水出し茶は健康に良いと思われる

「お前らに朗報だ。ドレイク様とレイブン様の攻略が順調だってよ。まぁ当然かぁ? 

 チエン如きじゃトークの相手にならねぇよなぁ!」


 はい、声を合わせて。オー! ですね上長殿。分かってます。周りに合わせない子供で許されるのは十代まで。

 ふんほんへん。チエンの領主殿はビビアナ一行の通行と強奪を放置できず、ちょっかいかけちゃった。だから既に死んでいた。山の砦にこもって足掻いてるが既に秒読み段階と。


 情報通の一般官吏がどう現状を把握してるか教えてくださり感謝の至り。

 流石にビビアナと戦う前チエンが、尻を掘るようカルマへ使者を送ったのはご存知無いようで。

 その書状なんてビビアナへの桐箱付き贈り物にしちゃいましたからねぇ。

 笑顔だったグレースも流石に情だけで動く愚民の皆さんへ報せる気はありませんでしたか。いえいえ。私は愚民と考えておりませんよ上長殿。我らの最上司の底意を推察しただけで。はい。

 ……どっかのお嬢さんだと此処でチラッと見てくるんだよな。見てないようでも様子は確認してるんだろう。何時だって腰には短剣があるし。あの気の抜かなさ本当憧れる。

 おや? 軍が帰ってくるまで四か月の予想なの。倉庫部長殿も……同意見に見える。リディアからは二か月の予定と聞いてるんだが。この差は何から来るのか。考えてみますか。


 いやはや皆さん働いておられますねぇ。申し訳ない。つい先日まで片道二日かけて温泉へ行き、宿をとって二週間滞在してしまい心より申し訳ない。

 ジンさんに偶々同じ宿の隣の部屋を取ったていで護衛を三人付けてもらったが特に問題も無く。地球がくれた最上位の恵み、温泉を楽しませて頂き心が痛みます。


 出来れば何時までも温泉の傍で暮らしたいもの。しかしリディアから伝え聞かされたトーク姉妹の疲労と嫉妬を考えれば、二週間で諦めるしかあるまい。

 自分が働かない所為で、より休みの必要なリディアが働くなんてなったら目も当てられん。


 はー、やれやれ。

 日本に居た頃の夢、高収入キャリアウーマンの主夫はこの人生でも難しそうだ。グレース曰く『乱世で怠けたら滅亡が近くなるのよ? 死にたいの?』だもの。

 ケーッ。ええ、ええ。貴方の勤勉さは良く存じてますよ。温泉を楽しんでる間に街に真田が使っていた手押し車と荷車を普及なさって。

 領民たちの支持も高まってますよね良かったですねと来たもんだ。


 でもねグレース。その荷車、もうちょっと改造したらリヤカーになるんですよ。クソ真田の奴、他所へ流すのはちょい良い荷車までで、自分の知ってる一番使いやすい道具は隠す気なんですよ多分。他にもスコップとか色々。教えませんけど。


 千年進んだ道具を広めて金や名声を得て地盤を築き。その後内々で更に数百年以上進んだ技術を使って諸侯を上回る策と見た。

 あの美形野郎も色々お考えだ早く殺さないと。


 さて皆さまのお茶休憩も終わった。仕事へ戻りま、あれ? 倉庫部長殿?


「ダン。第四議場の掃除をしてきなさい」


 なんと。リディアの緊急呼び出しですか。こりゃ走らないと不味い。

 到着、ってリディア、カルマ、グレース、アイラまで。何があった?


「遅れて申し訳ありません。何がありました?」


 一番下っ端の遅刻を鷹揚に頷くだけで許して下さり皆さま有難うございます。


「テリカ・ニイテの使者が来たわ。彼女の第一の臣、グローサ・パブリが姉さんとの謁見を願ってる。とりあえず宿に閉じ込めて待たせてるけど、どうした物かしらね」


 ―――?


「は?」


「テリカ・ニイテの使者、グローサが来たの。内密にトーク閣下との面談を望むと言って」


 なんでそうなった? ………………あ。

 シウンに会って撒いた種が思ったより大きく実ったのか? それにしたって何故トークへ。駄目だ考えが纏まらない。

 困った。ので美人軍師様助けてつかーさい。


「とりあえず向こうの話を聞くしかないと思うのですが如何でしょうリディアさん」


「マリオの使者としては妙ですが下手をして大やけどは愚かしい。まずは丁寧に接するべきと。お二人はどう考えられる?」


 そ……それじゃん。その通り。シウンとの密談関連で何か起こったと勝手に考えてたけど、実質はマリオの使者である方がよっぽどあり得る。

 うわぁ。やだやだ。日頃大した努力してない奴は。少し動いただけで直ぐに特別な結果を欲しがるんだから。

 ああ、もう。自分の将来の為、当然やるべきだった家事手伝いをして自慢する子供じゃあるまいし情けない。猛省しなければ。


「同意見だ。二人も共に会うか?」


「当然よね」


 おっと。人が反省してる間に何が当然よ嫌がらせか。


「いえ、私とリディアさんは隣の部屋で聞き耳を立てます。グローサの前には立ちません」


「当然はこちらですぞグレース殿」


「……あ、そう。じゃあ今すぐグローサを呼びに行かせるから、お茶でも飲んで待つとしましょうか」


「分かりました。用意してきます」


 毎度ちょびっとだけグレースに雑用を押し付ける誘惑に駆られてしまう。

 でも流石にね。お疲れのお嬢さんを更にからかうような真似してはいけません。

 最寄りの調理場でお茶を準備し、会議室へ。


「うむ。有難う」


 カルマは何時も普通にお礼を言うね。

 日頃雑用しかしてない奴がトップ会談に参加する不満も滅多に見せず。

 配下に慕われてもいるし立派な領主。お陰で将来どう扱った物か迷うなぁ。

 ……私より向こうがどう出るか次第と決まってるのに。

 

「……何だダン。ワシの顔をじっと見て。何かあるのか」


 おっと。これは油断を。何か適当な……ああ、あるじゃん。


「んー……。カルマさん化粧をしなくなりましたね。そして前よりお肌が綺麗になってます。一年程度で効果が目に見えるとは素晴らしい」


 そろそろ三十のはずが二十ちょい程度に見える。

 色々と美容健康について教えたが、こんなに効果が出るなんて耳が高い人たちはやっぱり生命力強いんだろな。

 四十を超えても子供を産むのがままあるなんて、地球人類とは別生物感がある。よく耳が短いパンピーとも子供を作れるもんだ。


「やはり分かるか? グレースと二人で化粧を減らし顔を洗ったら馬油を塗っている。少しずつ変化が出て来て近頃ははっきりと……。感謝するぞ。

 ほら、グレースも。あんなに喜んでいただろう」


「う、うん。―――有難うダン。疑って悪かったわ。肌が綺麗になった時には、かなり嬉しかったです……」


「喜んで頂けて良かった。あぁそうだ。草原族が売ってる二種類のお茶、飲んでます? 他のより幾分か健康と美容に良いようで」


「嘘、あのお茶にそんな効果が? 本当に?」


「確実とは言えませんよそりゃ。ただ私とアイラさんは常飲してます。リディアさんもですよね?」


 草原族提供の柿の葉茶とドクダミ茶は基礎の効能に加え、保存状態が良いから冬場に不足しがちなビタミン系の栄養を補給出来る……はずなんだ。

 難しい文化レベルの中で創意工夫して密封し、高温多湿を避け封を開けたら直ぐに使い切れる量を売ってもいる。

 お陰で高価になっちゃってるんだが。


「うん。お茶美味しい。落ち着く。僕は特に水で出したのが美味しいと思う」


 あ、ちょっと出し惜しみしてる21世紀の科学によって証明された、美味しく健康にいいお茶の飲み方を言いおった……。


「グレース殿、舌の先さえ乾く間もなくお疑いとは。感心致しかねますな」


「い、いえ、そんなつもりじゃなかったの。ただ、ほら、高いじゃない? ダンなら分かってくれるでしょ?」


 セコイ・・・ダンなら。と聞こえたのは私の被害妄想ですかね。

 でも分かります。身内価格でなければ躊躇するお値段です。

 他のお茶も基本高価だが、あっちは品質保全がちょい荒い分安い。


「分かります。ですがお二人は大領主とその第一臣。健康とついでに美容を大事するのは世の為民の為、大切な仕事ではありませんか? それに……カルマさんは遠慮深いですねぇ」


「わ、ワシがか? 何がだ?」


「お二人が常飲しても大した量ではありません。だから護衛長さんにでも命令して、貢がせれば良いのですよ。領内で売るものの品質を領主自ら確かめる。立派な話ではありませんか」


 ちゅーか貢いで無かったんかいジンさん。

 獣人の皆さんはここら辺駄目だな。昔ティトゥス様に届けてたのは私が言ったからってだけか。残念。


「……ほほぅ。もっともよ。万民の上に立つ者として民の間にどんな物が出回ってるか確かめるのは責務。いい献策だったわダン

 さて。そろそろグローサが来る頃よ。気分を切り替えましょう」


 はいそーします。では覗き穴の後ろにってリディアが少し腰の物が気になる距離まで。何さ、秘密の話?


「我が君、後ほどわたくしに水で出した茶を馳走くだされた事がない理由、教えて頂けましょうな?」


 …………。アイラには後で豆乳一気飲みさせよう。

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