転移者との争い

「何が起きてるか大体わかりました。この3人はルネさんとイゾルデさんを連れ帰りたい。それで仕事のジャマをしていると」


「まぁ、そういうことになるのかしら?」

「ようはナンパだよねー」


「ちがう! これは悲惨な運命からの救出だ!」

「おっそうだな(適当)」

「は? ナンパとちがうんか?」


「みんな言ってることバラバラじゃないですか……」


「あたりまえだ。人には個性と多様性があり、それは尊重されるべきなのだ。君はRGBTを知らないのか! 不勉強にもほどがあるぞ!!」


「ニキ、それだとモニターの色になるで。LGBTや」

「もうこれわかんねぇな(諦観)」


「とにかく、君のような人がこのスラムにいてはいけない!」


「はいはい。」


「本気にしてないのだな。いずれここでは――おそろしいことが起きる」


「待ってください、スラムで何が起きると?」


「……いや、なんでもない。」


「はぁ?」

「…………?(かしげっ?)」


「ん~ニキが連れてる子、さっきからぜんぜん話さへんな。もしかして奴隷ンゴ?」


「はい、そうですよ。そのせいで彼女は声を奪われてて、言葉が話せないんです」

「…………(こくこく)」


「奴隷幼女連れてるとかありえンゴ」


「なんだと、君は彼女のような少女を奴隷にしたいるのか?!」


「いや、僕が奴隷にしたわけじゃないんですけど……」


 〝奴隷〟という言葉を聞くと、背広の男の顔が急に険しくなった。

 どうもこの言葉は彼の地雷だったらしい。


「同じ人間を家畜のように扱うとは、君はそれでも文明人か! いや、よく見ると剣をもっているな……この世界に順応し、文明をわすれてしまったのか」


「はぁ……」


「いまから君を開放してあげよう。君はもうこの野蛮人やばんじんの奴隷ではない」


「…………(ふるふる)」


 マリアは何度も首を横にふると、左の手ひらを前に出して、右手の人差し指をチッチッ、と左右にふった。これはきっと……「かかわらないで」かな?


「ハハッ、ケガをするから止めたほうがいい? 大丈夫だ、君は恐れることはない! 彼はスキルが役立たずだったために追放された無能だ。我々が勝つさ」


『ジロー様、どうしよう? ぜんぜん伝わんない』

『うん。言葉で話しても伝わらないんだから、言葉ナシじゃ絶対伝わんないよね』

『もう! わたしはジロー様に望んでついていってるのに!』


「みなのもの、彼女を奴隷から開放するぞ!!」


 背広を着た男は、腰を落として戦闘態勢に入った。

 後ろの2人も構え、戦う気のようだ。


「ちょっと、本気ですか?!」


「いかんのか?」

「ふ、君は大人をナメすぎたな。少しこらしめてやろう」

「ワイらはもうLV3になってるんやで! 謝るなら今のうちンゴ」


 あれ? イキってるわりには、連中のレベルが低い。

 こいつら、あんまりモンスターを倒せてないのか。

 あ、そっか。王都の周りってモンスターがいなくなってるんだっけ。

 そりゃレベルあげようとしてもできないか……。


「まずはワイからや、土魔法のスキルを見さらせ!!」


 大きな丸メガネをかけ、黄色いパーカーを着た若い男から攻めてきた。

 彼は両手を地面に当てると、地面の土が盛りあがる。

 盛り上がった土の先端が尖り、槍となって俺を襲ってきた!


「わっ!!」


 俺は反射的に剣を抜き、槍を切り落とした。

 土だけあってサクサク切れる。


「まだまだいくでぇ!」

「ふざけんじゃないよ! この後誰が地面をならすと思ってんだい!」


 イゾルデさんの訴えを無視し、男は次々に土の槍を繰り出してくる。

 どろっとした土が立ち上がり、俺を襲うが……特に怖くないな。

 先が尖って槍になってるとはいえ、素材はただの土だし。


「えっと、すみません。みね打ち!」


<べきっ!>


「ンゴゴー?!」


 剣のを腹に受け、男は昏倒こんとうした。

 まぁ、うん。レベル3のスキルじゃこんなもんだよね。


「お前もう生きて帰れねぇな?!」


 次に出たのは、白いTシャツにグレーの短パン、何かの部活とかしてそうな男だ。

 口数少ないので何をするかわからない。どう動く?


「イ・ムン、お前のスキルを見せてやれ。」


「おかのした」


 おや、口数少ないと思ったら外国人だったのか?

 ……そのワリには流暢りゅうちょうだけど。


 あ、そうか。

 俺たちがここに着た時、なぜか異世界の人と言葉が通じていた。

 その作用が外国の人にも働いたのかもしれないな。


 そんな事を考えていると、Tシャツの男は俺の前で構えを取って動いた。


「俺のスキル……『重み』を見てろよ見てろよ~!」


「――ぐっ?!」


 男がスキルを使うと、俺の体がずんっと重くなった。

 まるで誰かが体の上に覆いかぶさっているようだ。


「ヨツンヴァインになるんだよ! あくするんだよ!」


「くっ、なんて重さだ……これがお前のスキルか」


「じゃけん、もう終わりにしましょうね~」


 男は短パンの中から小さなナイフを取り出した。

 トドメをさすつもりか!


「確かに重い。だけど――動けないほどじゃない!」


「えっ」


「あそーれ、みね打ち!」


「オォン、アォン!」


 俺は男の腹を剣で殴って、地面に四つんばいにさせた。

 これで分かった。彼らのスキルは弱い。

 とてもじゃないが、実戦に使えるような強さじゃない。

 おそらくだが、単純にレベルが低いんだ。


「バカな……お前のスキルは無能だったはず!」


「うん、無能だったよ。だからこの世界のスキルを鍛えたんだ」


「この世界のスキル……その剣のことか?」


「まぁ、そんなところかな。で、まだやる?」


「バカな! わたしは君のように、なにもかも暴力で訴える人間ではない!」


 いや、どの口でいってんの!!!!

 先に手を出したのはそっちでしょうが!!!!


「なら、お帰りください。おじさんは見逃します。その2人をスラムの外まで運んでもらわないといけないんで」


「……今日のところは引き下がろう。しかし、彼女を奴隷にした君の罪が消えることはないぞ!! 絶対にな!! 待っていろ少女よ!! 私は必ず助けに来る!!」


 転移者は捨て台詞を吐き、すごすごとスラムを去っていった。

 せっかくの再会だったんだから、何か近況を聞ければよかったんだけど……。

 あれじゃダメだ。まるで話が通じない。

 それどころか、因縁と悪い評判だけが残ってしまった。


 ランスロットさんには「穏便に」って言われてたけど、マズイことになったな。


「…………(ふるふる)」

「うーん……なんか厄介そうなのに、目をつけられちゃったなぁ……」



◆◇◆



※作者コメント※

なんて(色んな意味で)汚い戦いなんだ…

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