進軍開始とあちこちの裏事情

 兵糧を受け取り、書いてある書面の通りの数か確認し、集める場所を作って移して又確認して、書面に書いて、マリオ閣下の大嫌いな真田の兵の本当の数を数えて……。

 でべぇ。仕事、多いっす。この私に全力を出させるとは……。寝ても覚めても此処一週間仕事の事しか考えてない。

 くそぅ。兵糧届けるついでに木でバカバカ殴り合って楽しくやってる脳筋二人が羨ましい。こっちは本気でやって尚追い付けない美少女だかなんだかの上司様を煩わせまいと必死こいてるゆーのに。しかしどうも仕事量に関して違和感が……。いや。上司のご判断である。


 さーてご命令の御遣いも済み。戻ってきました魔王城。もとい美少女上司の天幕。

 ……でびゃぁ。片していた私の机にやっぱり木簡が積んであるぅ。でも上司様はもっといっぱい今も羽ペンでカリカリしてるぅ。以前座りっぱなしは体に悪いと話したのに従って立ち机で。美しい姿勢ですね。溜息が出ます。

 あ、下僕ちゃんが頭下げてくれた。相手より深めに下げておきましょ……。うん、お茶有難うございます。軽食までなんて素晴らしいですね。そしてその次って感じで机に筆記用具置いてきおる。……主人が主人なだけあって容赦ねぇ。文句、言えませんが。服の洗濯とか私の分までして頂いてますし。

 はぁ。いいですとも。サボって怒りを買うような度胸も御座いませんからね。


******


 一段落、は、したけど。目の前でどんどん仕事が作られてるぅ。ぬぅう。それにこれやはり。ご上意にはござれども。直訴を、した方が、流石に……。


「リーアさん。僭越ながらお尋ねしたい事があるのです。よろしいでしょうか」


「何時でも。何なりと」


 今も書類を処理し続ける集中力は何処から来るのですか? 疲れないの?


「私どもは既に大分先の分まで仕事を処理している気がします。その、人数に対して余り仕事が出来るのを見せすぎると、目立って余計な詮索を招くのでは。加えて皆も疲れて来ていますし。私も、もー少しゆっくり仕事がしたいなー。なんて」


 どうょ言ってしまぁたです。逆らう気が無いのはきっと分かってくれるはず。

 ……ヤルと思えばヤレてしまう相手に述べるのは……心臓が。ま、まさかね?


「皆は疲れさせております。此処に居る者はおおよそわたくしの手足とするであろう者ども。お互いの現在の限界を知っておくのは必要で御座いますから」


 あ、そういう必要の鬼ですか。自覚の無い方も居た気がしますが……。派手に派閥形成するとトーク姉妹の反感を買いそうだからかな?


「外聞に関しては……確かに。ただ今までは外から見えにくい仕事を選んでおりますのでご心配なく」


 成程。良かった。今の仕事量を期待されたまま、イルヘルミにバレたとかでこのお嬢さんに戦線離脱されたら私ら突然無能になった挙句罰を受けて死にそうだもの。それに限界なら、やっと休め……、わ。筆をお止めになって、こちらをご覧に。ななな、何でしょう。


「ダイがお疲れであるのには謝罪致します。仕事を与えるほど手際が増し日頃なされていなかったはずの物まで無難にこなされるのを見て、何処が限界かと好奇心に衝き動かされ。

 加えますと日頃どれだけ怠惰にしていらしたのか。と、少々尻を叩きたくなりまして御座います。……お怒りになられましょうか?」


 ――――――。え、何それ酷い。直下の三下としてボトルネックになるまいと倉庫上司のやり方を思い出して頑張ってたのに! 私の誠意をもてあそんでたなんて! 

 日頃だって仕方ないでしょ。職場が回ってれば波風立たせないよう頑張らないのは基本なんですぅ。尻を叩く側のお嬢さんには言えませんけどぉ。


「リーアさんにもっと働けと言われたら恐縮しか出来ませんよ。

 しかし日頃やっていない事は間違うのじゃないかと非常に恐ろしくて。せめてゆっくり確認させてください」


「十分確認なされておりました。そも動かしている物が今使う兵糧で御座いますし遺漏あれば直ぐに分かりましょう」


 それはそう。目に映る物が全てだから全員がある程度真面目ならミズホりはしない。でも何か変なミスを仕込んでしまってるのでは。と未だに不安になる。……前世の業、だな。

 お。鈴を三回と二回お鳴らしに。ふいぃ。お茶の時間だ。今頃下僕お嬢さんが茶器を持って調理場へ湯を取りに走ってるはず。火傷に気を付けて頂きたい。


「何にせよ今後はゆるりと致します。わたくしも他の者たちが『遊びに行けぬ』と呟いているのは存じておりました。長く不満を抱かせるのは悪しゅう御座いましょう。ダイも誘われているのではありませぬか?」


 ……。その遊びは。いや、言うべきじゃない。


「はぁ、一応。断りましたが。私としてはここら辺で取れる食べられる野草とかをまず探したくて。何か美味しいの生えてると嬉しいのですが」


 近くの民家で遊び半分に情報収集致したい。『兵の一人で不満が無いか尋ねまわっている』と言えば上げ膳据え膳だゲヘヘヘ。特産品も直売してもらえるはず。乾燥果物とか。


「……ダイ。非常に私的な事をお尋ねさせて頂きたく。公的な意味も御座いますれば」


 怖っ。何よそんな強い……何時もの目つきで。兎に角心を整えて……、

「どうぞ。何でもお尋ねください」


「お体に何か問題が? 男がご趣味でも相応しい者は居りましょうに」


 ―――どういう遊びかご存知でしたか。しかしそれを年上の男に聞いちゃう? このお嬢さんなら見向きもしない類の配慮とは分かってますが……。


「健康です。男にお相手願う趣味は全くありません。気遣ってくださるのには感謝しますが、この質問、何処に公的な意味があるんでしょう?」


「うむ。存じてはいましたが無欲と言うか無関心と言うか。流石の一言。

 では単刀直入に。現状トークの姉妹がまず考える無難な選択は貴方様と姉妹の婚姻です。

 その為に様々な確認をしようと二人は思い悩んでおりますぞ。姉と妹どちらが相応しいか。本命である我ら三人がそのままトークの臣下になるのか。等々。

 中でも最たる疑問は『ダイが女を抱けるのか』。

 貴方様は娼館に近づきもせず下級官吏仲間の女に手を出す気配も無い。これはご職場でかなり有名なお話しと聞き及んでおります。

 もし貴方様が子を作れぬのならこの婚姻は不可能。あちらとしては最悪の野心を抱かれていた場合の最善の処置という心の拠り所を無くしましょう。

 故に非礼を承知で今一度お尋ねいたします。子は、お作りになれますでしょうか? 出来ますれば姉妹との婚姻をどのようにお考えかもお教え願いたく」


 ………………。成程。分かる分かる何時の世にもある基本だもの。しかし自分がそういう対象になるとは。そりゃ向こうから見たらとは思うけど。あり得な過ぎます。


「子供は多分大丈夫です。私はかなり健康でしょう。姉妹との婚姻はトークが滅びそうにないとなるまで、提案もあり得ない話と思いま……あ。ああ、成程。

 以前、お姉さんからのアレは……そういう確認でもあったんですね」


 あのはしたない真似の理由が恋や欲とは思わなかったけど、不能かどうかを政治的に確かめてたとはね。……気づく訳ねーだろと言いたい。が、甘えだろうな。


「やはり箱を賜る前、二人のみの間にそういった話が御座いましたか」


「お? ……おお。良く分かりますね。困惑が顔に出てましたか?」


「いいえ何も。必ずあると考え、良くない受け方をなされていれば事だと案じておりましたのでわたくしの方こそ困惑致しました。入れ」


 へ? あ、下僕お嬢さんね。ふぃ~。焦る話題でした。わ、蜂蜜菓子だー。ゴチです。


「しかしそうなりますと誘われても娼館へ行かぬのは何ゆえ? 貴方様なら態々断らないように思えます。加えて種々の確認の為、数度は女を買われる方だとばかり。

 特に今集まっている戦場娼婦たちは雑多な場所から集まって来た者たち。好みの女が居らずとも面白い話を探しに行かれるとばかり」


 続けるの!? 十代ド真ん中である貴方の下僕嬢が茶の準備をしてるのに、風俗の話をしろと……。何だこの上司。世が世なら大問題だぞ。変なのは私の方と分かってますが。

 そうよ上司の目にお嬢さんはいる。なら考えるな。貴族の臣下におもんばかって貴族を放置したら正気じゃない。―――すぅう。はぁあ。澄ましてろ。目の前の彫刻像みたいに。

 しかしこの彫刻像、ほんっと私の事良く分かってる。正解。好奇心は疼いてます。でも、

「実は娼婦の方からダニ、ノミ、特に疥癬。リーアさんの知識だと……蚊に散々噛まれたのがずっと続く感じになるのをうつされたくなくて。客引きに手を握られるだけでも危ないので、娼館自体にも近寄らないようにしてるのです。

 特にここの娼婦の皆様はそーいうのが多い南方からの方も居ます。痒さでしょっちゅう眠りの邪魔をされたら拷問じゃないですか。

 ……レイブンさんにトークの人たち専用の娼婦を連れて来ては。と相談したくらいでして」


 昔介護経由で感染して大変だったのよね。それに今もはっきり覚えてる大騒動を引き起こしたコロナは無くても、インフルくらいはあると見た方が良いし。危険満載過ぎです。

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