いて収めるのをお任せ致しました故、詳細には」


「来て読むがよい。是非、意見を聞きたい」


 待て待て。もうちょっと待って。出来れば一月。練習し直したい。

 あ、手に取って一瞥で、固まっちゃった? き、気のせいだ。お嬢さん何時も固形物の気配在るもの。


「―――ふむ。中々の、名文ですな」


「……その名文だ―――けど。知っている内容なの?」


 今、喋るのが止まったの、もしかして私が手を口から離したから? 誰もこっちを見ようとしない。が、当然意識されてますよね。ででぇ、リディアまで手布を取り出して、それ越しに掴み直しおった……。くあぁ、床を転げまわりてえぇ。

 扱いからしてこの四人以外に知られて無さそうなのは救い。でも口止め出来ないし今後は……いや、言わないかな。未来予知を信じる領主は聞こえが悪すぎるはずだ。

 あぁ……。種を適当に、撒いてはいけませんでした。刈り取る為に何でもしないといけなくなる。


「後半は、凡そわたくしのお教えした通り。……お二人の表情からしてお読みになった時はさぞ驚かれたのでしょうが、陛下と周辺の情勢に明るい者であれば、出来なくもない予想なのです」


「誠……のようだ。大したものとしか言えんな。ワシは後半の内容にも震えたぞ」


「ええ。あたしも確定する『予言』と感じたわ。それで前半は? 

 この『確定していた予言』も貴方が? それともダンだけで書いた物なの。或いは、あたしたちが理解出来なかった仕掛けでも?」


 空気が固まったかのよう。それとも失敗の直視が嫌で動きにくいのか。

 もう限界。頑張れ私。幾らリディアでもこの尻ぬぐいは無理。無駄に苦悩させてはいけない。心なしかいつもより更に表情が固まってるじゃないか。


「この、前半は」「いやいや。皆さんにそのように受け取らせてしまい、誠に申し訳ありません。その前半は仰る通り私が勝手に書き加えてしまったもので、何といいますか……作り話を書いたくらいのつもりだったのです。

 まさかあのように当たるとは。私も驚きましたが、皆さんの驚きも相当だったようで己の恥に震えています。お二人が気になさっていたならもっと早く説明すべきでしたね。改めて……御免なさい」


 姿勢は美しく。動きに乱れのないよう頑張って一礼。……顔を上げたら皆さん楽しい冗談を聞いた笑顔に―――なってないね。

 疑いと戦慄が見える警戒の表情。私が途轍もなく恐るべき人物であるかのような。

 自覚はある。そうなるだろうな。とも思う。が、止めてください。


「作り、話が偶然当たった。と、言うか。ワシにはそれこそ作り話に聞こえる。誓って言うが、もし本当にこの書が超常の業であるなら必ず礼は尽くす。態度をお望みどおりに改めもしよう」


 英明であらせられますご領主様。だが実質作り話です。数か月考えそうすると決めたんです。詳細な予言なんて話より、論理的に正しいと誰でも言うと私の理性が言いもした。この国の貴族の理性でどうなるかは知らないけど、トーク姉妹は論理的な人だから大丈夫になれ。


「誠意に感謝しますカルマさん。私としても適当極まって申し訳なくなる話なんですが、リディアさんの予想を書いた後、埋まってない期間が長いな。と感じまして。

 大事な将来の話は当たりそうでした。なら寂しい所を当時の分かっている状況から物語を作る感じで書いて、私がどの程度か知って貰えば一挙両得と考えたんですよ。

 そもそも外れていればお見せしませんし。もし何かで外れたソレを見られてしまえば、身を投げ出してトーク閣下に謝罪しよう。とまで考えていたのですが……。謝罪します? 物結局思い悩ませてしまった訳で、お詫びした方が良いのな、とも」


「いや結構! あぁ、その、何だ。今があるのは、何にせよこの書のお陰でもあるからな。詫びて貰う事は無い」


 あら残念。如何に情けなく見えるか努力した師玉の土下座なのに。手を使って四つ足で這い、足に縋ってやろう。とか色々考えたのに。

 何より疑わしい目線のままなのが残念。兎に角主張を重ねて行こう。何より低姿勢を忘れずに。


「寛大さをお示しくださり有難うございます。そして仰る通りソレはお二人を助けようとした努力で出来た物なのは、覚えておいて頂ければ。しかしお二人ともまだ予言、ですか。そんな真似を私が出来るとお考えのように見えるのですが……」


「少なくとも、貴方の書いた物語が偶々現実と同じ結果になった。よりは予言の方が納得出来る気はしてるわね。……あたしも、預言者が相手となれば正しく敬意を払う。だから、本当の事と恨みがあるなら今言って欲しく思うわ」


 チッ。うっせーよ。反省してまーす。……なんだっけこれ。

 いや、次の言い訳はどうした。現実逃避せず過ちに立ち向かわないと。頑張れ私。


「本当に勘弁してください。それを予言だと仰るのなら『今後も未来を教えろ』となりませんか? あ、分かった。それを口実に私を拷問して殺す気なんですね。

 余りに酷い話だ。無能非才の限りを尽くし、生涯に一度と思われる豪運を使ってやっとお助けしたのに。先ほどのリディアさんとの会話からしても悪くない結果と感じておられるんでしょ? なのに予言者呼ばわりから無理難題押し付けて拷問殺しなんて、正に天罰が。私も全力で呪います」

「待て待て! それこそ作り話を事実とするな。ワシはこの書が余りに超常の物だったのでそれを書いたのがダンなら……今までの扱いに不満を感じて祟られては溜まらんと心配だったのだ。此処まで的中した書を見せられては当然であろう」


 ふん。口では何とでも言えますよね。でも「我が君。思いますに、お二人が貴方様の扱いを決めた際、予言者であるという戯言も考慮されているのではありませぬか。違うとなれば……如何に扱うおつもりか。お答えを」


 わ。ありそう。予言者だから内々に意見を聞けるよう場を作った? 酷い誤解だ。


「―――そうね。今一度考えようと思」「我が君。トークを去りましょう。お二人は先ほどの話をもう忘れておられる。この若さで呆けてしまった事は哀れですが、巻き込まれて四氏族の怒りを買った愚か者の一味となっては溜まりませぬ」

「ごもっともです。カルマ閣下。グレース様。今までお世話になりました。お二人のご健康とトークが千代続く事を願っており」「ま、待ちなさい! 冗談に決まってるでしょうに。ダンの扱いは今までの功績と、今後の必要で決めたの。変更なんてしない。……作り話が偶々当たった。と言うのなら、そうなんだろうと思うだけ」


 愛想笑いとは珍しい。やはり口八丁だけで納得させるのは無理だよなぁ。でも後でじっくり考えれば、きっと、預言よりは偶々だと納得してくれる可能性も。

 これ以上は無理と見切るか。外に言いふらすような類では無いし、ジンさんが静かにトークの動きを見張ってる。訳の分からん誤解で命を狙われても大丈夫。……念のため逃走経路の数が増えないかもっと考えとこ。後は心の平安の為に、

「何か提案した時『予知を使った話では』なんて期待するのは止めてくださいね。こんな私の書如きを、厳重に保管するくらい驚かせてしまったのは改めて謝りますが」


 ヒョイっとな。そしてポッケないない。『あっ』みたいな顔してるが知りません。この予言書は後で焼くとして、

「兎に角、コレが予言書だろうと何だろうと、一回限りで今後はこんな真似出来ませんから。フィオさんも言ってたじゃないですか。一回幸運があっただけで今後使える奴とはならない的な事を。お疑いに関してはあの通りです。

 さて、話は以上でしょうか?」


 姉妹が顔を見合わせ、今はそうしとこうかみたいな頷き。

 やれやれ。実に愚かな話だった。あの時筆が何か乗っちゃったのはアホでした。まさかこんなに当たるとはお釈迦様でも思わないよ……。シッダルッダ王子は人生の考察者で予言者じゃないから当然だね……。


「……うむ。そちらから何か?」


「はい。グレースさんとの理解を深めたく思いまして」


 訝し気なお嬢さんから敵意は感じない。……少し怖いが、さっきの争いも考えれば働きかけた方が良い。何より次だ次。予言者ダンなんて印象を消すため派手に行く。

 さ、て。剣は右腰。なら右側から。その方が抜剣を押さえられて安全でしょう。で、肩を組んじゃったり。……笑顔を返してくれず少し不快そうだが、手を払いもしない、か。慎重で有難いね。


「どんな、話しなのかしら。貴方を認めたのは、馴れ馴れしくしても良いとの意味では無いのよ? 今の話でも、今まで通りの対応を望んだのでは?」


 勿論ですとも。私としても女性と肩組むなんて面倒を起こす真似大嫌いです。しかしこうでもする以外揺さぶる方法が思いつかなくてね。


「当然外でこんな態度は取りません。ただ、グレースさんを私がどれだけ気遣ってるか。知って欲しいんです」


 苛立つかな。と思ったのに目には見えないか。やはり警戒されて心の構えが高くなってそう。予言者ダン。泣きそうな響きだ。北では精霊王ダンだったし。必要なら何にでもなるつもりですけどね。超常の存在は困る。想像外の影響が出かねない。


「言葉が通じるのか不安が出てきた。ついさっき其処の椅子に座ったのは誰? 貴方には理解しがたいのでしょうけど、顔を土足で踏むより酷い気遣いだから」


「それは改めてお詫びを。失敗と思っていますし、二度と致しません。

 しかし、やはりグレースさんは私がどれ程気遣ったかを気づきもしてないように感じますね。つまり、今貴方の肩を掴ませて頂いているこの手。本当は何処を掴みたいのかという話なんです」


「……話が全く見えないわ」


 あらま。本当に訝しそう。……真面目に箱入り娘さんなのかな。


「何処にでもある話と思うんですがねぇ。グレースさんのような若くお美しい女性と言葉を交わせる間柄になったのですよ? 当然掴みたいのは肩ではありません。出来ればこの手を下げて、貴方のお尻を掴みたいのです。自分の女として、手綱を握るように強く」


 苛立ちがやっと見えた。しかし振り払いも、体を引きもしないとは。忍耐力あるなぁ。少しくらい気持ち悪かろうと私の思惑を見るのが先。という感じ。この国の貴いお嬢さんは皆こんなに立派なのだろうか。


「貴方が、其処まで己を知らなくなっていたとは知らなかった。四氏族の機嫌を損ねるのが怖くても、庶人の女になれとまで言われれば話は変わる。 

 ああ、先の賭けは貴方が前に願っていたからだった? だとしたら残念ね。あたしを抱くのは不可能だと諦めて頂戴。お互いの為に」


 ウゴ。あっぶ。笑顔が崩れる所だった。でも良い読み。そういう事でも良いが……リディアをそう絡ませるのは後が怖いよ。神聖不可侵気味なんですあの子。


「いやぁ、流石に年若いリディアさんへそんな頼みを出来る壊れた脳みそは持ってませんよ。でも、私の深い所にある願望を読まれてしまったのかもしれませんね。実はそう感じてヒヤっとしました。

 グレースさん、確かにもう貴方を抱くのは難しい。こうやって親しく肩を組ませて頂けるだけで光栄です。しかしそれこそ私が貴方を気遣って、抱く機会を見逃したから。だと思うのですが?」


『天地がひっくり返らない限り、そんな機会は無いわよ』と、目で仰いますか。ニッコリ笑って差し上げましょう。


「ビビアナが草原族に宛てた文。実はお渡しするのをまず一通だけにしては。とも考えたのです。そして夜お伺いして残り三通をお見せしながら、

『つい先ほど渡された物です。私はこれから三氏族へ対処をしトークを守る為に、ジョルグ様の所へ交渉に行こうと考えます。

 ただ、未練があるのです。初めてお会いした時から美しいグレース様に恋をしておりました。どうか、私が勇気を持てるよう今夜だけ受け入れては頂けませんか』と、言えば。どうなったと思います?」


 まず断れなかったんじゃないかな。あの時点の私はグレースにとってジョルグから致命的な手紙を引き出した人物だ。代わりの奴を送り込めばいい。と考えるのは自然だけど、懸かってるのはトークの滅亡。実績のある私を選んだろうと思う。

 ま、命の危険を冒してグレースを抱きたい。なんて言うのはもう私じゃないけど。

 でもそんな奴とは分かんないよね。うん。怒っておられる。でも剣に触れてない。ご立派。ちょっと迷った感あったが。


「こ、こ、この! 下種!!」


 ……おお。何か不思議な感動が。真に多くを背負ってる人の言葉は趣きある。

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