スラムの異変
「そうだ、この結果をランスロットさんに教えないと」
俺は子どもたちを給食に招待する用意ができたことを伝えるため、ハーモナイザーをかけ変えた。しかし会話をつないでみると、ランスロットさんの様子が妙だった。
『ランスロットさん聞こえますか? こちらは用意ができました』
『あぁジロー殿、ちょうどよかった……少々やっかいな問題が起きまして』
『問題? 何が起きたんです?』
『ルネさんとイゾルデさんのお二人は舞台の設営にかかったのですが、よくわからない者たちにからまれている、との事です』
『アインたちですか?』
『そうだったら楽だったのですが……ちがいます。見知らぬ装束を着た、奇妙な話をする者たちと言っています。おそらくは――』
『もしかして、転移者?』
『はい。彼女たちの話を聞くかぎり、そうだと思います』
『わかりました。ちょっと見てきます』
『お願いできますか。私のような者が話をするより、同じく転移者であるジロー殿が話をしたほうが良さそうです』
『僕と同じ転移者っていっても、話が通じる保証はないですけどね……元の世界にも犯罪者や無法者はいるので』
『そうでないことを祈りましょう。彼らを力づくで排除した場合、王女の注意を引くかもしれません。できるだけ穏便にお願いします』
『えぇ、わかっています。できるだけ丁寧にお帰りいただきます』
ランスロットさんとの通話はそれで終わった。
想像もしてないことが起きた。よりによって転移者が来たなんて。
なんでこんなクソ忙しいときに。めんどくさいなぁ……。
『マリア、ルネさんとイゾルデさんのところに転移者がきたらしい。からまれているらしいから、今から助けにいくよ』
『どうするのジロー様。』
『えっと……戦うかどうかってことなら戦わない。お帰りいただくよ』
『うん!』
ま、それができるならトラブルになってないはずだ。
たまらなくイヤな予感がするけど、とにかく様子を見に行こう。
◆◇◆
「わからないかな。君たちはこんなゴミためにいるべきじゃない!」
「はぁ~? アタシがどこにいるかなんて、アタシが決めるんだ。あんたに言われる筋合いはないね。ルネもなんかいってやんな!」
「え、めんどくさい」
「そんなっ!!」
「あ、けっこうダメージはいったみたい。やるねぇ……」
「いったい、何してるんだろう……?」
「…………?(かしげっ)」
舞台の設営を始めた場所に行くと、グレーの背広を着たリーマンらしき壮年の男と、ラフな格好をした2人の男が、ルネさんたちにからんでいた。
あの格好は間違いなく転移者だな。
この異世界の人々は、まだ中世の空気を感じられるぼてっとした服を着ている。
ジャケットを着てネクタイをしめてる人なんて1人も見たことない。
「ルネさん、どうしたんですか?」
「見てわかる通りよ。この人たちが設営のジャマになってるの」
「なんでそんな事を?」
「さぁ? 言ってることの意味もよくわからないから……」
「む、君は何者だ」
「原住民ニキはジャマしないでクレメンス」
「はーつっかえ、やめたらこの仕事」
ちょ、思った以上にクセつよくない?????
最初の人はともかく、あとの2人!
これ奇妙な話っていうか、ただの奇妙な人だよ!!
それに……原住民呼ばわりは普通に失礼すぎてちょっとひく。
ナチュラルに差別意識フルオープンにしてるな。
俺が
「これでわかりますか?」
俺はサイフから100円玉を取り出してリーマンに見せてみた。
すると明らかに彼らの顔色がかわった。
「君も転移者なのか?」
「そうだよ(便乗)」
「ニキには聞いてないと思うで」
「えぇ、僕も転移者です。あなた達と一緒の電車に乗ってました」
「なんだって?」
『ジロー様、この人たち、なんかヘン?』
『うん。転移者っていうより、この人たちが変かな……』
まぁ、一人だけマトモっぽい人がいるだけ救いかな?
スラムに何をしにきてるのか、それがさっぱりわかんないけど。
「ということは、初日に追放された無能な転移者とは君のことか」
チクチク言葉通り越してドスドス言葉なんですが?
だめだ! こいつも何かおかしい!
「まぁ、追放されたのは間違ってないですけど……」
「ふむ……君はこの世界のことをどう思う?」
「え?
「だろう!? 〝王国〟などという原始的な政治制度に、粗暴で野蛮な資本主義制度が合わさっている!! 労働者が汗を流してつくり出した富は彼らに還元されることなく、特権階級をブクブクと肥え太らせているだけだ!」
「……それはそうなんですけど」
「現代の品物が流入したことでこの世界は発展した。しかし、思想はそれに追いつかず、野蛮で未開なままだ。――だから、この私の知識を使って、すべての人が平等に暮らせるパラダイスみてぇな国を作るのだッ!!」
あ、これはダメな人だ。
ハンドルを左にきり過ぎて人生が交通事故起こしてる人だった。
「
「ニキが熱くなるといつもこれやで」
「一応俺たち、王国に保護されてるんですから。悔い改めて!」
なんだろう。彼らの言葉を聞いていると、羞恥心が刺激される。
一刻も早くこの場を離れたい気持ちが
いや、思い出せ、彼らにはお帰りいただかねばならんのだ。
心がくじけそうだけど、やるべきことはやらないと。
「すみません。帰ってもらっていいですか? 普通に迷惑なんで」
「断る。彼女たちを連れ帰るまでは帰らん!」
「どうして?」
「彼女たちはこのスラムには似つかわしくない。この私のパートナーとして、ともに魔国を倒す旅の仲間になるのが彼女たちの使命なのだ!!」
「だーかーらー! 今は仕事があるっつってんでしょ!」
「私は使命を受けた転移者だ……君たちをこの肥溜めから救い出せるのだぞ!!」
「とまぁ、さっきからこんな感じなのよ」
『うん、こんな手強いモンスターは初めてかも』
「…………(こくこく)」
◆◇◆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます