シルニア王国の歴史

「この国はシルニア王国といいます。青き清浄な空と、緑の大地が山々まで連なる、それは美しい国でした」


「今の光景からすると、ちょっと想像しづらいですね」


「えぇ。返す言葉もありません。今のシルニアは、煤煙ばいえん汚泥おでいの中でおぼれかけている」


「……ランスロットさんは関係ないのでは?」


「いえ、これをしたのは、私たちの仕業しわざなのです」


「えっ、ランスロットさんたちが?」


「いまより20年前、先王の時代。この国を危機が襲いました。北方より帝国人が攻め寄せてきたのです。シルニアは無数のとりでを失い、あわやこの街まで攻め落とされる寸前でした。しかし――」


「一発逆転のために、転移者を呼び寄せた?」


「はい。魔術師ナイアルトが禁書庫で転移術を発見し、実行したのです。私はそれを助ける役目にありました」


「20年前……あっ」


 思い出した。

 20年前の20✕✕年といえば、有名な大量失踪しっそう事件があった。

 とある学校の1クラスの生徒たちが、白昼堂々失踪したという事件だ。


 ニュースでは失踪の原因についてあれこれ大騒ぎしてた。

 けど、結局何もわからず、今では都市伝説の鉄板ネタになっている。

 あの事件で消えた生徒たちが、この世界に来たのか?


「ジローさん、なにか?」


「いえ……そういえば、こっちの世界でたくさんの人がいなくなった事件があったのを思い出したんです。」


「なるほど。やはりそちらでも問題になっていましたか」


「彼らはどうなったんです? 僕の知るかぎり、元の世界に帰ってきた人は1人もいない。……ただの1人もです」


「…………」


「ランスロットさん?」


「……すみません。多くのものが死にました。」


「――ッ! それは、帝国との戦争で?」


「それもあります。ですが、大半は転移者同士の争いで亡くなりました。彼らの人間関係に何か問題があったのでしょう。我々はそれを止められませんでした」


(あぁ、学校の生徒たちなんだっけ。何となく何が起きたかは想像できる……できるだけにつらいなぁ。)


「転移してきた彼らは、スキルを使って攻め寄せていた帝国を追い返しました。そのすぐ後、創造魔法を使う転移者が〝ゲンダイヘイキ〟を作らせ始めました。ジロー殿は街にある工場を見ましたか?」


「はい、見ました。かなり大きな工場ですよね」


「あの工場は、転移者のスキルを使って作られたものなのです」


「工場まで……」


「あそこで生み出した〝ライフル〟や〝センシャ〟は、帝国との戦いで大いに役立ちました。不幸なことに、転移者は勝利を見届けることはありませんでしたが」


「戦死したんですか?」


「そう聞いています。しかし……私はその場を見ていません」


「……」


「すみません、ジロー殿。当時の私は、うたがいを口にすることを恐れたのです」


 ランスロットさんは慎重に言葉を選んでいる。


 おそらく、当時の王様にとって転移者の存在がジャマになった。

 それで戦死を装って転移者を始末した。

 ランスロットさんが疑ったのは、そういうことだ。


 シルニア王国はライフルやマシンガン、そして戦車まで作れるようになった。

 チートスキルを持っていても、無数の銃口に狙われれば勝てっこない。


 転移者に対する恐怖が彼らにそうさせたんだろうか。


「私は帝国に勝利した後、騎士団長の職を返上しました。もっとも……しがみついたとしても、時間の問題だったでしょうが」


「剣と魔法まほうの時代が終わったからですか?」


「そういうことです。とはいえ、まだ完全に消え去ったわけではありませんが」


「え?」


「ゴーストといった霊体。そしてスライムやゴーレムといった物理攻撃に耐性を持つモンスターに対して〝ゲンダイヘイキ〟は無力なのです」


「なるほど……」


「しかしそうしたモンスターの討伐も冒険者ギルドに依頼すれば十分。そのため騎士団は解散。代わりに〝ゲンダイヘイキ〟を装備する銃士隊が結成されました。私は剣を使うしか能が無い老人です。これ幸いと引退を決め込んだのです」


「…………!」


「マリア、これも時代というものだよ」


「ありがとうございます。ランスロットさん、シルニアの歴史はわかりました。ひとつ思いついたことがあるんですが、いいですか?」


「なんでしょう?」


「ナイアルトが転移術を禁書庫から持ち出したなら、その反対の術も禁書庫にあるんでしょうか? つまり、呼び出した人間を元の世界に戻す魔法が」


「あるかもしれません。しかし、禁書庫の場所は私にもわからないのです」


「騎士団長だったランスロットさんにもわからないんですか?」


「残念ながら……。ジロー殿が元の世界に帰還するには、まず禁書庫の場所を突き止めねばならないでしょう」


「何か心当たりはないんですか?」


「王城の警備を預かっていた私でも知らないということは、少なくとも王城には無いでしょう。それらしい部屋があれば、必ず把握はあくしているはずなので」


「……手詰まりか」


「お力になれず申し訳ない」


「いえ、王城に戻らなくて良いとわかっただけで気が楽になりました。ランスロットさん、次はレベルとスキルについて教えてくれませんか?」


「ええ、もちろんです」



◆◇◆


※作者コメント※

次話はスキルとレベル回りの説明回です。

序盤の設定説明は次で終わりになります!

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