ラットマン戦(1)


 戦える者たちは出口に向かった。

 つまり、俺を始めとしてマリア、ランスロット、そしてルネさんだ。

 このメンバーの強さは十分すぎるほど知っている。


 ランスロットさんは手刀で武装した男たちを何人もなぎ倒す豪傑だし、ルネさんの踊りは常軌を逸した魔法的な効果を持っている。


 これなら余裕だろう。

 そう思っていたら、ランスロットさんが僕とマリアに警告した。


『二人とも、ラットマンには十分注意してください。彼らはいわゆる〝亜人〟です。いわゆるモンスターとは比べ物にならない知性を持っています』


『亜人? えっと……人間に近い種族ってことですか?』


『ほぼ人間、そう考えて差し支えありません。ラットマンは人間と同じように役割をつくって行動しています。スキルも戦闘技術も人間と変わりません』


『手強い連中みたいですね……でも、なんでこんな地下に?』


『街の中にいるほうが安全で、物資が手に入りやすいからでしょうね。壁、食べ物、そして武器。荒野では何もかも自分で用意しないといけません。ですが……』


『ドロボーすれば、なんでも手に入る?』


『マリアの言う通りです。彼らは都市に寄生しているといっても良さそうですね』


『もしかして、このトンネルって実は……』


『密輸人がラットマンのトンネルを利用していただけかもしれませんね。あるいは、ともに作り上げたか……今となっては、ようとして知れないですが』


『ジロー様、私たちが食堂に使ってた部屋は、ラットマンのお家だったのかな?』


『そうかもね。だとしたら、こっちのほうが厄介者だなぁ……』


『ハハ、盗人の上前をとる。といったところですかね?』


『ランスロットさん。ラットマンに出会ったら、どいつから狙うべきですか?』


『ラットマンの指揮官を狙ってください。特徴的なヘルメットをかぶっているので、すぐ区別がつくはず。彼らは仲間内では目立ちたがり屋なのです』


『ふだん隠れ住んでるのに? なんだか矛盾してますね』


『たいていの違和感は、視点を変えれば妥当になるものです』


『えーっと……』


『ずっと隠れていられたのは、つよいリーダーがいたから?』


『あっ、そうか』


『彼らは今回の事件が起きるまで、私たちの前に姿を表さなかった。いえ、ジロー殿がいなかったら、ずっと隠れていたままだったかもしれません。それだけの統率力を発揮するには、相応の権威が必要です』


『だから着飾り、自分は特別な存在であると周囲に誇示する必要がある?』


『その通りです。ラットマンのリーダーは、かならず戦場に姿を現すはずです』


『なるほど。心にとめておきます』


 さすがはランスロットさんだ。

 毎度のことながら、戦いに関しての知識と洞察はすさまじい。


 さて、トンネルで動いている光点の数は、ざっと100以上。

 この量のザコを剣で相手にしてたらきりがない。


 俺たちの狙いはラットマンのリーダーだ。

 それをジャマする相手の露払いには、セントリーガンを使っていこう。


『僕がセントリーガンを置き、ザコを排除します。マリアとルネさんは敵のリーダーをお願いします。そしてランスロットさんはみんなの護衛を頼みます』


『承知しました。』

『うん』

『わかったわ』


 俺はみんなの護衛をランスロットさんに頼んだ。


 俺達がスラムから避難させている人々の数は、50人以上いる。

 トンネルはそれなりに大きいが、もういっぱいいっぱいだ。


 こうなると、セントリーガンは守りに使えない。


 敵味方入り乱れての乱戦になったら誤射は避けられない。それにセントリーガンは弾丸を打ち尽くしたら自爆するとかいうアホアホ機能がついている。


 こんなド畜生兵器をみんなの護衛に使うのは、あまりにも危険すぎる。


 負担が重すぎるが、ここはランスロットさんに任せるしかない。


「クリエイト・ウェポン!」


 俺は創造魔法を使って、セントリーガンを追加した。

 ひとまず、4基もあれば十分だろう。


 しかし、今日だけでかなり創造魔法を酷使している。

 さすがに疲労を感じ、目もかすんできた。

 今日の戦いはもうこれで終わればいいけど……。


『行こう、マリア』

『うん!』


 俺とマリア、そしてルネさんが前進する。

 トンネルを進んでいると、舌打ちを連発するような音(声?)が聞こえてきた。


「チチチチ……」


 音の主は闇の中に潜んでいるラットマンだった。

 ヘルメットの機能でシルエットがフチ取りされ、くっきりと存在が確認できる。


 レコンヘルメットは当然のように暗視機能がある。

 いくら闇の中に隠れていても、俺達の前では陽の下にいるのと変わらない。


斥候せっこうみたいね。こちらの様子をうかがっているみたい』


『うーん、話しかけてみますか?』


『彼ら、あまり気の長いタイプじゃないみたい。遅かったわね』


 光が動いたかと思うと、何かがこっちに向かって飛んできた。

 刹那、シールドベルトが反応して飛来物を叩き落とす。

 トンネルの土の床に突き刺さったそれを見て、僕は目を疑った。


『シュ、シュリケン?!』


 投げつけられたのは、3方向に刃が突き出たY字状の手裏剣だった。

 手裏剣の素材は鉄のようだが、カミソリのように鋭い。

 まともに喰らえば、アクトンどころかハガネの鎧でも貫通しそうだ。


『斥候じゃなくって、アサシンだったみたいですね』


『ジロー様、まだ来る……!』

『――ッ!』


 カラカラと気味の悪い音を鳴らして、刺股さすまたのような先端をした槍をもったラットマンが、俺たちを取り囲むようにして現れた。


 新手は鉤爪カギヅメが縄の結び目についている投げ網を持っている。

 音の原因はアレか。

 ネットについた鉤爪がふれ合うことで奇妙な音を立てているようだ。


 手裏剣はともかく、投げ網ってシールドで防げるのか……?

 ちょっとマズイそうだ。


『奇襲が失敗したから、次は正攻法でってことみたいね』


『はぁ……長い夜になりそうだ』



◆◇◆



※作者コメント※

ラットマンは正面切っての戦闘よりも、誘拐と秘密工作を得意とします。

本能的にシーフタイプみたいな感じの種族。

レコンヘルメットがなかったら奇襲食らってわりとやばかった模様。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る