先の時代の抜け殻


 老人を撃った男たちは、炎に包まれたスラムを走る。

 そして彼らは、とある粗末な家の前についた。


 あばら家の前では、すでに5人ばかりの男たちが立っていた。

 全員が銃士の格好をしており、手には銃をもっている。

 そして、彼らの中心に立っているのは拳銃を持ったアインだった。


「なんだ、アインも来てたのか?」


 帝国の将校を始末した一行は、予期せぬ顔との遭遇に驚いた。

 始末は自分たちに任されたはず。

 なのになぜ彼がいるのか? それをいぶかしんだのだ。


「アイン、ランスロットとかいうジジイの始末は、俺たちに任したんじゃないのか? それに、たかがジジイ一人を相手するのに、こんな数が必要なのか?」


 あばら家の前には10人ほどの同志が集まっていた。

 全員が家の中に入れるかどうかも怪しい数だ。

 元騎士団長とはいえ、これほどの数が必要とは男には思えなかった。


「ハッ、そうじゃない。元騎士団長だけあって、ランスロットはべらぼうにレベルが高いって話だ。ヤツを殺せば、俺たち全員のレベルをあげるのに役立つ」


「なるほど、さすがアインだ……!」

「名案だぜ!」


「……よし、開けるぞ」


<ドン! ドン! ……ドカッ!!>


 男たちはあばら家のドアをこじあけようと銃床で叩く。

 たてつけの悪い扉が叩かれるたび、家はまるごと揺れるようだった。


「おい、これ大丈夫か? 生き埋めになりそうだぞ」


「クソッ、マスターキーを使うぞ。ショットガンをよこせ!」


 アインは近くにいた男の手から散弾銃をひったくる。

 そしてドアの取手部分を狙うと、かんぬきごとふき飛ばした。


「よし、開いたぞ! いけいけいけ!」


 アインの同志たちが号令を受けて家の中になだれ込む。


 部屋に入った男たちは、鋲の入ったブーツで騒々しく床を打ち鳴らす。

 目的のものはすぐに見つかった。

 並べられた銃口が、あばら家の中にあった粗末なベッドを取り囲んだ。


「よぉ、ジジイ……」


「こんばんは。この老いぼれの話し相手になってくれるのですか?」


「ハッ、笑わせンな。この状況がわかってねぇのか?」


 アインは視線をランスロットから外し、部屋の中を見回す。

 彼の〝捜し物〟があばら家の中にないことに気づいたのだろう。

 喉の奥でうなると、ベッドを蹴りあげた。


「マリアとクソガキはどこに行った!」


「ここにはいません。彼らはすでにスラムを後にしました。遅かったですね」


「チッ、そんなはずは――そうか、トンネルか?」


「察しが良いですね。より早くに来づければもっと良かったですが」


「チッ、バカにしやがって……同志たち、構えろ!」


<ジャカジャカ、ジャキッ!>


「合図する。全員で一斉いっせいに撃つんだ。俺らのレベルになってもらうぜ」


「そうですか」


「……余裕ぶっこきやがって! テメェは今から死ぬんだよ! 武器もねぇクセに、どうするつもりだってんだ、えぇ?!」


「――では、最後にひとつ頼みがあります」


「なにぃ?」


「…………いっせいに心臓を狙ってください。それなら苦しまなくて済むでしょう」


「ハッ、ようやく観念したか。おい、同志たち聞いたか?」


 アインの呼びかけに男たちはゲラゲラと笑った。

 彼は同志たちを一列に並べると、合図のために手を上げた。


「よーし、よく狙え。俺は慈悲深いんだ。せめてものたむけとして受け取ってくれ」


「…………。」


「3,2,1,てぇッ!!!!」


<ドタタタンドンタタン!>


 アインの号令でいっせいに引き金が引かれ、銃弾が一点に向かって吐き出される。

 それはランスロットの心臓をつらぬく――はずだった。


 ついさっきの瞬間までランスロットがいた場所には、シーツが舞い上がっている。 

 銃弾でボロボロになったシーツは、布と繊維のクズを部屋に撒き散らしていた。


 老人の姿はベッドの上にない。

 列の左端にいた男は、ベッド脇からなにかが飛び出してくるのを見た。


よろずの影ぞ、来たりて映る――水鏡すいきょう剣!!」


 影の中から飛び出したのは、ランスロットだった。

 ランスロットは光り輝く白刃を水平に薙ぎ払う。

 あっと思った瞬間、彼は脇腹に強い衝撃を感じて吹き飛ばされた。


<シャラン……!>


「ぐあ!」「うわっ!」「ぐえぇ!」


 アインの同志は、草を刈り取るように一瞬で横薙ぎに倒された。

 光輝く波が水平にはしり、薄くも鋭い一撃を彼らにあたえたのだ。


「これは驚いた……。ジロー殿、君の薬は思ったより効いているようです」


 ランスロットは乱れたチュニックの襟に手をやった。

 彼の体には傷一つない。


「バカな、どうして銃弾を……それに、武器なんかなかった……!」


「ハハ、やってやれないことはありません。考え方が大事なのですよ」


 そういってランスロットがしめしたのは……「手刀」だった。


「しゅ、手刀……手だとっ?!」


「しかし危なかったですね。バラバラのタイミングでちがう場所を狙われていたら、いくらなんでもけきれませんでした」


「な……ハッ!?」


「そう。君は処刑の合図で私に発砲のタイミングを教え、そして狙う場所までも定めてくれました。ここまでして頂ければ、避けるのは簡単です」


「イカれてやがる……! お前いったい何なんだよ!」


「先の時代で死に損なった、ただの抜け殻ですよ」


「……ひっ! 来るな! たのむ、助けてくれ!」


「申し訳ありませんが、それは出来ません。ここで君を逃せば、きっとが君を罰するでしょう。しかし……帝国と王国がつむぎだした因縁と争いの歴史は彼には関係ない。罰を受け、血で汚れるのは私だけでいい」


 ランスロットはそういって微笑み、手刀を作った。



◆◇◆



※作者コメント※

お前のような抜け殻がいるか(正論)

やっぱ規格外のお人だった。 あ、おすすめの処刑用BGM(題名)をコメント等で教えていただければこれ幸い。オナシャス!

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