連合軍戦場見学2
「ついでにお尋ねしますがレイブンさん。あちこちの方と遊んだ結果どうでした? 何か面白い発見はありましたか?」
「遊びでは……お前も嫌味ったらしい奴だな」
「おや『も』とは。
レイブン殿とラスティル殿が気を大きくして他所にまで酒を振舞うが為に、この連合軍が始まってより一滴も酒を飲んでいない
ですよねー。最初は参戦出来なくて詰まらないとか言ってたのに来たら毎日ニッコニコ。酒は高いから遠慮しろや本当に。
「と、とんでもない。リーア殿には日々感謝している。……あ、勿論ダイにもだ。な?」
「うむ。我らが顔を合わせれば何時もその話だぞ。……所で、今夜は戦の後死者を悼む為に少しばかり酒を頂きたいのだが……あ、勿論トークの事、特に二人に関しては口外せぬ」
目の前で今も死んでる兵を口実として宴会の話とは。これが兵に慕われる美女武官様の考え方か。……実際兵が死ぬ度に一々感慨を持たれてたら頼りないし大迷惑ではあるが。
それより宴会だ。真田の所なんだろうなぁ。今更だが焼け木杭的仲間意識に火がついたら。……分かってるはず。選択に任せるしかないと。
「口を戒める賢明さをお持ちであれば、今夜の分はお二人の面目の為にお渡ししましょう。されど明日からは今までの半分も飲めぬとお覚悟を。
お忘れなようですが此処は他所の土地なれば酒を手に入れるのもままならぬのです。貴方方が飲んだ酒の幾分かは、ダイが方々の農家へ赴いて買ってきた物なのですぞ」
言い方も上手よねこの小娘らしき方。観光旅行のついでに酒があるか聞いただけ。とは露ほども見せず。
私としても此処で飲むと輸送量その他で割高になるのを考えて欲しいが。自分の浪費は当然他人の浪費も見過ごせない。それが貧乏性である。飲み屋で飲むな家で飲め。と申し上げたい。
うむ。二人がションボリ同意している。なら助け船だしてやりますか。
「で、レイブンさん他所で発見は有りましたか? アイラさんが望んでいた強い人とか」
「あ~。そう、だな。分かったのは、思ったより自分が強かった事。が一番と思う。だからその目を止めろ。
某は悩んでいたのだ。今までひたすら戦いに身を捧げてきたが、アイラとの差は広まるばかり。ケイ全体ともなれば更に居るのでは無いか? ……む、某は何を恥知らずな」
あ~。それは、普通悩むね。同情します。でもおかしいのは絶対アイラ。私が出会った時まだ体の成長が終わってなかったのに、二十代後半に入った鍛えまくってるガーレ、レイブン二人同時に戦えちゃうんだもの。
食事の量からして違うからねぇ。食べた栄養全てが戦いに向かってるなら誰も勝てんわ。
「だからケイ中を探してもアイラほどの強者は居ないと散々言ったであろうに。信じていなかったのか?」
「ラスティルもケイ全土は知らぬであろう。だがこの軍で馬上の某より強いのはメリア・スキト殿だけであった。降りてとなるとサナダ殿と配下の二人にも負けてしまったが、いずれも大した差では無い。
……カルマ様の配下であるのはつくづく幸運だと思う。良い主君に加え、幾ら鍛錬しても足りぬ相手が傍に居るのだから」
「うわぁ……。レイブンさんのそういう所、心から尊敬します。大体の人は勝ちたがりで雑魚狩り大好きなのに。しかしそうですか。ケイ最強はアイラさんですか……」
良い情報有難う。誰かの前に立つ時はアイラを基準に気を付けるとするよ。……もう少し危険な時腰に差してる十手モドキを抜いて防ぐ練習するかな。
「所でダイ。あそこに見えるジョイ・サポナ殿旗下の騎兵たちは精々傷病者の護送しかせず、休んでばかり。何故だと思う?」
おや。不甲斐ない主君的な私を少しでも鍛えようという事かな? ラスティルさんは面倒見が良いね。
「予備兵力。だとは思うのですが。にしても動かなくて驚いてます。何かあるんですか?」
「正しくはビビアナの騎兵に対抗する予備兵力。だと拙者は思う。こちらが劣勢の箇所が多いからな。あちらは幾らでも投入時期がある。だからテリカ殿としては少しの疲労もさせず、何時でも動ける状態を保っておきたいのだろう。
あちらとしてはテリカ殿と歩兵が疲れ切るまで待っても良い。怪我人の救助を考えれば夕刻前までこのままかもしれん。その時テリカ殿が遅れず投入できるかどうかが分かれ目か」
うっへぇ。これ夕刻までやるの堪らんな。本当文官になって良かった。
「しかしこんな正面決戦の潰しあいになるんですねぇ。ビビアナ側としても撤退時間を稼ぐだけならもうちょっと楽な方法がありそうですのに。意地、だけじゃないですよね?」
少しだが血の匂いと多分糞尿の匂いがしだしてる。現場は筆舌に尽くし難かろう。
「現場の兵と指揮官はともかく後方は違いましょう。ビビアナから見れば己の威を示す以外に、これは初めてと言っていい互角に近い相手と戦える好機。此処で兵の一万程度失おうとも、諸侯の強さを知り後々の戦訓に成すを望んでいると考えます」
「……リーア、もう少し言葉を選んでくれまいか。事実がそうだとしても現場で兵を率いる身としては……少々」
控えめな言い方に真剣な声。しかし事実と認識してるなら感情も……難しいか。でもリーアに言わせれば甘えでしょソレ。と思う間に体の向きを変え真正面から……え、頭下げた!?
「お言葉確かに。失礼致しましたレイブン殿。足りぬ配慮をお許しくださいませ」
謝るんだ……不吉を感じるのは失礼だろうか。レイブンもそう感じてそうだが。
「何と、言うべきか、意外、だな? リーアの事だから人の世はそうなっている。下らぬ感傷を持てば結局は兵を死なせる。とでも言うと思ったが」
同意見。そして実際そーだと思う。上に立つ者なら感情はアホを操る為に使う物で、自分が持つ物じゃなかろう。……だからと言って目の前のお嬢さんには早々なれませんけど。
「
……。それ、裏に使えないなら使い潰して死んで貰うって書いてるような。
「も……もっともであるな。―――拙者は、何でもより良くなるべく務めようと思う。よろしくご指導賜りたい」
うわ。要領のいいひと。
「う、裏切るのか!? ラスティルもよく文官連中は兵を気遣わず困ると!」
「その分我らの方で何とかせねばならぬな。と、続けていたように拙者は記憶しておる。……裏切るとは実に不本意。良い女は柔軟なのだ。第一兵糧を握られた相手に覚悟無しで文句を言うのは正気を疑う。レイブン殿も見習われては如何かな?」
「だ! そ、それは! 単なる、その、会話として……。兵の気持ちを考えなければ……」
これは、楽しく会話してるの亜種ですかね。あ、リーアが流し目を。……お茶でしょうか。はい。新しく作りますよ。まだまだ戦続きそうですし。
本当に日が落ちて来てもまだ戦ってる。根性あるなぁ。疲労極まった真田がしくじって死にそうも……ないか。あそこの兵は私が見て分かるくらい元気がある方だ。理由は多分、
「ふぅむ。ラスティル、サナダ殿の兵が異常に粘り強く感じるのだが。理由は分かるか?」
「もしかしたら。だが、サナダ殿は戦う前の兵と自分の水筒に必ず塩を入れる。加えて普通の軍よりずっと何か食べられるようにしていたな。それがあるのかもしれん」
やっぱり。私もこれをオウランさんに伝え……たっけ? 帰ったら確認しよう。
「確かに腹が減って戦うのは辛いが。戦いの最中に食べるのは中々難しかろうに。……一応考えてみるとして……。あのサナダ殿の馬の道具も、もしかしてそういった工夫の一つか?」
え? ……見えない。だがこの言いようからして鐙とかよね? やはり付けてるのか。だが真田の配下数人は付けて無いのを確認したのに、
「……拙者と共に戦っていた頃、サナダ殿は乗馬が下手でな。難儀していた。戦場で騎乗するにはああいった道具が必要なのだろう。……十分に戦ってるではないか。あの道具のお陰かもしれん。ああ、分かっている。馬に乗りたての子供か、太り過ぎて乗れなくなった貴族でもあるまいに。と言いたいのだろう?」
は、え? 鐙ってそういう評価なんです? しかし試せば有用だと、
「そこまでは……思ってしまっている。話した時には完璧な男と感じたが、やはり欠点はあるものだな。兵たちもあれを付けた者の指揮に従いたいとは思えまい。創意工夫の人なのは結構だが、流石に無様すぎる。いや、領主自ら前線で剣を振るえば……どうなのだろう」
そういう評価になるんだ……。そう言えば中国のどっかの王が、騎兵にはスカートよりズボンでしょ! と言ったら蛮族の服は嫌と言われて苦労したみたいな話があった覚えも。
確かにオウランさんたちも最初嫌がってた。あれでもまだ抵抗が軽い方だったのかな?
こりゃ朗報だ。今真田が使っているなら必ず何時か配下全員に使わせるだろうが、広まるのは少しでも遅い方が有難い。
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