穴ぐらの小鳥たち


『倒せたはいいけど、まさかあんなギミックがあるなんて……』


『ジロー様、トドメ刺すね』


『あっ、うん』


 マリアはブラッドサッカーの心臓に銀の剣を突き立てる。

 全身に銀を浴び、爆炎で焼けこげた吸血鬼は何の抵抗もできず息絶えた。


『あとは討伐した証拠に首を切れば終わりだね』


『えっ?』

『え?』


 一瞬、思考が完全に止まってしまった。

 マリアからあまりにもバイオレンスな一言が飛び出したからだ。

 

『ジロー様、アインに吸血鬼を倒した証拠を持って帰らないと』

『……う、うん。それもそうだね。切っちゃおう』


 そういえば、今まで戦ったモンスターはゴースト、そしてゴーレム。

 どちらも生々しい死体が残らない相手ばかりだった。

 普通はモンスターを倒したら、その証拠のために部位を持ち帰るのか。


 ゲームだと当然のように報酬が出るから忘れてた。

 異世界といっても別の現実なんだ。こういうこともするよな……。


「――ッ!(フッ!)」


<ザンッ!>


 彼女は銀の剣を心臓から引き抜くと、一太刀で首を落とした。

 さすがの手際だ。マリアは剣を振り、血払いをして鞘に収める。


 俺はブラッドサッカーの首を拾い上げ、トンネルにあったロープでしばり上げた。

 証拠として必要なのはわかるが、ひどい匂いだ。


『これでよし、トンネルを出よう』

『うん!』

『爆発音を聞きつけて人が集まってないといいけど……』


 俺たちは来た道を逆走して入口を目指した。


 セントリーガンは……今のところ処分する方法がないな。

 トンネルにモンスターが寄り付かないよう、このままにしておこう。

 爆発したらしたで、モンスターが現れたって合図になるし。

 

 トンネルを進み続け、アインの部下が死んでいた広間にたどり着いた。

 するとそこでは、銃を構えたアインと部下たちが並んでいた。


「仕事は終わったよ。これがその証拠のブラッドサッカーの首だ」


 俺は手に持った吸血鬼の首を見せつける。

 アインと仲間は怖気づいたのか、あるいは悪臭のせいで後ずさった。


「ホントに倒しちまったのか?」「子供じゃないか」


「それがスキルってもんさ。俺ら『持たざる者』とは違う本物の力だ。だろ?」


「まぁ……彼女のそれは否定しないよ。何度も助けられてるし」

「…………!(ふんす!)」


「アイン、そっちのお願いは聞いたんだ。次はこっちのお願いを聞いてもらえるか?」


「なんだ? 言ってみろよ」


 ビビってらしてたくせに、仲間と一緒だと態度がメガ盛りになった。

 ほんまコイツは……!


「このトンネルの中に人が集まるのに使える場所はないかな? 十数人が入れて、足元に水が溜まってない場所だといいんだけど」


「教えると思うか? そんなこと言って、俺たちを通報するつもりだろう」


 アインは右手を上げると、ヤツの部下が動いた。銃に弾を込めるガチャガチャというレバーの音がトンネルにこだました後、無数の銃口が俺を狙う。


「何のつもりだアイン?」


「見てわからないか。マリア、お前が仲間にならなきゃこいつは死ぬぞ!」


「…………!(むっ)」

「やめたほうがいい。吸血鬼のせいで減った仲間をさらに減らす気か?」


「ハッ、生意気もいい加減にしろ。この数の銃を相手に何ができる? 吸血鬼には銃が効かないかもしれンが、人間のお前はちがう!」


 えぇ……マジで言ってる?

 コイツの手のひらメリーゴーランドか?


「アイン、言っておくけど、僕たちにも銃は効かない。これ以上のトラブルはお腹いっぱいなんだ」

「…………(こくこく)」


「それだけか? ソイツにかまれて吸血鬼になったとでもいうつもりか?」


「いや、そうじゃなくって、スキルとか?」


「ヘッ、ハッタリの仕方が下手だな。スキルで銃弾が防げるなら帝国は負けてない。5つ数える。5,4,3……」


『マリア、どうしようか?』

『ジロー様の「みね打ち」でみんな倒しちゃう?』

『そうするしかないかぁ……武装解除する「剣落けんおとし」は色々と問題あるし』


「1……ゼロ。 残念だったな。撃て!!」


「え、ほんとに撃つのか?」

「アインが撃てって言ってるだろ」

「いや、だってなぁ……」


 数字を数え終わったが、銃声は無く戸惑とまどいの声が上がる。

 アインはいらだち、アサルトライフルを振り回してどなり散らした。


「チッ、撃てと言ったら撃て! こうするんだ!」


<ダタタタタタタタ!!!>


 アインはニヤつきながら引き金を引く。


 アサルトライフルが吠え、無数の弾丸を銃口から吐き出した。

 俺はシールドを展開して銃弾を全て弾き飛ばす。


<パシパシ! ピュン!>


 シールドに弾が当たると、竹が火の中で弾けるような独特な音がして俺の耳を楽しませた。この音、けっこう好きかもしれない。


「な……」


「ほら、ウソじゃないだろ。わかったらあきらめてくれ」


「ぜ、全員で撃て! こいつは俺たちを王国に売るつもりだぞ!!」


「そんなつもりは――」


 俺は無実を訴えようとしたが、重なる銃声で声がかき消されてしまった。


 同じ人間なのに、こんなに話が通じないことってある?

 言葉は通じるのにまるで話が通じない。


 まだ無名戦士のゴーストたちや、ゴーレムであるルネさんのほうがずっと人間ができている。いや、人間じゃないけどさ……。


<ダダタタタ!!><バリバリバリ!><ドンドン!>


 アサルトライフル、そしてショットガンが合唱する。

 隠れたいならこんな派手に音たてんな!!


『仕方ないな……マリア、やっつけよう』

『うん』


<バキ! ボコ、ドカ! ガシッ!>


 俺は活人剣、マリアはさやに収めたままの剣で男たちを殴りつけた。

 言ってもわからないなら体で教える。そうするしかない。


 こういう人たちは痛い目にあわなければおぼえないのだ。こっちが丁寧に対応すれば、自分たちが「上」だと思ってどこまでも要求を大きくしてのさばる。


 人間関係の力学というのだろうか?

 彼らの間には、したがう「上」か従わせる「下」かしかない。

 協力する関係、つまり「対等」がないのだ。


 なら……もう、こうするしか方法がない。

 相手を人間として見ない。

 動物として見ているようですごくイヤだけど。


「もう十分だろ!! 降参する!!」


「わかった。マリア、剣を収めるよ」

「…………(しゃきん)」


「へへ……あんたの言うことをきくよ。ホントだ、信じてくれ」


「じゃあ信じてくれ。最初から別に王国に売るつもりなんて無かった。トンネルの中で使えそうな場所がないか、それを教えてくれるだけで良かったんだ」


「わかった、わかった。教えるからヒドイことはしないでくれ……」


 彼の説明を聞きながら、俺はふと思った。

 なぜアインのような者たちが声を奪われなかったのか。

 それがなぜか分かった気がした。


 彼らは最初から意味のある言葉を発せる「声」なんて持っていなかった。

 無いものは奪いようが無かったんだ。


◆◇◆



 ※作者コメント※

ジローくんがガチ切れしとる。

コイツラに関してはホント…うん。

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