コルノの乱後の動きを知る

 半年が経った。

 一度もリディアと会話していないが、時の人なので会わなくても大体は分かる。

 彼女はトーク領の文官No3扱いとなっている。正式な配下となった訳でも無いのに。

 まだ『何の功績も無い』ので会議の時は末席だが、何故か隣にかなり偉い人が座っていて、其処だけ私語が許されているという噂だ。

 流石に本当の部外秘は扱ってないと思うのだが、それでも……。

 あんびりーばぶるや。ノーちぇっくなんやで……噂話で情報入って来るから……。


 何でも内政、軍政両方においてさえ誰もが降参する有能っぷりを見せたらしい。

 模擬戦でNo2軍師であるフィオに勝ったのだと。

 流石に実戦となれば、コルノの乱で作戦立案に関わっていたフィオの方が有用と思いたい。経験という物はデカイと私は信じる。

 演義だと初陣でいきなり作戦立案して、歴戦の将軍に率いられた曹操軍をボッコボコにした徐庶じょしょ孔明こうめいってのが居ますが。

 流石に無茶だと思うんです。


 その負けたフィオは模擬戦から一週間アイラの家で泣いてた。

 お陰でその月の食事会は取りやめ。アイラが大変意気消沈しておられました。

 すまんのアイラ。君子危うきに近寄らずなのだよ。


 さて、この期間にケイ帝国全体を震撼させたと自信を持って言えるビッグニュースが二つ伝わって来ている。

 一つはフォウティ・ニイテ敗死の報である。


 コルノの乱における活躍で、ここ一年の間多くの人々がケイ帝国最強の将軍はフォウティだと考えていた筈だ。

 そのフォウティが死んだ。多くの人が驚き戸惑い、特に軍関係の人は動揺している。

 皆の憧れ、世に此処まで名を知らしめてみたいと思った人が突然死んだとなれば当然だろう。


 私にとってもこのニュースはショックだった。

 フォウティ・ニイテは孫堅になる。後暫くは活躍すると思っていたのだ。

 しかし彼は死んだ。やはり私の知ってる通りに未来が動きはしないと証明する、将来への不安が増すニュースだったと言えよう。

 今後はもっと慎重に情報を集め、マシと思える行動をして行きたいけど能力の限界が不安だ。

 優秀な軍師を二人も配下にしたらしい真田がつくづく羨ましい。


 次に帝王ホフ・ケイが死んだ。

 これにより今ランドでは後継ぎを巡って十官とザンザの争いが激化していると聞く。

 いよいよカルマがランドへ呼ばれる日が来るのかもしれない。

 哀れな事に、ホフ・ケイが死んだ話よりも十官とザンザの争いに人々は興味を抱いている。帝王がお飾り同然と人々が認識しているのだろう。

 三十歳程度で死んだと聞くし、何というか……哀れとしか言えない。


 しかし私にとって最大のニュースはこの後やって来た。

 それは私がアイラとしている毎月の食事会後、穏やかにお茶を飲んでいた時の事だ。

 以前ラスティルさんと戦った時にアイラが使った奇妙な武器を思い出し、聞いてみようと、

「アイラ様、以前ドレイク様と手合わせされた時に見た事の無い物を使われていましたよね? あれはアイラ様が得意とするのを模した物なのですか?」


 あれは槍の先に小さい斧みたいなのが付いてて重そうだった。

 そんな余計な物が付いてる武器を使われ、槍の独壇場である突き勝負で押し切れなかったらラスティルさんだってイラッとするわな。


「うん。宝物なんだ。……見る?」


「やっぱり木で出来た物じゃなくて、戦うための物があるんですね。はい。見せて貰えるのならお願いします」


「待ってて。今持ってくる」


 数分も経たずに帰って来たアイラはすっごく自慢げ。

 尻尾もよく振られてる。

 手にあるのが玩具か武器かというのがアイラと子供の違いだな。

 それ以外に違いが無いって意味? という突っ込みはノーサンキュー。


「ん。特別に持っていいよ」


「あ、ありがとうござ……お、重!」


 あっぶねぇ。もうちょっとで落とすところだった。これ、ラスティルさんの槍より確実に重いぞ。


「やっぱりそうなるよね。これは僕しか扱えないと思う。テイ・ガンが作ってくれたんだ。無くしたくないから一騎打ち専用にしている」


「なるほど。日頃の武器はどうしてるんですか?」


「最初の一本以外は拾ったのを使ってるよ。直ぐ壊れるけど仕方ない」


 そりゃあれだけ人を吹き飛ばしてたらね。

 で、殺して戦場に落とされたのを拾って戦う訳だ。

 実戦的ですね。

 あ、そうか。

 昔色んな武器を使ってたのは、実戦でどんな武器でも使う必要があるからなのか。って、うんなアホな。

 でもしてるんだよな。

 すんげー人だ。小学生が考えた最強の戦闘方法みたいだぞ。


「この武器はアイラ様が大事にされてるだけあって迫力を感じます……。無骨で、実戦的な感じが。まともに戦場へ出た事もない私が言っても説得力は無いでしょうが……」


「ううん。そう言ってくれて嬉しいな。その方天画戟ほうてんがげきは扱い難いけど、僕にとって一番の武器だから。それを使えば誰にも負けない」


 いやー、元から誰にも負けないと思いますけどね。

 という突っ込みはヤボだとして、凄く大事にされてるのは良く分かる。

 あちらこちらに傷があるけど、よく磨かれてある……し?

 ……今、聞き逃してはいけない名前が……聞こえたような?


「なるほど。……あの、すみません。もう一度武器の名前を教えて頂けないでしょうか」


「うん? 方天画戟だよ」


「ほうてんがげき」


「そう」


 ひっ……ひっひぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!


「ど、どうしたのダン? 可愛い子猫が実は化け物だった。みたいな表情になってるけど……大丈夫?」


 全く、大丈夫じゃ……ありません。自分の心臓の鼓動が聞こえてます。

 すげービート。ドラム音みたい。


「ひ、―――。あ、アイラ様。やたら具体的……ですね?」


「うん。そういうお芝居があったんだ。本当に大丈夫?」


 大丈夫じゃない。子猫化け物は的確な例えだがまだヌルイ。

 人懐っこい狼と親しくなったと思ったら、実は狂犬病掛かってましたってのが正しい。

 そう言っても全く理解して貰えないだろうけど。


*********

 リディア・バルカの祖先のモデル的な人が、キングダムという始皇帝の天下統一を元ネタにした漫画に出てました。

 李牧という敵キャラの要請を受けて遊牧民と戦い四倍の敵を撤退させるという数ページだけの活躍で、顔が出ず、出たのは背中とやたら巻いてる長髪だけという意味深な感じで。

 もしキングダムという漫画を読んでる方が居ましたら「あいつかよ!」と思って頂ければ、というお話しです。

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