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報告のためによった冒険者ギルドを
ランスロットさんのあばら家についたころには、街はすっかり暗くなっていた。
工場の窓からはオレンジ色の光がもれ、街灯が道を照らしている。
しかしスラムのほうは、ほとんど真っ暗だ。
一応、明かりらしきものはある。けどショボい。
平たい空き缶に
スラムでは、これに火をともして照明にしていた。
空き缶のフタを持てばちょうどいい
が、燃料の質のせいか、ススも出れば臭いも出る。
手に持って使うと煙が顔面を直撃するのでかなりきつかった。
『ここに置くね』
『うん、ありがとジロー様』
俺は家の中央にあったテーブルに、火をともした空き缶を置いた。
小さな火が
なんか怪談話でもはじまりそうな雰囲気だ。
「ふたりとも、おかえりなさい。首尾はどうでした?」
「レベル3になって、報酬も銀貨を5枚づつもらいました」
「順調そうで安心しました」
「…………(コクコク)」
「それで……ちょっと問題が。食事のことなんですけど」
「食事? 食事がどうかされたのですか」
「どうやら僕がスキルで出した食事は、食べた人のエーテルや能力を強化するみたいなんです。どれだけ強化されたのか、正確なところは不明なんですが……」
「…………(ガッツポーズ!)」
「――マリアは倍のレベルを持つゴーストと渡り合ってました。」
「なるほど……それは凄まじいですね。スキルの相性が良くとも、レベルの差を
「どれくらい強化されているか、ランスロットさんにわかりますか?」
「いえ。レベルやスキルだけでなく、より詳しいステータスを知ろうとした場合は、スキルが必要です。〝鑑定〟が無いと見破れません」
「そうですか……」
そういえば、王城で乗客を鑑定した神官風のオジサンが〝鑑定〟を持ってたな。
あのオジサンじゃないとわからないのか。
「なら、しばらくは秘密を守れそうですね」
「そのとおりです。〝鑑定〟を持つものは大抵王城に召し上げられます。
「バレる心配がない。それは良いんですけど……」
「…………(パクパク、めっ?)」
「うん。この食事――『強化栄養食』をスラムで配ったら大混乱になる。きっとそのうち、誰かが食事の効果に気づくと思う」
子どもたちにひもじい思いはさせたくない。
だが混乱を引き起こすわけにもいかない……まいったな。
「子供だけに食事を渡し、大人には渡さないようにというのは?」
「難しいですね。スラムには弱い者たちから食事を取り上げようとする不届き者もいます。その者たちから露見するやもしれません。それに――」
「スラムには内乱の機会をうかがっている者がいます。彼らがその食事のことを知ったら、きっと放っておかないでしょう」
「むむむ……」
「ジロー殿、他の食事が出せないか試されては?」
「あ、そっか! レベルが上ったんだしスキルを伸ばせばいいのか」
「…………!(コクコク)」
「よし、スキル上げを試してみるか……ただ使い続ければいいんですよね?」
「そうですね。スキルを鍛えるのは筋肉を鍛えるのとまったく同じです。つまり、ひたすら反復して使い続け、負荷をかけることです」
「よし……クリエイト・フード!」
「クリエイト・フード! クリエイト・フード!」
◆◇◆
「クリクリ……ぐへぇ」
「…………(なでなで)」
「ありがとうマリア。も、もうすこし……」
俺の横には30個くらいのディストピア飯が転がっている。
これくらいやれば、さすがにスキルも上がっただろう。
スキルを使い続けた俺は、全身の力が抜けたようになっていた。
頭の芯がキーンと冷え、お腹はぐるぐる。手足はビリビリしびれている。
エーテルを使い果たすってこんな感じなのか……これはキツい!
「そろそろ上がったのではないですか? ステータスを確認されてみては」
「は、はひ……すてーたすおーぷん……ふはっ」
・クリエイト・フード LV3
:強化栄養食
:????
「お、上がってる! でも、なんだろう……この『????』って?」
『もしかして、新しいのだせる?』
『そうかも。やってみるね』
『うん、がんばってジロー様!!』
よし、ここが肝心なところだぞ。
最初クリエイト・フードを使った時は「なんとなく食えるもの」を想像した。
ディストピア飯が出たのは、これのせいに違いない。
つまり、ここで最高のフツーの食事を〝創造〟するのだ!
うんぬぬぬ……!
ジューシーでカリッとしてモチモチで、楽しげでおいしい……。
――何かそんな感じの、来い!!
「クリエイト・フード!!」
俺の手の中に光が集まり、何かの形をつむぎあげていく。
見ていると光が弱まって消えていき、その存在の姿があらわになる。
こ、これは――ッ!!
「箱……ですね」
現れたのはプラスチックと金属の中間のような質感をした箱だった。
持ち上げてみると、ズシッと重かった。
箱の形状はマケドナルドのビッグマッケを入れる容器に近い。
もしかして、中にあるのはハンバーガーか?!
俺は期待感をもって箱のフタを開ける。が――
「お、おぉぉ、ぉう……」
箱の中は「空」だ。「からっぽ」「えんぷてぃ」「スカ」。
この箱の中には空気しか入ってない。
最高にしてフツーの食事なんてモノは「存在しない」とでもいうのか。
これが、これが……俺の求めに対する世界の返答か。
気が遠くなり、倒れそうになった俺はマリアに背中を支えられた。
「…………(ガシッ)!」
「マリア、僕はもうダメかも知れない」
「…………(フルフル)」
「ん?」
マリアは僕の手の中にある箱を指さしている。
彼女の小さな指の先を見ると、赤色のボタンがついていた。
ボタンには、フォークとナイフのマークが刻まれている。
ふむ、これを押してということか?
『ジロー様、この箱、何か仕掛けがありそうだよ』
『たしかに……どれどれ』
俺は冷静になって、もう一度箱を見てみる。
……ふむ。箱は
そんで、箱の上面には奇妙なものが付いている。
料理の絵が3つ並んだスロットのリールのようなパーツだ。
リールの横には三角形の出っ張りがある。
これは……どうみてもスロットマシンにしかみえない。
スロットマシンのついたお弁当箱。
まさか、コイツの本当の使い方は……そうか!
「フタを閉めて、この赤いボタンを押してみよう」
「…………!(コクコク)」
俺は意を決して弁当箱のボタンを押す。
すると、箱のフタについたリールの絵が高速で回転しだした!
<ピュロロロロロ!!>
『ジロー様!』
『シッ、マリア……きっとここからが重要なんだ』
最初の図柄がとまった。ふむ……「ピザ」か。
――ハァッ!!
俺は集中し、タイミングよくボタンを押す。
きっと、このリールの絵柄がそろえば……!
<ピッピッ……ピーン!>
「?!」
<……チーン!!>
正確無比な目押しにより、リールに3つのピザの絵がそろう。
するとリールが光り輝き、レンジのチンによく似た軽やかな音が鳴った。
……箱を持っている俺の手に温かみが宿っている。
俺は期待感にふるえる手で、そーっとお弁当箱のフタを上げた。
するとそこには――
とろけたチーズが湯気を上げる、美味しそうなピザパンがあった!
「キタァァァァァァッ!!!」
「…………!!(ビクッ!!)」
・クリエイト・フード LV3
:強化栄養食
:
◆◇◆
商品説明:三等娯楽食
(企業担当者各位)
お疲れ様です。
本日は労働者の幸福度を向上させるための新商品をご紹介いたします。
その名も「三等娯楽食」です。
◯商品概要◯
「三等娯楽食」は究極のエンターテイメントフードです。
この商品は、労働者にとって欠かせない存在となることでしょう。
◯特長◯
スロット付き容器:🎰🍉🍒🔔🎰
容器のボタンを押すと、スロットゲームの始まり!
スロットの役によって、18種類の美味しい食事がランダムに提供されます。
どの食事が出てくるかはお楽しみ!
スロットによって射幸心を刺激し、労働者に日々の楽しみを提供します。
(当社の都合により、予告なしにメニューの変更がされる場合があります。また、メニューの当選に
スパイス:
食事には新開発のマルチスパイスが使用されています!
労働者の疲れを癒し、心身ともにリフレッシュさせる効果があります。
(依存性などは一切報告されておりません! 実用新案登録出願中)
「三等娯楽食」は、労働者に新しい楽しみを提供します。
日々の単調な労働に彩りを加え、幸福度を高めることで、企業全体の生産性向上に寄与します。ぜひ、この機会に「三等娯楽食」を導入し、労働者の皆様に新しいエンターテイメントを提供してはいかがでしょう!
ご不明点や詳細については、弊社担当者までお気軽にお問い合わせください。
以上、よろしくお願いいたします。
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