作戦会議

「ん……」


 夢から覚めた俺は、金縛り状態で体が動かないことに気がついた。

 またマリアがセミみたいにひっついてるのかぁ?

 そうと思って首を回した俺は、完全に体と脳が固まってしまった。


「おぉ……」


 俺の体にしがみついてるのはマリアではなかった。

 シルクのように柔らかな金髪を流したルネさんが俺の体を抱いている。

 柔らかなものが俺の二の腕に当たってる。

 しっとりとして柔らかな肌は温度まで感じる。


 彼女は本当にゴーレムなんだろうか。とても造り物には見えない。

 まじまじと見つめていると、彼女はぱちりと目を覚ました。


「あっ……」


 ルネさんが状況を理解するまで数秒目があった。

 ヒジョーに気まずい。

 俺がガチガチになっていると、彼女はくつくつと笑った。


「ごめんなさい。眠ってる間にあなたのこと枕にしちゃってたみたい」


「い、いえ……」


 彼女は手ぐしで髪をすき、立ち上がった。

 着ているのはもちろん、体のシルエットを強調する踊り子の薄着。

 そんなものを見せられた俺は、朝から心臓がばっくばくだ。


「顔洗ってきます!」


 くすくすという笑い声を背中に俺は井戸に走った。

 それも、若干の前かがみで。

 なぜだろう、なにか大事なことに負けた気がする。くっ!!



◆◇◆


 朝食(ディストピア飯)の後、ランスロットさんの作戦説明が始まった。

 

「さて、食事を配る計画を実行に移すにあたって、計画を再確認しましょう。」


「はい」

「…………(こくり)」


「今回の作戦の概要は、『子どもたちに食事を配ること』です。この作戦の目的は、子どもたちのエーテル回収の頻度を減らし、苦痛を軽減することです。――ここまではよろしいですか?」


「はい。子どもたちに十分な食事がわたれば、エーテル回収と引き換えに食事をもらいに行く必要がへります。僕たちが冒険者ランクを上げている間、スラムでの生活がすこしでも楽になれば……と」


「…………(こくこく)」


「なるほどね。坊やかと思ったら、大したものじゃない」

「イゾルデ、まぜっかえさないの」

「はいはい……」


「今回の作戦は、大きく3つのフェーズにわけます。即ち、用意、実行、収拾です。この3つの段階を今から説明していきます。」


「第1段階は〝用意〟です。今回の給食作戦を子どもたちに知らせます。ジロー殿とマリアだけでは知らせるのが限界がありますから、子どもたちにも協力してもらって知らせるのが良いでしょう。」


「そして第2段階は〝実行〟です。ジロー殿とマリアは子どもたちをトンネルへ誘導。踊り子たちは、にぎやかな音楽と火を使った舞いで大人たちの注意を引きつけます。その間、ジロー殿は子どもたちに食事を与えます。」


「最後の第3段階は〝収拾〟です。子どもたちをトンネルから家に帰らせた後、大人たちを家に帰らせます。これで作戦終了です」


 さすがはランスロットさんだ。

 元星天騎士団の騎士団長というだけあって、説明が手慣れていた。

 作戦の内容の説明もわかりやすい。

 うーむ……アインとは比べ物にならないな。

 比べるのも失礼だけど。


「ってことは、まずは子どもたちに知らせるところから始めるわけですか?」


「はい。スラムの子どもたちは、とても警戒心が強いです。外から来たばかりのジロー殿が説明しても、なかなか聞いてもらえないでしょう」


「ですよね……」

「…………!(ふんす!)」


「なので、マリアと協力して進めてみてください。すべての子供達を招待することは出来ないかもしれませんが……すこしづつ広めていくのが重要です」


「わかりました」


「私とイゾルデは興行の準備をすればいいかしらね?」


「そうですね。私が指示するより、貴方がたの経験を信じたいと思います」


「言われなくとも、集めてみせるわ」


「冒険者ギルドの吟遊詩人たちも乗り気だったからねー。最近は酒場で演奏する音楽も〝しーでーぷれいやー〟とか〝らじかせ〟に食われがちなんだってさ」


「…………(かしげっ)」

「音楽を再生するキカイのことだよ。きっと以前の転移者が作ったんだね」


 武器だけじゃなく、音楽機器まで作ってたのか。

 しかも、ただ出しただけじゃなくて、生産ラインまで確立してるっぽいな……。


 工場を作り出すくらいだ。

 以前の創造魔法の使い手はかなりスキルLVが高かったんだろうな。

 そのうち僕もできるのかな?

 未来の工場なんて、必要スキルLVがいくつ必要かわかんないけど。

 

「そうだ、ランスロットさんにもコレを渡しておきます」


「これは……耳かざりですか?」


「この道具は、僕が創造魔法で作ったものです。僕とマリアがやってるみたいにこうして耳につけると、お互いに心の中で会話することができます」


「なんと、念ずるだけで会話が?」


「はい。今回は何度かランスロットさんの指示を仰ぐことになると思うので……」


「そうですね。そのたびにあばら家に戻ってくるのも手間でしょう。

 ……これでよろしいのですかな」


『はい、バッチリです』


『よく聞こえています。なるほど……これは便利な道具だ。もしかすると、ただ強いだけの武器よりも、ずっと強力な道具かもしれませんね』


『そうですか? ただ話をするだけですよ』


『いえ、武器はあくまでも力。他の手法でいくらでも変わりが効くものです。しかしこれはちがう。これとまったく同じものは、まだこの世界に存在しません』


『えっと……心を読むから?』


『その通りです。思ったことがそのまま通じ合う。これほど素晴らしく、また恐ろしいものも無いでしょう……』


『……そうかも知れませんね』


『すみません。老人のつまらない物思いで引き止めてしまいました』


『そんなことないです。ランスロットさんの話なら、いつだって歓迎です』


『はは、ありがとうございます』


『それじゃ行ってきます。マリア、どこから始めたらいいかな?』


『ちっちゃい子は大体スラムの空き地に集まってるよ。おっきな子が遊びを考えて、みんなで遊ぶの!』


『なるほど、まずはそこに行ってみるか』


『うん!』



◆◇◆


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る