グローサへの答え1
今日も皆さま肌つやが良く結構。ならばグローサへの対応を決めますか。リディアに任せて、ね。
「カルマ殿、受け入れるか否かはニイテ家一党へ会ってからになさい。あの者は一世の英傑、臣下を含め直接見なければ
ただ刺客の恐れすらある武人相手の謁見。如何様に?」
「……受け入れ自体に反対せぬのか?」
姉妹とも訝しんでやがる。そこまで反対すると思ってたんかい。
失礼しちゃう。私にも流浪の人への同情心はありますよ。二人の視線の理由はそういう問題じゃなかろうけど。
「
「……心に留めおこう。さて会見だがワシもどうした物かと考えていた。今居る唯一の将アイラはダンが離さぬであろうし護衛の数で何とかするしかあるまい」
「南方の貴族であるテリカと草原族の相性の悪さは如何に?
まさか新たな収入源となった草原族を軽んじる気は御座いますまいな?
トークは滅亡から救われた恩もあるのですぞ。数年で新参のテリカを優遇致さば大事となるは必定。後方の安全を捨ててまで受け入れるとは仰いますまい」
相当だこれ。心配の大きさが声に出ておられる。
殆ど街に住まない草原族の人々にトークへの税を払わせるため、ジンさんがどれだけの剛腕を振るったか幾らかはご存知、なんだろうな。
トークへ来ているのはオウランさんの影響をあえて外していた、税という単語さえほぼ存在しなかった氏族が大半だからね……。
しかも大体はトークと殺しあった経験のある方々。通常の争いでは『少ししか』死人が出てないはずだけど、税を払う屈辱推して知るべし。
全ては長年の良い同盟関係を前提とした話。と、殆どの人へ説明されてるのに一年で自分たちを大いに見下げる新参が上に立ったら……。
ジンさんの剣がまーた同胞の血で曇ってしまう。
「承知しているとも。ジンとは直接会う機会を設ける。テリカも弁えさせよう」
「受け入れる前に互いの様子を見定めるべきと申し上げる。会談は謁見の間を。近衛を扉の外に置き、直接はジンの配下三百名でお二人の護衛をさせるのです。
獣人の下に立たされかねないと感じた時、テリカ一党の誰が如何様に考えるか。些少は知れましょう」
うし。私の提案出してくれて有難う。……妥当性はある。よな?
「はぁ? 効果は分かる。だとしても組んで一年のあいつらを其処まで信頼出来る訳ないでしょう。……あたしと姉さんの近くに近衛を置けば、でも……」
「それでは対立を示す事に。勿論グレース殿の用心も当然と承知しております。
そこでアイラ殿が紛れて一番近くに立つというのは如何。いか様な事態が起ころうとも近衛が走り込む程度の時を稼げましょう」
「え―――有り難いけどダンは良いの?」
「仕方ありません。万に一つでも草原族がテリカに買収されていてお二人が死んでしまった。等となっては私も困ります。私は何時もの部屋で護衛長様に守られながらこっそり拝見しますよ」
「あら、腕利きと二人っきりなんて万に一つがあれば一番最初に死んで見せるって意味よね? 感心な心意気じゃない」
そだね。テリカによる買収は魔法無しに無理だけど、そもそも草原族がトークへの害意を持っててこの機会に。は、ある。と判断するよね。
「揚げ足とらないでくださいよ。近衛の方たちへ私とお二人の関係を出来るだけ秘密とするには選択肢がありません。
テリカにどんな思惑があろうと一番狙われるのがカルマさんなのも明確。もしも私に危険が及んだ場合は媚びへつらって何とか生き延びます。とにかくアイラさん、任せましたよ」
「うん。カルマ安心して。危なくなったらちゃんと守るから。三人までなら近衛が来るまでくらい大丈夫だと思うよ」
今貴方『この領で二番目の達人三人なら大丈夫』って意味で言いましたよね?
これが自信では無く単なる事実を言ってるだけだろうってのが……。
遥か東方、火の一族出身と聞くけど正に火のようなお人。火力が高すぎて大体一番の懸念材料なんだよな。
未だ同盟軍へ参加する前より余所余所しい感じがしてる今はなおさら。それでも他に手は思いつかん。
「しかし三百は多い。ワシが臆病者だと思われかねん」
おっとやはりそういうの気にしますか。ここら辺の価値観、臆病者と言われた場合の損失が未だに分からない。万全を期すよりも大事は無いと思うんだけど。
「地に足を付けてであればテリカとカーネルはレイブンさんと互角だそうで。更に他にも居る。入り口で腰の物を預かろうと短刀程度なら隠せるでしょ。
私が矢面に立つのであればもっと置きます。ついでに圧力が掛かった時のテリカを見れますしね」
こういうの……ああ、圧迫面接だ。問題になってた懐かしい。
しかし時は乱世。戦場に立つ人となれば圧力掛けて見定めるのが常道でしょ。
「……胆力は見ないとね。姉さんの気持ちは分かるけど、ガーレとレイブンは呼び戻せないし用心に越したことは無いわ。迎えと万事の対応はあたしがする。感触を自分で確かめてから姉さんの前に連れ出したいの」
流石グレース。テリカに害意があれば自分の所で止める気か。
有り難い。テリカもトーク第二位である彼女の案内は気分が良かろう。
「分かった。しかし無理は要らんぞグレース」
「……もし、受け入れるならば人質は如何に。妹のビイナをカルマ殿の近くに置き教育するが定石と考えますが」
「人質……マリオは取っていたのか?」
「いいえ。テリカの方で気を使い幾らか離れた街に住まわせていただけのようです」
「ならば取らぬ方が良いと思う。マリオより冷遇されていると言われては不本意だ。我等の関係にも水を差す」
「……そうね。恩を売るなら徹底するべき。そうじゃないのダン」
「はい。大体人質を取ろうが切り捨ててしまえば終わりですしね」
「まぁ、妹をあっさり切り捨てるのは普通不可能であろうが。さて、話はこれくらいか?」
そりゃ姉妹仲がとんでもなく良い貴方ならそうでしょうね。
「重要な話がまだ一つ。お二人はネイカンという名をご存知か」
「いいえ? 初めて聞いたわ」
「ネイカンは元江賊でテリカの配下らしき者の名です。しかし先日グローサの並べた中には無かった。今のテリカを見限ってもおかしくはありませぬが……」
「江賊。ならテリカがここを探らせたり、何らかの動きに使うため隠してる可能性もある、か。……あたしもそういう人材が居るかもとは思ったけど。よく名前まで」
「情報源が不確かなのでお気を付けを。しかしネイカンでなくとも誰かを潜めておく程度の知恵、あって当然。テリカはマリオの下で忍耐と用心深さを学ばされたはず。
してかように言っては如何」
私とリディアは直接問い詰められない。外にテリカの配下が残ってたら困るんだ。頼むよカルマ、グレース。
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「結論が出たわグローサ殿。まずはニイテ殿の謁見を許す。神が……よみしたまうなら。共に大業を成す将来もあるでしょう」
「はっ、ははぁっ! ありがたき幸せ! 主の喜ぶ声が耳に響いております」
「それは良かった。ただトークとしても幾らか不安があるの。例えば、貴方たちが実は内情を探りに来たマリオ閣下の間者で、時来たれば身中の虫となりてこちらの腹を食い破るつもりじゃないのか? とか、ね」
おおっ。驚いた顔。この美人らしき方、完璧と言われるだけあるなぁ。
こんな質問完全想定内だろうに、あり得ない疑惑をかけられて戸惑ってるようにしか見えない。
「まっ、まさか! 絶対に在り得ません。ご存知かと思いますが、世に流れる父フォウティ様を謀殺したのがマリオであるとの噂、事実で御座います。主がマリオの為にそのような献身を行う道理は何処にもありません」
「それはニイテ殿も悔しかったでしょう。でも、世の中何が起こるか分からない物。よってグローサ殿に尋ねるわ。
先日渡された書状に書いてある人間だけを受け入れればいいのね? その後誰かが来たり、何処か別の場所に住んでる人物と報せず連絡を取っていれば。こちらも腹に一物抱えていると考えざるを得ないのだけど」
よぉし。いいぞグレース。さてグローサはどう答える?
居るのならここで居ないと答える手は無い。連絡を取る度に裏切者とされる危険を背負っては本末転倒。
すぐさまトークを自分の物にしようと考えていない限り、お前たちに其処までの理由は無いはずだ。
外に人が残っていては大問題となる。一緒に居る者、全員前へ出てもらう。
――――――答えるのが遅い? 明晰と言われる人物がこうまで何を悩む?
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