実質侯爵となったカルマ1

 戦いの後処理も大よそ終わり、命令に従ってレスターへ戻って二日。

 リディアから連絡を受けた時間に部屋へ行くと、トーク姉妹にリディアの姿が。あら偶然ですね。少なくとも外から見たなら多分。してなんのお話しじゃらほい。


「我が君、皆に与える褒賞をどうするかの協議で御座います」


 え、そんなの戦う前話した要望通りになるよう勝手に決めてくれれば良いのに。


「何故驚いてるのかしら。決定権を持つと言ったのは貴方よ。褒賞の仕置より大事な決定なんて早々無いと思うけど」「等と上辺を取り繕っていますが、お二人の心はうろんげである我が君の想像どおり、考えを評価しようとの査定で御座います。

 されば我が君へは特段何も無く。わたくしとアイラを無難に働いた程度の褒賞に留め、他はお二方が良いと考えるようにさせる。が、お望みと察しますが、如何」


「お、おお……はい。その通りで。素晴らしいです」


 今後はリディアから週二で使用人派遣してもらい家事をお願いする。私の褒美はそれで十分だ。

 生活を向上させようとすれば使用人を増やさなければならないが、人を増やしてどんな話をばら撒かれるか心配するのはお断りです。


「御意。さてカルマ殿。グレース殿。我が君の慈悲に感謝して、少しは配慮なされるが道理かと思いますぞ」


「……トークが、どんな慈悲を受けていると? 助けられた事か?」


 ピンと立てた指で額をおさえ、頭をお振りなさった。何処でこんな嫌味ったらしい仕草覚えたんでしょ。


「はぁぁあ……。我が君。何故以前の条件を。お二人へ自分に決定権を与えるかどうか、お尋ねになりませぬ?」


「え? そりゃ、今非常にお忙しいでしょうし、近日来るらしいオウラン様相手の取引が終わってからでないと、私への判断し辛いんじゃないかな。と思いまして。お二人は向こうが私を要らないというかどうか、更に確認する気……なんでしょ? 諸々の話もこれが終わってからじゃないと、二度手間になるのでは」


 私としても変な波風立てて、オウランさんの邪魔なんて御免だし。


「言うまでも無い事を問うたわたくしをお許しくださいませ。こちらの二人が、余りに……無思慮……な訳は御座いませんので、お疲れであり。聞かなければ理解出来ぬありさまとなり果てているご様子でしたので。

 さもなくば態々我が君を呼び出し煩わせ、無駄に時間を費やしはされぬでしょう」


 あ、煽る―。お二人ともちょろっとイラッとされてる。

 このお嬢さん相手にする以上、この程度気にしない方が良いと忠告すべきかしら。


「……ね、ねぇリディア。ついさっきまであたしたちの三歩以内に近寄らずという恭しさだったのに、その態度、何なの?」


「お二人の邪魔をする気は御座いませぬが、それ以上に我が君への忠義を示す機会、逃す気は御座いません」


 あ、はい。そーですか。


「……褒賞は、誰でも口を出す大きな話と思うがな。で、ダンよ。どうせなので確認する。何も口出ししたい事は無いのだな? それとも査定されたくはないか?」


 そもそもあんまり見られたくないです。でもそーも言えないね。重大な要望がある。


「あー。一応、あります。そろそろ他所の領主がどう動いてるかお調べになっては如何でしょう。ビビアナは当然として他にも色々。それとラスティルさんが以前ベタ褒めしてた方が、ヘインだったかで男爵をしてると聞いています。彼女も気にしてるでしょうし、ついでに調べて頂ければ。名前は……ユリア・ケイだったかな? あ、いや。総一郎真田。かもしれません」


 さり気なーく。興味が大して無いように。真田? 誰それ雑魚? みたいな。……うん。二人の表情に違和感はない。


「貴方、庶人の癖に異様に他所の事を気にするわよね。何かあるの?」


「ああ、私、歴史書書いてるんですよ。この激動の時代に諸侯がどうしたか。とか街でどんな噂が立ってるか。とか。勿論情報を他所へ漏らさないよう気を付けてます。

 百年後が二百年後の人が有難がるような物になりますよきっと。渋い善行でしょ? なので、追い出すときも調べた事くらいは教えてくれると嬉しいですね」


 我ながら良い理由付けだなこれ。ついでに何かあった時は娯楽小説を書き、金を儲けられたらいいな。


「……庶人にあるまじき教養ある考えだな。確かに必要でもあるし、何とかしたい。しかし……まだ領地が治まっておらぬ。領内の商人等から話を集めるのが精々か」


 だよね。新しい領地を治めるには諜報と同じで兎に角信用出来る人。今はそれくらいが限界だろうな。


わたくしの手の物を使えば、少しは集められようとは思うのですが。されど……」


「何故こっちを見るのかしら。トークとしては当然情報が欲しいに決まってるでしょ。お願いでもしろと?」


 あ、これ分かっちゃった。私の何倍も忙しかったろうに流石。


「お二人が、我らを害すのでは無いかと不安でならないのです。わたくしの少ない手では兵の動きを見るのが精いっぱい。何せ此処へ我が君を態々呼んで試すような方々で御座いますから……心が休まりませぬ」


 後半は純粋に煽ってるだけだが、ごもっとも。私も護衛の兄ちゃんにかるーく見て貰えるようお願いしないと不安だもの。


「……調べて欲しければ、ダンへ謝罪でもしろと言うのか。或いは誓書を書けと?」


 リディアがこちらをご覧に。はいはい言うまでも無いですよね。


「私、謝罪なんて無駄に屈辱を感じさせるだけの嫌がらせ、嫌いです。誓書も同様で。外で言いふらすのなら、まぁ価値はあったりなかったりなんでしょうけど」


 一つ頷いた。合格。と、思いたい。


「しかしこのままでは話は進まず、外の情報は必要不可欠。よってお二人に念を押すのが限界とわたくしは考えますが、お許しいただけるでしょうか我が君」


「はい。どーしよーも無い事はどーしてもありますね」


「全くで御座います。されば。お二方にはどーしよーも無い者にはならないで頂きたい。即ち、出て行けと言われれば出て行く我らを害そうとするような気狂いは当然として、何らかの仕込みをしよう等とも。

 もし良識を持って追い出しになる忘恩の輩とおなりになった暁には、その時までわたくしが調べられた事くらいは置き土産と致しますので、それでご満足なさいませ」


「ね、ねぇ。貴方たち、人を疑ったり苛立たせないと倒れてしまうの?」


 あら酷い仰りよう。私はマグロほど元気じゃないですよ。疑うのは最低限だし、

「酷いお言葉ですなグレース殿。わたくしはこのようにしなければ倒れてしまう主君に配慮しているだけで御座います」


 ……これくらいあっさり裏切られる世の中だよね。

 全く失敬にも程がある。苛立たせようとするのは必要がある時だけです。

 じゃー、褒賞の査定頑張ってください。面倒くさそうなので私はこれで失礼しましょう。

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