選ばれた者たち
地獄の釜のように燃えさかるくぼ地をみて、金髪の若い男がはしゃいでいた。
彼は崩壊したトンネルの入口を指差し、興奮気味に叫ぶ。
「ヒャッハー!! 俺のスキル『爆弾魔』をみたか? ブッ飛んだぜぇー!!」
眼下の炎のオレンジ色を浴びながら、男はケタケタと笑う。
髪を脱色し、金髪にしている若い男は、上下とも黒色のジャケットと短パンを着ており、そのゆったりとした服はやせぎすの体をすっぽりと隠していた。
「まて、私の『石油王』のおかげもあるだろ?」
子どものようにはしゃぐ男の背中に、水を指すような言葉が投げかけられた。
振り返った金髪の若い男は、声の主にうざったそうな視線を向ける。
視線の先には、どこにでもいそうな中年の男がいた。
黒髪、中肉中背。特にこれといった特徴のない男は、服装も普通だ。
着ているのは黒のズボンと、白いワイシャツ。
その格好と大尉振る舞いからは、職業や性格もとくに読み取れない。
特徴がないのが特徴と言わんばかりの男だった。
若い男は「フン」と鼻をならすと、渋々といった様子で中年の男に手をふった。
「分かってるって
「わかれば良いんだ
「
「そうとも。あとは……」
「カケルかぁ? 俺、あいつ嫌いなんだよな」
「そういってやるな。本人に多少の〝問題〟はあるが、スキルの有用性は本物だ」
「あれを有用性っていうかね? 俺の『爆弾魔』の方がまだマシじゃね?」
「否定はできないな……。ともかく、テロリストどもの逃走経路は塞いだ。迎えに行こう」
「だな。カケルのやつを放っておくと、全部くっつけちまいそうだし」
「口をきける者が残ってるといいが……」
二人は燃えさかるくぼ地を後にして、スラムのほうへ向かった。
しばらく歩くと、なにやら人だかりが出来ている。
人だかりをつくっている人々は、銃士の青い制服を着ている。
だが、彼らはアインの手下ではない。
ブーツも着こなしもしっかりとしており、正規の軍隊のそれだった。
「おっす、お疲れ様~」
「こんなところで突っ立って何を……おっと」
人だかりに近づき、その輪の中を見た荒部と真威人は言葉を飲んだ。
服を脱がされ、下着姿になった十数人の男たちが拘束され、膝をついている。
彼らは硬い地面に膝をつき、手は荒縄で後ろ手に縛られている。
彼らが身につけていたものだろうか。
地面には血で汚れた青い制服がいくつもちらかっていた。
しかし、2人が息をのんだのは捕虜の扱いのせいではない。
その先の光景を見たからだ。
小太りの、どこか視点の定まらない中年男が
中年男は腕をふりまわして一方的にわめきちらしていた。
「お、お前のリーダーがドコにいるか言うんだな!!」
「し、知らない! 本当に知らないんだ!」
「10、数えるんだな。か、数えきる前に言うんだな。10……9……8……」
「おい、カケル」
「話しかけるんじゃないんだな。い、いくつまで数えたかわからなくなったんだな」
「あー……悪ぃ」
「もういい、0なんだな!」
「そんな! やだ、やめてくれ!」
「次はこれ使うんだな。ど、どっちが上かな? 下、かな?」
中年男は、アインの手下から回収したアサルトライフルを雑につかむ。
そして、銃を捕虜の前にかかげたかと思うと、ぽつりとつぶやいた。
「……くっつくんだな」
それは実に奇妙な光景だった。
銃が光に包まれ、光の粒となってかき消えた。次の瞬間、虚空から光の奔流が現れて捕虜の目、耳、鼻、口といった穴という穴に注ぎ込まれていった。
「あ…‥あが、ぐぐげが!!」
光が流れ込み終わったかと思うと、捕虜の目から液体がドロドロと流れ出す。
それはまるで、ロウソクをガスバーナーであぶったかのようだった。
「うげー、いつ見てもエグイわ」
「……人の死に方ではないな。もっとも、死んでいるわけではないが。」
二人が話していると、溶け出した人体に変化が現れ始めた。
そう、これはまだ〝途中経過〟でしかなかったのだ。
中年男の使ったスキルは、処刑を目的にして使われたわけではない。
捕虜が死ぬのは〝過程〟でしかない。
スキルの本当の目的は別にあった。
「カチカチカチ…‥キリキリ……!!」
どろどろに溶けた体の内側から金属の棒が伸びてきて崩れかかった体を支える。
膝をついた「捕虜だったもの」は、4つの足をクモのように使って立ち上がった。
「ガチ、ガチャン!」
頭蓋が左右にわかれ、頭部にアサルトライフルの銃口があらわになる。
ここにきて捕虜は、もはや人の姿をとどめていなかった。
人と銃が混ざった異形。
怪物となった捕虜は、黒鉄の体をきしませて主人に頭を垂れた。
「て、鉄砲人間ので、出来上がりなんだな!」
目の前の存在に対して満足したのか、中年男はパチパチと拍手する。
しかし、周囲の銃士は異なる印象を持ったようだ。
顔面蒼白のもの、影に走り寄って胃の中を吐くものまでいた。
「いやー……カケルのスキルの『融合』はマジすげーな」
「へ、へへ! お、おいらのスキルの『融合』は何でもくっつけるんだな」
そう、彼のスキル『融合』は、殺すことが目的のスキルではなかった。
物体どうしをかけ合わせて新しい存在を作ること。それがスキルの正体だった。
もとの存在が無くなるために結果として非常に死に近いことが起きる。
荒部が「死んでいるわけではない」というのはそういった理由だった。
「物体どうしだけでなく、生物と物体をかけ合わせることもできるのか」
「いや、生き物もモノじゃね?」
「
「俺に対する扱いひどくね?」
「ま、またスキルレベル上がったんだな。も、もっとたくさん『融合』させて、もっとあげるんだな。ぐふ、ぐふふ」
「カケル、あまり派手にやりすぎるなよ?」
「わ、わかってるんだな。やっていいの、悪人だけ。こ、こいつら、悪人なんだな」
「だが、悪人といえどもな……」
「荒部さんよ、俺たちは王女から選ばれた精鋭だぜ? 何やったって構いやしねぇ」
これ以上話をするのを諦めたのか、荒部は眉間に手をやった。
「カケル、彼に聞いてみるといい」
「わ、わかってるんだな。お前、おいらをボスのところにあ、案内するんだな」
カケルの命令を受けた銃人間は、カチカチと鳴き声をあげた。
それは頭を振り回すと、4本の鉄の足をカタカタと鳴らして動き始める。
どうやら彼らをボスのもとまで案内するつもりのようだ。
異形はスラムのどこかに向かって、異様な速度で走り出した。
〝融合〟は、ふたつの物をかけ合わせて新しい存在を作る。
スキルで生まれる存在には、素材となった物の特徴がいくつか残る。
その特徴には、素材となった生物の記憶も含まれているのだ。
「さぁ、お、追いかけるんだな!」
◆◇◆
※作者コメント※
選別された転移者、バリバリに危険度高いのがそろってんなぁ
融合はモンスターを作る能力でもあるのがヤバ味さん。
本来であれば倫理観が歯止めになるけど、肝心の使用者が…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます