未来の雨具?

『イゾルデさんから色々と話が聞けて助かりました』


『そう、じゃあこれ返すわね』


 彼女はイヤホンを外し、俺に返す。

 しかし、俺とマリアを見る目がなにやら不思議そうだ。


「どうしました?」


「大したことじゃないんだけど……貴方たち、ずっとコレつけてるの?」


「寝る時とかは外しますけど、大抵つけっぱなしですね」

「…………(こくこく)」


「でもコレって、お互いの心の中を四六時中しろくじちゅうのぞき合うんでしょ?」


「えぇ、けっこう便利ですよ。口で話すより楽ですし」

「…………!(ふんす!)」


「……あなたたち、スゴイわね」


「え、そうですか?」

「…………?」


「ん~、あー、そう……これが若さかぁ……」


「「?????」」




 聞き込みを終えた俺とマリアは酒場を後にした。そしてルネさんが出入りしているという魔法使いの邸宅に向かうことにしたのだが――


<ゴロゴロ……!>


 道中、突然の雨に見舞われた。空が暗くなり、雷鳴が轟いたかとおもうと、すぐに大粒の雨がやってきた。このまま石を削りきるのではないかと思うほどの勢いで、大きな雨粒が玉石の道路をたたく。えぐいって!


『マリア、こっちに避難しよう!』

『うん!』


 少し先に家があったので、俺はそこの軒先を借りることにした。

 屋根の下でマリアと身を寄せ合った。

 雨はまるで滝のように降り注ぎ、道路の玉石は水の中に沈んでしまった。


『このままだと嵐になりそうだね』

『雨、きらい』


 屋根から流れ落ちた雨水が目の前に水のスクリーンをつくる。

 壁に背中をくっつけるようにしても、風で吹き込む雨からは隠れきれなかった。


『マリア、そこにいるとぬれちゃうよ』

『でも、そうするとジロー様が……』

『いいのいいの』


 俺は彼女の肩を抱き寄せ、すこしマシな場所をゆずった。

 まったくひどい雨だ。

 雨足が弱まるのを待ってみたが、まったく止む気配がない。


『……そうだ、やってみるか』

『?』

『ほら「クリエイト・アーマー」で雨を防げるものが出せないかって思ってね』

『あっ、そっか!』


 LV3で出てきた三等娯楽食があれだけの性能なんだ。

 きっと雨を完全に防ぐ道具くらい出せるかも知れない。


 俺はクアンタム・ハーモナイザーを出して、スキル上げを試みることにした。


(クリエイト・アーマー!)(クリエイト・アーマー!)

(((クリエイト・アーマー!)))


 イヤホンを10数組ほど出し、ポケットがパンパンになったころにようやくスキルのレベルが3になった。よし、新しい道具をイメージしてみるか。


 雨はまだまだどしゃ降り状態だ。

 このうざったい雨を防ぐ道具……うーむ。


 全身を包み込み、自分にふりかかってくる全ての災いを弾き返す。

 そんな素晴らしい道具を創造するんだ。


 その時、俺の目の前に電流走る。来たッ! このイメージだッ!


『――来い、クリエイト・アーマー!!』


 俺の手に光が集まり形になる。いつものアレだ。

 そして、期待感に胸をふくらませた俺の手の中に現れたのは……!


『うーむ……?』

『なんだろうこれ。ベルトみたいだね?』

『フツーにかさが欲しかったんだけどなぁ……アレー?』


 俺の手の中には、ツヤツヤした化学繊維でられた白いベルトがあった。

 バックルはこれまた白い金属製で、微妙にデカくて重い。


 うむ! まるでナニモノかわからん!!


 おっと、例によってスキルを見れば正体がわかるかも。

 いったん確認してみよう。


ーーーーーー

・クリエイト・アーマー LV3

 :クアンタムハーモナイザー

 NEW!:シールドベルト

ーーーーーー


 シールドベルト?

 うーん……ただのベルトにしか見えないけどなぁ。


『このベルト、「シールドベルト」っていうみたい』


『でもジロー様、シールドなんてどこにもついてないよ~?』


『だよねぇ……ふむ?』


 俺は試しに腰にベルトを巻いてみてふと気がついた。

 バックルの上に小さなボタンがある。ひょっとして、これを押せば良いのか?


<ヴォンッ!!>


「わっ!!」

「…………!(ガタッ!)」


 ボタンを押すと、空気を切り裂くような音がして光る泡が俺たちを包みこんだ。

 ヴァイキングのゴーストと戦ったとき、マリアが使ったスキルに似ている。


『これマリアが使った「光の盾」に似てるね』

『うんキレーだね』


 確かにきれいだ。雨を透かしてみると、幕は複雑な色でキラキラ光っている。


 ためしに屋根からちょっとだけ体を出してみると、泡の表面で雨がパシパシとはじけていった。このシールドベルト、たしかに雨は防げる。だが――


「うーん……未来の雨具は目立つなぁ」


 全身を光の泡で包まれ、雨を弾き返す怪人はかなり目立つ。

 おまわりさんに見つかったら、職質間違いなしだ。


 歓楽街の様子を見るかぎり、この世界の人たちはめちゃくちゃ引き金が軽い。

 人前でこれを使うと。変な誤解をまねく可能性がありまくるな。


 あーでも、いちおうマリアに聞いてみるか。


 この異世界にはスキルがある。なら、雨をスキルで防ぐ人だっているかも知れない。ひょっとして「まぁ、あのスキル素敵! 抱いて!」で済むかもしれん。


『マリア的にはこのかさ、どうかな。スキルに見えそう?』


『うーん。ムリかも。あんまり人前では使わないほうがよさそう?』


『あっ、ハイ』


 ダメだった。ちーん。



◆◇◆



=☆=これより新兵教育プログラムを開始する!=☆=


 おい、新兵ども!!

 今日はシールドベルトについて教えてやる!!


 これはただのベルトじゃねぇ。宇宙最強の防御兵装であり、1ドルの弾丸にも勝てないお前らの貧弱な体を守るための最後の砦だ。


 こいつはボタンひとつでエネルギーフィールドを展開できる。

 展開されたスクリーンは、こいつを通ろうとする全ての遠距離攻撃を防ぐ。


 そうだ。「全て」だ。意味がわかるか?

 つまり中からは攻撃できん。


 とはいえ、このシールドは投石、銃弾、グレネード、火炎放射器、レーザー。

 はてはお前らのクソみたいな泣き言まで、何でも防いでくれる。


 しかしこんな便利なシロモノでも、納税者が見たらきっとこう言うだろう。


「食って、寝る、そして殺す。お前らのそんなクソみたいな人生をひり出すケツを守るために、9万ドルもするガラクタが必要なのか!」ってな。


 安心しろ。

 これさえあれば、お前らのクソみたいな人生も少しはマシになるかもしれん。


 コイツはお前らの9ヶ月におよぶ白兵訓練が、バアチャンが30分で組み立てたドローンのぶっ放した鉛玉1発で無駄にならんようにしてくれる。


 少なくとも敵とり結ぶ距離に入るまで、お前らはその臭い息を吐ける。


 シールドベルトは偶然、まぐれ、不運による死を防ぐ。

 逆に言えば、ベルトに出来ることはそれだけだ。


 その後に偶然はない。なにひとつもだ! 訓練をなまけるな!


 解散!!




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