終了報告:ゴースト退治

「サイゾウさん、戻りました」


「早かったな。首尾はどうだ?」


「とくに問題ありませんでした。それで――」


 俺は墓場で起きたことをサイゾウさんに説明した。


 ゴーストが現れた原因は、彼の推測通り学生にあったこと。

 墓守は死霊術師じゃなくて、真っ当に仕事していたこと。


「墓場のゴーストたちに何ら非はなく、むしろ被害者といってよかったわけか」


「はい。それで俺はゴーストを倒すんじゃなくって、彼らと交渉することにしました。シルニアのために戦った無名戦士の怒りは正当なものです。彼らを消滅させるなんて間違ってると思ったんです」


「それで無名戦士たちと決闘して、学生たちに手を出さないことを約束させた、と」


「はい。」


「なるほど……無名戦士と絆を結んだか。思った以上にブッ飛んでるな」


「全部本当なんですけど」


「…………(こくこく)!」


「ま、疑っちゃいない。お前らはとびきりの変人だ。そんなこともあるだろ」


「もうちょっと別の言い方ないですか?」


「ないね。お前らを言い表すのに変人以外の言葉はないよ」


「…………(ふんす!)」


「さーて、初仕事を終えたお前らにいくつか渡すもんがある」


「?」


「まずは報酬だ。取っておけ」


<パシッ!>


 サイゾウさんは茶色の小さい革袋を投げてよこした。


 おぉ……これは例の「報酬が入ってるちっちゃい革袋」じゃないか!!

 まさかRPGでしか見たことないアレをリアルで見れるとはッ!


「妙に嬉しそうだな?」


「はは……まぁ」


「依頼金の銀貨20枚のうちの半分。銀10枚がお前らの取り分だ。不満かもしれないが交渉はしないでくれ。こっちもカツカツなんだ」


『あら、半分かぁ……マリア、これってピンハネされてるの?』

『ううん、サイゾウさん、武器とよろいを出してくれた。むしろ赤字』

『なるほど。じゃあありがたく受け取ろう』


 受け取った革袋を広げて、中に入った銀のコインをテーブルに重ねて数える。

 うん、5枚と5枚。たしかに10枚だ。


「………はい、確かに。じゃあ、これはマリアの分ね」


 俺は指を使って、マリアの方に銀貨の山を押した。

 すると彼女は激しく首を横にふった。


「…………(ブンブン!)」


「えっと、マリアにはいっぱい助けてもらったし、そのお礼もあるんだ。ありがとうの気持ちといっしょに受け取ってくれるかな?」


 マリアはイヤホンを外してしまった。そんなに嬉しかったのかな?


「かー! それ以上は外で――おっとまだ帰るな、まだ渡すもんがある」


「まだ何かありましたっけ?」


「おうともよ。お前らの冒険者ライセンスだ。くすなよ?」


 冒険者ライセンス!?

 おお、やっぱりあるのか!!


 サイゾウさんは革紐の通された2枚の円盤を俺達の前に置いた。

 見ようによっては、戦争映画でときどき見る「ドックタグ」に似てる。


 円盤には俺とマリアの名前、そして星の絵が書かれていた。

 星の絵は「☆☆☆☆★」となっている。

 えーとつまり、俺たちの冒険者ランクは星ひとつってこと?


「冒険者ランクの見方みかたがよくわからないんですけど……この星が色で埋まってるほど、冒険者のランクが高いってことですか?」


「そうだ。そこに書かれてる通り、お前たちは星1冒険者ってことだ」


「星1かぁ……あ、ランクの高い冒険者は海外にも移住できるって聞いたんですが、それって星いくつからです?」


「そういや街の外に出たいんだっけか? 他の都市に関係する依頼は星3からだな。で、移住は星5からだ。つまり……最後の最後だ」


「ゲェーッ!!」


「ま、地道にやってけ」


「えーっと、ちなみにお聞きしたいんですけど、どれくらいの期間で星5になれるんですか? あと、星5冒険者になった人の最短記録もわかります?」


「ギルドの記録だと3ヶ月で星5になったやつがいる。だけどな、そういうのはマジの英雄様だ。普通は星3どまりが普通だよ」


「そっかぁ……あれ?」


「どうした?」


「この冒険者ライセンス、僕らが戻ってくるかどうかもわからないのに作ってたんですか? 無駄になるかも知れなかったのに」


「ハッ、やっぱりお前さんは目端めはしが利くな。冒険者向きだぞ」


「どうも?」


「――ま、げん担ぎみたいなもんだ」


「……なるほど」


 冒険者が無事に帰るのを祈って、ライセンスを作った。

 そんなところか。


 サイゾウさん、最初は守銭奴っぽいかと思ったけど……。

 意外といいところもあるな。


「次の仕事が欲しかったら、また明日ここに来な。お前ら向きの依頼があるんだが、まだ資料が用意出来てないんだ」


「ありがとうございます」


「で、レベルはいくつ上がった?」


「3です。マリアは変わらずです」


「ぼちぼちってとこだな。……決闘で消えた無名戦士のゴーストに黙祷を」


「いえ、倒してないです。ちょっと薄くなったけど」


「え、倒してないの?」


「そうなんですよね……レベルってそれでも上がるんですね」


「いや、いやいやいや! モンスターを倒さずにレベルが上がるなんて聞いたこともない。お前、何か妙なことしなかったか?」


「…………いえ。」


「ふぅ~む……まったく聞いたことのない事例ケースだな。モンスターを倒さずにレベルが上がるのがマジなら、ちょっとした革命だぞ」


「あ、うん。なにかの間違いかもしれません」


「そ、そうだな、これは間違いだ。そういうことにしておこう……下手に聞き回ってこのことがれでもしたら、王家の連中が武器持ってなだれ込んでくるぞ」


「――このことはサイゾウさんと僕たちだけの秘密にします」


「それがいい。……じゃ、また明日な」


「はい。」


 報告の終わった俺とマリアは冒険者ギルドを出てスラムに向かった。

 たった3とはいえ、レベルはあがった。

 さっそく創造魔法のスキル上げをして、何ができるか試してみよう。



◆◇◆


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