謎は深まり、手がかりなし
『うーん……花畑については、今のところ手のうちようがないな。これについてはいったん置いておいて、魔国の本拠地の様子を見てみよう』
俺の言葉にマリアもこくこくと頷いた。
花畑にすっかり気を取られていたが、本来の目的は魔国の様子をみることだ。
衛星画像の上に指をすべらせ、西のほうへスクロールさせる。
花畑を超えると、平凡な田園地帯が目に入った。
小麦畑なのか、黄色いカーペットが風に揺れている。
一見、何の変哲もなさそうだが……花畑の後だと、これも罠に見えてくるな。
さらに進めると、細い線のような壁に囲まれた大きな街が見えてきた。
『……思ったより普通だな』
『シルニアとほとんど変わらない、かな?』
魔国の都、その見た目は、ほとんどシルニアの王都と変わらない。
ただ、ひとつ俺の目を引いた部分があった。
街の中央にポッカリと空いた穴。いや、クレーターだ。
クレーターの大きさは……半径200メートルを越えているだろうか。
俺の通っている高校がすっぽり入ってしまうくらいの広さだ。
周囲には、クレーターを取り囲むように色鮮やかな垂れ布や旗が並び、宗教的な規則性を感じる飾り付けがなされている。
これが例の、この世界に魔法が現れるきっかけになったという星だろうか?
『星っていうから、てっきり隕石みたいなのと思ってたけど、これは……』
クレーターの中央にあったのは、隕石ではなく、黒く四角い物体だった。
真上からの映像ゆえに、物体の詳しい形はわからない。
だが、影が多少の手がかりになる。
物体が地面に落としている影は長く、先っぽの方にかけて細くなっている。
黒い物体は柱のような形をしていて、それなりに高さがあるようだ。
ということは――
『これは……明らかに人工物だな』
「星」とやらが宇宙を漂っていた隕石でならば、こんな形をしているはずがない。
ただの偶然にしても、あまりにも整然としすぎている。
『なんかコレ見てると、難破した宇宙船で工具を使ってエイリアンと戦うゲームを思い出すなぁ……』
「……?」(かしげっ)
『いや、ごめん。こっちの話』
伝説によれば、魔国に落ちた「星」が世界に魔法をもたらしたという。
しかし、「星」はどう見てもただの隕石じゃない。人工物だ。
だが、仮に人工物だとして……人の手で世界の理を作り変えるようなものが作れるだろうか。眼の前にある「星」は、あまりにも異質で不自然な存在だ。
俺は衛星画像に写っている「星」をもう一度観察してみる。
その黒い表面は滑らかで、金属のように鋭く太陽の光を返している。
整った形状とむらのない漆黒の色合いからは、一種の宝石のような美しさを感じるが、それと同時に何か――見ているだけで心の内側をかきむしられるような、不快な感覚が押し寄せてくる。
『ジロー様、これ……何かイヤな感じ、しない?』
『――うん。そうだね』
気が進まないが、一応調べよう。
俺は虫眼鏡のアイコンをタップして「星」に合わせる。
だが――
<警告:調査ツールに予期せぬエラーが発生しました。調査を中断します。対象は本機器が調査可能な基底現実指数を大幅に超過しています。>
『ちょ、どういうこと?』
<:調査対象は非常に高い現実改変能力を持ち、調和函数の空間において、現実の変曲点が対象の周囲に展開する重力井戸となっています。>
『ま、まるでわからん……』
その後も監視衛星は何かしらのパラメーターを視界に表示する。
が、俺にはまるで意味が理解できなかった。
わかったのは、あの黒い物体が正体不明ってことだけだ。
『……魔国を偵察してみたけど、謎が深まっただけだなぁ』
『魔国に行ってナイアルトさん探すなら、お花畑なんとかしないと、いけない?』
『そうだね。花畑について知ってそうな人といえば……マギーさんかな? あの人が持っている知識は底が知れない。花畑のことについて、何か知っているかも』
『……マギーさん、すごい魔法に詳しかったから、何か知ってる、かも?』
『だね。あと手がかりになりそうなのは王城だけど……こっちは気が向かないな』
『絶対ケンカになりそう、かな?』
『うん。転移者と鉢合わせたらどうなるか、考えなくても結果がわかる。
だから、まずはマギーさんに話を聞こう』
衛星画像はひたすらにエラーメッセージを繰り返す。
理屈が通らないものに対しては、同じく理屈の通らない人に聞くのが一番だ。
そういった意味で、マギーさんはこのうえなく適した人材だ。
俺は監視衛星との接続を切り、彼女を探すことにした。
マギーさんの
ギルドの依頼書には依頼人の住所が記載されてるからね。
旅の空であることから、今回は一時住所として宿の名前が書かれている。
ここに行けばマギーさんと会えるはずだ。
★★★
※作者コメント※
マグロ……マーカー……うっ頭が!
作者は科学用語をそれっぽい気分で使っています(おい
一応、人工衛星君の報告を解説すると、「星」の周囲は現実の改変が極めて強い強度で行われており、結果として周囲の現実がその改変に引っ張られるように落ちくぼみ、重力井戸(ブラックホール)のような状態になっている。そのため、いかなる手段を用いて「星」の調査をしたとしても、こっちの現実には向こうの手によって改変されたデータしか届かなくて、調査できなかったよ、ということらしいです。
この異世界って、思った以上にヤバヤバな状況なのでは……?(名推理
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