夢の終わり

 スラムの地面は、家の残骸ざんがいやガラクタが無数に転がっていた。

 アインが襲撃で周囲の被害をかえりみず暴れたせいだ。

 ガレキがおり重なり、バリケードとなってまともに前に進めない。


 しかし、異形が持つ鉄の足はガレキなどものともしなかった。

 銃人間は地上にあるものすべてをけちらし、猛烈な突進を続ける。

 だが、ある家の前にたどり着くと、異形はピタリと足を止めた。


「お、止まったぞ?」


「ど、どうやら見つけたみたいなんだな!」


 異形はとあるあばら家の前で足を止めた。

 どうやら目的の人物はこの家の中にいるようだ。


「よし、や、やるんだな!」


 カケルは銃人間に命令してドアを指さした。

 銃人間の頭は金属に覆われ、銃身はカブトムシのツノのように飛び出している。

 異形は足を折って姿勢を低くすると、ドアをしゃくりあげて破壊した。


<バキバキ……!>


「ひぃ!」


 木の破砕音が派手に鳴りひびくと、家の中で悲鳴が上がった。

 目的の人物はこの家のどこかに隠れている。

 怪物はあばら中に向かって突進すると、テーブルや棚をひっくり返した。


<ドガガガ!!>


「た、助けて!!」


 悲鳴が上がり、家の中から青い影が飛び出してくる。

 銃人間がそれを見逃すわけがない。

 鋭くとがった鉄の足先を使って、獲物えものを床にぬいつけた。


「ヒギャア!!」


 ドン、という音とともに短い悲鳴があがった。

 逃げ出そうとした男のブーツに銃人間の爪が深々と刺さっている。

 痛みに床の上で泣きわめいているのはアインだった。


「ケッ! 部下が命をはってるってのに、ボスが隠れてるなんてな」


「こいつが首謀者のようだな。ひきずり出そう」


 転移者たちはアインを家の中からひっぱりだそうとした。

 すると彼は手をがむしゃらに振り回して抵抗した。


「おいカケル、やってくれ! でも殺すなよ」


「わ、わかったんだな」


<ドスッ!!>


「ぐぎゃあッ!!!! あ、あが……!」


 銃人間はもう一方の足で手を刺し、文字通り床に釘付けにする。

 アインの姿は、ピンで留められた蝶の標本のようになった。


「待ってくれ、俺は王家の奴に言われてやっただけなんだ!!」


 鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった顔をこうともせず、アインは懇願こんがんする。

 しかし、異形の主人は彼の言葉をふりはらった。

 銃人間は床に突き刺した足の力を一向にゆるめない。


「あ、悪党め、さ、さばきを受けるんだな!」


 カケルは手を振り上げる。最後の一撃を異形にさせるつもりなのだろう。

 しかし、振り上げた彼の拳は、真威人の手によって止められた。


「おっと、勝手に殺しちゃマズいぜ」


「カケルくん、真威人の言うとおりだ。彼は生かして連れてかえる」


「だ、だってこいつ、悪いやつなんだな! 悪人はブッ殺すんだな!」


「おいおい、王女の話を聞いてたろ?」


「だ、だってだって!!!」


 おもちゃを買ってもらえなかった子どものように中年の男が地団駄を踏む。

 真威人はそれを見て、完全に呆れたような顔をしていた。


「たしかに彼は悪人だ。だがテロリストにはふさわしい死に方というものがある。この男は人々の前で処刑しないといけない。」


 荒部は先生が子供に言い聞かせるように続ける。


「帝国は王国に負けた。その戦いで帝国はいろいろと王国に悪事を働いた。しかし、人々には罪がないとして、王国は帝国人を許した。だがこいつらはそれに甘え、牙をむこうとした。王国の格好をして、同じ帝国人をおそうという、卑劣な手段でな」


「荒部さんよ、そんな小難しい説明じゃコイツにゃわかんねーよ」


「む……」


「こいつは街のみんなに悪いことしたヤツだ。わかるか?」


「う、うん」


「だろ? だから捕まえたことを、街のみんなの前で教えなきゃいけない。だろ?」


「あ、そうか」


「罰をあたえるのも、街のみんなの前でやらないといけない。そうじゃないと、罰を与えたのを知らない人が出てきちゃうだろ?」


「うん、うん、わかった!!」


「よし、だから連れて帰るぞ」


「真威人くん、私は君のことを少々勘違いしてたようだ」


「あのな、そういう言い草だぜオッサン。」


「降参だ」


 荒部はやれやれといった表情で、お手上げのポーズをとった。その気取った所作が気にさわったのか、真威人は彼を無視してアインの服をつかんだ。


「ま、待ってくれ、お前らじゃ話にならない! 大臣を呼んでくれ!! 俺のところに使いが来てたんだ! 俺は指示されたことをやっただけなんだよ!!」


「指示されたねぇ……王女が自分の国を焼き討ちする指示を出すわけねぇだろ」


「頼む、本当なんだ!! 俺の話を聞いてくれ!!」


 アインはひたすらに願うが、それもむなしく家の外に引きずり出された。

 銃人間につらぬかれた足と手には力が入らない。

 ずるずると、青い風呂敷に入った荷物のように土の上を転がされていった。


「い、いやだ! 助けてくれ!! マリア! ランスロット! 助けて!!」


 彼の叫びは誰にもとどかない。

 アインの姿は、異形とともに闇の中に消えた。



◆◇◆



※作者コメント※

あ、すいません。明日から開発に10年かかった神ソンビゲー

7dtdの正式版を遊ぶために少々「気」が消えます。うへへ…

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