二領主との戦い 4
「ダン殿が早朝に話しに来るのだから、当然早く抜けた。……その、人払いは完全にしてある。だから……以前のように、話してくれれば有難い。せめて顔を上げて頂けないだろうか」
人払いは完全。一番重要だね有難うございます。しかし、
「以前のよう……で御座いますか。そう言われましても、ジョルグ様はあの頃の十倍以上の人々を統率なされるようになったと聞いております。ですのに、下級官吏が精々の私がかつての、友人であるかのような態度を取っては……余りに不敬ではありませんでしょうか」
……長い。何を考えてるのだろう。立場の違いを弁えろでも良いから返してくれないかな。それでも色んな確認は出来る。
「……ダン……殿が。このジョルグを友人と考えてくれるのなら、心より、喜ばしい事だと思っている」
おほーう。まーじで? ちょっと信じられないのだけど。でも、伏せたままチラッとご表情を見てみたり。
……なんでこんな緊張した顔してんの彼。うーん? 単なる真面目な顔なのかな?
兎に角そー言ってくれるのなら私としてもやり易く有難い。
まず体を上げてみましょうか。
「情けないほどか弱い身としては、友人と言うのは身に余りますが。ジョルグさんの素晴らしい謙虚さに甘えさせて頂きます」
「う、……うむ。親しく、させて欲しい」
大丈夫そう。ふんむ? 友人ねぇ。……まぁ彼らに命掛けるのは今更か。
立って、隣に座り。……肩を組んでみたり。
まぁがっしりした体ですこと。戦いの中で鍛え上げられた。ってやつなんでしょうか。そしてご表情は……怒は無く更に緊張してるだけに見える。良く分からんが、とりあえず良いか。
「ではジョルグさん。友人なら正直であるべきだと思うんです。見栄を張らず、不快ならば我慢せず。お互いに可能な限り正しく相手を理解しようと努力する。お願いできますか?」
「あ、ああ。勿論だ。決して嘘は言わぬと誓う」
「有難うございます。まず色々と確認を。実は皆さんを援軍にお願いしたと言った時、トークの皆様から滅茶苦茶な高望みである。みたいな事を言われましてね。複数の氏族を統率し、略奪させず、今回みたいな複雑な動きを頼む。ジョルグさんへの苦労は並大抵ではなかろう。と。
私は……お恥ずかしながら護衛の方と話した感触で、鼻歌交じりとは言わなくても、普通ぐらいかな。と考えてたんですよ。何も分かってなかったのなら本当に申し訳なくてですねぇ。どうだったんでしょうか。実際のところは」
「は。昔なら、確かに無理だと思う。しかし今はオウラン様に逆らう者は居ない。面倒はあっても良い訓練だったと。自分は考えている」
……口調おかしない?
「あれ? ビビアナから使者が来た四氏族は、逆らったので殺された。みたいな事を聞きましたが? 同じように指示を聞かない人たちも居るのでは?」
「あ、あれは。四氏族は逆らったと言っても、どうしようもない奴がオウラン様の目を盗んで小さく略奪して益を得たいと考えたくらいで。今のオウラン様に逆らう者は気狂いだと自分は考える」
おやまぁ。それは想像以上の統率。凄いなオウランさん大したもんだ。どうやったのか好奇心が疼いちゃう。私が知っても仕方ないが、何時か手法を聞けると良いなぁ。
「成程。ジョルグさんに無茶をお願いした訳ではないようで安心しました。次に働きに対して、得たものはどうですか? 配下の皆さんから不満が出てるような話をちらほら聞きまして心配しています。或いは、トークからの聞いた話以上の死人が出てたりするのではないかと」
「は。それは……」
真正面を見てる目が泳いでる。……やはり、おかしいな。どうしてこんな態度をする?
「その、損失は、本当にほぼ無い。ダン殿が心配していた敵軍を邪魔する際の待ち伏せも、入念に斥候を出し防いだ。勿論皆無では無いが、そいつらは自分の命令を無視して突っ込んだような奴らなので……。
ただ、その。働いた分に対して、不満という程ではない戦利品はトークから得たと自分は思うのだが、これだけの成果なら、せめて捕虜となった兵から奴隷を得るべきだ等と言う奴は、確かに……居る。も、勿論何もさせぬ。ダン殿から話があったトークから得られそうな褒美も……その、自分には良く分からない所もあるが、何にしても貰えるわけで……」
「褒美に関しては後で詳しく話しましょうか。それよりも、ですね。聞きたい事が有るんですよ」
あ……不味い。苛立ちが、すこーしばかり。もう一か月前なんだが、私ってしつこいのね。しかし……、
「一戦目、終わった後。貴方が交渉に来てくださった時。私を狼に食わせたいので引き渡せ。と言いましたよね? あの私が聞いて無かった提案。言葉通りじゃなくて、もしもの時私が殺されないようにした。と思ってるんですが……勘違いでしょうか?」
マジどーなんだ若造。
「は……その通り……です。ダン殿の立場ですと、トークの機嫌だけで死にかねないので。勿論、お望み通り護衛はしますが、万が一を考えると……あの程度は。ッグ」
……。あ。怒りと、疑問が合わさって衝動に。
左手が、動いてしまった。ジョルグの腹へ。凄く奇妙な感触だ。手が痛いわ。
「なぁジョルグ。私がな。そっちが私を軽く見てるように見せようと。散々努力してるの。知ってるよな? 私の立場も。無茶な提案も。無力だから許されると思わねーか?
言い方考えてくれたのは有難い。だがあの三人は賢い。じっくり考えて、ダンは大事にされてる。草原族を動かせるかも。なんて結論されたら。私も危ないし、そっちだって危険視されて敵視されるかもしれねーんだぞ? オウランさんに要求するようお願いした今回の見返りも不可能になる。ああ、親切にしてやったのに文句言うなと思うか?」
「いいえ。お怒りになるかもとは。しかし自分とオウラン様には貴方が死ぬことは決して認められないのだ。……です。見返りが駄目になろうと幾らかでも貴方が、危機を逃れられれば、と。どうかお許しください」
「……。言った以上今更ではあるし、有難い話なのは分かるんだが……。私の価値はトークとケイの内情を詳しく伝えるのが殆どだろ。その確率を下げてどーする。馬にもまともに乗れない奴なんて、それこそ狼に食わせて遊ぶ以外そっちで使い道あるのか?」
なぁおい。違うか若造。アホな返事したら今みたいな遊び抜きで腹殴んぞ。
しかしこいつ……少しの苛立ちも見えない。何故だ。
「ダン、殿は。恩人です。我らにも恩を感じる心はあるのです。それに役立たないと言われるが、以前のように子供たちへ文字を教えてくだされば良い。
もしくは、貴方は誰にも何も話されない方だから、自分の所で書状を書いて読んで下さっても。その時は考えを相談させて頂ければ自分も有難い。も、勿論、お嫌でなければ、です」
―――え。何その最高な就職先。
「……先生に、ジョルグさんの書記。…………。良いですね、それ。あの、その時は……そちらでは見向きもされなさそうな私の為に、お嫁さん探しに協力して頂けたり、します?」
「よ、嫁? う、うむ。勿論ですとも。草原族は当然、ダン殿が来る頃には山と雲さえ従えてるかもしれぬ。三部族で最も優れた女を妻になされるが良い」
「お嫁さんとして欲しいのはもうちょっと身の程に合った方ですよ。というか最も優れた女性なら誰か決まったような……いや、そうじゃなくて」
成程。ジョルグとしても考えた末の判断として、私を守ってくれようとしたのね。
なら怒るのはおかしいよな。元から私が彼らにしてるのは大きなお世話。後はその選択に任せようと決めてたじゃないか。
私の命がどーなろうと、彼らが上手く行かなくて失敗しても、それは彼らの選んだ未来だ。怒っては筋が通らん。
初心忘れちゃ駄目。
……やはり夢、あるよなぁ。そうなればジョルグさんの精神科医もどきが限界で、ケイは当然……オウランさんたちへも殆ど働きかけられなくなると思うけど。
タラタラ働きつつ、可愛い尻尾つきの奥さんと絆を積み上げ、後世の歴史家が喜ぶような歴史書を書くのだ。ついでにその歴史書の面白娯楽小説を書いて金稼ぎしても良い。
はー……。夢溢れるお話しを続けたいが、そんな時間が無い。今もどー考えてもおかしい確認が必要な事が出来たし。
「んー。ジョルグさん。実は私、さっきからすっごく不思議に思ってる事が有るんです。笑われて当然の誤解とは思うんですが。
貴方。もしかして、私に怯えてませんか?」
肩組んで、腹殴られて。なのに肌に見える水滴は冷や汗では無かろうか。
「は……。はい。ダン殿の怒りに触れ、畏怖しております」
「理由は? 私は貴方が片手でも殺せる人間ですよ?」
沈黙。からの深呼吸。……十万の猛者の上に立つヤベー奴に覚悟が必要な理由?
「近頃、草原族では最高の贈り物が金糸になっているのですが、全く足りず金に近い色。黄色でさえ取り合いになるのです」
突然何の話? とは言わない。話は最後まで聞くのが大人である。しかもこれ程の人が覚悟を決めたとなれば。……ちゃんと繋がるのかなこの話。
「それは、ご存知かもしれぬが、我らは赤子の服に魔除けの刺繍をする習慣があって、誰もが今までの魔除けを使わず金色の、糸が足りなければ尻尾だけでも金に近づけた狼の図を使うようになったからなのです。
戦士まで、新しく金色の狼を刺繍したがるようになりました。強さと、賢さを願って」
……あ、はい。最新の流行は分かりました?
「……つまり、金色の狼は。オウラン様の呼称なのです。オウラン様の配下となった者にダン殿が教えてくださった赤子の世話を広めると、親の嘆く声が消えました。それで民は恩恵を願う相手として、今までの精霊では無く。風と大地の、精霊の王から祝福された金狼だとして、オウラン様を選ぶようになったのです。
戦士達も同じく若くして草原族を統一したオウラン様から、精霊の祝福を受けようと刺繍を。誰が、精霊の怒りを恐れないでしょうか。それで、先ほど言ったように草原族でオウラン様に逆らう者は……居りません」
精霊に祝福されし金狼オウラン降臨。
なんか、どっかでこーいうの聞いた事あるような……。
あ。中学生を騙すために作られたカードゲームとかそんなのだ。何とか病ってやつだ。
冗談にならない。不味い。いや、統率力の一助には
「どうか誤解無きよう願います! 自分と、オウラン様は貴方様から教えられた事を忘れてはおりません。ケイが、貴方の言葉の通りなっていくのを見て自分とオウラン様は恐怖に怯えもした。ですから、当然受けるべき畏敬を、我が物とするのは嫌だった。しかし、その、貴方様に言われた通り、名を伏せていたら何時の間にか!」
「! あの、耳が痛いし周りに聞こえますから、声を小さく。それとケイがどうなるかは賢い貴族の方なら予想してた人も結構居ると、お話ししませんでした……うん? その仰りよう。……えーと……もしかして、オウラン様を祝福した精霊王は……。
――――――。私が、人間では無いと言えば、お信じになったり、とか?」
「……。疑いは、しませぬ」
―――。文化差という石を、千年を越える感覚の差で削ったら。
精霊王となった自分の像が出来てました。
分かる。分かるはずだ。成程。とりあえず成程と思おう。確かに赤子が生き延びるよう頑張って伝えた。ジョルグさんやオウランさんが死なないよう、矢傷の処置とかも教えた。馬具も与えた。
馬具はこの大地のどっかで使われてるかもしれないが、何にしろ強力だ。赤子とかも真面目に広めてくれたのだな。良い事だ。遊牧民は幾ら増えても困らん。
赤子関連の衛生だの何だのが確立するまでは、ざっと千五百年は掛かる。……うむ。精霊に美少女を捧げようと得られそうも無い祝福だ。成程。おかしくない。
しかし……これは多方面で駄目だ。何時かとんでもねぇしわ寄せがくる。自分を過大評価されて放置するのは脳の育ってない子供だけ。
あ……。ジョルグさんが私を守ろうとあんな事言ったのも、コレがでかい理由ではなかろうか。人外だろうと何だろうと守る姿勢見せないと不敬になる。なんて考えたのでは。
……自分の、無自覚に撒いた種の収穫物みて、激怒しちゃった私、なのか?
は、反省は後にしよう。今は落ち着いて、
「まず、確認をしたいのですが。もしも、ですね。ジョルグさんの美しく鍛えられた腹を殴った無礼者が、軽蔑すべき臆病者なただの人だとしたら。殴り殺そうかな。となったりします?」
よし。実に冷静だ。まずは自分の足元。私賢い。鍛えられてる。
「は? ――――――。いいえ。臆病なただの人だとしても助けてくれた恩人には変わりない。友人と……呼んで貰えれば光栄だ」
「良かった……。で、ですね。私がお伝えしたのはどれも本に書いてあった物です。同じ本を読めば誰でも同じ事を言えます。そりゃ、教えてくれた奴に感謝するのは普通ですよ。でも、そいつには知識を生み出す経験も知恵も無い。
子を産まない羊みたいなもんです。殺して食べて終わり。どー考えても怯えるような価値はない。そうでしょう?」
「そ、そう、なのか? しかし……本から知恵を得たという奴も何人か見たが、ダン殿は……」
うっさいです。納得するんだ。オラオラ。腹に埋まれ私の願い。……こいつ本当腹筋丈夫。変な感触だし締めずにこれ?
「ジョルグよぉ。私の悩みを聞いてくれよ。私はな、卑小な脳みそ絞ってな。遊牧の民であるオウランさんが楽出来るよう、知恵を伝えようとしてる。でもな。基となる経験も、そちらの考え方。環境。なーんにも分かってない。
だから私が人外に賢いとか正しいと考えず、伝えた事が可能で益があるのかを慎重に考え、駄目だった場合損が少なくなるようどうするかまで決めておいて欲しいんだ。でないと何時か途方もない失敗をさせてしまう。
例えば……。殆ど経験が無く、土地にも詳しく無いのに主張だけデカイ愚かな若造の指揮で狩りをしたら。悲惨な事になるだろ? 私はそんな感じと考えてくれ。良いよな?」
「よく分から……あ、いや。うむ。理解、したと思う。ダン殿の言う事は、その、偶に居る突然族長になってしまった子供の指示のように、扱えば良い。のだろうか」
よーしよし。これで何とかなった。と思う。なら次は……前から考えてた爆弾の処理、かな。
……後ろ暗い所があるか、よく観察して。
「そーそー。流石ジョルグさん。貴方は本当に優れた方だ。今回も使者に来てくれた逸材さんみたいな人さえ従えて、完全に統率して見せた。トークの皆さんも驚愕してましたよ。で、昔から思ってた疑問があるんですよ
過去。非常に優れた方であるジョルグさんは、どうして小娘で頼りないオウランさんを殺して氏族長の立場を取らなかったんですか?」
「は―――。!? 自分が、オウラン様を裏切って殺すと。ダン殿は疑っているのか?」
おや、怒らず慎重にこちらを観察する姿勢。……やはり出世する方は違うね。
「草原族は強い者が多くを率いるのが普通なのでしょう? 今でさえ総合的に見れば、ジョルグさんの方が優れてるのではありませんか? 特にオウランさんが氏族の長となった時なんて子供だった彼女より、貴方を。という声の方が大きかったくらいでしょう。精霊に祝福されたとまで言われてる今は無理でしょうけど、そうなるまでずっと貴方はやろうと思えばオウランさんの上に立てたのでは。と想像していたのですが」
「―――そのような話、誰かから聞いたのかダン殿」
「単なる想像です。ただ、何処であろうと起こる自然な話でしょう。それとも、私が知らない何かで不可能だったのですか?」
「自然な話……。そう、だな。そうなのだろう。―――考えた事も無かったが、確かに。自分が長となるのも可能だったと思う。だが自分がオウラン様を裏切るなどあり得ん話だ。……何故このような話を?」
んー、これは。本当に全く裏切る気配が無いような。何か私の知らない縁でもあるのかな。……これ以上疑っても不毛か。止めとこ。
「護衛してくださった方から聞いたのですが、ジョルグさんは今もオウランさんが最も信頼する、副族長と言っていい立場なのでしょう? 私はね、それをとても。とてもとても喜んでいます。
私の知識だと皆さんのような人々の上に立つのは、もしかしたらこの世で最も大変で、どんなに優れた方でもやがて心身ともに疲れて死んでしまうほどです。だから長には全幅の信頼を置ける、悩みを全て相談できる人が必要となる。出来れば役割をある程度任せられる人であって欲しくもあります。
こんな第二位の人物はある意味長より重要で、得難い。
だから貴方が野心を持ってるか、諦めて残念に思っているなら。止めといた方が良いぞー。と忠告するか、諦めて良かったんだよ。と心が軽くなるような話をしたかったんですよ。
余計なお世話とは思いますが、友人である私くらいしかこんな話出来ないでしょ? もし悪意を持って口を割らせようとお疑いなら……困りますが」
友人と言い出してまだ五分未満。それでもこの最大の不安を手当出来る機会、もう無いだろうから是非も無しよ。
「―――自分は、ダン殿のように頭は回らん。こう色々と考えさせられてはそれこそ困る。だから……どう行動すべきかを言ってくれ」
「それは、かえって負担になるような話をしてしまいました。お許しください。
さて、行動となると……。うん。今までのように、オウランさんを助けて欲しい。になるでしょうか。
他の人が言い難い良い所、悪い所を話して上げて、彼女の話は誰にも漏らさず。何でも言い合える関係であって欲しい。
そして今オウランさんに味方してるのは、勝って共に喜び利益を盗もうとする者ばかりではないですか? しかし必要なのは負けた時共に頑張る人です。まず貴方がそうなり、少しずつそんな頼れる味方を増やして欲しいのです」
目の前の戦いと増え続ける配下への対応で忙殺されてれば、味方の選別が疎かになって当然だ。
若くして成功し、煽て上げられた挙句良いように利用されてポイされた人たちを今も覚えてる。あーならない為には今から準備しないと難しかろう。
「確かに。薄々感じていたような気はするが……素晴らしい助言だと思う。他に、あるだろうか」
「はい。オウランさんは精霊に祝福されていると言われてさぞ苦しんでおられるでしょう。それに今は反抗する者を抑える役に立っていても、何か一つ問題が起これば一斉に文句を言いだして大問題になるやつですよソレ。
そいつらは自分は戦いたがらないでしょう。なのにやがて一戦たりとも負けないのは当然、更には圧勝しなければ無能と言いだすと思うのです」
「まるで見て来たかのように言う。しかしオウラン様がお苦しみである理由の一つは、貴方の栄光を奪ってるのではないか。という事なのだが」
「私の望みは何でも良いから私を上手い事使って、貴方とオウランさんが心身ともに楽をする事です。お二人が苦しむような事は全て不本意なので、次があれば直ぐ教えてくださいね。で、その赤子を生かす精霊の祝福の話ですが。
前も少し言ったように本から学んだという者から聞いた話をやってみただけで、精霊から祝福されたといった事は全く無い。オウランさんは単なる優れた族長である。という話を徹底して主張すべきだと思いますよ。今後も何かそういった話が出た時は、全て人から聞いた。です。
騙された等と逆らう奴が出ても、武力で抑え込めるよう調整するのが面倒とは思いますが。でないとやがて赤子が死んだらオウランさんの所為。なんて言われはじめますよ?」
「それは……酷いな。――――――。
ダン殿。自分が友であるなら。幾つか聞きたい。良いだろうか」
「何でもどうぞ。どれだけ失礼に思えても言って欲しいですね」
「……。まず使者に来た逸材とは首にしたあの者か? 何処をそれ程評価された? 無礼の挙句貴方を殴ったとさえ聞いたのに」
「あ、あー。彼は、とても役立ってくれたと思うんですよ。私が要望した通りにね。あの後、多くの人が顔を紫にした私を見て皆さんとの関係構築に苦労してる。或いは情けない奴だ。と言ってくれました。
命を使ってこんなに丁度良く役立ってくれたので、逸材と勝手に呼んだのです。もっともジョルグさんの為、あんまり同じような人が居ないようにとは願ってます」
「ふっ……それで喜ばれるのはダン殿くらいだな。何にしてもお役にたったか。ならあの者の所為で苦労した甲斐があった。
次に……その、嫁。の話だが。最も優れた女が決まっている。と言われたように聞こえた。誰か、意中の者が?」
「はい? 優れた女性ならオウランさんに決まってますよね? 或いは既にご結婚されてました? でしたら失礼しました」
「い、いや、未だ夫は居られぬ……。それは、その。族長となったオウラン様の夫になれば力や資産を持てるから。という意味でか? 或いは……人によっては大変美しい方だと言うが」
「まぁ、オウランさんより可愛い方を見た事無いのも事実ですが。彼女、体がとても健康で、心も未だに長として問題なく出来てる丈夫で頼れる方でしょ? 何より着実に積み上げて今に至った堅実さと、誠意があり、お会いした時は相手の意見をよく聞ける方でした。
何処かで農夫か羊を飼って暮らすにしても、共に生きていく女性として彼女は最上の方でしょ。
それとも数年お会いしない間に何かで容姿が酷く損なわれたり、長の苦労で疑い深く残忍な付き合いきれない方へ変わってたりします?」
あるあるなんだよなー。ルードヴィヒ二世とか。皇帝ネロとか。ネロは元から無理だった説もあるが。
「いや……自分は、お変わりないと思う。ケイの考えでどうかは分からぬが。しかし、そうか。共に生きていく女性として、三部族一か。……初めて聞いた」
「へー。周りに居るの見る目無い人だらけなんですね。誤解の無いように言いますと、優れた女性と言われて出ただけで、オウランさんを妻にしたいと考えるような蛮勇ありませんからね。私は彼女の良縁を心より遠くから願ってます。で、質問は全部ですか?」
あ、まーた緊張してる。
「―――。いや、最後に。もし……我らを敵とお考えになれば。滅ぼせるのだろう……か」
わー……。どーいう質問ですか。しかし……まぁ、
「そりゃー、草原の正反対に住んでると聞く炎の部族にオウランさんと同じ物を伝えて、もしあちらがそれを受け入れれば。後はどちらがより多くを支配下に置くかの競争になって、皆さんを滅ぼす事も可能ではあるでしょうが」
もう一度肩組んでやろコイツ。オラオラ。
「こんなの机上の空論だし、二人の敵になる可能性なんて考え付かねーよ。無理の無い範囲で、勢力を伸ばして欲しい。という希望はあるがね。しかしそれも二人が疲れてしまわない範囲でさ。
……何より大事なのは健康。その為にはどうすべきか。覚えてるか? 守ってるか?」
「お、覚えております。眠い時は寝たいだけ寝る。食事はよく噛んでゆっくりと。怪我や病気になればまず治すことを考える。酒は毎日飲まず、危ない物は食べず。塩味は少なめに出来るだけ野菜や違う物を食べ、太らない事。……それと、悩みを心の中に留めず、無駄に思えても秘密を守れる誰かに話す。どうしても人が居なければ馬に。……守っても、いるつもりです」
「ム、ム、ムー? 実はさっきからずっと気になってたんだが、目が少し赤いよな。今日、眠り足りて無くね?」
「そ、それは! ……その」
「いや、分かってますよ。昨日酒席があったのに、私が早く押し掛けた所為ですよね。悪い冗談を謝ります。友人と言われて調子にのってしまいましたが、外では決してこんな真似しませんのでお許しください。
ま、私みたいなどーとでも出来る奴相手にこうまで言われて耳を傾けられるのは成功の秘訣でしょう。ジョルグさんは大したもんです。後は……今の忠告。オウランさんは当然、長生きして欲しい人、長く使いたい部下にもやらせてくださいね。……これ、守らなかったら。それこそ私不快ですので」
うむ。頷いとけ若造。食事の六割が羊肉なんて冗談じゃねーよ。
貴方たちは私の夢で希望。しかも非常に順調。そちらの選択で潰れるなら仕方ないが、病なんぞに邪魔されるのは御免だ。せめて八十まで健康に生きてくれないと諦めきれんわ。
にしても……金の狼か。良い。素晴らしい。非常に、縁起が良い。
大きく、強く、賢くなってくれ。人の限界を越えるほどに。
「さーて。後は伝えておいたオウランさんにトークへ要求して欲しい事と、その理由の確認をさせてください」
「いや、自分がオウラン様と次に会うのは一月は後になる。長より先に話を聞くのは……」
「今回はそちらにとって面倒な話になりますから長く考えて欲しいんですよ。諦めてください。では税の話から……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます