闇より迫るもの
『銃声はあっちからだ! 行こう!』
『うん!』
銃声を聞いた俺たちは、トンネルの中を駆け出した。
奥から聞こえてくるセントリーガンの銃声は移動している。
吸血鬼がトンネルの中を逃げているんだろう。
連中は銀の武器でしか傷つけられないはずだ。
だとしても、銃で撃たれるのはイヤなものらしい。
『音はまだこっちに来てる……セントリーガンで結界をはろう』
『うん、前を見てるね』
トンネルの中には、周期的に開けた空間がつくられている。
俺はそのうちのひとつでブラッドサッカーを待ち受けることにした。
空間は四角い部屋の形に彫られていて、天井は緩やかなドームになっている。
部屋には前と後ろにトンネルがある。
後ろが俺達が走ってきたほう。前が銃声のするトンネルだ。
つまり、敵が来る方向はひとつ。見逃しようがない。
『えーっと……ここでいいか』
<カシャ!!><ガシャンッ!>
水に半分沈んでいる木箱の上にセントリーガンを展開した。
部屋にある木箱は全部で3つ。トンネルの左右、そして中央だ。
それぞれの銃口は、銃声のつづくトンネルの方に向いている。
うまいことヤツの位置を捕らえてくれればいいが。
『しっ。マリア…………音が消えた』
『ほんとだ。どうしたんだろう?』
『わからないけど、セントリーガンの範囲から出たのかも。気をつけて』
『うん!』
俺はじっと水面を見つめた。
姿を消せても体重や質量までは消せるとはおもえない。
吸血鬼は水面に波紋を起こすはずだ。
<ピピピ!!>
「えっ?」
水面を見ていた俺は、突然の電子音に驚いた。
みると、セントリーガンのレーザーポインタから出る緑色の光点が壁にある。
あっと思った直後、部屋の中が明るくなった。
セントリーガンの銃口から炎が吹き上がり、それが部屋を照らしあげたのだ。
<<ダタタタタタ!!!>>
3つのセントリーガンから吐き出される銃弾がトンネルの壁を掘り起こす。
なんと吸血鬼は壁に張り付いていたようだ。
『クソッ、水面に気を取られすぎた! ヤツは壁を走ってきたのか!』
『セントリーガンがなかったら危なかったね』
「ウルゥゥゥ!!!」
唸り声とともにモンスターが姿をあらわした。ブラッドサッカーだ。
言葉にならない怒りうなりをあげている怪物は、炭のように黒い肌をしている。
上半身は人間のそれに似ているが、下半身はちがう。
2本の脚の太ももは大きく膨らんでいて、異様に筋肉質だ。足先はかかとが大きく後ろにあがっていて、犬のようだ。
しかし、それより目立つのはヤツの頭だった。
後頭部が大きくなった頭蓋骨に、ゴリラのような頑丈な
そして口はタコのような触手が並んでうごめいている。
大きな牙が生えた口を想像していたのだが、まさかこんな形をしていたとは。
<<ダタタタタン!!>>
魂無き機械であるセントリーガンに恐れはない。
異形の存在にひるむことなく、銃弾の嵐をたたき込んだ。
銃弾は吸血鬼の胸に無数の穴を開ける。しかし、傷はすぐにふさがってしまった。
マリアの話の通りだ。吸血鬼は銀の武器じゃないと傷つけられない。
『マリア!』
『うん!』
俺たちはバックルのボタンを押し、シールドを展開する。
これでセントリーガンの誤射も怖くない。
「ウルァァァァ!」
ブラッドサッカーは両手の爪を伸ばし、マリアに襲いかかってきた。
吸血鬼にとって銀の剣は危険な武器だ。
だから銀剣を持っている彼女から始末する気なのだろう。
『ハァッ!!』
「ウウウウルアァァァ!!!」
<キン! カン! ギャリン!! キンキンキン!>
聖騎士と吸血鬼の伝説的な戦いが始まった。
剣と爪が交わるたびに、鋭い金属音がトンネルに反響する。
マリアは凶悪な爪から身を守りつつ、銀の剣をたくみに操った。
彼女の動きは猫のようにしなやかで、吸血鬼の攻撃を一つ一つかわしていく。
剣撃の間をぬうようにマリアは息を継いだ。
吸血鬼はその時を狙っていたのか、一瞬の隙をついて爪を振り下ろす。
しかし彼女もそれを予期しており、身を引いて空を斬らせた。
そのままステップを返して剣を水平に振り抜き、吸血鬼の腹部に一撃を与える。
ブラッドサッカーは自身の黒く汚れた血を見て、憤怒したように
爪は鋭さを増し、空気を切り裂く音を立てながらマリアに迫る。
だが、彼女は素早い連撃にも冷静さを失っていない。
剣だけでなく足さばきも駆使して爪をかわし、反撃で腕を切りつけた。
おぉ……なんて見ごたえのある戦いなんだ!
まさしく剣と爪が織りなす決死の旋律。刃の嵐だ。
ただのチャンバラに見えつつ、両者はスキルの応酬で相手のエーテルのバランスを崩そうとしていた。肉体だけでなく、エーテルという水面下での戦いも激しく行われている。おそろしくレベルの高い戦いだ……!
ふと気づくと、セントリーガンは銃撃を止めていた。
どうやら搭載していた弾丸を全て撃ちつくしてしまったようだな。
残念だが、今回はもう役にたたな……ん?
<ウィーン……ガシャン!>
セントリーガンが4つの脚を使って〝立ち上がった〟。
あの、すみません。セントリー様、いま、何をなされようと……?
<ぴょん……カサカサカサカサ!>
すっくと立ち上がったセントリーガン。
彼(?)は器用に足を動かしてジャンプすると、木箱から飛び降りた。
そして猛烈に脚を動かし、水面の上を走りながら、まっすぐブラッドサッカーに向かっていく。ウィンウィンうなるその背中は、赤熱してオレンジ色に光っていた。
……ちょ、ちょ、なんかすごいイヤな予感がする!!!!
これは絶対ヤバイやつだ。
しかしマリアは吸血鬼と激しくバトル中。
どうにかして引きはがさないと……そうだ、アレを!!
俺はポケットから銀の粉が入ったビンを取り出した。
以前、ゴースト退治の依頼でもらったヤツだ。
吸血鬼は銀の武器を嫌う。なら、粉を浴びればひるむはず。
俺はビンのフタを開いて、ブラッドサッカーに投げつけた。
<パリン!>
「ウル、ウゥゥム?!!」
銀の粉を浴びたブラッドサッカーは、銀にひるんで苦しみ始めた。
マリアは突然のことに戸惑っていたが、俺は彼女の肩を抱いて叫んだ。
『マリア、こっちだ!!』
『えっ?!』
『説明は後、息を止めて!』
時間がない。俺は彼女を引き寄せると、汚水の中に体を沈めた。
銀の粉に苦しむ吸血鬼に、セントリーガンが闇より迫る。
「ムルァ?!」
<ぴょいーん!>
セントリーガンは軽快にジャンプして吸血鬼の体につかまる。
3つの影がおり重なり、そして――
<――ピカッ!! ズゴォォォォォン!!!>
太陽が地上に現れたのかのごとく熱線が
トンネルの中は昼の地上のように明るくなり、俺たちの上を熱が通り過ぎる。
すぐに上にあがったら窒息する。
何秒か待って、俺とマリアは水面から顔を出した。
「……ぷはっ!」
「…………!(ぷはーっ!)」
水から出ると周囲の光景は一変していた。部屋の中は白い湯気がもうもうと上がり、高熱はトンネルの中をこんがりと焼き上げて表面をレンガのようにしていた。
俺とマリアはブラッドサッカーの姿を探す。
『あっ、見てジロー様』
『おぉぅ……』
ブラッドサッカーは炎をまともに喰らい、ぷすぷすと煙を上げていた。
口の触手はくるんとひっくり返り、見事な焼きダコになっている。
吸血鬼には強い炎も効果があったのか。
なんとかなった。うん、それはいい。だけどー―
「マジで未来の人、何考えてコレ作ったの?!」
「…………!(ビクッ!)」
◆◇◆
@ハルカ 02:33
また仕様変更ォ??? 今度は何???
@ケンジ 02:35
まずは敵と味方を識別するIFFだ。従来の学習AIではうまく機能しない。
先日のテストでも市民を敵と誤認してしまった。
もちろん物理的な手段を使うのは却下だ。偽装に弱すぎるからな。だから――
@ハルカ 02:35
はいはい。非物質的な方法でってことね。
そんで最初に私が提案した手法に逆戻りと。
ホンマしばくぞ。
@ケンジ 02:36
ウェポンシステムの調整はどうだ?
@ハルカ 02:37
精度と威力は解決済み。でも追加予定の「兵器の再利用を防止する機能」が問題ね。
もう新機能を搭載するスペースなんてないわよ。
@ケンジ 02:38
セントリーガンは普通、戦場に置いていくものだからなぁ。
弾薬を撃ちつくしては――待てよ?
……三重水素バッテリーをオーバーロードさせて自爆させるのはどうだ。
ちょっとした爆弾くらいの威力になるぞ。
@ハルカ 02:39
なるほど! それいいじゃない
誘導はそのまま照準システムが使えるわね
位置管理と連動させて、最後の弾薬を使い切った時点で敵を記録。
そのデータをもとに目標に向かわせる。
@ケンジ 02:40
悪くない。ノルマだった兵器追加リストの空欄も埋められる。
新型扱いして予算ガッポリだ。
@ハルカ 02:41
やっとトンネルを抜けたわね。
自爆機能は武装だけでなく、再利用防止機能と機密保持機能として、2つに分けてリストに記載しましょう。これで新機能が3つ追加。うん、カンペキ!
あとは実装するのみだわ。ヨッシャァ!!
@ケンジ 02:43
残業120時間生活もこれで終わりだ…
はやいとこ終わらせよう…
※作者コメント※
悲報:セントリーくん、深夜テンションと炎上プロジェクトの産物だった。
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