連合軍戦場見学3
「ダイ、向こうの騎兵が出ます。テリカも良い反応ですが、負けた場合此処まで追われかねませぬ。一応下がる用意を」
へ? 特に、変化は……あ、相手の後方に砂煙が。テリカの所から伝令らしき騎兵も。
やっべ火の始末しなくちゃ。山火事起こすのは死刑よ。しかし気づくの速くありません?
「よく分かったなリーア。文官として生きていくのだとばかり思ったが。もしかして兵を指揮する気もあるのか?」
「勿論。お二人のように最前線で戦えずとも、矢の届く距離に居る用意は致したく。
毎度御免なさい。危ない真似は本当に逃げられない時だけ。と、硬く誓ってます。それに『矢面に立つ』は非難とかだけに使う表現と感じてしまうくらいヌルヌル生きてきました。
しかし長子の為に下の子が死ぬのは当然……確かに。そうでないと困る。
……日頃から深く考えてれば驚かなかったはずだこれ。反省しよう。
「そ、そうか。何であろうと準備してあるのは良い事だな。……あの、な。自分が百人居ればこの上なく強力な領地が産まれるのに。と思いはしないか?」
つい、聞いてしまった感ねラスティルさん。……いえ、今更口を押えても。
「ふむ。傲慢を窘められてしまいましたか。勿論お二人が全ての兵が己と同じであれば。と思う程度には考えております。一方で問いの意であろう己が万能である。との自信は皆目。
今の判断もテリカの場所に居れば難しく思われますので。
本当だ目に見えて数で負けてる。向こうは二隊に分かれてるのに先に来た一隊しか抑えきれそうもない。
テリカの指示か歩兵が陣形を騎兵に向けてるが……これ、相当ヤバ……おぉ? こちら側の最後部に付けて残ってた一騎が、相手の正面に!? 長物で、先頭を指して挑戦……誰だあのキチガ……派手で長い銀髪? もしや、
「ロクサーネだ……やりおる! しかし、流石に……」
思った通り真田配下のあいつか! ぼけレイブンが! 結局気に入ってやがんのか! あいつは私だけでなくお前たちにとっても敵だろう、にぃ!?
相手も一騎飛び出た!? 偉い奴か? 全員で踏みつぶよアホバカ間抜け、いや、もう馬鹿を叩き落せ! 行け! ぶっころ、
「「「うおぉおおお!? 首が!?」」」
「ほぉ。いや、飛んだのは馬の首。しかし、アグラが負けるとは」
「見事! 素晴らしいぞロクサーネ! 大言を吐くだけ、は!? な、何を」
クソッ! これは随分な功績にな……ぜ逃げない? え、長物を頭上で回転させて、地面に柄を叩きつけて。見栄を、切った? 騎兵隊相手に? ば、マジ馬鹿が、居る。……熱かった体が、何かこう、恥ずかしさで冷たく……。
当然大将を叩き落されて怒った兵にクチャクチャに……あ、相手の様子に気づいて逃げやがった。でぇー。兵がロクサーネを守る動きを。……テリカのあほぉ。
「生き残った、な。―――昔から、あの外連味の強さは本当に。英傑から一転して笑い者になりおって……。友と誇れるのか悩ましい」
「ラスティル、今夜会えば伝言を頼む。戦いの最中に無用な事を考えるからだ。とな」
「承知」
「確かに最後は締まりませなんだが、ロクサーネとサナダは大いに名を上げたと申せます。
―――あの者、常にサナダの横で戦っていたはず。それをサポナの後ろに付けさせた上、アグラの評判を存じていて挑発するよう指図した者が居るように思えます。
ロクサーネの武勇を信じていようと危険な賭けに違いない。ふぅむ。名声を、追い求めておりますな。少々解せませぬ。何か理由があるのか」
「そうか? 大きくなるには人材と人の縁。その為にはまず名声であろう。更に言えば……何というか、サナダ殿配下の武官二人は凄まじい負けず嫌いなのだ。このような機会を与えられないと不満を抱くほどにな」
そんな感じだったね。真田の様子からして強く望まれれば『やらせてみよう』となりそう。しかしリーアが解せぬというのはそれも含めてだろう。―――何か、あるか? いや……、考えない。今私は無力な観察者でしかないのだから。何より真田について考えてる様子を見せるのは不味い。
ふーん? 男爵如きが何考えててもどうでも良くない? 我らトークは侯爵の実力なんだしー。とあらなければ。
「……終わりだな。アグラが下がっている。結局痛み分け、いや、少し負けだろう。追撃は厳しいかなリーア? 後は向こうがまだ留まるか、だが」
「一戦し、将兵の気を引き締めケイ中に連合軍相手でも負けない強さを示した以上、撤退するのみと考えます」
「なぁ、リーア。そうなるとジョイ・サポナ殿はどうなる? ここでビビアナに痛撃を与えなければ……領地を守り切れぬように思える」
「最初から分の悪い賭けなのは分かりきっておりました。……それにまだ結果が確定したとはサポナも考えておりますまい。本隊と合流してからの追撃が在りえますれば。無用無益な配慮はお止めになる事です」
「そう、だな。……確かに、何も出来ぬ」
お優しい事で。ただ最前線で戦うラスティルさんに身の程知らずとも思うが……。
マリオ閣下やイルヘルミがレイブンに親切だったのは分かる。領主として人材を大事にしているとの評判と、あわよくば引き抜こうというのだろう。
しかしこの内乱は全ての領主と主張する者を誰かが潰すまで続くはず。であれば一武官として生きていくつもりにしか思えないラスティルさんにとって、他所の領主は全て敵で死んでくれた方が良い相手。となるのだが……。
簡単に割り切れはしないか。しかもこうやって一応だろうと味方になっていれば。
そもそも最前線武官でそんな先を考える人は居ないかも。子供の頃から運動だけを鍛えた人しか生き残れない脳筋世界だし。
……頭悪いから。と軽く見ないよう気を付けないとな。私みたいな小賢しい奴はそういう所がある物だ。
特に今日の観戦を見ては諸侯、武官、文官。何者であろうと……。
勝った。勝ってしまった。
戦い方、武器、防具。凡そ把握した。何をどう足掻こうがケイの者は敵でさえ無い。
強さ、賢さ、美しさといった魅力。全て食べる羊の毛並み程度の差。町の中に居るゴロツキの方が危険だ。
面倒となりそうなのも居る事は居る。イルヘルミやマリオ閣下に途轍もない速さでケイを統一されるのは嬉しくない。
しかし一番はやはりテリカ・ニイテ。かつて奴の父フォウティを地球史の人物、江の南に国を作る一族の祖、孫堅に近いのでは。と疑ったが、奴なら同じ真似を出来そうに思える。
私の浅い知識だと地理は中国と一緒。なら江の南に水上戦を得意とする大勢力があるのは嬉しくない。地球史と同じく江による守りが強烈で内乱が起こるまで国を潰せないなんて冗談じゃない。
マリオ閣下の配下に居るのならばまだ良いんだけども。江の北側で勝ち、その動揺が残っている間に攻め滅ぼせる。しかし……これは手の出せる領域じゃないな。
だがどうなろうと結局は面倒の範囲でおさまる。何と言っても何処の陣営でも恐れていたような内容で、トークについて話している者は居なかった。誰一人私が落とした石の波紋に気づいて無いのだ。遥か北で。壁の向こうで。オウランさんが何者になりつつあるのか、誰も!
当然だ。目の前に矢が。背中には剣を持った者が。身内さえ毒を持ってるかもしれない世の中で、今この瞬間の対処で精いっぱいでない者なんて居る訳が無い。
分かっていた。それでも現実として目に見えると。得も言えぬ高揚感が!
やはり、私の敵は真田ただ一人。加えて奴の配下たち。しかしそれも……ビビアナとの同盟が成立すれば。ふ、ふふ。クフフフフフフ。
始末したらどうしよう。時が来るまで待つだけ、はやはりサボリ過ぎか。少しでも楽になるよう、情報が手に入りやすくなるようトークを大きくするのが良かろうな。
とは言え真田とその後継者になりそうな奴らを土にかえせれば、今ほど必死になる事もあるまい。ズレてるのが居ないのかだけ気を付けて……うふっ。オウランさんにお見合い相手を見つけてくれるようお願いしちゃおうかしら。
キリさんはもう結婚しちゃってるだろうし、彼女ほど素晴らしい女性は望めなくても……結構可愛くて相性が良い相手と……グフフフ。
「ダイ。何か楽しそうで御座いますな?」
うひぃっ!? え、絶対笑ってない帰る用意をしながら考えてただけのはず。……涎が垂れてもいない。
「えっと、今日見た物を考えていたのですが……皆さんと茶飲み話をしながらの観戦は確かに中々楽しかったですから、それでかな?」
嘘言ってない。だから見つめないで……。
「確かに楽しい時間で御座いました。ただ、貴方様はこれから負傷者の対応をお手伝いになるのでは? なのに楽し気であれば、お忘れではないかと」
「……でした。うちの医療班の所に急いだ方が良いですね。後始末を任せても?」
「良いぞ。しかしお前にも感心な所があるのだな。頑張ってきてくれ」
そりゃ頑張りますよ。走り込みと人の死に慣れる訓練は欠かせません。
今回は更に他所の医療技術まで知る事が出来る。オウランさんへ伝えられる水準の物があると嬉しいなぁ。
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