ツテを頼る
夏の訪れをひしひしと感じる中、私は王都ランドに戻って来た。
暑い……婿入り前の肌に染みが出来てしまう。
帽子など頑張って日焼け対策をしたが足りない。
柿の葉茶は染みにも効くと聞く。常飲すると日光に誓う。
作ったお茶の葉は出来るだけ密封して壺に入れてはいるが、移送中に雨も降る訳で湿気が入り込まないよう非常に気を使った。
軍の兵糧の運び方をパクったので大丈夫だとは思いたい。
さて、バルカ家に向かおう。
……協力を得られなかったらどないしょ。
その場合はカルマにお願いしてみるか。
バルカ家で知り合いの門番に尋ね、リディアは居ないがティトゥスは居るとのお言葉。
なら挨拶とお願いがあるのを伝えてくれるよう願うと、直ぐに会ってくれるらしく召使の人が迎えに来てくれた。
よし、頑張ろ……あっ。
一緒にお茶を運んできた獣人の皆さんはどうしよう。
オウラン様に出来るだけ問題を起こさない落ち着いた人を選んでもらったが、今も凄く注目を浴びている。
……どうしようもないなこれ。
門番さんに獣人の皆さんに何かあったら直ぐに私を呼ぶのと、水を配ってくれるようお願いするのが精いっぱいだ。
ここがお茶を売ってくれるかもしれない大事な相手だと話してはあるが……不安だ。
---
数か月振りに会ったティトゥスは変わらず
……私をどう思ってるか全くわからん。
とりあえず出来るだけ礼儀正しく頭を下げて、と。
「数か月ぶりだなダン殿。……所で、それでは頭を下げ過ぎている。もう少し浅くなさい」
なんてこったい。
明らかに困った人を見る目だ。恥ずかしい。
「は、はい。失礼致しました。お教えと、お忙しいなか時間を取って下さった事に感謝いたします」
「いや、遠方から来た客人に対しては当然だ。それで、何用かな?」
「今私がお世話になっている草原の一氏族がお茶を作ったのですが、それのご意見を頂き、可能ならば買ってくれそうな方の紹介をお願いに参りました。あ、もしご興味があればトーク領の状況などをお話しさせて頂ければ、と」
と言って私は持参したお茶壺を差し出す。
「ほぉ。ではその茶を試しつつ、話を聞かせてもらおうか」
「有難うございます。柿の葉茶はお湯だけを注ぎ、小さい砂時計二回程したらそれだけでお試しください」
御付きの人が言う通りに私にも柿の葉茶を淹れてくれたので飲む。
うむ、美味い。
と、私が飲んだのを見てからティトゥスも飲みだした。
あ、もしかして怪しい物と疑われ……いや、そりゃそーだな。
用心して当然だ。
……私が特別疑われてる訳では無いと思いたい。
少し不安になりつつ、トーク領について話す。
トーク姉妹がどんな人物だったか。レスターの街並みについて。紹介状が役に立った事、気候、獣人からの襲撃を気にかけているが、襲撃があるかは天候次第で分からない等々。
全てを聞き終えたティトゥスは満足げに頷いた。
何とか喜んでもらえたか……。
「やはり直接の話は違う。大変参考になった。所でこの茶葉だが、獣人が作るのは茶らしきモノでしかないはず。このようなケイの流儀に沿う物は寡聞にして知らぬ。ダン殿が提案したのかね?」
やっぱり聞かれた。
しかし自分で認めるのは無しだ。
私は流れを作るのではなく、流される男だと見られたい。
激流に身を任せ、同化する、そんな男だと。
……間違えた。
その人は流されるどころか最強だった。
「いいえ。私がお世話になっているオウランという方が、ケイと争わずに食料を手に入れようとこのお茶を作っていたのですが、良い買い取り手探しに困っておられましたので、私がバルカ家ならば或いは助けて頂けるかも、と思い参った次第です」
「ふむ……だとすると中々の人物ではあるようだが……。まぁよろしい。この茶葉とお湯のみでの飲みかたは美味。甘く、香り豊かで落ち着く物を感じる。まず売れるであろう」
ふっふっふ。茶に関しては自信があったから褒められても動揺は無い。
やはり高貴な方には分かってもらえる。
このわびさびの味が!
おっとっと。自慢を顔に出してはならぬ。謙虚に慎ましく。このお茶を作ったのは私ではないのだからな。
「それはそれは。ティトゥス様にそのように言って頂けるのなら安心できます。よろしければ一壺お渡ししますので、気の向くままにお飲みくださいませ」
「試してみよう。さて、紹介だが何か希望はあるのかね?」
この質問は予想されたので色々考えてある。
と言っても現状大した選択肢が無い。
「実はまだ売れる量自体が少なく、出来るだけ高く買って頂きたいので、裕福な貴族の方にお願いしたいと思います」
「であろうな。となると最上は十官の誰かになるか。ただ高い権勢を持っている分、民に嫌われている。ダン殿に含む所は?」
「えっと、このお茶を高く買って頂けて、多くの食料が買えれば特にこだわりはありません」
今はそれが第一。
お金は誰からもらってもお金である。
「ならば良い。良質の物を薦めればバルカ家にとっても利益となるし、近日中に当たろう。今日は泊まって行きなさい。リディアも夜には帰って来る。トーク領の話でもしてやってくれ。
表で待っている獣人の者達を我が家に泊める訳には行かぬが、宿の手配ならしてもよい」
「お気遣い誠に有難く。彼らの宿をどうしようかと困っておりました。お言葉に甘えさせて頂きます」
私は心からの感謝を込めて深く頭を下げる。
あ、これ下げ過ぎなんだっけ……。
重畳至極ってやつだな。これも柿茶パワーだ。
私が日本に居た頃癌にも効くと言われ始めた最強の力である。
東インド会社を作れれば、これだけで世界を制して見せようぞ。
なーにが紅茶だブリカスがぁ。こっちの方が全てにおいて上だぞぉ! フハハハハハハ。
---
夕食の後、リディアから部屋に招かれた。
相談事もあったのでさっそく向かう。
「思ったよりも早くお会いしましたなダン殿」
「はい。又もやお世話になりますリディア様」
簡単な挨拶の後、ティトゥス様にも話したトーク領の話をする。
やはり興味深いようだ。
まぁ、ネットだのテレビだのがある時でさえ、現地の話は知らない事だらけだったからな。
オーストラリアに行って思いもよらないカルチャーショックを受けたのを思い出す。
まさか日本人はシャワーを長時間使いすぎるから気を付けろ、なんて言われるとは。
水事情の違いは盲点であった……。
「うむ。
「え、あ、はい。そ、そんな感じですね」
所でコウって誰?
あ、リディアが残念な人を見る目……かどうか確信を持てない……。
有名人なら呆れて当然だと思うんだが、無表情は崩れていないのだ。
「……今は草原族の所に居られるとか? 獣人の生活を把握できましたか?」
「少しずつ、ですね。井戸の重要性がケタ違いだったり色々と難儀しております。あの、実はリディア様のお知恵を拝借したいのですが、よろしいでしょうか」
十二歳に相談する実年齢三十代。
情けないという話もある。
だがあえて言おう。
『それがどうした!』と。
「まずはお聞きしましょう。どうぞご随意に」
「有難うございます。話は私が今度仕えるトーク様についてなのです。彼女は覇気に満ち、情のある方。そして中央で出世する野望をお持ちのように感じました。
しかし地方の者が中央で出世するのは難しい。出世出来たとしても、上手く立ち回るのはより難しいと思えるのです。
それでトーク様はどうすれば中央で出世出来るのか。出世した後、どの様に行動すれば上手く立ち回れるかを中央の貴族事情に詳しいリディア様に考えて頂ければ、と」
うん。
カルマはそんな様子を見せていません。
街の噂で調べた所ちょろっと感じた……かもしれない? 程度はあったけどね。
はっきり言えば、カルマ≒董卓説にしがみ付いて聞いてる訳だ。
地方の軍閥で、優秀な将を持ち、訓練を欠かさず強い軍を持っている。
これは董卓に求められた要素だと、おも、う、ん……だよ……多分。
正直分からん。
だが何進っぽいザンザってのは居た。
ならば何進がしたみたいに、ザンザが協力を求める地方の軍閥が居ても良かろうと思える。
まぁ脳内で考える分には良かろうさ。
とは言え自分で考えようにも中央での政治状況なんて街の噂程度しか調べられない。
リディアならそれより詳しい話を知ってるし、一人よりは二人である。
「人間関係に自信が無いと仰っていましたが、主君についてと来ましたか。奇妙で面白い質問と言える。トーク殿が出世すると確信しておられるかのようだ」
ぬぅ、リディアの視線が痛い……。
確かに変な、というか痛い質問だ。
子供の妄想みたいにもしも私の上司が社長になったのなら、と実はカルマの配下になってさえ居ない私が聞いてるのだから。
……聞き方を間違ったかもしれん。
「とんでも御座いません。私は難しいと考えています。しかし中央で出世を希望するとなれば、成否に関わらず一大事。身の処し方にも関わってきますので……リディア様の余った時間にでも軽く考えたご意見が頂戴したくなりまして。厚かましさ申し訳も」
「うむ。変わらず奇妙で結構。通常ではトーク殿のような辺境のしかも新しい貴族が中央で出世するのは殆ど不可能。しかし、今ならば可能かもしれません……。よろしい。地方の貴族が世に出る為には、と考えれば応用も効く。請け負いましょう」
その道の権威であるかのような台詞で、違和感が無い程の重厚さを感じさせる少女。
そして、実際私もその道の権威として頼ってる訳だから……ほとほと感心するね。
「有難うございます。よろしくお願いいたします」
私は辞去し、部屋に戻り大きく息を吐く。
奇妙な質問をしてしまったとは思う。
ただ王朝の名前は違うが、出来事的に殷、周、春秋戦国、秦、前漢、新、後漢と来てるのは今まで調べて確認できている。
となれば三国が来るようにしか思えない。
その三国も黄巾の乱、何進、董卓の三連撃で王朝がどれだけ弱ってるかを示して初めて戦乱の世が来た。と、思うんだよね……。
そしてカルマが今後、董卓のような目にあう時に事件を活用できれば計画に有利なのだ。
リディアに縋って怪しまれてでも、予測が欲しいくらいには。
はてさて。どうなるんでしょうねぇ本当に。
とは言えお茶を上手に売るのが最優先。
遊牧民の信頼を得られなければ計画は一歩も進まない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます