スキルとレベル


「このレベルとスキルってどうやれば成長できるんですか?」


 俺はスキルウィンドウを開いてランスロットさんに見せてみる。

 彼はシワのよった細い目を見開き、ひどくおどろいたようだった。


「創造魔法……! うたがっていたわけではありませんが、本当なのですね」


「は、はい。っていっても、このスキルで出せるのモノは、今のところオモチャと食べ物だけなんですけどね……」


「なら、スキルをきたえるのが良いでしょうな。――と、それを聞きたいのでしたか」


「はい。ランスロットさん、スキルってどうやって鍛えればいいんですか?」


「スキルは使用し続ければ自然と上がっていきます。しかし、スキルは自身のレベルより高くなることはありません」


「レベルより上がることはない……? じゃあレベル1の僕がいくらスキルを使っても、スキルはまるで成長しないっていうことですか?」


「その通りです」


 なんだぁ、がっかりだな……。

 これまで使ったのは、スキル上げの意味がなかったのか。


「参考までに私のステータスを見せましょう」


『ランスロット レベル68 剣聖 』


・全剣技  LV68

・指導術  LV53

・剣心一如 LV68


(ぜ、全剣技?! 何かすっごいこと書いてあるような……)


「ハハ、数字だけです。このようにレベルより高いスキルはないでしょう?」


「は、はい。」


「スキルは体を鍛えるのと同じです。反復して練習すれば強くなります。ただ……」


「ただ?」


「スキルを使用すると、肉体に負荷ふかがかかります。強大なスキルほど多くのエーテルを使用することになります」


「えーてる?」


「人やモンスターの体に宿る生命のエネルギー、といったところでしょうか。エーテルは生き物が死ぬと体から解放され、大地に還ります」


「ですが、モンスターを戦いなどで倒した場合はすこし異なります。大地に還るはずのエーテルが、近くにいた者たちに少しだけ取り込まれるのです」


 なるほど……興味深い仕組みだ。

 この世界では人間やモンスターの体の中にエーテルというエネルギーがある。

 俺がレベル1なのは、転移したばかりでエーテルが少ないからか。


「じゃあレベルが高いっていうのは、より多くのエーテルを体に持っているっていう意味になるんですね?」


「そういうことです。強大で長命なモンスターほどレベルが高くなり、強力なスキルを使ってきます」


「あ、ちょっと心配になったんですけど……エーテルって使ったら消えて無くなっちゃいます? スキルの使いすぎで死んじゃうとか……」


「いえ、その心配はありません。エーテルはしっかり寝て、しっかり食べれば自然と回復していくものです。私のような年寄りでなければね」


「……あれ、ちょっと待ってください。スキルを上げるにはレベルが必要。レベルを上げるには高いスキルが必要……服を買いに行く服がない状態じゃないですか!!」


「うまい言い回しですな。確かにそういうこともあります。」


「どうしよう……マリア?」


「…………!」


 マリアは左手に2本の指を立て、右手に1本の指を立てた。

 そして指どうしを激しくぶつける。どういう意味だろう……?


「――あ! 仲間と一緒に戦う?」


「…………!!」


 マリアはこくこくと頭をたてにふって笑った。

 なるほど、その手があったか!


「騎士団でも見習いは年長者に付いてレベルを上げます。レベル1からひとりで戦うのは、あまりにも危険すぎますからね」


「じゃあ俺は、マリアちゃんと一緒に戦えばいいってこと?」


「…………!」


 マリアはえへんと小さな胸を反らして、俺にステータス画面をつきつけた。

 画面を見た俺は「は?!」と間抜けな声を上げてしまった。


『マリア レベル13 聖騎士』


・聖剣技   LV8

・神聖魔法  LV2

・加護    LV4


「せ、聖騎士せいきしィ!?」


 マリアはふっふーんとドヤ顔をしている。なんかくやしいので、ほっぺをぷにぷにつっついてると、ランスロットさんが残念そうにうめいた。


「星天騎士団が今もあったなら、マリアは私の後を継いで騎士団を率いていたかも知れません。惜しいことです」


「そっか、もう無いんだもんな……」


「…………。(スンッ……)」


「そういえば、これって聞いても大丈夫かわからないんですけど……いいですか?」


「なんでしょう?」


 俺は言うか言うまいか、すこし考え込んだ。

 だが、決心して聞いてみることにした。マリアの声のことだ。


「どうしてマリアちゃんは声が出せないんです?」


「それは……彼女が奴隷どれいだからです。」


「ど、奴隷? でも鎖も何も……」


「必要ないのですよ。奴隷として働くのは一瞬ですし、逃げようもないですから」


「???」


 ランスロットさんの言ってる意味がわからなくて、俺が困惑していた時だった。

 あばら家の外から空気をつんざくようなサイレンの音が聞こえた。


<ウーウーウー!!!><ファンファンファン!!!>


「噂をすればなんとやら、ですね。貴方あなたは隠れていたほうがいい」


「な、なんですこの音?」


「このサイレンは、奴隷にエーテル回収車の到着を知らせるものです」


「エーテル回収車?」


「そこの窓から見てみなさい」


 ランスロットさんは枯れ木のようなうでを伸ばし、ボロボロの窓を指さした。

 俺は腰を曲げ、隠れながらそーっと外をのぞき見た。


「…………ッ!」


 スラム街のバラックが立て並ぶ通りの真ん中にトラックが止まっていた。

 トラックは巨大なタンクを背負っており、給水車のような見た目をしている。


 何が始まるのかと見守っていると、トラックから武装した兵士が降りてきた。

 兵士は細いホースをタンクにつなげる作業をしている。


 すると給水車の背後から、また別のトラックがやってきた。


 そっちのトラックは荷台に10人くらいの武装した兵士を乗せ、荷台の残りのスペースには段ボールを山積みにしている。


 すると荷台にいた指揮官らしき男が、拡声器を持って大声で怒鳴りちらした。


『回収の時間だ!! 奴隷ども、さっさと巣から出てこい!!』


 スラムに恫喝どうかつの声が響き渡る。

 少しの間を置いて、バラックの中からぞろぞろと人々が出てきた。

 大人、子供、みんな体が汚れ、疲れきった様子だ。


「…………!」


「あ、マリア!」


「ジロー殿、追ってはダメです」


 俺が止める間もなく、マリアも外に駆け出していった。

 いったい何が始まるんだ?


「ジロー殿。街の中央にある工場。そこにある〝キカイ〟もエーテルで動いているのですよ。なぜなら、スキルで出したものですから」


「じゃあ、あれって……工場のためにエーテルを集めるトラック?」


『奴隷ども、これが今日の配給だ。腕を出せ!』


 マリアをはじめとした奴隷たちは、兵士が段ボールの中から取り出した何かを受けとり、腕をまくって出す。


 すると兵士は、エーテル回収車から伸びるホースを奴隷の腕に取り付けた。

 そして――


『よーし良いぞ、始めろ!!』


「…………!!!」


 兵士が合図をすると、マリアたちは地面にひざをつく。

 それどころか、地面に倒れ込んでしまう人もいた。


「あれはいったい何をしてるんです!?」


「見ての通り、エーテルの回収です。食料と引き換えに1日1回のエーテルの提供。これが奴隷たちの仕事なのです」


「仕事? あんなのただの〝収穫〟じゃないですか!」


「私もそのとおりだと思います。ジロー殿……なぜマリアが声を出せないのか、その疑問についてお答えします」


「……。」


「エーテルの吸入は大変な苦痛を伴います。生命エネルギーをむりやり吸い上げるわけですから。彼らの悲鳴が耳に入れば、街に住む人々は罪の意識を感じるでしょう」


「そんなの当たり前じゃないですか! あ……」


「ゆえに、奴隷の悲鳴を消すために声を封じているのです」


「なんてひどいことを……」


「ジロー殿……これがシルニア王国です。私が守ろうとした国の抜け殻です」


 俺はランスロットさんが拳を握り込んでいることに気がついた。

 その細い枯れ木のような腕に似合わない力強さで、拳には血がにじんでいる。


 エーテルの回収が終わって、トラックが列をなしてスラムを去っていく。

 車に乗った兵士たちは、地面に倒れた奴隷には見向きもしなかった。


 ……こんなこと、絶対許してはいけない。





ーーーーーー

※作者コメント※

あかん、この世界終わりすぎてる…

仕組み的には、おそらくモンスターのほうがエーテルが多くとれます。

けど、安全とか調達の安定性、諸々の理由で人間を相手に回収してます。

地獄かな?

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